胆石症 症状と治療方法の全て:腹痛から腹腔鏡手術対応まで

胆石症とは、胆のうや胆管に結石ができる病気です。本記事では、胆石症の症状、診断方法、内科的・外科的治療法について詳しく解説します。あなたや大切な人が胆石の痛みに悩んでいませんか?

胆石症 症状と治療方法

胆石症の基礎知識
🔍
発症率

日本の総人口の10〜15%が胆石を持つとされています

💡
主な症状

右上腹部痛、背部痛、発熱、吐き気など(約35%は無症状)

🏥
治療法

内科的治療(薬物療法)と外科的治療(胆のう摘出術)があります

胆石症とは:原因と分類について

胆石症は、胆道(胆のう、胆管など)に結石ができる病気の総称です。結石の発生場所によって胆のう結石、胆管結石、肝内結石と分類されます。日本胆道学会の全国調査によると、胆のう結石が約78%と最も多く、次いで胆管結石が21%、肝内結石が1%となっています。

 

胆石が形成される主な原因は、胆汁中のコレステロールやビリルビンなどの成分のバランスが崩れることにあります。とりわけコレステロール胆石は、胆汁中のコレステロールが過飽和状態になり結晶化することで発生します。その他、胆のうの収縮能の低下や胆汁のうっ滞、細菌感染なども胆石形成の要因となります。

 

胆石症の発症リスクを高める要因としては以下が挙げられます。

  • 加齢
  • 肥満
  • 女性(特に妊娠経験者)
  • 急激なダイエット
  • 脂質の多い食生活
  • 遺伝的要因
  • 特定の疾患(肝硬変、溶血性貧血など)

胆道は、肝臓で作られる胆汁が貯留され、十二指腸へ排出されるまでの通路です。胆のうはこの経路の途中にある袋状の臓器で、胆汁を一時的に貯める貯水池のような機能を持っています。胆汁は食事の消化(特に脂肪の消化)に重要な役割を果たしていますが、その成分に変化が生じると結石として固まることがあるのです。

 

胆石症の主な症状:腹痛から黄疸まで

胆石症では、特徴的な症状として「胆石発作」または「胆道疝痛」と呼ばれる激しい腹痛が挙げられます。この痛みは主に右上腹部(右季肋部)に出現し、以下のような特徴があります。

  • 突然始まる鋭い痛み
  • 右肩や背中に放散する痛み(放散痛)
  • 食後(特に脂肪の多い食事の後)に発症しやすい
  • 30分から数時間持続する
  • 夜間に起こりやすい

日本胆道学会の調査によると、胆のう結石患者の症状は、腹痛・背部痛が57.1%、発熱が9.5%、悪心・嘔吐が7.5%、黄疸が3.3%となっています。また、注目すべき点として、約34.9%の患者は無症状であることが報告されています。

 

胆石症による症状は、結石の位置や大きさによって異なります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結石の種類 主な症状
胆のう結石 右上腹部痛、背部痛、食後の不快感
胆管結石 腹痛、黄疸、発熱(胆管炎)
肝内結石 多くは無症状、稀に腹痛や発熱

胆石が胆管に詰まると、胆汁の流れが阻害され、感染を引き起こすことがあります。この状態は胆管炎と呼ばれ、「シャルコートライアド(Charcot三徴)」として知られる3つの主要症状(腹痛、悪寒を伴う発熱、黄疸)が現れます。さらに重症化すると、意識障害やショック症状を伴う「レイノルド五徴」に進行することもあり、緊急の医療処置が必要となります。

 

胆石症の自己チェックポイント。

  • 右肋骨の下あたりが差し込むように痛む
  • 右肋骨下のお腹が硬い、押すと痛い
  • おへそ上や右肩甲骨下に痛みがある
  • 腹痛と38度以上の発熱がある
  • 白眼や皮膚が黄色っぽくなってきた

これらの症状のいずれかが該当する場合、胆石症の可能性を考慮し、早めに医療機関を受診することが重要です。

 

胆石症の診断方法:超音波検査とCT検査

胆石症の診断は、主に画像検査と血液検査を組み合わせて行われます。それぞれの検査方法の特徴と目的について詳しく見ていきましょう。

 

