抗生物質は大きく「殺菌性」と「静菌性」の2つに分類されます。この基本的な分類を理解することは、臨床での適切な抗菌薬選択において非常に重要です。
殺菌性抗菌薬は、細菌の細胞壁合成阻害や核酸合成阻害などにより、直接細菌を死滅させる作用を持っています。代表的な殺菌性抗菌薬には以下のものがあります。
一方、静菌性抗菌薬は細菌の増殖を抑制する作用があり、最終的な除去は宿主の免疫系に依存します。主な静菌性抗菌薬は次の通りです。
臨床現場では、患者の免疫状態や感染部位、感染の重症度によって殺菌性抗菌薬と静菌性抗菌薬の選択が異なってきます。例えば、免疫不全患者や重症感染症では、速やかに菌を死滅させる殺菌性抗菌薬が好まれることが多いです。
また、抗菌薬の選択には、標的とする細菌のスペクトラム(抗菌スペクトル)も重要な要素となります。広域スペクトル抗菌薬は多くの種類の細菌に効果がありますが、耐性菌の出現リスクが高まる可能性があります。一方、狭域スペクトル抗菌薬は特定の細菌に対してより選択的に作用します。
ペニシリン系抗菌薬は、最も古くから使用されている抗生物質の一つで、細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌作用を示します。この系統には様々な薬剤が含まれており、それぞれ特性が異なります。
1. ベンジルペニシリン(ペニシリンG:PCG)
青カビから分離された天然抗生物質であり、抗菌薬の原点とも言える薬剤です。スペクトラムは狭域ですが、レンサ球菌・髄膜炎菌に対して非常に強力な活性を示します。半減期が短いため、数時間ごとの点滴または持続点滴での投与が必要です。
注目すべき点として、長年梅毒治療の第一選択薬として欧米で使用されてきた筋注用製剤が、2021年に日本でも薬事承認され、使用可能となりました。
2. アンピシリン(ABPC)
ペニシリンGから安定性の向上を目指して開発された合成ペニシリンです。その特徴は以下の通りです。
3. アモキシシリン(AMPC)
「アンピシリンの内服版」と表現されることもある抗菌薬です。アンピシリンと比較して経口吸収率が高く、内服治療の際には通常AMPCが選択されます。主な適応症には以下があります。
4. アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)
β-ラクタマーゼ阻害薬であるスルバクタムとアンピシリンの配合剤です。β-ラクタマーゼ産生菌による耐性化を防ぎ、アンピシリン単独では効果のない菌種にも効果を発揮します。
臨床では、ペニシリンアレルギーの存在に十分注意する必要があります。ペニシリンアレルギーは、軽度の発疹から重篤なアナフィラキシーショックまで様々な症状を呈することがあります。アレルギー歴のある患者には代替薬を選択することが重要です。
抗生物質の主要系統には、マクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系など様々な種類があります。それぞれの系統には特徴的な作用機序と適応疾患があり、臨床現場での適切な選択が重要です。
マクロライド系抗菌薬
マクロライド系抗菌薬は、細菌のリボソームに作用してタンパク質合成を阻害する静菌性抗菌薬です。主な薬剤と特徴は以下の通りです。
テトラサイクリン系抗菌薬
テトラサイクリン系抗菌薬もタンパク質合成を阻害する静菌性抗菌薬です。主な特徴は以下の通りです。
キノロン系(ニューキノロン系)抗菌薬
キノロン系抗菌薬は、細菌のDNAジャイレースやトポイソメラーゼIVを阻害し、細菌のDNA合成を妨げる殺菌性抗菌薬です。世代によって特性が異なります。
ホスホマイシン系抗菌薬
ホスホマイシンは、細菌の細胞壁合成の初期段階を阻害する殺菌性抗菌薬です。
各系統の抗菌薬は、それぞれ特有の副作用プロファイルと禁忌があります。例えば、キノロン系は腱障害や中枢神経系への影響、マクロライド系は肝機能障害やQT延長などに注意が必要です。適切な抗菌薬の選択には、患者の病態、感染部位、予想される原因菌、アレルギー歴などを総合的に評価することが欠かせません。
特定抗菌薬、特に抗MRSA薬は、耐性菌による重症感染症に対して用いられる重要な治療手段です。これらの薬剤は使用に際して特別な注意が必要であり、適正使用が求められます。
抗MRSA薬の主な系統と特徴