認知症の症状と治療薬における進行抑制効果

認知症の症状と最新の治療薬について医学的観点から解説します。認知機能の低下を遅らせる薬物療法や副作用、新薬の情報まで網羅していますが、あなたやご家族にとって最適な治療法は何でしょうか?

認知症の症状と治療薬

認知症治療の主なポイント
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対症療法が中心

現在の認知症治療は根本治療ではなく、症状の進行を遅らせることが主な目的となっています

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適応疾患は限定的

抗認知症薬の保険適用はアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症の2種のみ

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新薬の登場

レカネマブやドナネマブなどの新薬が登場し、治療の選択肢が広がっています

認知症の主な症状と治療の必要性

認知症は加齢にともなう単なる物忘れとは異なり、脳の神経細胞が損傷することで認知機能が低下する疾患です。主な症状は記憶障害から始まり、時間や場所の見当識障害、判断力の低下、言語機能の障害など多岐にわたります。

 

アルツハイマー型認知症では、特に以下の症状が見られます。

  • 新しいことを覚えられない短期記憶の障害
  • 時間や場所がわからなくなる見当識障害
  • 言葉が出てこない、会話の流れを追えない
  • 計画を立てたり判断したりする実行機能の低下
  • 物事への関心の低下や意欲の減退

レビー小体型認知症の場合は、これらに加えて幻視や妄想、レム睡眠行動障害、パーキンソン症状なども現れることがあります。

 

認知症は進行性の疾患であるため、早期の治療介入が重要です。適切な薬物療法により、症状の進行を遅らせ、患者さんのQOL(生活の質)を維持することができます。

 

認知症の治療に使われる既存薬の種類と作用機序

認知症治療薬は大きく分けて「認知機能改善薬」と「周辺症状を抑える薬」の2種類があります。

 

認知機能改善薬(抗認知症薬)

  1. アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
    • 脳内のアセチルコリンの分解を抑え、相対的な量を増やす
    • ドネペジル(アリセプト)、ガランタミン(レミニール)、リバスチグミン(イクセロンパッチ)
    • 主にアルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症に使用
  2. NMDA受容体拮抗薬
    • 過剰なグルタミン酸の作用を弱め、神経細胞の損傷を防ぐ
    • メマンチン(メマリー)
    • 中等度から高度のアルツハイマー型認知症に用いられる

周辺症状を抑える薬

  • 抗精神病薬:妄想や幻覚、興奮などの症状に使用
  • 抗うつ薬:うつ症状やアパシー(無関心)に使用
  • 抗不安薬・睡眠薬:不安や睡眠障害に使用
  • 漢方薬:抑肝散など、興奮や不安の軽減に使用されることがある

これらの薬剤は認知症の根本的な治療というよりは、症状の進行を遅らせる対症療法という位置づけです。また、現在のところ保険適用が認められているのは、アルツハイマー型認知症とレビー小体型認知症のみであり、脳血管性認知症や前頭側頭型認知症には適応がありません。

 

認知症治療薬の詳細と選び方について

認知症の新薬レカネマブとドナネマブの効果と投与方法

近年、日本でも認知症治療に革新をもたらす新薬が登場しています。特に注目されているのが、エーザイが開発した「レカネマブ」と、2024年に保険適用が決まった「ドナネマブ」です。

 

レカネマブの特徴
レカネマブは2023年12月から保険適用となった新しいアルツハイマー病治療薬です。アルツハイマー病の原因物質とされるアミロイドβに対する抗体薬で、脳内に蓄積したアミロイドβを除去する作用があります。

 

治療方法:

  • 2週間に1回、点滴により1時間かけて静脈注射
  • 18ヶ月間の継続投与が基本
  • 5回目、7回目、14回目の投与前にMRI検査を実施

期待される効果:

  • 認知機能低下の進行を約27%抑制することが臨床試験で示されている
  • 特に軽度認知障害(MCI)や軽度アルツハイマー型認知症の早期段階での効果が期待できる

ドナネマブの特徴
ドナネマブもレカネマブと同様にアミロイドβを標的とした抗体薬です。2024年に保険適用が決まり、年間薬価は約308万円と設定されています。

 

両薬剤に共通する注意点:

  1. 副作用として、ARIA-E(脳浮腫)やARIA-H(脳出血)のリスクがある
  2. 投与開始時に感冒様症状(発熱、寒気など)が出現することがある
  3. 対象は早期のアルツハイマー病患者に限定される
  4. 高額な治療費がかかる(年間約300万円前後)

