超音波検査で見える臓器と多職種連携

超音波検査は体への負担が少なく、様々な臓器の異常を発見できる画像診断法です。本記事では実施可能な医療従事者や観察できる臓器について解説します。あなたの医療現場で超音波検査をどう活用していますか?

超音波検査と医療現場

超音波検査の基本情報
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非侵襲的検査

体への負担がほとんどなく、痛みもない安全な検査法

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多職種で実施可能

医師だけでなく看護師や臨床検査技師も実施可能

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広範囲の診断

肝臓、腎臓、膵臓など多くの臓器を一度に観察可能

超音波検査で観察できる臓器と特徴

超音波検査(エコー検査)は、体表面に超音波プローブを当て、体内から反射してくる超音波を画像化する検査法です。この検査の最大の特徴は、放射線被曝がなく、痛みもなく、リアルタイムで臓器の状態を観察できる点にあります。

 

超音波検査で特に観察に適している臓器は、内部が充実している「実質臓器」と呼ばれるものです。超音波は空気を通過しにくいという特性があるため、空気を含まない臓器の観察に適しています。具体的には以下の臓器が超音波検査の対象となります。

  • 肝臓:脂肪肝、肝硬変、肝腫瘍などの診断
  • 胆嚢:胆石、胆嚢ポリープ、胆嚢炎などの診断
  • 膵臓:膵炎、膵腫瘍などの診断(特に体部・頭部)
  • 腎臓:腎結石、腎嚢胞、腎腫瘍などの診断
  • 脾臓:脾腫、脾梗塞などの診断

これらの臓器は内部が充実しているため、超音波検査で明瞭に描出することができます。特に肝臓や腎臓は体表面から比較的近い位置にあるため、高解像度の画像を得ることが可能です。

 

一方、超音波検査が苦手とする臓器もあります。それは空気を含む管腔臓器と呼ばれるものです。

  • 肺:空気を多く含むため超音波が反射してしまう
  • 食道:位置的に観察が難しい
  • 胃:空気や食物を含むため全体の観察が難しい
  • 十二指腸:位置的に深部にあり観察が難しい
  • 小腸・大腸:ガスを含むため観察が困難

ただし、これらの臓器でも、進行がんのような大きな腫瘍がある場合には、超音波検査でも検出できることがあります。また、腸管壁の肥厚や腹水の有無なども超音波検査で評価可能です。

 

臨床現場では、患者の体型によっても描出能が変わります。特に肥満患者の場合、脂肪組織によって超音波が減衰するため、深部臓器の描出が「描出不良」となることがあります。膵臓尾部などは特に描出が難しく、超音波検査で「描出不良」と判定された場合は、CTやMRIなどの他の画像検査を検討する必要があるでしょう。

 

超音波検査を実施できる医療従事者の資格

超音波検査の実施は医師の専門業務ではなく、適切な知識と経験を持つ様々な医療従事者が行うことができます。具体的には以下の職種が超音波検査を実施できます。

  • 医師:全ての超音波検査を実施可能
  • 看護師:適切な訓練を受けた場合に実施可能
  • 准看護師:適切な訓練を受けた場合に実施可能
  • 診療放射線技師:1993年の法改正により超音波検査が業務範囲に追加
  • 臨床検査技師:検査の専門家として超音波検査を担当

特に臨床検査技師と診療放射線技師が超音波検査業務の中心的な役割を担っています。日本超音波検査学会の会員数は2022年9月時点で25,787名に達しており、そのほとんどが臨床検査技師と診療放射線技師です。これは超音波検査に対する高い関心と、その業務に携わる技師の多さを示しています。

 

超音波検査を実施するためには、単に資格を持っているだけでなく、十分な経験と技術が必要です。特に検査の質は検査者の技術に大きく依存するため、継続的な研修と経験の蓄積が重要となります。

 

