菌血症と敗血症の違い|定義と診断

菌血症と敗血症は似た用語ですが、医学的には異なる概念です。菌血症は血液中に細菌が存在する状態を、敗血症は感染により臓器障害を伴う病態を指します。それぞれの定義、診断基準、治療法の違いを理解していますか?

菌血症と敗血症の違い

記事のポイント
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菌血症の定義

血液培養で細菌が検出される状態。必ずしも臓器障害を伴わない

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敗血症の定義

感染症により全身性炎症反応が起こり臓器障害をきたした病態

📊
診断の相違

菌血症は血液培養陽性が必須。敗血症は臓器障害の評価が重要

菌血症と敗血症は、医療現場でしばしば混同されやすい概念ですが、医学的には明確に区別されます。菌血症は血液中に細菌が存在している状態そのものを指し、血液培養による細菌の検出によって証明されます。一方、敗血症は感染症に対する宿主の制御不全な反応により、生命を脅かす臓器障害が引き起こされた病態を意味します。
参考)敗血症と菌血症の違いを教えてください。 |敗血症

両者の最も重要な違いは、菌血症が「状態」であるのに対し、敗血症は「疾患概念」である点です。菌血症だけでは必ずしも敗血症にはならず、逆に敗血症であっても血液培養が陰性となるケースも存在します。実際、敗血症における血液培養の陽性率は20〜40%程度であり、敗血症性ショックでも40〜70%にとどまります。
参考)敗血症って何?|敗血症の基礎知識

菌血症の定義と診断基準

 

菌血症とは、血流中に細菌が存在する状態のことで、血液培養検査によって診断されます。外傷や臓器の細菌巣から細菌が流出し、本来無菌であるべき血液中に侵入した状態を指します。診断基準としては血液培養陽性が100%必須となります。
参考)菌血症、敗血症、敗血症性ショックの違い|医学的見地から

菌血症は、特定の組織感染を契機として、あるいは泌尿生殖器や静脈内へのカテーテル留置時に自然発生する可能性があります。歯科処置、消化管処置、尿路処置、創傷処置などの医学的処置後にも発生しえます。激しい歯磨きのような日常的な行為でさえ、歯ぐきに存在する細菌が血流に入り菌血症を引き起こすことがあります。
参考)菌血症 - 13. 感染性疾患 - MSDマニュアル プロフ…

一過性の菌血症は無症状のことが多く、血液中には種々の殺菌因子や免疫機構が存在するため、少数の細菌であれば体内から自然に除去されます。しかし、菌血症は心内膜炎などの転移性感染症を引き起こすリスクがあり、特に心臓弁膜異常のある患者では注意が必要です。
参考)菌血症

敗血症の定義と臓器障害の評価

敗血症は2016年のSepsis-3定義により、「感染症に対する制御不全な宿主反応によって引き起こされる生命を脅かす臓器障害」と再定義されました。この定義では、臓器障害の有無が診断の中心となります。
参考)qSOFA

敗血症の診断にはSOFAスコア(Sequential Organ Failure Assessment)が用いられ、感染症が疑われる患者でSOFAスコアが2点以上増加した場合に敗血症と診断されます。SOFAスコアは呼吸、凝固、肝機能、循環、中枢神経、腎機能の6つの臓器系を評価します。​
一般臨床医が敗血症をスクリーニングするツールとして、より簡便なqSOFA(quick SOFA)が提唱されています。qSOFAは以下の3項目から構成され、2項目以上を満たす場合に敗血症を疑います:​

  • 呼吸数 ≧22/分
  • 精神状態の変化(GCS<15)
  • 収縮期血圧 ≦100 mmHg

敗血症性ショックは、敗血症があり、適切な輸液治療にもかかわらず平均血圧65mmHg以上を維持するために血管収縮薬を必要とし、かつ血清乳酸値が2mmol/L以上の場合と定義されます。​

菌血症における原因菌と感染巣の特定

菌血症では検出された菌から感染巣や病態を推定することが可能であり、これが治療方針の決定に重要な役割を果たします。グラム陰性菌による菌血症は通常、泌尿生殖器、消化管、あるいは褥瘡患者の皮膚に由来します。
参考)菌血症,敗血症 (小児科診療 86巻13号)

