平滑筋と横紋筋の違いを徹底解説

平滑筋と横紋筋はどのような構造と機能の差異を持ち、医療現場でどう関わるのでしょうか?

平滑筋と横紋筋の違い

平滑筋と横紋筋の主な違い
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構造上の特徴

横紋筋には規則的な横縞模様(サルコメア構造)があり、平滑筋には横紋がなく紡錘形の細胞形態を持つ

神経支配と随意性

横紋筋の骨格筋は運動神経支配で随意的に動かせるが、平滑筋は自律神経支配の不随意筋である

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分布と機能

平滑筋は血管や消化管など内臓壁に分布し、横紋筋は骨格筋と心筋として骨格運動や心臓の拍動を担う

平滑筋の構造的特徴

 

平滑筋細胞は紡錘形で、長さは通常30〜200μm、直径は約5〜10μmの範囲にあります。細胞の中央に1つの核を持ち、骨格筋や心筋と異なり横紋構造が見られないため「平滑筋」と呼ばれています。アクチンとミオシンの収縮性タンパク質は細胞内に不規則に配置されており、サルコメアのような組織化された構造を持ちません。細いフィラメントは中間フィラメントネットワークを介して密な物体によって細胞膜(サルコレンマ)に固定されています。
参考)筋肉の種類とその特徴

平滑筋は消化管(胃・腸)、血管壁、気道、子宮、膀胱などの内臓器官の壁を構成し、それぞれの臓器の運動を調節する重要な役割を果たします。血管平滑筋は血管径を調節することで各臓器への血流を制御しており、血管平滑筋の異常は虚血性疾患の原因となります。消化管では蠕動運動を通じて内容物を先へ送る機能を担っており、収縮速度は遅いものの比較的低エネルギーで長時間張力を保つことができる特性を持ちます。
参考)歴史と展望|日本平滑筋学会

横紋筋の構造的特徴とサルコメア

横紋筋は顕微鏡で観察すると規則的な横縞模様(横紋構造)が見られることが最大の特徴です。この横紋は、筋原線維内のアクチンフィラメント(細いフィラメント)とミオシンフィラメント(太いフィラメント)が規則正しく配列したサルコメア構造によって生じます。サルコメアは筋収縮の最小構造単位で、Z線と呼ばれる構造に挟まれた領域を指し、この部分が長さ方向に短縮・伸長することで筋原線維全体、ひいては筋線維全体が収縮します。
参考)HOT TOPICS :: 渡辺 賢

サルコメア内部には明るく見えるI帯(明帯)と暗く見えるA帯(暗帯)があり、I帯はアクチンフィラメントのみが存在する部分で、A帯はミオシンフィラメントが存在する部分に相当します。筋収縮時には、アクチンフィラメントとミオシンフィラメントが互いに長さを変えずに滑り合って重なり合う「滑り説」によって収縮が起こります。ミオシン頭部がATP(アデノシン三リン酸)のエネルギーを使ってアクチンフィラメントに結合・離脱を繰り返すことで、フィラメントが滑り込み筋収縮が実現されます。
参考)骨格筋の構造と機能|骨格筋の機能

横紋筋には骨格筋と心筋の2種類があり、骨格筋は骨格に付着して身体運動を担い、心筋は心臓を構成して血液循環を維持します。
参考)筋肉について知ろう!

平滑筋と横紋筋の神経支配と随意性の違い

骨格筋は運動神経による体性神経系の支配を受け、私たちの意志で動かすことができる「随意筋」です。一方、平滑筋と心筋は自律神経系に支配され、自分の意志ではコントロールできない「不随意筋」に分類されます。
参考)筋の収縮のメカニズム|骨格筋の機能

日本体育・スポーツ・健康学会による筋肉の構造解説
筋肉の随意性と神経支配の違いについて詳しく説明されており、随意筋と不随意筋の特性が表形式でまとめられています。

 

平滑筋は自律神経の支配下にあり、血管の太さの調節、消化管運動の調節(蠕動運動)、膀胱や子宮などの泌尿生殖器の機能調節、瞳孔径の調節など、多くの生体反応に重要な役割を果たしています。これらの機能は無意識のうちに自動的に調節されており、生命維持に不可欠な恒常性の維持に貢献しています。
参考)301 Moved Permanently