多くの医療機関では、臨床検査技師が中心となって超音波検査を実施しています。臨床検査技師は1970年に誕生した比較的新しい職種で、それまでは検査の多くは医師が行っていました。しかし、医療の高度化とチーム医療の推進により、検査を専門的に行う職種として臨床検査技師の役割が確立されました。

 

超音波検査は近年、Point-of-Care超音波検査(POCUS)としても注目されています。これは患者のベッドサイドで、診療の一環として超音波検査を行うものです。特に救急医療や地域医療の現場で、迅速な診断ツールとして活用されています。

 

日本超音波医学会のPOCUSに関する委員会活動

超音波検査とCT・MRIとの診断精度の違い

超音波検査、CT、MRIは、いずれも体内の状態を画像として可視化する検査ですが、それぞれに特徴や適応が異なります。医療者はこれらの違いを理解し、適切な検査を選択することが重要です。

 

【超音波検査の特徴】

  • 放射線被曝がない
  • リアルタイムで動きを観察できる
  • 非侵襲的で繰り返し検査が可能
  • 装置が比較的安価で可搬性がある
  • 検査者の技術に依存する
  • 空気や骨を通過しにくいため観察できない部位がある
  • 肥満患者では深部の観察が困難

【CTの特徴】

  • X線を使用するため放射線被曝がある
  • 短時間で広範囲を検査できる
  • 空気や骨の部分も含めて全身の断層画像が得られる
  • 検査者の技術にあまり依存しない
  • 造影剤使用による腎負荷や副作用のリスクがある

【MRIの特徴】

  • 放射線被曝がない
  • 軟部組織のコントラストに優れている
  • 多方向の断層像が得られる
  • 検査時間が長い
  • 閉所恐怖症の患者には負担が大きい
  • ペースメーカーなどの金属製インプラントがある患者には適応できない
  • 装置が大型で高価

診断精度の面では、各検査法に長所と短所があります。
超音波検査は表在性の病変(甲状腺、乳腺、四肢の血管等)の評価や、肝臓・胆嚢・腎臓などの実質臓器の病変検出に優れていますが、深部の小さな病変や、骨や空気に囲まれた部位の観察は難しいことがあります。

 

CTは全身のスクリーニングや、肺、骨などの評価に優れており、空気や骨に囲まれた部位も観察できます。また、腫瘍や出血、感染症などの診断においても重要な役割を果たします。

 

MRIは特に脳、脊髄、関節、骨盤内臓器などの軟部組織の評価に優れており、微細な病変の検出能力が高いことが特徴です。

 

これらの検査法は互いに補完的な関係にあり、しばしば複数の検査を組み合わせることで総合的な診断が可能となります。例えば、超音波検査で異常が疑われた場合に、より詳細な評価のためにCTやMRIを追加することがあります。

 

医療者は患者の状態、検査の目的、コスト、被曝の問題などを考慮して、最適な検査方法を選択する必要があります。特に超音波検査は被曝がなく繰り返し検査ができるため、経過観察や初期スクリーニングに適しています。

 

超音波検査士の認定制度と専門性

超音波検査の質を担保し、技術水準を維持・向上させるために、日本超音波医学会は1985年に「超音波検査士」の認定制度を開始しました。この資格は超音波検査における高い技術力と知識を証明するものとして、医療現場で高く評価されています。

 

超音波検査士の認定を受けるためには、以下の条件を満たす必要があります。

  • 日本国の看護師、准看護師、臨床検査技師、診療放射線技師のいずれかの免許を有すること
  • 相当程度の超音波検査の経験を持つこと
  • 日本超音波医学会が実施する試験に合格すること

超音波検査士の資格は、対象臓器・領域によって以下のように分類されています。

  1. 循環器領域
  2. 腹部領域
  3. 産婦人科領域
  4. 表在領域(乳腺・甲状腺など)
  5. 健診領域

超音波検査士の資格を持つ医療従事者、特に臨床検査技師は、超音波検査において高い技術を持っているとみなされます。人間ドックや健康診断で超音波検査を担当する臨床検査技師が超音波検査士の資格を持っていれば、安心して検査を任せられるとされています。