これらの新薬の登場により、これまで対症療法が中心だった認知症治療に、病気の進行を抑制する選択肢が加わりました。ただし、副作用のリスクや高額な治療費の問題もあり、患者さんの状態や経済状況に応じた慎重な判断が必要です。

 

新薬レカネマブの効果と副作用に関する詳細情報

認知症治療における抗てんかん薬の意外な役割

認知症治療において、意外かもしれませんが抗てんかん薬が一定の役割を果たしています。この関係性については、2025年2月にNHKの「ためしてガッテン」でも「もの忘れに効く薬があった」と取り上げられ話題になりました。

 

抗てんかん薬と認知症の関係には主に2つの側面があります。
1. てんかん性の記憶障害と認知症の鑑別
てんかん発作の一種として、突然の見当識障害や記憶障害が起こることがあります。これは認知症と間違われることもありますが、実際はてんかん発作の症状です。この場合、抗てんかん薬による治療が効果的で、「もの忘れが改善した」と感じられることがあります。

 

しかし、これは認知症そのものが改善したわけではなく、てんかん性の症状が治療されたということに注意が必要です。

 

2. 認知症患者におけるてんかん発作の合併と行動・心理症状への効果
アルツハイマー型認知症の進行した患者さんの約20%に、てんかん発作が合併することが知られています。このような場合、抗てんかん薬が処方されます。

 

また、バルプロン酸やカルバマゼピンといった抗てんかん薬には気分調節作用もあり、認知症に伴う以下のような症状に効果を示すことがあります。

  • 激しい興奮状態
  • イライラや気分の不安定さ
  • 異常行動

特にバルプロン酸は、高齢者でも副作用が比較的少なく、認知症患者の行動・心理症状(BPSD)の治療に有効な場合があります。これは抗精神病薬よりも副作用リスクが低い点がメリットとされています。

 

ただし、すべての認知症患者に効果があるわけではなく、効果発現までに3〜4日かかる点は留意すべきです。

 

抗てんかん薬と認知症の関係についての専門医の見解

認知症の治療薬における副作用と費用の問題点

認知症治療薬を選択する際には、その効果だけでなく、副作用や費用についても十分に検討する必要があります。

 

主な治療薬の副作用

  1. アセチルコリンエステラーゼ阻害薬
    • 消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢、食欲不振)
    • 徐脈や不整脈などの心臓関連の副作用
    • 睡眠障害(悪夢、不眠)
  2. NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)
    • めまい、頭痛、便秘
    • 興奮や攻撃性の増加(少数例)
  3. 新規抗体薬(レカネマブ、ドナネマブ)
    • ARIA-E(脳浮腫):めまい、頭痛、ふらつき、視覚障害
    • ARIA-H(脳出血)
    • 投与関連反応:発熱、寒気などの感冒様症状(特に初回投与時)

認知症を悪化させる可能性のある薬剤
以下の薬剤は、認知機能低下やせん妄を引き起こす可能性があるため、認知症患者への使用には注意が必要です。

  • 三環系抗うつ薬
  • パーキンソン病治療薬
  • オキシブチニン
  • ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬
  • ヒスタミンH1受容体拮抗薬(第一世代)
  • ヒスタミンH2受容体拮抗薬

治療費の問題
認知症治療における大きな課題の一つが治療費です。特に新薬は高額になる傾向があります。

  • レカネマブ:年間約298万円
  • ドナネマブ:年間約308万円

これらの新薬は保険適用となっていますが、それでも患者負担は大きく、経済的な理由から治療を断念せざるを得ないケースも少なくありません。

 

また、長期的な治療が必要なことから、継続的な経済的負担も考慮すべき重要な要素です。レカネマブの場合、基本的に18ヶ月の継続投与が推奨されており、その後も状態によっては治療継続が必要になります。

 

治療選択のポイント
認知症の薬物治療を選択する際には、以下の点を総合的に考慮することが重要です。

  • 認知症のタイプと進行度
  • 期待される効果と副作用のバランス
  • 患者の全身状態や合併症
  • 経済的負担の大きさ
  • 家族のサポート体制

薬物療法だけでなく、非薬物療法(認知リハビリテーション、運動療法など)との併用も効果的です。また、介護負担の軽減や生活環境の調整なども、総合的な認知症ケアの重要な要素となります。

 

認知症の包括的な治療アプローチについての詳細情報