胆石症は、胆道(胆のう、胆管など)に結石ができる病気の総称です。結石の発生場所によって胆のう結石、胆管結石、肝内結石と分類されます。日本胆道学会の全国調査によると、胆のう結石が約78%と最も多く、次いで胆管結石が21%、肝内結石が1%となっています。
胆石が形成される主な原因は、胆汁中のコレステロールやビリルビンなどの成分のバランスが崩れることにあります。とりわけコレステロール胆石は、胆汁中のコレステロールが過飽和状態になり結晶化することで発生します。その他、胆のうの収縮能の低下や胆汁のうっ滞、細菌感染なども胆石形成の要因となります。
胆石症の発症リスクを高める要因としては以下が挙げられます。
胆道は、肝臓で作られる胆汁が貯留され、十二指腸へ排出されるまでの通路です。胆のうはこの経路の途中にある袋状の臓器で、胆汁を一時的に貯める貯水池のような機能を持っています。胆汁は食事の消化(特に脂肪の消化)に重要な役割を果たしていますが、その成分に変化が生じると結石として固まることがあるのです。
胆石症では、特徴的な症状として「胆石発作」または「胆道疝痛」と呼ばれる激しい腹痛が挙げられます。この痛みは主に右上腹部(右季肋部)に出現し、以下のような特徴があります。
日本胆道学会の調査によると、胆のう結石患者の症状は、腹痛・背部痛が57.1%、発熱が9.5%、悪心・嘔吐が7.5%、黄疸が3.3%となっています。また、注目すべき点として、約34.9%の患者は無症状であることが報告されています。
胆石症による症状は、結石の位置や大きさによって異なります。
結石の種類 | 主な症状 |
---|---|
胆のう結石 | 右上腹部痛、背部痛、食後の不快感 |
胆管結石 | 腹痛、黄疸、発熱(胆管炎) |
肝内結石 | 多くは無症状、稀に腹痛や発熱 |
胆石が胆管に詰まると、胆汁の流れが阻害され、感染を引き起こすことがあります。この状態は胆管炎と呼ばれ、「シャルコートライアド(Charcot三徴)」として知られる3つの主要症状(腹痛、悪寒を伴う発熱、黄疸)が現れます。さらに重症化すると、意識障害やショック症状を伴う「レイノルド五徴」に進行することもあり、緊急の医療処置が必要となります。
胆石症の自己チェックポイント。
これらの症状のいずれかが該当する場合、胆石症の可能性を考慮し、早めに医療機関を受診することが重要です。
胆石症の診断は、主に画像検査と血液検査を組み合わせて行われます。それぞれの検査方法の特徴と目的について詳しく見ていきましょう。
1. 超音波検査(エコー検査)
最も一般的で最初に選択される検査方法です。非侵襲的で被曝がなく、胆のう内の結石を高い精度で検出できます。胆のうの状態(壁肥厚の有無など)も同時に評価でき、胆のう炎の診断にも役立ちます。検診などのスクリーニング検査としても用いられ、偶然に胆石が発見されることも少なくありません。
2. CT検査(コンピュータ断層撮影)
超音波検査よりも広範囲を詳細に観察できる利点があります。特に石灰化した胆石の検出に優れており、胆のう・胆管および周囲臓器との位置関係を把握しやすいという特徴があります。手術を検討する際の術前評価にも重要な役割を果たします。
3. MRI検査とMRCP(MR胆管膵管撮影)
MRIの特殊撮影法であるMRCPは、胆管結石の評価に非常に有用です。造影剤を使用せずに胆管の状態を詳細に観察でき、特に超音波検査で判断が難しい胆管結石の診断に優れています。
4. 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
内視鏡を十二指腸まで挿入し、胆管に直接造影剤を注入して詳細な画像を得る検査法です。診断だけでなく、同時に治療(胆管結石の除去など)も行えるという大きな利点があります。ただし、膵炎などの合併症のリスクがあるため、必要な症例に限って実施されます。
5. 血液検査
胆道系酵素(ALP、γ-GTPなど)、肝機能検査(AST、ALT、ビリルビンなど)、炎症マーカー(白血球数、CRPなど)を測定します。胆管閉塞や胆のう炎・胆管炎の有無を評価するのに役立ちます。
診断プロセスは通常、以下の流れで進みます。
胆石症の早期診断のために、症状が現れたらすぐに検査を受けることが重要です。特に胆石を指摘されている方が上腹部痛を感じた場合は、早めの受診が推奨されます。
胆石症の治療は、結石の種類、大きさ、位置、症状の有無などによって異なります。治療アプローチは大きく内科的治療と外科的治療に分けられます。
1. 内科的治療(非外科的治療)
2. 外科的治療
治療選択の基準。
結石の種類 | 推奨される治療法 |
---|---|
無症状の胆のう結石 | 基本的に経過観察 |
有症状の胆のう結石 | 腹腔鏡下胆のう摘出術 |
胆管結石 | 内視鏡的乳頭切開術と結石除去 |
肝内結石 | 内視鏡的または外科的治療(症例による) |
胆石症の治療においては、患者さんの全身状態、年齢、合併症の有無なども考慮して最適な治療法が選択されます。近年の傾向として、腹腔鏡手術の技術向上により、より低侵襲な手術(単孔式腹腔鏡手術やreduced port surgeryなど)も普及してきています。
腹腔鏡下胆のう摘出術の入院期間は2〜4日程度、費用は3割負担で約13万円から18万円(部屋代別)と比較的短期間・低コストで治療が可能です。また高額療養費制度の適用も可能です。
胆のう摘出後の生活に不安を感じる方は多いですが、実は胆のうを失っても日常生活に大きな支障をきたすことはほとんどありません。ここでは、胆石症の予防法と胆のう摘出後の生活における注意点について解説します。
胆石症の予防法
胆石の形成を完全に防ぐ方法はありませんが、以下の生活習慣の改善によってリスクを低減できる可能性があります。
胆のう摘出後の生活
胆のうの主な役割は胆汁を一時的に貯留し、食事時に放出することです。胆のうを摘出しても、以下の理由から日常生活に大きな影響はありません。
胆のう摘出後の注意点
手術後の回復期(1〜3ヶ月程度)は、以下の点に注意することが推奨されます。
胆のう摘出後症候群について
胆のう摘出後、一部の患者さんに「胆のう摘出後症候群」と呼ばれる症状が現れることがあります。主な症状には以下のようなものがあります。
これらの症状は多くの場合、時間の経過とともに改善します。症状が長期間続く場合は、担当医に相談することが重要です。
胆のう摘出手術は、胆石症の根本的な治療法として高い効果を示します。技術の進歩により、腹腔鏡下手術は安全性が高く、入院期間も短縮されています。術後の生活に大きな制限はなく、多くの患者さんは胆石による痛みから解放され、QOL(生活の質)の向上を実感しています。
胆石症は日本人の10〜15%が持つとされる比較的ありふれた疾患ですが、適切な診断と治療により、その負担を軽減することができます。症状がある場合は早めの医療機関への相談をお勧めします。
日本消化器病学会による胆石症診療ガイドラインはこちら。
胆石症診療ガイドライン
この記事で解説した内容はあくまでも一般的な情報です。実際の診断や治療については、必ず医療機関を受診し、専門医の判断を仰いでください。