 

超音波検査士の存在意義は、単に技術力を証明するだけではありません。彼らは超音波検査の標準化や質の向上に貢献し、また若手技師の育成・指導も担っています。さらに、新たな検査技術の開発や研究にも関わっており、超音波医学の発展に寄与しています。

 

超音波検査は検査者の技術に大きく依存するため、経験豊富な超音波検査士による検査は、診断の質を高める上で非常に重要です。特に微細な病変の検出や、複雑な病態の評価においては、検査者の経験と技術が大きな差を生み出します。

 

医療機関を選ぶ際、超音波検査士が在籍しているかどうかは一つの選択基準になりうるでしょう。多くの医療機関では、Webサイトなどで超音波検査士の在籍情報を公開しています。

 

日本超音波医学会の超音波検査士認定制度についての詳細はこちら

超音波検査におけるAI活用の最新動向

超音波検査の世界にも、人工知能(AI)技術の波が押し寄せています。AIの活用により、超音波検査の精度向上、効率化、さらには検査者による技術差の軽減が期待されています。

 

【超音波検査におけるAI活用の現状】
現在、超音波検査におけるAI技術の応用は主に以下の分野で進んでいます。

  • 画像認識と病変検出:AIが超音波画像から病変を自動的に検出し、見落としを防止
  • 画質改善:ノイズ除去や画像鮮明化により、診断しやすい画像を提供
  • 測定の自動化:臓器のサイズや腫瘍の体積などを自動的に計測
  • 診断支援:検出された病変の良悪性を推定し、医療者の診断を支援

特に注目されているのは、深層学習(ディープラーニング)を用いた画像認識技術です。これにより、経験の少ない検査者でも、AIのサポートによって高精度の検査が可能になると期待されています。

 

【AI活用の具体例】

  • 乳腺超音波におけるAI:乳房腫瘤の検出と良悪性の判別をサポート
  • 心エコーにおけるAI:心機能の自動評価や弁膜症の重症度判定を支援
  • 産科超音波におけるAI:胎児の発育評価や異常の早期発見をサポート
  • 腹部超音波におけるAI:肝臓の脂肪化度の定量評価や腫瘤性病変の検出を支援

これらのAI技術は、決して医療者を置き換えるものではなく、医療者の診断をサポートし、より効率的で精度の高い検査を実現するための「共同作業者」として位置づけられています。

 

【AIの限界と課題】
一方で、AI技術の活用にはいくつかの課題も残されています。

  • トレーニングデータの質と量:高精度なAIの開発には大量の質の高いデータが必要
  • 説明可能性の問題:AIの判断根拠が「ブラックボックス」になりがち
  • 導入コストの問題:AI搭載装置は高額になる傾向がある
  • 法的・倫理的課題:AI診断の責任の所在や、患者データの取り扱いなど

【今後の展望】
これらの課題を克服しつつ、AI技術の超音波検査への応用は今後も進んでいくと予想されます。特に注目されているのは、以下のような発展方向です。

  • 遠隔診療支援:離島や僻地でも、非専門家が取得した超音波画像をAIが解析し、専門医が遠隔で診断をサポート
  • マルチモダリティ統合:超音波検査だけでなく、CT、MRIなど複数の検査データを統合して診断を支援
  • 個別化医療への貢献:患者個人の特性を考慮した診断・治療方針の決定をサポート

AI技術の進化により、超音波検査はより身近で、より精度の高い検査方法として、さらに医療現場での重要性を増していくでしょう。医療従事者は、こうしたAI技術の動向を把握し、適切に活用することで、より質の高い医療を提供することが期待されています。

 

日本超音波医学会のAI活用に関する委員会の活動