非ステロイド性抗炎症薬(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs: NSAIDs)は、頭文字を取って「エヌセイズ」あるいは「エヌセイド」と呼ばれることがあります。これらの薬剤は抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称です。
NSAIDsの作用機序は、シクロオキシゲナーゼ(COX)酵素の阻害にあります。COX酵素はアラキドン酸からプロスタグランジンを合成する過程に関与しており、プロスタグランジンは痛み、発熱、炎症の原因となります。NSAIDsはこのCOX酵素を阻害することで、プロスタグランジンの産生を抑制し、結果として抗炎症・鎮痛・解熱効果を発揮するのです。
COX酵素には主に2種類あることが知られています。
従来の多くのNSAIDsはCOX-1とCOX-2の両方を阻害するため、炎症を抑える一方で胃腸障害などの副作用も引き起こします。この点を改善するために開発されたのが、COX-2を選択的に阻害する薬剤です。
NSAIDsは日常診療で非常に頻繁に使用される薬剤で、頭痛、歯痛、関節痛、筋肉痛、月経痛など様々な痛みの緩和に用いられます。また、関節リウマチや変形性関節症、痛風などの炎症性疾患の治療にも重要な役割を果たしています。
効果の発現時間や持続時間は薬剤によって異なりますが、一般的に内服後30分から1時間程度で効果が現れ、4〜6時間持続することが多いです。ただし、長時間作用型の薬剤では1日1回の服用で24時間効果が持続するものもあります。
抗炎症作用が特に強いNSAIDsは、関節リウマチなどの炎症性疾患の治療に特に有用です。ここでは代表的な薬剤について解説します。
1. アスピリン(アセチルサリチル酸)
商品名:バファリンなど
特徴。
注意点。
2. ジクロフェナク
商品名:ボルタレン
特徴。
注意点。
3. インドメタシン
商品名:インテバン
特徴。
注意点。
4. ナプロキセン
商品名:ナイキサン
特徴。
注意点。
これらの薬剤は強力な抗炎症作用を持つ反面、副作用のリスクも高いため、使用にあたっては患者の状態を十分に評価し、適切な投与量と期間を設定することが重要です。また、胃粘膜保護剤の併用を考慮する必要がある場合も多いでしょう。
プロドラッグタイプのNSAIDs
プロドラッグとは、それ自体は薬理活性が弱いか無いものの、体内で代謝されることで活性体に変換され、薬理効果を発揮する薬剤です。NSAIDsのプロドラッグは、胃腸障害などの副作用リスク軽減を目的として開発されました。
注意点。
2. スリンダク
商品名:クリノリル
特徴。
注意点。
作用時間が長いNSAIDs
長時間作用型のNSAIDsは、服用回数の減少によるアドヒアランス向上や、持続的な効果が期待できるメリットがあります。
1. アンピロキシカム
商品名:フルカム
特徴。
注意点。
2. ナブメトン
商品名:レリフェン
特徴。
注意点。
3. メロキシカム
商品名:モービック
特徴。
注意点。
プロドラッグや長時間作用型のNSAIDsは、服用コンプライアンスを向上させ、副作用リスクを軽減できる利点があります。特に慢性疾患の長期管理において、これらの特性は患者のQOL向上に寄与します。しかし、体内蓄積による副作用の持続や、効果発現までの時間など、それぞれの特性を理解した上で適切に選択する必要があります。
COX-2選択的阻害薬(コクシブ)は、従来のNSAIDsの主な副作用である胃腸障害を軽減することを目的に開発された新世代のNSAIDsです。これらの薬剤は炎症反応に関与するCOX-2を選択的に阻害し、胃粘膜保護などの生理的機能に重要なCOX-1の活性はあまり抑制しないことが特徴です。
1. セレコキシブ
商品名:セレコックス
特徴。
用法用量。
注意点。
2. エトドラク
商品名:ハイペン
特徴。
用法用量。
注意点。
COX-2選択的阻害薬使用上の重要な注意点
COX-2選択的阻害薬は心筋梗塞や脳卒中などの心血管イベントのリスクを増加させる可能性があります。特に以下の患者では慎重な評価が必要です。
COX-2選択的阻害薬は胃腸障害のリスクが低いという利点がありますが、他の安全性懸念、特に心血管リスクについての認識が重要です。日本リウマチ学会のガイドラインでも、心血管疾患リスクの高い患者では使用に注意が必要とされています。患者個々の状態を評価し、ベネフィットとリスクのバランスを考慮した薬剤選択が求められます。
NSAIDsは有用な薬剤である一方、様々な副作用のリスクがあります。医療従事者は副作用の特徴を理解し、適切な予防策を講じるとともに、患者の状態に応じた薬剤選択を行うことが重要です。
主な副作用と対策
NSAIDsによる胃腸障害は最も一般的な副作用です。胃粘膜保護に関与するCOX-1の阻害により、胃酸分泌増加や胃粘膜防御機能低下が起こります。
対策。
NSAIDsは腎血流の調節に関与するプロスタグランジンの産生を抑制するため、特に腎機能が低下している患者では急性腎障害のリスクがあります。
対策。
NSAIDsによる肝機能障害は比較的稀ですが、特にジクロフェナクでリスクが高いとされています。
対策。
特にCOX-2選択的阻害薬で心筋梗塞や脳卒中などのリスク増加が報告されていますが、従来のNSAIDsでも同様のリスクが指摘されています。
対策。
NSAIDs過敏喘息は、NSAIDs使用後に気管支攣縮が誘発される状態で、約10%の喘息患者に見られます。
対策。
患者特性に応じたNSAIDs選択のポイント
高齢者は副作用のリスクが高く、特に胃腸障害、腎機能障害、心血管イベントに注意が必要です。
推奨。
心血管疾患の既往や複数のリスク因子を持つ患者では、心血管イベントのリスクが増加します。
推奨。
消化性潰瘍の既往、高齢、ステロイド併用などのリスク因子がある患者では胃腸障害のリスクが特に高くなります。
推奨。
慢性腎臓病患者ではNSAIDsによる腎機能悪化のリスクが高まります。
推奨。
妊娠後期のNSAIDs使用は胎児の動脈管早期閉鎖などのリスクがあります。
推奨。
患者の個別状況に応じたNSAIDs選択と、適切なモニタリング・予防策の実施が、有効性を最大化しつつ安全性を確保するために不可欠です。また、非薬物療法(物理療法、運動療法など)との併用も重要な治療戦略となります。
NSAIDsの使用にあたっては、その強力な効果と潜在的なリスクのバランスを常に意識し、個々の患者に最適な治療計画を立案することが医療従事者に求められています。