カテコールアミンとカテコラミンの基礎と臨床応用

カテコールアミンは副腎髄質や交感神経から分泌される重要な神経伝達物質であり、生合成経路、受容体機能、臨床検査、疾患との関連など、医療現場で押さえるべきポイントは多岐にわたります。どのような知識が臨床で役立つでしょうか?

カテコールアミンとカテコラミンの基礎と臨床

この記事のポイント
💉
生合成経路の理解

チロシンからドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンへと変換される生合成経路と律速酵素を解説

🔬
受容体の作用機序

α受容体とβ受容体の分布と作用、カテコールアミン製剤の使い分けについて詳述

🏥
臨床検査と疾患

褐色細胞腫や神経芽細胞腫の診断における測定法と解釈のコツを紹介

カテコールアミンの生合成と代謝経路

 

カテコールアミンは、カテコール核とアミノ基を持つ生体アミンの総称で、ドーパミンノルアドレナリン、アドレナリンの3種類が存在します。生合成の出発点は、血中からアミノ酸のチロシンが副腎髄質や交感神経のクロム親和性細胞内へ能動輸送により取り込まれることから始まります。
参考)カテコールアミン - 脳科学辞典

チロシンはチロシン水酸化酵素の働きでドーパとなり、続いてドーパ脱炭酸酵素によりドーパミンに変換されます。ドーパミンはカテコールアミン貯蔵顆粒内に存在するドーパミンβ水酸化酵素(DBH)によりノルアドレナリンとなります。交感神経終末端では生合成はこの段階で止まりますが、副腎髄質ではフェニルエタノラミン―N―メチル転移酵素(PNMT)により、ノルアドレナリンからアドレナリンへの転換が行われます。
参考)1)カテコールアミン (臨床検査 38巻11号)

チロシン水酸化酵素は生合成を律速する最も重要な酵素であり、その活性は神経機能やホルモンによって調節されます。交感神経を切断すると生合成が抑制され、下垂体摘除によってPMNT、チロシン水酸化酵素、ドーパミン―β水酸化酵素活性が低下しますが、ACTHやグルココルチコイド投与で活性が回復します。
参考)チロシン水酸化酵素—脳および交感神経分布臓器に特異なカテコー…

カテコールアミン受容体の種類と作用機序

カテコールアミンの作用は、交感神経作動性受容体を介して発現されます。受容体にはアドレナリン作動性のα1、α2受容体およびβ1、β2受容体と、ドーパミンに特異的なDA1、DA2受容体があります。
参考)https://midori-hp.or.jp/pharmacy-blog/web20220912

β受容体は主に平滑筋の弛緩や心筋収縮を行っており、β1とβ2のサブタイプに分かれます。ノルアドレナリンがβ受容体と結合すると、アデニル酸シクラーゼを介して細胞内のサイクリックAMP(cAMP)を増加させ、cAMP依存性プロテインキナーゼを活性化させることで生理作用を発現します。
参考)循環器用語ハンドブック(WEB版) href="https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/pathophysiology/2-72.html" target="_blank">https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/pathophysiology/2-72.htmlamp;#946;受容体

β1受容体は心臓、消化器、脂肪組織、冠血管、大脳皮質に分布し、心拍数増加、心筋収縮力増加、脂肪分解、冠血管拡張、消化管弛緩などの作用を示します。一方、β2受容体は肺臓、肝臓、膵臓、骨格筋血管、骨格筋、交感神経、白血球、肥満細胞、小脳に分布し、気管支拡張、血管拡張、グリコーゲン分解、骨格筋収縮力増大などの作用があります。​
α1アドレナリン受容体は平滑筋の後シナプスに存在し、2次メッセンジャーとしてIP3とジアシルグリセロール(DAG)を用いてCaイオンを増加させます。α2アドレナリン受容体はアデニル酸シクラーゼ活性を抑制し、細胞内cAMP濃度を低下させ、Caチャネルを閉じ、Kチャネルを開きます。
参考)https://www.genken.nagasaki-u.ac.jp/genetech/genkenbunshi/pdf/H24.1.4.pdf

カテコールアミン製剤の臨床応用と使い分け

カテコールアミン製剤は、主に救急外来や集中治療室、循環器病棟で重症症例に使用される昇圧薬です。カテコールアミン製剤としては「ドパミン」、「ドブタミン」、「アドレナリン」、「ノルアドレナリン」があり、ドブタミンは合成された製剤となります。​
血圧を上げるには、「血圧=心拍出量×末梢血管抵抗」という2つの要素があり、心拍出量を上げる薬剤が強心薬、血管抵抗を上げる薬剤が血管収縮薬になります。カテコールアミンの作用は「強心作用」と「血管収縮作用」に分けられます。​
ACC/AHAの指標では、ドブタミン、ドーパミンが急性肺水腫の、ドブタミン、ドーパミン、ノルエピネフリンが心原性ショックの治療に使用されます。低用量(2~5μg/kg/min)のドブタミンが治療抵抗性の慢性心不全に用いられます。敗血症性ショックの昇圧薬としてノルアドレナリンが使用され、心停止やアナフィラキシーの際にはアドレナリンが使用されます。
参考)カテコールアミン【ナース専科】

カテコールアミンの分泌は、低血糖、出血、酸素欠乏その他さまざまなストレスにより引き起こされます。アドレナリンは心臓賦活作用、糖や脂質の代謝に関与し、ノルアドレナリンは血圧上昇作用を有します。ドーパミンは、ノルアドレナリンの前駆体であるとともに、中枢神経、腎、循環器、消化器系に対し特有の作用を有しています。
参考)カテコールアミン3分画 血漿|臨床検査項目の検索結果|臨床検…

