デキサメタゾンは強力な糖質コルチコイドであり、その薬理作用に起因する多彩な副作用が報告されています。重大な副作用として、誘発感染症・感染症の増悪、続発性副腎皮質機能不全、糖尿病、消化性潰瘍・消化管穿孔・膵炎、精神変調・うつ状態・痙攣、緑内障・後嚢白内障、血栓塞栓症などが挙げられます。
参考)医療用医薬品 : デカドロン (デカドロン錠0.5mg 他)
免疫抑制作用により、細菌感染、真菌感染、ウイルス感染など様々な感染症のリスクが増加します。特にプレドニゾロン換算で20mg/日(デキサメタゾン約3mg/日に相当)以上の投与では感染症のリスクが2倍以上になることが知られています。一方、プレドニゾロン10mg/日(デキサメタゾン約2mg/日)以下の場合でも長期投与では入院を要する感染症リスクが増加するという報告もあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6513495/
糖新生促進作用により血糖値が上昇し、糖尿病の発症や既存の糖尿病の増悪を引き起こします。周術期に単回投与されたデキサメタゾンでも、糖尿病患者では術後24時間以内に血糖値のピークが約36mg/dL上昇することが報告されていますが、創傷治癒への影響は認められていません。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9993727/
周術期のデキサメタゾン投与における感染リスクと血糖値変動に関する詳細なメタアナリシス
副作用の発現頻度は投与量と投与期間に密接に関連しています。投与量によって以下のような副作用発現パターンが報告されています。
参考)https://www.chugaiigaku.jp/upfile/browse/browse1230.pdf
プレドニゾロン換算5mg/日未満でも継続使用している限り白内障の発症頻度が増加します。プレドニゾロン5~7.5mg/日(デキサメタゾン約1mg/日)からは鼻出血や体重増加の頻度が増加し、7.5mg/日以上では抑うつ、緑内障、血圧上昇の頻度が増加することが知られています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsrcm/39/2/39_145/_pdf/-char/ja
化学療法後の遅発性嘔吐予防にデキサメタゾンを投与された患者の研究では、45%が中等度から重度の不眠を、27%が消化不良・心窩部不快感や焦燥感を、19%が食欲亢進を、16%が体重増加を、15%がざ瘡を訴えたと報告されています。これらの副作用は投与開始後比較的早期から出現する傾向があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2361221/
長期投与においては骨形成抑制作用とカルシウム代謝障害により骨粗鬆症が増悪するリスクがあり、高齢者では特に注意が必要です。また、脂質代謝への影響により脂肪肝が増悪する可能性も指摘されています。
参考)https://www.pmda.go.jp/drugs/2005/g050905/02/40081300_14000AZZ64250_B100_1.pdf
消化器系の重大な副作用として消化性潰瘍、消化管穿孔、膵炎が報告されています。消化性潰瘍の発現頻度は約1.1%とされており、胃粘膜保護作用の低下と胃酸分泌の増加が関与していると考えられます。
参考)【薬剤師向け】「デキサメタゾン」とは?効果や副作用、薬価など…
精神神経系の副作用も重要です。精神変調、うつ状態、痙攣などが報告されており、特に高用量投与や長期投与で発現リスクが高まります。化学療法補助療法として使用された場合、27%の患者が焦燥感を経験したという報告があります。
参考)医療用医薬品 : デキサメサゾン (デキサメタゾンエリキシル…
ステロイド離脱症候群も重要な合併症です。長期間ステロイド薬を投与されていた患者で急に投薬が中止された場合、全身倦怠感、血圧低下、微熱、関節痛などの副腎不全症状が出現します。投与を中止する際には、発熱、頭痛、食欲不振、脱力感、筋肉痛、関節痛、ショックなどの離脱症状に注意が必要です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00057154.pdf
ステロイド離脱症候群の病態と管理方法について
眼科的副作用として連用により眼圧亢進、緑内障、後嚢白内障が報告されています。プレドニゾロン換算5mg/日未満でも長期使用により白内障の発症リスクが増加し、定期的な眼科検査が推奨されます。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068098.pdf
硝子体内デキサメタゾンインプラント使用時の眼内副作用として、眼圧上昇や白内障進行のリスクが報告されていますが、発現頻度は2%未満と比較的低率です。白内障術後の眼内炎症管理においてデキサメタゾン徐放性製剤は従来の点眼レジメンと同等の安全性を示すことが確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC8995179/
代謝系副作用として続発性副腎皮質機能不全が重要です。長期投与により内因性ACTH分泌が抑制され、正常副腎皮質が萎縮します。急なステロイド不足により副腎不全症状を呈するため、漸減中止が原則となります。
参考)ステロイド離脱症候群|一般の皆様へ|日本内分泌学会
血栓塞栓症のリスクも報告されており、特に長期投与や高齢者、既往歴のある患者では注意深いモニタリングが必要です。糖尿病においては、デキサメタゾンの糖新生促進作用により血糖コントロールが不良となるため、血糖値の厳重な管理が求められます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7378414/
副作用の早期発見と適切な対応のために、定期的なモニタリングが不可欠です。感染症予防として、日常生活では手洗い・うがい・マスク着用などの基本的感染対策の徹底が重要です。
参考)https://midori-hp.or.jp/pharmacy-blog/web19_4_3
血糖値モニタリングは特に重要であり、糖尿病患者や高齢者では投与開始前と投与中に定期的な血糖測定が推奨されます。プレドニゾロン換算で7.5mg/日以上の投与では血圧測定も定期的に行うべきです。
参考)がん化学療法における副作用予防のための薬学的ケアの必要性—デ…
眼科的モニタリングとして、長期投与患者では定期的な眼圧測定と眼科検査が望ましいとされています。プレドニゾロン5mg/日未満でも白内障リスクがあるため、視力低下やかすみ目などの自覚症状にも注意が必要です。
参考)患者さんに満月様顔貌(ムーンフェイス)が生じた!
投与中止時には離脱症状の出現に注意し、漸減法を選択することが推奨されます。デキサメタゾン2~8mg/日から開始し、症状を観察しながら減量する方法が一般的です。急激な中止は副腎不全やリバウンド現象を引き起こす可能性があるため避けるべきです。
デキサメタゾン投与における血糖値モニタリングの実践的アプローチ
患者教育も重要な要素であり、副作用の初期症状(発熱、感染徴候、血糖上昇症状、消化器症状、精神症状など)について説明し、異常を感じた場合には速やかに受診するよう指導すべきです。特に水痘や麻疹の既往がない患者では、これらへの感染を極力防ぐよう配慮が必要です。
参考)医療特集:ステロイドの副作用
高用量投与や長期投与が予想される場合には、プロトンポンプ阻害薬などの消化性潰瘍予防薬の併用、骨粗鬆症予防のためのビスフォスフォネート製剤やビタミンD・カルシウム補充も検討すべきです。臨床的に重篤な副作用が出現した場合には、治療効果と副作用のバランスを評価し、減量または中止を含めた治療方針の見直しが必要となります。