1. 超音波検査(エコー検査)
最も一般的で最初に選択される検査方法です。非侵襲的で被曝がなく、胆のう内の結石を高い精度で検出できます。胆のうの状態(壁肥厚の有無など)も同時に評価でき、胆のう炎の診断にも役立ちます。検診などのスクリーニング検査としても用いられ、偶然に胆石が発見されることも少なくありません。

 

2. CT検査(コンピュータ断層撮影)
超音波検査よりも広範囲を詳細に観察できる利点があります。特に石灰化した胆石の検出に優れており、胆のう・胆管および周囲臓器との位置関係を把握しやすいという特徴があります。手術を検討する際の術前評価にも重要な役割を果たします。

 

3. MRI検査とMRCP(MR胆管膵管撮影)
MRIの特殊撮影法であるMRCPは、胆管結石の評価に非常に有用です。造影剤を使用せずに胆管の状態を詳細に観察でき、特に超音波検査で判断が難しい胆管結石の診断に優れています。

 

4. 内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)
内視鏡を十二指腸まで挿入し、胆管に直接造影剤を注入して詳細な画像を得る検査法です。診断だけでなく、同時に治療(胆管結石の除去など)も行えるという大きな利点があります。ただし、膵炎などの合併症のリスクがあるため、必要な症例に限って実施されます。

 

5. 血液検査
胆道系酵素(ALP、γ-GTPなど)、肝機能検査(AST、ALT、ビリルビンなど)、炎症マーカー(白血球数、CRPなど)を測定します。胆管閉塞や胆のう炎・胆管炎の有無を評価するのに役立ちます。

 

診断プロセスは通常、以下の流れで進みます。

  1. 問診と身体診察
  2. 血液検査による初期評価
  3. 超音波検査による胆石の確認
  4. 必要に応じてCT検査やMRI検査などの精密検査
  5. 治療方針の決定

胆石症の早期診断のために、症状が現れたらすぐに検査を受けることが重要です。特に胆石を指摘されている方が上腹部痛を感じた場合は、早めの受診が推奨されます。

 

胆石症の治療法:内科的治療と外科的治療の選択

胆石症の治療は、結石の種類、大きさ、位置、症状の有無などによって異なります。治療アプローチは大きく内科的治療と外科的治療に分けられます。

 

1. 内科的治療(非外科的治療)

  • 経過観察: 無症状の胆のう結石の場合、多くの患者は生涯症状を発症しないとされています。そのため、無症状の胆石は基本的に治療せず、経過観察が選択されることが多いです。
  • 胆石溶解療法(薬物療法): ウルソデオキシコール酸などの胆汁酸製剤を用いて、小さなコレステロール胆石(直径15mm以下)を徐々に溶解させる方法です。効果が現れるまでに時間がかかり(約1年)、完全溶解率は約18%と報告されています。また治療中止後の再発率が高い(1年で17%、3年で40%)という欠点があります。
  • 体外衝撃波結石破砕術(ESWL): 体外から衝撃波を照射して結石を細かく砕く方法です。胆のうの機能が保たれている場合に適応となります。完全消失率は約55%、再発率は1年で20%、5年で40%程度と報告されています。現在はあまり一般的ではなくなっています。

2. 外科的治療

  • 腹腔鏡下胆のう摘出術: 現在の胆のう結石症に対する標準治療です。お腹に2〜4カ所の小さな穴(0.5〜1cm)を開け、腹腔鏡と呼ばれるカメラと手術器具を挿入して胆のうを摘出します。従来の開腹手術と比較して、傷口が小さく、痛みが少なく、回復が早いという利点があります。通常2〜4日程度の入院で退院可能です。
  • 開腹胆のう摘出術: 腹腔鏡下手術が困難な場合(高度の炎症、癒着がある場合など)に選択されます。お腹に10〜15cmの切開を加えて行う従来の手術法です。
  • 内視鏡的乳頭切開術(EST)と結石除去: 胆管結石に対しては、ERCPを用いて十二指腸乳頭を切開し、バスケットカテーテルやバルーンカテーテルを使って結石を除去する方法が選択されます。

