慢性疾患と多職種協働によるチーム医療実践

慢性疾患の効果的な管理には多職種協働のチーム医療が重要です。本記事では患者支援と生活習慣改善、意思決定支援の実践方法を解説します。あなたの医療現場でどう活かせますか?

慢性疾患と効果的なケア管理

慢性疾患ケアの重要ポイント
🏥
多職種連携

医師、看護師、栄養士、薬剤師など様々な専門職が協働することで、総合的なケアが実現します

🔄
継続的支援

慢性疾患は長期的な経過をたどるため、継続的な医療とケアの提供が不可欠です

👥
患者中心のアプローチ

患者の価値観や生活状況を尊重し、意思決定を支援する姿勢が治療成功の鍵となります

慢性疾患の患者を支えるチーム医療の基本

慢性疾患の特徴は、「長期にわたり、ゆっくりと進行する疾患」であり、数年または数十年の継続的な管理を必要とする健康上の問題とされています。こうした疾患に対しては、単一の医療専門職だけでは十分な対応が難しく、多職種によるチーム医療が不可欠です。

 

チーム医療の本質は、ジャズコンボに例えられることがあります。伊豆敦子氏(社会福祉法人・平成福祉会理事長)は、「各職員がそれぞれの専門性を磨き、自分の役割を果たすとともに、全体のリズムは常に合わせて演奏は調和している」と表現しています。この比喩が示すように、チーム医療では各専門家が自らの領域で高い専門性を発揮しつつ、全体としての調和を維持することが求められます。

 

効果的なチーム医療の実践には以下の要素が欠かせません。

  • 明確な役割分担と責任の所在
  • オープンなコミュニケーションチャネル
  • 共通の目標設定と共有
  • 定期的なカンファレンスによる情報共有
  • 相互尊重と信頼関係の構築

特に慢性疾患においては、患者の生活の質を維持・向上させることを共通目標として、チームメンバーが一丸となって取り組む姿勢が重要です。医師、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士など、それぞれの専門性を活かした介入が患者の包括的な支援につながります。

 

慢性疾患における多職種協働の重要性

慢性疾患の管理において、多職種協働の重要性はますます高まっています。2025年1月の報告によれば、「チーム医療が大事なのはなんとなく分かるんだけど、どうやってチーム医療を実現すればいいんだろう」という声も少なくありません。

 

多職種協働の具体的メリットとして、以下のような点が挙げられます。

  1. 包括的な視点からの患者評価が可能になる
  2. 専門家間での知識や経験の共有により医療の質が向上する
  3. 患者のアドヒアランス向上につながる
  4. 医療リソースの効率的な活用が実現する
  5. 医療者のバーンアウト防止にも寄与する

特に糖尿病などの慢性疾患の治療においては、「医師だけでなく、看護師や管理栄養士、薬剤師などの医療従事者で結束していかなければなりません」と指摘されているように、多角的なアプローチが求められます。

 

実際の協働では、情報共有ツールの活用や定期的なミーティング、共通の評価指標の設定などが効果的です。また、チーム内でのリーダーシップの明確化や、専門職間の相互理解を深める取り組みも重要になります。

 

スウェーデンの研究では、多疾患併存患者に対する多職種協働アプローチにより、腎機能低下リスクの軽減が示されています。このように、エビデンスに基づいた協働体制の構築が、慢性疾患管理の成果を左右するといえるでしょう。

 

多疾患併存と腎機能低下の関連についての詳細研究

慢性疾患と生活習慣改善の具体的アプローチ

慢性疾患の管理において、生活習慣の改善は薬物療法と並ぶ重要な治療アプローチです。特に「環境や生活習慣を原因とする場合は改善の余地がありますが、『器質』や『加齢』については、なかなか『自分ではコントロールできない』という点が重要です」とされています。

 

効果的な生活習慣改善のためのアプローチとして、以下の方法が推奨されています。
食事管理

  • 減塩:1日の塩分摂取量を6g未満に抑える
  • 適切な糖質摂取:精製糖や白米の摂取を控え、複合炭水化物を選ぶ
  • 植物性タンパク質の積極的摂取:動物性タンパク質との適切なバランスを維持

運動療法

  • 有酸素運動:週に150分以上の中等度の有酸素運動
  • レジスタンストレーニング:週に2回以上の筋力トレーニング
  • 日常生活における活動量増加:エレベーターではなく階段を使うなど

