胆のう炎は胆のうに炎症が生じた状態で、急性と慢性の二つのタイプに大別されます。それぞれで症状や経過が異なるため、医療従事者は両者の違いを理解しておく必要があります。
急性胆のう炎の症状
急性胆のう炎は突発的に発症し、次のような特徴的な症状を示します。
急性胆のう炎では、胆のうがむくんで腫れ、炎症の進行とともに胆のうの壁が壊死していくことがあります。症状は通常、発症から2〜3日程度で改善することが多いですが、治まらない場合は合併症の可能性があります。
慢性胆のう炎の症状
慢性胆のう炎は、繰り返される軽度の炎症によって胆のう壁が徐々に肥厚し、胆のう自体が収縮していく状態です。症状
急性胆のう炎と比較すると症状は穏やかですが、長期にわたって患者のQOLを低下させる原因となります。また、慢性胆のう炎は急性発作を繰り返すこともあるため、注意が必要です。
胆のう炎の原因
胆のう炎の主な原因は以下の通りです。
胆のう管が閉塞するだけでなく、胆汁への細菌感染や胆のう内への膵液逆流が加わることで炎症が悪化すると考えられています。
胆のう炎を正確に診断するためには、症状の把握と共に適切な検査を行うことが重要です。医療従事者は検査結果を総合的に判断し、重症度を適切に評価することが求められます。
血液検査
血液検査では以下の項目が胆のう炎の診断に役立ちます。
特に、白血球増多とCRP陽性は胆のう炎の診断において重要な所見です。また、炎症が胆管に波及している場合には肝機能障害が顕著になることがあります。
画像検査
胆のう炎の診断には以下の画像検査が有用です。
東京ガイドラインによる重症度判定
胆のう炎の重症度は、東京ガイドライン2018(TG18)に基づいて判定されます。
この重症度分類は治療方針の決定に大きく関わるため、迅速かつ正確な評価が求められます。
胆のう炎の内科的治療は、特に急性期や手術リスクの高い患者において重要な役割を果たします。医療従事者は症状のコントロールと感染管理を適切に行う必要があります。
初期治療のアプローチ
急性胆のう炎の初期治療では以下の対応が基本となります。
抗菌薬選択の考え方
胆のう炎に対する抗菌薬は重症度や原因菌を考慮して選択します。
重症度 | 推奨される抗菌薬 | 投与期間 |
---|---|---|
軽症 | ペニシリン系、第1-2世代セファロスポリン系 | 2-3日 |
中等症 | 第3世代セファロスポリン系、フルオロキノロン系 | 4-7日 |
重症 | カルバペネム系、タゾバクタム/ピペラシリン | 7-14日 |
胆道感染症の主な原因菌は以下の通りです。
特に医療関連感染の場合は、ESBL産生菌やMRSAなどの薬剤耐性菌を考慮した抗菌薬選択が必要です。
胆嚢ドレナージ
内科的治療で改善が見られない場合や、手術リスクが高い患者では胆嚢ドレナージが考慮されます。
ドレナージ後は、排液の性状や量、ドレーンの固定状態や屈曲の有無を定期的に確認することが重要です。排液が清澄化し、臨床症状や検査所見が改善すれば、手術治療に移行するか、ドレーンを抜去して終了します。
胆のう炎の根本的な治療は胆嚢摘出術です。特に繰り返す胆石性胆のう炎や合併症を伴う症例では、外科的治療が第一選択となります。現在では低侵襲手術の発展により、治療成績が大きく向上しています。
胆嚢摘出術の適応
以下の場合に胆嚢摘出術が考慮されます。
手術のタイミング
急性胆のう炎に対する手術のタイミングは、以下のように分類されます。
腹腔鏡下胆嚢摘出術(Lap-C)
現在、胆のう炎に対する標準術式は腹腔鏡下胆嚢摘出術です。
開腹胆嚢摘出術
以下の場合には開腹手術への移行や初めから開腹手術が選択されることがあります。
術後合併症と対策
胆嚢摘出術後の主な合併症には以下のものがあります。
これらの合併症を防ぐためには、術前の十分な評価と、術中の慎重な操作が不可欠です。特に胆嚢炎症例では解剖学的指標が不明瞭になりやすいため、critical view of safetyの確保など安全な手術のための手技の標準化が重要です。
胆のう炎、特に胆石に起因するものは再発率が高いため、予防と患者指導が重要です。医療従事者は、患者の生活スタイルの改善や定期的なフォローアップを通じて、再発リスクを低減するための支援を行う必要があります。
胆石形成の予防
胆石形成を予防するための生活指導としては以下が重要です。
高リスク患者の管理
以下のような胆のう炎・胆石症のハイリスク患者には特に注意が必要です。
これらのハイリスク患者には、定期的な超音波検査によるスクリーニングや、より積極的な予防策が考慮されることがあります。
無症候性胆石の管理
無症候性胆石を有する患者の管理方針は以下のように考えられます。
胆嚢摘出後の生活指導
胆嚢摘出後の患者に対する生活指導
患者教育の重要性
患者教育は胆のう炎の予防と早期発見に役立ちます。
医療従事者は、これらの情報を患者が理解しやすい形で提供し、必要に応じて栄養士や理学療法士などの他職種と連携して、包括的な患者支援を行うことが求められます。適切な予防策と患者教育により、胆のう炎の発症率や再発率を低減させることができます。
胆のう炎の症状は他の消化器疾患と類似していることがあり、適切な診断と治療のためには鑑別診断が重要です。また、胆のう炎に伴う合併症は重篤化すると致命的となる可能性があるため、早期発見と対応が求められます。
鑑別すべき主な疾患
右上腹部痛を呈する疾患には以下のようなものがあります。
見逃しやすい胆のう炎の合併症
胆のう炎に伴う合併症には以下のものがあり、早期発見が重要です。
高齢者や糖尿病患者における注意点
高齢者や糖尿病患者では、胆のう炎の症状が非典型的であることが多く、診断が遅れる傾向があります。
これらのハイリスク患者では、わずかな症状変化にも注意を払い、積極的な画像診断を考慮する必要があります。また、これらの患者では合併症発生リスクも高いため、早期治療介入が重要です。
症例から学ぶ見逃しやすい胆のう炎
実際の臨床現場では、以下のような理由で胆のう炎が見逃されることがあります。
医療従事者は、これらの鑑別診断と合併症の可能性を常に念頭に置き、適切な診断アプローチと迅速な治療介入を心がけることが重要です。特に高リスク患者では、症状が軽微でも積極的な精査が必要です。