治療選択の基準。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結石の種類 推奨される治療法
無症状の胆のう結石 基本的に経過観察
有症状の胆のう結石 腹腔鏡下胆のう摘出術
胆管結石 内視鏡的乳頭切開術と結石除去
肝内結石 内視鏡的または外科的治療(症例による)

胆石症の治療においては、患者さんの全身状態、年齢、合併症の有無なども考慮して最適な治療法が選択されます。近年の傾向として、腹腔鏡手術の技術向上により、より低侵襲な手術(単孔式腹腔鏡手術やreduced port surgeryなど)も普及してきています。

 

腹腔鏡下胆のう摘出術の入院期間は2〜4日程度、費用は3割負担で約13万円から18万円(部屋代別)と比較的短期間・低コストで治療が可能です。また高額療養費制度の適用も可能です。

 

胆石症の予防と術後の生活:胆のう摘出後の注意点

胆のう摘出後の生活に不安を感じる方は多いですが、実は胆のうを失っても日常生活に大きな支障をきたすことはほとんどありません。ここでは、胆石症の予防法と胆のう摘出後の生活における注意点について解説します。

 

胆石症の予防法
胆石の形成を完全に防ぐ方法はありませんが、以下の生活習慣の改善によってリスクを低減できる可能性があります。

  • バランスのとれた食生活: 脂質の摂りすぎを避け、食物繊維を多く含む食品を取り入れましょう。
  • 適正体重の維持: 肥満は胆石症のリスク因子となるため、適切な体重管理が重要です。
  • 急激なダイエットを避ける: 短期間での極端な減量は胆石形成のリスクを高めます。
  • 適度な運動: 定期的な運動習慣は胆石症リスクの低減に寄与します。
  • 規則正しい食事: 食事を抜くことなく、決まった時間に適量を摂取することが大切です。

胆のう摘出後の生活
胆のうの主な役割は胆汁を一時的に貯留し、食事時に放出することです。胆のうを摘出しても、以下の理由から日常生活に大きな影響はありません。

  1. 胆汁の生成は継続する: 胆のうがなくても、肝臓での胆汁生成は継続され、胆管を通じて直接十二指腸に流れます。
  2. 代償機能の発達: 胆管が徐々に拡張し、一部貯留機能を代償します。
  3. 消化機能への影響は限定的: 大多数の患者さんは手術後数週間で消化機能が適応します。

胆のう摘出後の注意点
手術後の回復期(1〜3ヶ月程度)は、以下の点に注意することが推奨されます。

  • 食事の工夫: 術後しばらくは脂肪の多い食事や刺激物を控えめにし、少量ずつ頻回に食事をとることで消化器症状を軽減できます。
  • 消化を助ける酵素剤: 医師の処方による消化酵素剤を服用することで、脂肪の消化吸収をサポートできます。
  • 徐々に通常の食生活に戻す: 身体の状態を見ながら、段階的に通常の食生活に戻していきましょう。
  • 定期的なフォローアップ: 手術後の経過観察は重要です。担当医の指示に従って定期検診を受けましょう。

胆のう摘出後症候群について
胆のう摘出後、一部の患者さんに「胆のう摘出後症候群」と呼ばれる症状が現れることがあります。主な症状には以下のようなものがあります。

  • 食後の腹痛
  • 消化不良
  • 下痢
  • 胃もたれ感

これらの症状は多くの場合、時間の経過とともに改善します。症状が長期間続く場合は、担当医に相談することが重要です。

 

胆のう摘出手術は、胆石症の根本的な治療法として高い効果を示します。技術の進歩により、腹腔鏡下手術は安全性が高く、入院期間も短縮されています。術後の生活に大きな制限はなく、多くの患者さんは胆石による痛みから解放され、QOL(生活の質)の向上を実感しています。

 

胆石症は日本人の10〜15%が持つとされる比較的ありふれた疾患ですが、適切な診断と治療により、その負担を軽減することができます。症状がある場合は早めの医療機関への相談をお勧めします。

 

日本消化器病学会による胆石症診療ガイドラインはこちら。
胆石症診療ガイドライン
この記事で解説した内容はあくまでも一般的な情報です。実際の診断や治療については、必ず医療機関を受診し、専門医の判断を仰いでください。