アミラーゼは膵臓と唾液腺の両方から分泌される消化酵素で、血清中のアミラーゼ高値を適切に解釈するには病態の詳細な分析が必要です。膵型(P型)と唾液腺型(S型)のアイソアミラーゼに分画することで、血清アミラーゼの診断精度が著しく向上します。
参考)https://www.msdmanuals.com/ja-jp/professional/01-%E6%B6%88%E5%8C%96%E7%AE%A1%E7%96%BE%E6%82%A3/%E8%86%B5%E7%82%8E/%E6%80%A5%E6%80%A7%E8%86%B5%E7%82%8E
膵型アミラーゼは膵疾患で特異的に上昇しますが、唾液腺型アミラーゼは流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)、シェーグレン症候群、唾液腺結石症などで上昇します。血清アミラーゼ高値例では、唾液腺型アミラーゼの影響とマクロアミラーゼの存在を常に考慮する必要があります。
参考)https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.11477/mf.1542201291
マクロアミラーゼ血症は、アミラーゼが免疫グロブリンや多糖類と結合して分子量が増大し、腎クリアランスが低下することで血清中に蓄積する病態です。この場合、血清アミラーゼは高値を示しますが、尿中アミラーゼは低値となる特徴があります。
リパーゼは膵臓に特異的に存在する消化酵素で、脂肪の分解を担います。アミラーゼと比較して膵疾患に対する特異性が極めて高く、現在の急性膵炎診療において中心的な役割を果たしています。
参考)https://www.kenpo.gr.jp/daihatsu/contents/memo/07.html
リパーゼの測定値解釈における重要な特徴として、発症後4〜8時間で増加を開始し、24時間前後でピークに達します。その後7〜8日程度高値を持続するため、診断の時間的猶予が長いという利点があります。これは血清アミラーゼが3〜7日で正常に復帰するのと対照的です。
参考)https://www.eiken.co.jp/uploads/modern_media/literature/MM0806_04.pdf
特にアルコール性急性膵炎において、血清アミラーゼは上昇しにくいとされますが、リパーゼはアルコール性急性膵炎の診断にも有用とされています。また、高脂血症を原因とする急性膵炎でも、アミラーゼよりもリパーゼの方が診断感度が高いとされます。
膵疾患以外でリパーゼが高値となる原因。
アミラーゼとリパーゼの測定には多様な測定系が用いられており、検査結果の解釈において施設間差が重要な課題となっています。アミラーゼについては酵素標準物質を介した標準化により測定値の施設間差が縮小していますが、リパーゼの標準化は今後の重要な課題として残されています。
現在臨床で使用される主要な測定法。
アミラーゼ測定法
リパーゼ測定法
高トリグリセリド血症を有する患者では、血清中に循環している阻害物質が含まれている可能性があり、血清アミラーゼ濃度の上昇を適切に検出するために血清希釈が必要となる場合があります。これは意外な臨床上の注意点として、高脂血症患者での偽陰性結果を防ぐ重要な技術的配慮です。
急性膵炎の診断において、血清アミラーゼおよびリパーゼ値は初日に上昇し、その後の経時的変化が診断と重症度評価の重要な指標となります。しかし、腺房組織が過去の発作時に破壊されている場合、十分な量の酵素を分泌できないため、アミラーゼとリパーゼがいずれも正常値を維持することがあります。
診断における重要な鑑別点。
膵外疾患での酵素上昇も重要な鑑別点です。穿孔性潰瘍、腸間膜血管閉塞、腸閉塞などの腹部疾患でも両酵素が上昇することがあります。また、腎不全患者では腎クリアランス低下により両酵素とも高値を示すことがあります。
トリプシンは急性膵炎のkey enzymeとして位置づけられており、膵炎発症の病態生理を理解する上で重要ですが、臨床検査としてはアミラーゼ・リパーゼよりも測定頻度は低いのが現状です。
慢性膵炎や膵癌では、膵外分泌機能の低下が重要な病態となります。従来の膵外分泌機能検査として、BT-PABA試験(N-ベンゾイル-L-チロシル-p-アミノ安息香酸試験)やPFD試験(パンクレオラウリル試験)が用いられてきました。
現在注目される新しい評価指標。
血清アミラーゼ・リパーゼが低値を示す場合、進行した慢性膵炎による膵外分泌機能不全の可能性を考慮する必要があります。しかし、画像検査で異常所見がない場合の酵素低値は、通常臨床的意義は低いとされています。
参考)https://www.hirahata-clinic.or.jp/pancreas/mibyo/3_examinations
膵外分泌機能不全の診断には、便中脂肪定量検査(Sudan III染色による脂肪球確認)も有用です。健常者では便中脂肪含有量は1日5g以下ですが、膵外分泌機能不全では著明に増加します。
最近の研究では、血清trypsinogen-1(トリプシノーゲン-1)やimmunoreactive trypsin(免疫学的トリプシン)も膵外分泌機能評価の新しい指標として検討されており、従来の検査法を補完する可能性が示唆されています。
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