溶血性貧血の原因と症状から診断・治療まで

溶血性貧血は赤血球が早期に破壊される疾患で、様々な原因と特徴的な症状があります。医療従事者として正確な診断と適切な治療を行うために知っておくべき知識を詳しく解説します。あなたの臨床現場でこの知識をどう活かしますか?

溶血性貧血の原因と症状

溶血性貧血の基本知識
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疾患の定義

赤血球が通常の寿命(約120日)よりも早く破壊されることで起こる貧血

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主な症状

黄疸、暗色尿、疲労感、息切れなど

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分類

先天性(遺伝性)と後天性(免疫性など)に大別

溶血性貧血とは:赤血球破壊のメカニズム

溶血性貧血は、体内で赤血球が通常よりも早く破壊される(溶血)ことによって引き起こされる貧血の一種です。健康な人の体内では、赤血球は約120日間循環していますが、溶血性貧血に罹患すると、この寿命が著しく短縮されます。

 

赤血球が破壊されるメカニズムには主に2つの経路があります。

  • 血管内溶血:血管内で赤血球が直接破壊される
  • 血管外溶血:主に脾臓や肝臓などの網内系組織で赤血球が破壊される

溶血が起こると、赤血球内のヘモグロビンが血漿中に放出され、ハプトグロビンと結合します。ハプトグロビンの処理能力を超えた場合、遊離ヘモグロビンが尿中に排泄されることで特徴的な暗色尿(コーラ様の色調)が現れます。

 

また、破壊された赤血球から放出されるビリルビンが蓄積することで黄疸が生じ、皮膚や眼球が黄色く変色します。長期的には、このビリルビンが胆嚢に蓄積し、胆石形成のリスクが高まることもあります。

 

赤血球の寿命が15〜20日より短くなると、骨髄の造血能力では補いきれず、貧血症状が出現します。これが溶血性貧血の基本的な発症メカニズムです。

 

溶血性貧血の主な症状:黄疸と暗色尿

溶血性貧血は特徴的な症状を呈し、一般的な貧血症状に加えて溶血特有の症状が現れます。

 

一般的な貧血症状

  • 動悸・息切れ
  • 持続的な疲労感・倦怠感
  • めまい・ふらつき
  • 筋力低下
  • 蒼白

溶血特有の症状

  • 黄疸:破壊された赤血球から放出されるビリルビンが蓄積し、皮膚や眼球の強膜が黄色く変色します
  • 暗色尿(コーラ色尿):遊離ヘモグロビンが尿中に排泄されることで、尿が茶褐色〜コーラ様の色調を呈します
  • 脾腫:溶血の進行に伴い、脾臓が腫大することがあります

特に重症の場合には、溶血クリーゼと呼ばれる急性かつ重度の溶血状態に陥ることがあります。溶血クリーゼでは以下のような症状が急激に現れることがあります。

  • 悪寒・発熱
  • 背部痛・腹部痛
  • 極度の疲労感
  • ショック状態

また、溶血が慢性化すると、ビリルビンが胆嚢に蓄積することによる胆石形成のリスクが高まります。さらに、特定の感染症(特にパルボウイルスB19感染症)が溶血性貧血患者に発症すると、急速に貧血が進行することがあり注意が必要です。

 

溶血性貧血の分類と原因:先天性と後天性

溶血性貧血は大きく先天性と後天性に分類され、それぞれ原因が異なります。

 

先天性溶血性貧血
先天性溶血性貧血は、遺伝子の異常により赤血球自体に問題があるケースです。主な病態には以下のようなものがあります。

  1. 赤血球膜異常
    • 遺伝性球状赤血球症:最も頻度の高い先天性溶血性貧血
    • 赤血球膜タンパク質(αおよびβスペクトリン、タンパク質4.1、Fアクチン、アンキリン)の量的・機能的異常
  2. 赤血球代謝異常
    • グルコース-6-リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症
    • ピルビン酸キナーゼ欠損症
  3. ヘモグロビン異常
    • 鎌状赤血球症
    • サラセミア

後天性溶血性貧血
後天性溶血性貧血は、外的要因によって正常な赤血球が破壊されるケースで、発作性夜間血色素尿症などの一部を除いて、赤血球に対する抗体や、血管壁の異常などの赤血球以外の異常によって起こります。主な原因として。

  1. 免疫学的機序
    • 自己免疫性溶血性貧血(AIHA):最も頻度の高い後天性溶血性貧血
    • 赤血球を壊す自己抗体が体内で産生される
  2. 薬剤性
    • キニーネ、キニジン
    • ペニシリン系薬剤
    • メチルドパ
    • チクロピジン、クロピドグレル
  3. 機械的損傷
    • 微小血管障害性溶血性貧血
    • 人工心臓弁による赤血球破壊
  4. 感染症関連
    • 毒素による直接的作用(クロストリジウム・パーフリンジェンス、溶血性レンサ球菌など)
    • 微生物による赤血球侵入・破壊(マラリア原虫、バルトネラ属細菌など)
    • 抗体産生(エプスタインバーウイルス、マイコプラズマなど)
  5. その他
    • 過度の振動・衝撃を受けるスポーツによる物理的溶血
    • 毒性物質(鉛、銅など)による赤血球膜障害

