輸液の種類と商品名を医療従事者向けに解説

医療現場で使用される輸液製剤の種類と代表的な商品名について、等張・低張電解質輸液から高カロリー輸液まで体系的に解説。適切な輸液選択に必要な知識とは?

輸液の種類と商品名

輸液製剤の基本分類
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水・電解質輸液

生理食塩液、リンゲル液、1号液から4号液まで

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栄養輸液

アミノ酸製剤、高カロリー輸液(TPN、PPN)

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その他の輸液

血漿増量剤、浸透圧利尿剤

輸液製剤は医療現場において患者の水分・電解質バランスや栄養状態を維持するために不可欠な治療薬です。輸液製剤は主に水・電解質輸液、栄養輸液、その他の輸液製剤の3つに大別され、それぞれ異なる治療目的に応じて使い分けられています 。輸液製剤の適切な選択には、各製剤の組成や特徴、そして商品名による違いを理解することが重要となります 。
参考)https://kango-oshigoto.jp/media/article/54130/

 

輸液の等張電解質輸液製剤の種類と商品名

等張電解質輸液は、電解質濃度が血漿とほぼ同じで、細胞外液補充を目的とした輸液製剤です 。代表的な等張電解質輸液として、まず生理食塩液があり、主要な商品名には大塚生食注(大塚製薬工場)、テルモ生食(テルモ)、生理食塩液(ニプロ)があります 。
参考)【輸液の種類】細胞外液補充液と維持液類の特徴

 

リンゲル液系の製剤では、乳酸リンゲル液の商品名としてラクテック注(大塚製薬工場)、ポタコールR輸液(大塚製薬工場)、ソルラクト輸液(テルモ)が広く使用されています 。酢酸リンゲル液では、ソルアセトD(テルモ)、ヴィーンD(扶桑薬品工業)が代表的な商品名です 。重炭酸リンゲル液には、ビカネイト輸液(大塚製薬工場)があり、術中の酸塩基平衡の調整に使用されています 。
これらの等張電解質輸液は、出血による循環血液量減少時やショック状態での血圧低下時に、血管内や組織間への水分・電解質補給の目的で使用されます 。特に手術室では細胞外液補充液として主要な役割を果たしており、医療従事者にとって最も使用頻度の高い輸液製剤の一つとなっています 。
参考)看護に役立つ!電解質輸液の種類と違いをわかりやすく解説 - …

 

輸液の低張電解質輸液製剤(1号液から4号液)の種類

低張電解質輸液は維持輸液とも呼ばれ、電解質濃度が血漿よりも低い特徴を持つ輸液製剤です 。これらは1号液から4号液まで番号で分類されており、それぞれ異なる治療目的に使用されています 。
参考)水・電解質輸液

 

1号液(開始液)は、ナトリウム濃度70mEq/Lとカリウム0mEq/Lで、細胞外液の1/2の電解質濃度を持ちます 。主要な商品名にはソリタ‐T1号輸液(エイワイファーマー)、ソルデム1輸液(テルモ)があり、病態不明時の補液開始時に使用されます 。カリウムを含まないため、腎不全患者や腎機能不明の緊急時でも安全に使用できる特徴があります 。
参考)https://www.matsuyama.jrc.or.jp/wp-content/uploads/pdfs/mr1_04.pdf

 

2号液(脱水補給液)には、ソリタ‐T2号輸液(エイワイファーマー)、ソルデム2輸液(テルモ)があり、主に低張性脱水の際に3号液の代わりに使用されることがあります 。
参考)https://www.medica.co.jp/topcontents/pdf/sanuchan/vol09.pdf

 

3号液(維持液)は、電解質濃度が生理食塩液の1/3~1/4と低く設定されており、ソリタ‐T3号輸液(エイワイファーマー)、ソルデム3A輸液(テルモ)、フルクトラクト注(大塚製薬工場)、フィジオ35輸液(大塚製薬工場)が代表的な商品名です 。これらは成人が絶飲食状態の際に、500mlを1日4本投与することで最低限の水分とミネラルを補給できるよう設計されています 。
参考)第10回 一歩進んだ輸液の考え方 - 総合内科流 一歩上を行…

 

4号液(術後回復液)には、ソリタ‐T4号輸液(エイワイファーマー)、ソルデム6輸液(テルモ)があり、手術後の回復期に使用されます 。これらの低張電解質輸液は、東大小児科方式として開発された歴史的背景を持ち、重篤な脱水症状の治療に体系的に使用されています 。

輸液の栄養輸液製剤と高カロリー輸液の商品名

栄養輸液製剤は、静脈からエネルギーやアミノ酸などの栄養素を補給する目的で使用される輸液製剤です 。これらは末梢静脈栄養療法(PPN)と中心静脈栄養療法(TPN)に分類され、それぞれ異なる商品名で提供されています 。
アミノ酸製剤の代表的な商品名には、アミノレバン点滴静注(大塚製薬工場)、キドミン輸液(大塚製薬工場)、ネオアミユー輸液(エイワイファーマー)、プロテアミン12注射液(テルモ)があります 。これらは特定の病態に応じた特殊組成のアミノ酸製剤も含まれており、肝不全患者向けのアミノレバン点滴静注などが臨床で重要な役割を果たしています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/819dbb8765fa4a34b3f967d14c115ba141515b31