骨格筋は正常では神経の刺激がなければ収縮せず、筋線維間には形態的にも機能的にも連絡がありません。心筋には横紋がありますが、機能的にはシンシチウム(合胞体)であり、ペースメーカ細胞が自発的に活動電位を発生させるため、心臓外からの神経支配を遮断した後でも心臓は自律的に収縮します。​

平滑筋と横紋筋の収縮メカニズムと速度

横紋筋の収縮はサルコメア内でのアクチン・ミオシン相互作用によって高速で起こります。骨格筋は収縮力が強く、意識どおりに動かすことができる随意筋ですが、疲労しやすく長時間の動作は困難です。骨格筋の疲労は、運動を続けることでエネルギー源として蓄えられているグリコーゲンが減少し、酸素や栄養分の供給不足が起こるとともに、グリコーゲンの代謝に伴って生成する乳酸が蓄積して筋組織の収縮性が低下する現象です。
参考)骨格筋の構造と収縮メカニズム:筋線維からサルコメアまでを徹底…

平滑筋にはアクチンとミオシンの規則的な配列がないため横紋が見られませんが、収縮要素として機能します。平滑筋の収縮速度は遅いものの、比較的低エネルギーで長時間張力を保つことができるという特性があります。血管の平滑筋では、血圧調整のためトーヌス(持続的緊張)を維持する性質が重要であり、消化管では蠕動運動を通じて内容物を先へ送る機能を担います。
参考)平滑筋と心筋 – 骨格筋との比較 〜理学療法士・作業療法士の…

筋収縮にはカルシウムイオン(Ca²⁺)が必要であり、これは横紋筋と平滑筋に共通しています。横紋筋では筋小胞体からカルシウムが放出され、トロポニントロポミオシン系を介してアクチン・ミオシン結合が調節されますが、平滑筋ではカルシウム調節機構が異なり、より遅い応答を示します。​

平滑筋と横紋筋の再生能力と臨床的意義

骨格筋は過負荷や外傷による損傷を受けやすいですが、再生能力に優れた臓器です。骨格筋の再生能力を担っているのが、衛星細胞(サテライト細胞)と呼ばれる骨格筋の幹細胞です。衛星細胞は通常は静止状態にありますが、骨格筋が損傷すると活性化されて筋芽細胞となり、数回の細胞分裂によって増殖した後、筋細胞へと分化します。複数の筋細胞が互いに融合して多核の筋管となり、新しく筋線維を形成したり、元から存在する筋線維と融合することで骨格筋を再生します。
参考)骨格筋幹細胞と筋肉の再生

キーエンス顕微鏡観察ラボによる骨格筋再生の可視化事例
衛星細胞の活性化マーカーであるPax7の発現を蛍光顕微鏡で捉え、骨格筋の再生メカニズムを詳しく解説しています。

 

平滑筋細胞も分裂能力を持ち、可逆性分裂終了細胞群に分類されます。平滑筋は普段増殖しませんが、損傷や刺激によって分裂・増殖することができます。血管平滑筋の再生に関する研究では、血管損傷に伴う新生内膜形成に寄与する平滑筋細胞のサブポピュレーションが存在することが示唆されています。特に血管の内腔に近い低酸素状態にある平滑筋細胞が再生能を持つ可能性が報告されています。
参考)https://www.smrf.or.jp/report/2017/k2017w_2016_007.pdf

再生能力は組織によって大きく異なり、被覆上皮・結合組織・骨組織・末梢神経で強く、横紋筋・平滑筋・一般の腺細胞では弱く、心筋・神経節細胞ではほとんどありません。これらの再生能力の違いは構成細胞の分裂能力に左右され、医療現場での治療方針決定に重要な情報となります。
参考)再生能力

横紋筋融解症は骨格筋組織の分解が起きる臨床症候群で、症状および徴候として筋力低下、筋肉痛、赤褐色尿があります。骨格筋の正常な機能は電解質の適切な交換、ATPの十分な代謝、および筋細胞の正常な細胞膜機能に依存していますが、横紋筋融解症ではこれらの過程に破綻が生じる結果として骨格筋が分解されます。重症例では生命を脅かす急性腎障害や電解質平衡異常を合併する可能性があるため、迅速な検出および治療が極めて重要です。
参考)横紋筋融解症 - 03. 泌尿器疾患 - MSDマニュアル …

