溶血性貧血は、体内で赤血球が通常よりも早く破壊される(溶血)ことによって引き起こされる貧血の一種です。健康な人の体内では、赤血球は約120日間循環していますが、溶血性貧血に罹患すると、この寿命が著しく短縮されます。
赤血球が破壊されるメカニズムには主に2つの経路があります。
溶血が起こると、赤血球内のヘモグロビンが血漿中に放出され、ハプトグロビンと結合します。ハプトグロビンの処理能力を超えた場合、遊離ヘモグロビンが尿中に排泄されることで特徴的な暗色尿(コーラ様の色調)が現れます。
また、破壊された赤血球から放出されるビリルビンが蓄積することで黄疸が生じ、皮膚や眼球が黄色く変色します。長期的には、このビリルビンが胆嚢に蓄積し、胆石形成のリスクが高まることもあります。
赤血球の寿命が15〜20日より短くなると、骨髄の造血能力では補いきれず、貧血症状が出現します。これが溶血性貧血の基本的な発症メカニズムです。
溶血性貧血は特徴的な症状を呈し、一般的な貧血症状に加えて溶血特有の症状が現れます。
一般的な貧血症状
溶血特有の症状
特に重症の場合には、溶血クリーゼと呼ばれる急性かつ重度の溶血状態に陥ることがあります。溶血クリーゼでは以下のような症状が急激に現れることがあります。
また、溶血が慢性化すると、ビリルビンが胆嚢に蓄積することによる胆石形成のリスクが高まります。さらに、特定の感染症(特にパルボウイルスB19感染症)が溶血性貧血患者に発症すると、急速に貧血が進行することがあり注意が必要です。
溶血性貧血は大きく先天性と後天性に分類され、それぞれ原因が異なります。
先天性溶血性貧血
先天性溶血性貧血は、遺伝子の異常により赤血球自体に問題があるケースです。主な病態には以下のようなものがあります。
後天性溶血性貧血
後天性溶血性貧血は、外的要因によって正常な赤血球が破壊されるケースで、発作性夜間血色素尿症などの一部を除いて、赤血球に対する抗体や、血管壁の異常などの赤血球以外の異常によって起こります。主な原因として。
自己免疫性溶血性貧血では、全身性エリテマトーデスのような膠原病や悪性リンパ腫を合併していることもあり、原疾患の検索も重要です。
溶血性貧血の診断には、溶血の存在を確認し、その原因を特定するための一連の検査が必要です。
溶血を示す基本的検査所見
原因鑑別のための追加検査
溶血性貧血の診断プロセスでは、まず溶血の存在を確認し、次に溶血の機序(血管内か血管外か)を特定し、最後に原因疾患を診断するという段階的なアプローチが効果的です。特に自己免疫性溶血性貧血では、基礎疾患(膠原病、リンパ腫など)の有無を確認することも重要です。
溶血性貧血の治療は、原因疾患によって大きく異なります。基本的なアプローチとして、原因除去と対症療法の両面から治療を進めます。
原因別治療アプローチ
対症療法
合併症予防
溶血性貧血の長期管理において、以下の合併症予防も重要です。
ある研究では、自己免疫性溶血性貧血患者の約70%がステロイド治療に反応しますが、30〜40%は再発するとされています。また、治療効果の早期予測因子として、治療開始2週間後のハプトグロビン値とLDH値のモニタリングが有用であることが示唆されています。
溶血性貧血の最新治療アプローチに関する詳細情報
溶血性貧血の管理においては、原因疾患の正確な診断と適切な治療選択に加え、長期的な合併症予防の視点も重要です。また、患者教育も必須であり、特に遺伝性疾患の場合は遺伝カウンセリングも考慮すべきでしょう。