カテコールアミン測定法と臨床検査

カテコールアミンの測定は、血漿中および尿中で行われ、主にHPLC法(高速液体クロマトグラフィー法)が用いられます。血漿測定では安静臥位状態で採血し、速やかに冷却遠心、血漿分離し凍結保存することが重要です。
参考)カテコールアミン3分画 尿|臨床検査項目の検索結果|臨床検査…

尿中測定では、6N塩酸20mLを入れて24時間蓄尿(pH3以下)を行い、混和後必要量を冷蔵保存します。酸性蓄尿されていない検体はデータ低下が見られるため、必ず酸性蓄尿(pH1.0~3.0)することが必須です。尿量が少ない場合は尿100mLに対して6N塩酸1mLの割合で入れます。​
カテコールアミンの測定は、副腎髄質機能検査として内分泌学的検査に分類されます。血漿中のカテコールアミン3分画(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)の測定は実施料161点、判断料は生化学的検査(Ⅱ)の144点が算定されます。​
高速液体クロマトグラフィー-電気化学電極法(HPLC-ECD)を用いることで、透析液中に含まれる神経伝達物質(ノルエピネフリンおよびドパミン)とそれらの代謝物を精密に測定することが可能です。脳微小透析法を組み合わせることで、自由行動下の動物における脳内神経伝達物質の濃度変化をリアルタイムで評価できます。
参考)新規脳内物質ニトロカテコラミンの抗ストレスおよび抗うつ効果に…

カテコールアミン関連疾患:褐色細胞腫と神経芽細胞腫

褐色細胞腫は、副腎の髄質から発生し、カテコールアミン(アドレナリンとノルアドレナリン)を過剰に産生する腫瘍です。副腎以外の場所(頭蓋底・頸部・膀胱などの傍神経節)から発生する場合はパラガングリオーマと呼ばれます。
参考)褐色細胞腫(かっしょくさいぼうしゅ)

褐色細胞腫では、カテコールアミンの過剰分泌により、高血圧や頭痛、動悸、発汗、不安感、便秘、腸閉塞(麻痺性イレウス)など多様な症状を呈します。糖尿病脂質異常症、不整脈、心不全を併発することもあります。発作的な高血圧や薬を内服しても血圧の下がりが悪い高血圧をきっかけに発見されることが多いですが、最近は人間ドックや他の病気を調べている過程で腫瘍が偶然発見されるケースも増えています。
参考)褐色細胞腫・パラガングリオーマ|国立健康危機管理研究機構

診断には、副腎腫瘍の精査として、カテコールアミンおよびその代謝物を尿中・血中で測定します。腫瘍の位置や広がりを評価するためにCTやMRI検査、123I-MIBGシンチグラフィー、FDG-PET-CT、オクトレオチドシンチグラフィーなどが行われます。血圧調節のための薬物療法にはα遮断薬が使用され、通常はβ遮断薬と併用されます。
参考)褐色細胞腫 - 10. 内分泌疾患と代謝性疾患 - MSDマ…

神経芽細胞腫は、交感神経系から発生し、小児に発生する代表的な悪性腫瘍の一つです。交感神経系から発生することから、神経伝達物質であるカテコールアミンを出すという性質を持っています。尿中カテコールアミンの測定は、褐色細胞腫および小児での神経芽細胞腫の診断・治療経過観察に欠かせない検査です。神経芽細胞腫ではカテコールアミンが病的な原因で過剰になることがあります。
参考)https://www.okayama-u.ac.jp/user/kensa/kensa/fukukou/catec.htm

カテコールアミンと精神神経疾患

カテコールアミンは中枢神経系において重要な役割を果たしており、精神疾患の病態生理に深く関与しています。ニトロカテコラミンという新規脳内物質は、前シナプス神経への神経伝達物質再取り込みを阻害する作用やCOMT阻害作用があることから、その脳内濃度の増減がうつ病の発症機序に深く関与する可能性が示唆されています。
参考)バイナリファイル (標準入力) に一致しました

アルコール依存症とうつ病を合併した患者では、血漿中カテコールアミン代謝産物動態が低HVA、低MHPGパターンを示すことが報告されています。また血清中脳由来神経栄養因子(BDNF)濃度も低下しており、アルコール依存症とうつ病を合併した場合には、カテコールアミン神経系の活動性低下や神経栄養因子産生の低下が生じる可能性が示されています。​
カテコールアミンは脳内において、シナプス神経伝達の調節、運動機能の制御、情動や認知機能の維持など多様な機能を担っています。ドーパミンは特に基底核の運動制御や報酬系の機能に重要であり、パーキンソン病などの神経変性疾患との関連が知られています。ノルアドレナリンは覚醒や注意、記憶形成に関与し、アドレナリンはストレス応答において中心的な役割を果たします。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4338835/

これらの知見は、抗うつ薬や抗パーキンソン病薬など、カテコールアミン系を標的とした薬物療法の開発に重要な示唆を与えています。​
参考リンク。
脳科学辞典のカテコールアミンの項目では、カテコールアミンの生合成、受容体、神経伝達などの基礎知識が体系的にまとめられています。
カテコールアミンの生合成と代謝に関する医学論文には、生合成の速度調節機構や神経機能・ホルモンによる調節について詳しく解説されています。
国立がん研究センターの褐色細胞腫の解説ページでは、褐色細胞腫の症状、検査、治療について患者向けに分かりやすく説明されています。

 

 


フタアミンhiローション 120ml