血管平滑筋の機能障害は冠微小循環障害(CMD)の原因となります。血管内皮機能障害、血管平滑筋機能障害、血管リモデリングなどが複合した病態で、血流制限や血管閉塞、血管攣縮(痙攣)などを引き起こします。異型狭心症(冠攣縮性狭心症)では血管平滑筋が収縮してしまい血管の内腔が狭くなったり閉鎖してしまうことで、胸部圧迫感や呼吸困難などの症状が出現します。
参考)冠微小循環障害

以下の表は平滑筋と横紋筋の主要な違いをまとめたものです。

項目 平滑筋 横紋筋(骨格筋) 横紋筋(心筋)
横紋構造 なし​ あり(顕著)​ あり​
細胞形態

紡錘形、単核
参考)ビデオ: 平滑筋の構造と組織

長い多核線維​ 短い分岐細胞​
サルコメア なし​ あり​ あり​
分布 血管、消化管、気道、膀胱​

骨格
参考)筋肉をもっと知ろう! ~筋肉の基本① 構造~ │ 生活習慣病…

心臓​
随意性 不随意​ 随意​ 不随意​
神経支配 自律神経​ 運動神経(体性神経)​ 自律神経​
収縮速度 遅い​

速い
参考)https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/05/dl/s0531-6b-b_0005.pdf

中程度​
持久力 高い(低エネルギーで長時間)​ 低い(疲労しやすい)​ 高い(自律的)​
再生能力

弱い(可逆性分裂終了細胞)
参考)http://www.cc.okayama-u.ac.jp/~hirofun/2010cb1213.pdf

中程度(衛星細胞による)​ ほぼなし​

平滑筋と横紋筋の病態における独自視点

💡 医療従事者として押さえておきたい臨床的ポイント

  • 横紋筋疾患の診断マーカー:横紋筋融解症の診断では、クレアチンキナーゼ(CK)が正常上限の5倍を超える高値を示すことが典型的です。骨格筋組織が破壊されることでCK、ミオグロビン、様々な電解質など筋細胞の細胞内成分が血漿中に放出され、ミオグロビン尿と電解質異常により急性腎障害など末端臓器の合併症が引き起こされます。​
  • 平滑筋疾患の多様性:平滑筋は全身の様々な臓器に分布するため、血管攣縮による異型狭心症、消化管運動障害気管支喘息における気道平滑筋の過収縮など、多岐にわたる病態に関与します。血管平滑筋の異常は虚血性疾患の原因となり、心臓に限らず脳虚血、内臓虚血、四肢虚血を引き起こします。

    参考)異型狭心症(冠攣縮性狭心症)

  • 筋肉の分化多様性と治療標的:平滑筋は多様に分化しており、他の細胞・組織と相互作用し、多種類の生体内物質と相互作用するという特性を持ちます。この特性により、様々な薬物療法の標的となり得ます。例えば、血管平滑筋を標的とする降圧薬(カルシウム拮抗薬など)や、気道平滑筋を標的とする気管支拡張薬などが臨床で広く使用されています。​
  • 筋損傷と再生の時間経過:骨格筋の衛星細胞は損傷後に活性化し、増殖して筋芽細胞となり、最終的に筋管を形成して再生します。この再生プロセスには数日から数週間を要し、損傷の程度や患者の年齢、栄養状態によって再生速度が異なります。加齢や疾患によって筋芽細胞の分化能力が衰えることが知られており、高齢患者や慢性疾患患者では筋萎縮のリスクが高まります。

    参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomechanisms/26/0/26_1/_pdf/-char/en

  • 心筋の特殊性:心筋は横紋筋でありながら不随意筋であり、再生能力がほとんどないという特殊な性質を持ちます。心筋梗塞後の心筋は再生されず瘢痕組織に置き換わるため、心機能の低下が持続します。このため、心筋保護と早期血行再建が治療の要となります。​

平滑筋と横紋筋の違いを理解することは、筋肉関連疾患の診断、治療、予後予測において極めて重要です。それぞれの筋肉の構造的・機能的特性を踏まえた医療アプローチが求められます。

 

 


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