カルバペネム系抗生物質は、β-ラクタム系抗生物質の中でも最も広域なスペクトラムを持つ薬剤群です。ペニシリン系と構造的に類似していますが、硫黄原子が炭素原子に置換されることで、ペンタン環がペンテン環となり、二重結合が形成される点が特徴的です。
この構造的特徴により、カルバペネム系は他のβ-ラクタム系抗生物質と比較して。
作用機序としては、他のβ-ラクタム系と同様に、細菌の細胞壁合成に不可欠なペニシリン結合蛋白質(PBP)を阻害します。しかし、カルバペネム系は複数のPBPに同時に結合できるため、より強力な殺菌効果を発揮します。
WHOはメロペネムを必須医薬品として位置づけており、その重要性が国際的に認められています。
現在臨床で使用されているカルバペネム系抗生物質の主要薬剤を一覧表にまとめました。
薬剤名 | 商品名例 | 特徴 | 投与経路 |
---|---|---|---|
メロペネム(MEPM) | メロペン® | 緑膿菌活性良好、痙攣リスク低 | 注射 |
イミペネム/シラスタチン(IPM/CS) | チエナム® | 初回承認薬、痙攣リスクあり | 注射 |
ドリペネム(DRPM) | フィニバックス® | 緑膿菌・アシネトバクターに強力 | 注射 |
エルタペネム | インバンツ® | 緑膿菌・腸球菌には無効 | 注射 |
ファロペネム | ファロム® | 経口投与可能な唯一の薬剤 | 経口 |
テビペネム | オラペネム® | 新規経口薬、ESBL産生菌に有効 | 経口 |
各薬剤の詳細特徴:
🔹 メロペネム:最も汎用性が高く、緑膿菌を含む幅広い菌種に有効です。イミペネムと比較して痙攣のリスクが低いため、中枢神経系感染症にも使用しやすい特徴があります。
🔹 イミペネム/シラスタチン:1976年に発見されたチエナマイシンの誘導体で、最初に実用化されたカルバペネム系抗生物質です。シラスタチンは腎臓でのイミペネム分解を防ぐ目的で併用されます。
🔹 ドリペネム:緑膿菌とアシネトバクター・バウマニに対して最も低いMICを示し、カルバペネマーゼによる加水分解を最も受けにくい特性があります。
🔹 エルタペネム:緑膿菌と腸球菌には活性がないため、これらの菌種をカバーする必要がない感染症に適しています。1日1回投与が可能で外来治療にも適用できます。
🔹 ファロペネム:経口投与可能な唯一のカルバペネム系として、小児感染症治療において重要な選択肢です。β-ラクタマーゼに対する安定性も良好です。
カルバペネム系抗生物質は「最後の切り札」として位置づけられており、以下のような場面で使用されます。
🏥 重症院内感染症
🫁 呼吸器感染症
🦠 腹腔内感染症
⚕️ その他の重要な適応
使用選択の指針:
各薬剤の特性を活かした使い分けが重要です。緑膿菌感染が疑われる場合はメロペネムまたはドリペネム、市中感染でカルバペネム系が必要な場合はエルタペネム、外来治療や小児ではファロペネム・テビペネムを選択します。
アミノグリコシド系との併用により相乗効果が期待でき、特に緑膿菌や腸球菌による重症感染症では併用療法が推奨される場合があります。
カルバペネム系抗生物質の使用にあたっては、以下の副作用と注意点を把握する必要があります。
🧠 中枢神経系副作用
💊 消化器系副作用
🚨 アレルギー反応
⚖️ 投与時の注意事項
投与前の確認項目。
モニタリング項目。
💡 適正使用のポイント
カルバペネム系は耐性菌出現を防ぐため、以下の原則を守る必要があります。
カルバペネム系抗生物質の最大の課題は、カルバペネマーゼ産生菌(CPE:Carbapenemase-Producing Enterobacteriaceae)の世界的な増加です。
🦠 主要な耐性機構
カルバペネマーゼは以下の3つのクラスに分類されます。
特にKPC(Klebsiella pneumoniae carbapenemase)は1996年に米国ノースカロライナ州で初めて同定され、現在では米国北東部、イスラエル、中国、プエルトリコで地域流行を起こしています。
📊 疫学的現状
日本においても。
これらの耐性菌の増加により、従来のカルバペネム系では治療困難な感染症が増加しています。
🔬 新たな治療戦略
耐性菌対策として以下の新規薬剤・治療法が開発されています。
新規β-ラクタマーゼ阻害薬配合剤:
併用療法の最適化:
感染対策の強化:
今後は、カルバペネム系の適正使用と新規治療選択肢の活用により、耐性菌問題に対応していく必要があります。薬剤師、感染制御チームとの連携による包括的なアプローチが、今後のカルバペネム系抗生物質の有効性維持に不可欠です。
厚生労働省の薬剤耐性対策に関する最新情報
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120172.html