ストレス管理

  • マインドフルネス瞑想
  • 適切な睡眠習慣の確立
  • ソーシャルサポートの活用

生活習慣改善を成功させるポイントは、患者の生活背景や価値観を理解し、無理なく継続できる方法を共に見つけることです。一律の指導ではなく、個別化されたアプローチが重要です。

 

特に注目すべきは、慢性炎症の予防です。「慢性炎症は自覚症状がありません。しかし、肥満や糖尿病、高血圧などの生活習慣病が重なるほど、慢性炎症も進行していることが推測されます」と指摘されているように、慢性炎症の管理が多くの慢性疾患の予防・管理に直結します。

 

慢性炎症予防のための具体的アプローチについて詳しく解説されています

慢性疾患患者の意思決定支援と自己管理

慢性疾患患者の治療において、患者自身の意思決定と自己管理能力の向上は治療成功の鍵を握ります。意思決定支援とは単に選択肢を提示するだけではなく、「患者が何を大切にしているのか、患者の価値観を知り、生活の質を維持できるように援助すること」を意味します。

 

効果的な意思決定支援には、以下のポイントが重要です。

  1. 継続的な対話:「病状が進行したとき、どこまで治療を受けるのか、どのように病とともに生きたいのか」について継続的に対話する
  2. 価値観の尊重:「患者の意思は変化しうるものであることを踏まえて」支援する
  3. タイミングの配慮:「インフォームド・コンセント後、退院後、再入院時など、折にふれて意思を確認・支援する」
  4. チームによる一貫した支援:「患者との話し合いが繰り返し行われることが重要」とされる

アドバンス・ケア・プランニング(ACP)も、慢性疾患患者の意思決定支援において重要な概念です。特に心不全、呼吸器疾患、腎疾患などの臓器不全に至る過程を経て終末に至る疾患では、早期からのACPの導入が推奨されています。

 

自己管理支援においては、患者教育と同時に患者のエンパワメントが鍵となります。単に知識を与えるだけでなく、患者が自らの状態をモニタリングし、適切な対応ができるよう支援することが重要です。

 

「病みの軌跡」という考え方は、慢性疾患管理において重要な視点を提供します。ストラウスとコービンによれば、「病みの軌跡とは、病気の慢性状況のなかで病気とともに生きるその人の人生や生活を一連の軌跡ととらえたもの」であり、「病気に伴う症状を適切に管理(コントロール)できれば、症状のコントロールや病状の安定保持ができ延長することもできる」とされています。

 

病みの軌跡モデルについての詳細解説

慢性疾患の多疾患併存と腎機能への影響

慢性疾患管理において近年注目されている課題の一つが、多疾患併存の問題です。2025年1月に報告された研究では、「高齢者における多疾患併存は腎機能低下と強く関連しており、慢性疾患の数が増えるほど腎機能の低下度も大きくなる」ことが明らかになっています。

 

この研究では、慢性疾患が1つ増えるごとに。

  • 推算糸球体濾過量(eGFR)が年平均0.05mL/分/1.73m²低下
  • ベースラインからeGFRが25%以上低下するリスクが23%増加

特に注目すべきは、疾患の組み合わせによるパターンの影響です。研究では次の5つのパターンが特定されています。

  1. 非特異的な低負荷パターン
  2. 非特異的な高負荷パターン
  3. 認知機能障害や感覚障害を特徴とするパターン
  4. 精神疾患や呼吸器疾患を特徴とするパターン
  5. 心代謝性疾患を特徴とするパターン

このうち特に「心代謝性疾患を特徴とするパターン」では、eGFRが年平均0.77mL/分/1.73m²低下し、25%以上低下するリスクは245%増加するという衝撃的な結果が示されています。

 

研究グループは「高血圧や心疾患などの慢性疾患は糖尿病と関連しているため、あるいは臓器にダメージを与える炎症を引き起こすため、腎臓にダメージを与える可能性がある」と述べており、慢性疾患の管理においては腎機能への影響も考慮した包括的なアプローチが必要であることを示唆しています。

 

実臨床では、複数の慢性疾患を抱える患者には特に注意深いモニタリングと、薬剤の相互作用も考慮した治療計画の立案が重要です。多職種チームによる定期的な評価と、必要に応じた治療計画の見直しが推奨されます。

 

また、慢性疾患の予防と早期介入が、将来的な腎機能低下のリスクを軽減する可能性も示唆されており、一次予防・二次予防の重要性も再認識されています。

 

人生100年時代を迎え、複数の慢性疾患を抱えながら生きる高齢者が増加する中、多疾患併存を前提とした包括的なケアモデルの構築が今後の医療における重要な課題となるでしょう。