 

高カロリー輸液(PPN)の商品名には、ビーフリード輸液(大塚製薬工場)、エネフリード(大塚製薬工場)があり、末梢静脈から比較的高濃度の栄養を投与する際に使用されます 。一方、中心静脈栄養(TPN)用の高カロリー輸液には、ハイカリック液(テルモ)、フルカリック(テルモ)、ピーエヌツイン(エイワイファーマー)が代表的な商品名として挙げられます 。
高カロリー輸液は約500mlで1000kcal程度の高い栄養価を持ち、ブドウ糖、アミノ酸、脂質、電解質、微量元素、ビタミンなどを含有しています 。フルカリック1号輸液では、1354.5mL中に総熱量840kcal、総遊離アミノ酸30g、ブドウ糖180gが含まれており、消化管の術後などで経口摂取が不可能な患者に24時間かけて持続的に投与されます 。
参考)看護師国試対策

 

脂肪乳剤としては、イントラリポス輸液(大塚製薬工場)が使用され、これらの栄養輸液製剤は栄養状態の悪い患者や長期間の絶飲食が必要な患者の栄養管理に不可欠な治療薬となっています 。
参考)中心静脈栄養(TPN)

 

輸液の浸透圧と血漿増量剤の特殊な商品名

輸液製剤の中でも特殊な用途に使用される製剤として、浸透圧利尿剤と血漿増量剤があります 。これらは水・電解質や栄養補給とは異なる治療目的で使用される重要な輸液製剤です 。
浸透圧利尿剤の代表的な商品名には、マンニットールS注射液(陽進堂)、グリセオール(太陽ファルマ)があります 。これらの製剤は尿細管内の浸透圧を上昇させることで利尿作用をもたらし、脳浮腫の軽減や眼圧下降などの目的で使用されます 。特に脳神経外科手術においては、D-マンニトールの投与タイミングが重要な治療戦略となっており、手術中の脳圧管理に不可欠な役割を果たしています 。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/949245845e2e1fc35eff64406e3397fc852a784b

 

血漿増量剤には、サヴィオゾール輸液(大塚製薬工場)、ボルベン輸液6%(大塚製薬工場)があり、ショック時などに循環血漿量を増加させる目的で使用されます 。これらの製剤は膠質液とも呼ばれ、手術室において主要な役割を担っています 。
興味深いことに、これらの特殊な輸液製剤は一般的な水・電解質輸液と比較して使用頻度は低いものの、特定の病態において生命に直結する重要な治療効果を発揮します。例えば、血漿増量剤は出血性ショックや重度の脱水状態において、迅速な循環動態の改善を図る際に欠かせない治療選択肢となっています。

 

また、これらの製剤は投与方法や監視項目が一般的な輸液と異なるため、医療従事者は各商品名の特性を十分に理解した上で、適切な患者選択と投与管理を行う必要があります 。特に浸透圧利尿剤については、腎機能や電解質バランスへの影響を慎重に監視しながら使用することが求められています。

輸液選択における商品名と組成の重要性

輸液製剤の選択において、商品名だけでなく各製剤の組成を理解することは、安全で効果的な治療を行う上で極めて重要です 。同じ分類の輸液製剤であっても、製造会社や商品名により微細な組成の違いが存在し、これらの違いが臨床効果に影響を与える可能性があります 。
参考)【輸液製剤の一覧】電解質組成を一目で確認いただけます!

 

例えば、3号液(維持液)においても、ソルデム3AG輸液(テルモ)では500mL中にナトリウム17.5mEq、カリウム10mEqが含まれているのに対し、他の商品では若干異なる組成となっています 。こうした組成の違いは、特に長期間の輸液投与や電解質異常のリスクが高い患者において、治療効果や副作用に影響を与える可能性があります 。
参考)医療用医薬品 : ソルデム (商品詳細情報)

 

また、高カロリー輸液においては、商品名による組成の違いがより顕著に現れます。フルカリック1号輸液では、大室液、中室液、小室液の3液からなる複雑な組成となっており、使用時には3液を混合して1液として使用する必要があります 。このような製剤では、混合操作の煩雑さや細菌汚染のリスクを軽減するため、近年では予め混合された製剤も開発されています 。
参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?mode=1amp;yjcode=3259523G1033

 

輸液製剤の商品名選択においては、患者の病態、腎機能、電解質バランス、栄養状態などを総合的に評価し、最適な組成の製剤を選択することが求められます 。特に維持輸液の継続は低ナトリウム血症のリスクを伴うため、定期的な電解質モニタリングと適切なタイミングでの輸液離脱が重要となります 。
医療従事者は各商品名の特徴を熟知し、患者個々の状態に応じた最適な輸液選択を行うことで、安全で効果的な輸液療法を提供することができます 。