自己免疫性溶血性貧血では、全身性エリテマトーデスのような膠原病悪性リンパ腫を合併していることもあり、原疾患の検索も重要です。

 

溶血性貧血の診断方法と検査指標

溶血性貧血の診断には、溶血の存在を確認し、その原因を特定するための一連の検査が必要です。

 

溶血を示す基本的検査所見

  • 血液検査
    • ヘモグロビン・ヘマトクリット値の低下
    • 網状赤血球数の増加(骨髄での代償的な赤血球産生亢進の指標)
    • 血中ビリルビン(特に間接ビリルビン)上昇
    • 乳酸脱水素酵素(LDH)上昇
    • ハプトグロビン低下または消失(ヘモグロビンと結合して消費されるため)
  • 尿検査
    • ウロビリノーゲン増加
    • ヘモグロビン尿(血管内溶血の場合)
  • 末梢血塗抹標本
    • 赤血球形態異常(球状赤血球、断片化赤血球など)
    • 多染性赤血球の存在

    原因鑑別のための追加検査

    1. 直接クームス試験(直接抗グロブリン試験)
      • 自己免疫性溶血性貧血の診断に重要
      • 赤血球表面に結合した抗体やC3補体成分を検出
    2. 間接クームス試験
      • 血清中に存在する抗赤血球抗体を検出
    3. 赤血球酵素活性測定
      • G6PD活性など代謝異常の評価
    4. ヘモグロビン電気泳動
      • ヘモグロビン異常症の診断
    5. 骨髄検査
      • 骨髄での赤血球産生状態の評価
      • 基礎疾患(悪性腫瘍など)の検索
    6. オスモティック・フラジリティ・テスト(浸透圧抵抗試験)
      • 遺伝性球状赤血球症の診断に有用
      • 赤血球膜異常による溶血のしやすさを評価
    7. フローサイトメトリー
      • 発作性夜間ヘモグロビン尿症(PNH)の診断
      • CD55、CD59などの補体制御蛋白の欠損を評価

    溶血性貧血の診断プロセスでは、まず溶血の存在を確認し、次に溶血の機序(血管内か血管外か)を特定し、最後に原因疾患を診断するという段階的なアプローチが効果的です。特に自己免疫性溶血性貧血では、基礎疾患(膠原病、リンパ腫など)の有無を確認することも重要です。

     

    溶血性貧血の治療アプローチと合併症予防

    溶血性貧血の治療は、原因疾患によって大きく異なります。基本的なアプローチとして、原因除去と対症療法の両面から治療を進めます。

     

    原因別治療アプローチ

    1. 自己免疫性溶血性貧血(AIHA)
    2. 薬剤性溶血性貧血
      • 原因薬剤の中止が最も重要
      • 重症例では短期的なステロイド治療を検討
    3. 先天性溶血性貧血
      • 遺伝性球状赤血球症:脾臓摘出術が有効なケースがある
      • G6PD欠損症:酸化ストレスを引き起こす食品・薬剤の回避
      • ヘモグロビン異常症:対症療法が中心
    4. 機械的溶血
      • 原因となる機械的要因の修正(人工弁の調整など)
      • TTPやHUSなどの血栓性微小血管症:血漿交換療法

    対症療法

    • 輸血療法
      • 重度の貧血や急速な貧血の進行がある場合
      • 自己免疫性溶血性貧血では交差適合試験が困難なケースがあり、注意が必要
    • 葉酸補充
      • 慢性溶血では赤血球産生が亢進し、葉酸が消費されるため補充が必要
    • 鉄キレート療法
      • 輸血依存性の場合、鉄過剰症の予防

      合併症予防
      溶血性貧血の長期管理において、以下の合併症予防も重要です。

      1. 胆石症予防
        • 慢性溶血によるビリルビン代謝産物の増加で胆石リスクが上昇
        • 定期的な超音波検査による早期発見
      2. 感染予防
        • 特にパルボウイルスB19感染は急速な貧血の進行を招く可能性
        • 免疫抑制療法を受けている患者での感染予防対策
      3. 血栓症予防
        • 特定の溶血性貧血(PNHなど)では血栓リスクが上昇
        • 必要に応じた抗凝固療法の検討
      4. 腎機能障害の監視
        • 慢性的な血管内溶血は腎機能に影響を与える可能性
        • 定期的な腎機能検査

      ある研究では、自己免疫性溶血性貧血患者の約70%がステロイド治療に反応しますが、30〜40%は再発するとされています。また、治療効果の早期予測因子として、治療開始2週間後のハプトグロビン値とLDH値のモニタリングが有用であることが示唆されています。

       

      溶血性貧血の最新治療アプローチに関する詳細情報
      溶血性貧血の管理においては、原因疾患の正確な診断と適切な治療選択に加え、長期的な合併症予防の視点も重要です。また、患者教育も必須であり、特に遺伝性疾患の場合は遺伝カウンセリングも考慮すべきでしょう。