腸閉塞(イレウス)症状と治療方法
腸閉塞(イレウス)の基本情報
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定義
腸管内腔の閉塞や腸管運動障害により、腸管内容の通過が障害された状態
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治療アプローチ
保存的治療(絶食・輸液・減圧)と外科的手術
腸閉塞(イレウス)の主な症状と早期発見のポイント
腸閉塞(イレウス)は、腸管の通過障害によって引き起こされる病態で、適切な診断と迅速な対応が求められる消化器疾患です。症状を正確に把握することは、早期発見と適切な治療方針の決定において非常に重要です。
腸閉塞の主な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
- 腹痛:じわじわと増強する痛みが特徴的です。閉塞の程度や種類によっては、間欠的に強い痛みが生じることもあれば、持続的な鈍痛として現れることもあります[3]。特に絞扼性イレウスの場合は、急激な腹痛を伴うことが多く、緊急性が高いサインとなります[3]。
- 嘔吐・吐き気:腸内容物が正常に移動できないため、逆流による嘔吐が生じます[2]。閉塞部位が上部腸管に近いほど、嘔吐の頻度は高くなります。また、嘔吐物が肺に入ると誤嚥性肺炎を引き起こすリスクがあるため注意が必要です[3]。
- 腹部膨満感:ガスや液体が腸内に溜まることで、腹部が張り、外から見ても明らかな膨満が認められることがあります[2]。患者は不快感や圧迫感を訴えることが多いです[3]。
- 便秘や排ガス障害:腸内容物の通過が妨げられるため、便やガスが出にくくなります[2]。完全閉塞の場合は重度の便秘となりますが、部分的な閉塞では下痢を伴うこともあるため、注意が必要です[3]。
- 発熱:特に絞扼性イレウスや腸管壁に炎症がある場合には、発熱を伴うことがあります[2]。発熱と頻脈は腸管の虚血や壊死のサインとして重要な指標となります[3]。
- 食欲不振:全身状態の悪化に伴い、食欲が低下することが一般的です[3]。
早期発見のポイントとしては、これらの症状の組み合わせや進行の速さに注意を払うことが重要です。特に注意すべき警告サイン
- 急激に悪化する腹痛
- 持続的な発熱
- 腹部の圧痛や筋性防御
- ショック症状(頻脈、低血圧、冷や汗など)
これらの症状が認められる場合、特に絞扼性イレウスの可能性を考慮し、迅速な診断と治療介入が必要になります。腸閉塞の早期発見には、患者の症状の訴えに加えて、身体所見、病歴(特に開腹手術歴)、および適切な画像診断が必須となります。
腸閉塞(イレウス)の種類と原因について
腸閉塞(イレウス)は、その発生メカニズムや病態によって異なる種類に分類されます。それぞれのタイプを理解することは、適切な治療アプローチを選択する上で不可欠です。
機械的閉塞と機能的閉塞
腸閉塞は大きく分けて、「機械的閉塞」と「機能的閉塞」の2つに分類されます。
- 機械的閉塞:腸管内腔が物理的に塞がれた状態で、「閉塞性イレウス」とも呼ばれます[3]。腸の内容物が通過できなくなります。
- 機能的閉塞:腸管の蠕動運動が低下または停止した状態で、「麻痺性イレウス」とも呼ばれます。腸管自体の動きの問題で通過障害が生じます。
血流障害の有無による分類
特に重要な分類として、血行障害の有無があります。
- 単純性イレウス:腸管の血流は保たれている状態です。比較的緊急性は低いですが、放置すると悪化する可能性があります。
- 絞扼性イレウス:腸管の血行障害を伴うもので、腸管壁の虚血や壊死のリスクがあります[3]。急激な腹痛やショック状態を引き起こすことがあり、緊急手術が必要となる深刻な病態です[1]。
主な原因
腸閉塞を引き起こす代表的な原因には以下のようなものがあります。
原因 |
説明 |
タイプ |
癒着 |
開腹手術後に最も多い原因。腹部手術後の腸管同士や腸管と腹壁の癒着 |
閉塞性/単純性 |
腫瘍 |
大腸癌などの悪性腫瘍による腸管内腔の狭窄 |
閉塞性 |
ヘルニア嵌頓 |
腹壁や横隔膜のヘルニア門に腸管が嵌まり込む状態 |
絞扼性のリスク大 |
腸重積 |
腸管の一部が隣接する腸管内に嵌入する状態 |
絞扼性のリスク大 |
腸捻転 |
腸管が軸を中心にねじれる状態 |
絞扼性 |
胆石イレウス |
胆道から腸管内に落下した大きな胆石による閉塞 |
閉塞性 |
術後腸管麻痺 |
腹部手術後の一時的な腸管運動の低下 |
麻痺性 |
電解質異常 |
低カリウム血症などによる腸管運動の低下 |
麻痺性 |
腸閉塞の種類を正確に判断するには、症状の経過、身体所見、画像診断(腹部X線、CT、超音波検査など)を総合的に評価することが重要です。特に絞扼性イレウスの早期発見は、腸管壊死を防ぎ、治療成績を向上させるために非常に重要となります。
日本消化器外科学会のガイドラインでは癒着性イレウスの診断・治療アルゴリズムが詳細に解説されています
腸閉塞(イレウス)の保存的治療法とイレウス管の役割
腸閉塞(イレウス)の治療において、症状の程度や原因によって保存的治療が第一選択となることがあります。特に単純性イレウスや軽度の閉塞性イレウスでは、手術を行わずに症状の改善を図る保存的治療が試みられます。
保存的治療の基本方針
保存的治療の主な目的は、腸管内の圧力を軽減し、腸の蠕動運動を回復させることにあります。具体的には以下の方法が取られます。
- 絶食管理:経口摂取を中止し、胃腸を休ませることで腸管への負担を減らします[1]。これにより腸の蠕動運動の回復を促します。
- 輸液療法(点滴):水分とともに必要な電解質やエネルギー源を静脈から補給します[1][2]。特に嘔吐が続いている場合は脱水や電解質異常を是正する必要があります。
- 減圧処置:経鼻胃管やイレウス管を用いて腸管内容物を体外に排出し、腸管内の圧力を下げます[1][3]。
- 薬物療法:状況に応じて、抗コリン薬や鎮痛薬などが用いられることがあります[5]。麻痺性イレウスでは腸管蠕動促進薬が使用されることもあります。
イレウス管の役割と管理
イレウス管は、腸閉塞の保存的治療において中心的な役割を果たします。一般的な経鼻胃管よりも長く、腸の奥深くまで挿入できる特殊なチューブです。
- イレウス管の構造:先端にバルーンがあり、蒸留水で膨らませることで腸の蠕動運動に乗って自然に進んでいきます[5]。このため、閉塞部位の手前まで到達し、効果的な減圧が可能となります。
- 挿入手順:経鼻的に挿入し、X線透視下でトライツ靱帯を越えて小腸内に進めていきます[5]。閉塞部位の近くに到達したら、バルーンを膨らませます。
- 効果:腸管内容物やガスを吸引排除することで腸管内圧を下げ、腸管の血流改善や蠕動運動の回復を促します[3]。また、造影剤を注入することで閉塞部位の診断にも役立ちます。
- 管理のポイント。
- チューブの位置確認:定期的にX線検査で位置を確認します
- 吸引管理:持続吸引または間欠吸引を適切に行います
- 排液の観察:量、性状、色調の変化を記録します
- 固定部(鼻翼)の皮膚ケア:潰瘍形成を予防します[5]
- 患者の不快感への対応:鼻・喉の違和