腹腔内の感染から菌血症が生じている場合、原因微生物はグラム陰性桿菌である可能性が最も高く、特に大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌が多くみられます。Bacteroides属による菌血症は、腹部および骨盤(特に女性性器)の感染がある患者で発生します。横隔膜より上の感染から菌血症が生じている場合は、グラム陽性球菌または桿菌である可能性が最も高くなります。​
ブドウ球菌菌血症は、注射薬物使用者、静脈カテーテル留置患者、複雑性皮膚・軟部組織感染症患者でよくみられます。血管内カテーテルやデバイスからの感染が重要な感染源となります。黄色ブドウ球菌菌血症の場合、感染性心内膜炎の除外が必須であり、全患者で心エコー検査が推奨されます。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001155036.pdf

敗血症の病態生理とサイトカイン反応

敗血症の病態は、感染症に対する過剰な炎症反応によって特徴づけられます。体内でサイトカインという物質が過剰に産生され、その作用により発熱や血圧低下などの全身症状が引き起こされます。
参考)敗血症

炎症誘発性サイトカインが過剰に放出されると、広範囲に炎症と組織損傷を引き起こします。この高炎症状態が、敗血症における臓器機能不全や重篤な合併症の発症につながります。臓器障害の表現型としては、呼吸不全、凝固能異常、肝機能異常、循環不全、中枢神経異常、腎機能障害などが認められます。
参考)敗血症と免疫調節異常 - Assay Genie Japan

敗血症の初期症状としては、悪寒、発熱、心拍数の上昇などが挙げられます。病状が進行すると、意識低下、血圧低下、息苦しさなどの症状が出現します。末期症状では、血圧低下、尿量の著しい減少、意識の混濁や錯乱、呼吸困難、皮膚の冷感や湿潤などがみられます。​

菌血症と敗血症の治療アプローチの相違点

菌血症の治療において、抗菌薬の選択と治療期間は検出された菌種と感染源によって決定されます。感染源が除去可能な菌血症の場合、一般的には10〜14日間の抗菌薬投与が推奨されます。ただし、黄色ブドウ球菌菌血症では、その再発率の高さや疾患の性質から、非複雑性菌血症で最低でも2週間、複雑性菌血症では最低4週間の点滴治療が必要とされます。
参考)https://www.kansensho.or.jp/uploads/files/guidelines/guideline_JAID-JSC_2017.pdf

血液培養で大腸菌が検出された場合、抗菌薬は10〜14日間の投与を考慮しますが、経口薬への切り替えも可能です。一方、緑膿菌や腸内細菌科による菌血症では、より長期の治療(14日以上、場合によっては21〜42日)が必要となることがあります。
参考)成人の感染症の治療期間は“shorter is better…

敗血症の治療では、抗菌薬治療に加えて、臓器障害に対する全身管理が極めて重要です。適切な輸液治療、血圧管理のための血管収縮薬の使用、呼吸管理、腎機能のサポートなど、集学的な治療アプローチが求められます。敗血症性ショックでは、平均血圧65mmHg以上を維持するための血管収縮薬の投与と、血清乳酸値のモニタリングが不可欠です。​

菌血症と敗血症の予後と死亡率

菌血症と敗血症では予後が大きく異なります。一過性の菌血症は多くの場合無症状で自然に治癒しますが、敗血症は生命を脅かす重篤な病態です。
参考)菌血症、敗血症、敗血症性ショックに関する序論 - 16. 感…

敗血症の死亡率は報告によって様々ですが、一般的に10%以上とされています。敗血症性ショックに進展した場合、死亡率は40%以上にまで上昇します。2017年のデータでは、敗血症の院内死亡率は18.3%と報告されていますが、予後は病原微生物、患者の背景因子、治療介入の質により大きく異なります。
参考)敗血症(Sepsis)|症状からアプローチするインバウンド感…

予後不良因子としては、高齢、高血糖、凝固異常、発熱・低体温、白血球減少、血小板減少、併存疾患の存在が挙げられます。感染部位別では、尿路感染による敗血症が最も死亡率が低く、腸管虚血による敗血症の死亡率が高いと報告されています。
参考)敗血症の看護|原因、診断、治療、看護のポイント

敗血症の長期予後として、退院後も死亡リスクや再入院のリスク上昇との関連が示唆されており、睡眠障害関節痛、認知機能の低下、臓器障害の残存など長期的な影響を残す場合もあります。早期診断と適切な治療介入が予後改善の鍵となります。​
参考リンク(日本集中治療医学会の敗血症診療ガイドライン)。
日本版敗血症診療ガイドライン
参考リンク(厚生労働省の抗微生物薬適正使用の手引き)。
抗微生物薬適正使用の手引き第三版別冊

 

 


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