第二世代キノロン系抗生物質は、1980年代に開発されたフルオロキノロン系薬剤群です。この世代の特徴は、複素環にフッ素を含むことで従来のキノロン系薬剤と比較して抗菌活性が大幅に向上したことです。
日本国内で使用される主要な第二世代キノロン系薬剤は以下の通りです。
これらの薬剤は主にグラム陰性桿菌に対して強力な抗菌活性を示しますが、グラム陽性菌や嫌気性菌に対する活性は限定的です。特にシプロフロキサシンは緑膿菌に対する活性がキノロン系で最も高く、重篤な院内感染症の治療に重要な役割を果たしています。
ノルフロキサシンは1978年に杏林製薬により開発され、キノロン環にフッ素とピペラジニル基を導入することで抗菌力が飛躍的に向上しました。この技術革新により、その後のキノロン薬研究開発に大きな影響をもたらしました。
第三世代キノロン系抗生物質は、第二世代のスペクトラムに加えて、グラム陽性球菌である黄色ブドウ球菌と肺炎球菌にも効果を示すようになった世代です。「レスピラトリーキノロン」とも呼ばれ、呼吸器感染症に効きやすいとされています。
主要な第三世代薬剤。
レボフロキサシンは肺炎球菌への活性が高く、市中肺炎の典型的起因菌を一通りカバーする薬剤として広く使用されています。内服薬でありながら緑膿菌活性も有する唯一の薬剤という特徴もあります。
しかし、レボフロキサシンには重要な注意点があります。結核菌にも効果を示すため、肺結核が除外できない肺炎では使用を避けるべき薬剤とされています。実際に「肺炎と思ってニューキノロンで治療したら、結核でした」という事例が報告されており、診断の遅れにつながる可能性があります。
トスフロキサシンは小児に使用可能な唯一のニューキノロン系薬剤として特別な位置づけにあります。一般的にキノロン系薬剤は小児や妊娠中の女性には原則として使用されませんが、オゼックスに限り小児用製剤が存在します。
第四世代キノロン系抗生物質は、第三世代のスペクトラムに加えて、グラム陰性桿菌の偏性嫌気性菌にも有効な最も広域なスペクトラムを持つ世代です。この世代もレスピラトリーキノロンと通称されています。
主要な第四世代薬剤。
モキシフロキサシンは嫌気性菌に対するカバーも広がっている薬剤ですが、肝代謝の薬剤で尿路への移行は悪いため尿路感染には使用できません。また、欧州では肝障害による死亡例が問題となったこともあり、使用時には注意が必要です。
シタフロキサシンは第一三共により開発された最も新しいキノロン薬で、「最強のキノロン薬」とされています。ほとんどの抗菌薬が抗菌活性を示しにくい緑膿菌やキノロン耐性菌を含むグラム陰性菌、多剤耐性肺炎球菌やキノロン耐性黄色ブドウ球菌を含むグラム陽性菌、クラミジア等の非定型菌、結核菌などの抗酸菌に対して高い抗菌活性を示します。
レジオネラ症の治療において、キノロン系抗菌薬は第1選択薬として推奨されており、特にレボフロキサシン、シプロフロキサシン、ラスクフロキサシン、パズフロキサシンが有効とされています。
キノロン系抗生物質は、細菌のDNA合成に関わる酵素であるDNAジャイレース(トポイソメラーゼII)およびトポイソメラーゼIVを阻害することで抗菌活性を発揮します。この機序により濃度依存的に殺菌的な抗菌活性を示すのが特徴です。
DNAジャイレースは細菌のDNA複製に必須の酵素であり、キノロン薬はこの酵素と複合体を形成してDNA合成を阻害します。興味深いことに、第四世代以降のキノロン薬は両標的酵素に対して同レベルで阻害作用を示すデュアルインヒビターとして働いており、これにより耐性変異株の選択性が低くなるという現象も見出されています。
キノロン耐性機構には主に以下のメカニズムがあります。
特に大腸菌において、キノロン系薬剤の感受性低下が問題となっており、臨床現場では耐性菌の動向に注意を払う必要があります。
キノロン系薬剤の予防投与により耐性菌の増加を促す傾向が認められたという研究報告もあり、適正使用の重要性が強調されています。
キノロン系抗生物質には比較的特有な副作用があり、医療従事者は十分に理解しておく必要があります。主な副作用として以下が報告されています。
重篤な副作用:
一般的な副作用:
民医連の副作用モニターによると、過去5年間でニューキノロン系によるgrade2以上の副作用は90件報告され、最も多いのはアレルギー症状で50件でした。このうち16件が服薬直後にアナフィラキシー症状が出現しており、患者への事前指導が重要です。
特に注意すべき点:
パズフロキサシンでは低血糖症状と白血球減少症、肝障害の副作用が報告されており、定期的な血液検査が推奨されます。
QT延長のリスクがある患者(QT延長または心拍数の低下がみられる人、関連薬剤を使用している人、電解質異常がある人など)では、フルオロキノロン系薬剤の使用を避ける必要があります。
これらの副作用は腱断裂や動脈瘤解離、手のしびれなど、患者本人や医師も副作用として認識しにくい場合があるため、感染症を治療する医師は十分に精通しておく必要があります。
厚生労働省による副作用情報の詳細はこちら。
未承認薬・適応外薬の要望に対する企業見解