抗生物質の種類と一覧:系統別作用機序

本記事では、医療従事者向けに抗生物質の種類と系統別の詳細な一覧を紹介します。殺菌性と静菌性の違い、ペニシリン系からマクロライド系まで主要な抗菌薬の特徴と適応症について解説します。最新の抗MRSA薬や特定抗菌薬の情報もカバーしています。あなたの臨床現場での抗生物質選択に役立てられるでしょうか?

抗生物質の種類と一覧

抗生物質の種類と系統別特徴
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殺菌性抗菌薬

細菌を直接殺す作用を持ち、ペニシリン系やセフェム系などが該当します

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静菌性抗菌薬

細菌の増殖を抑制する作用を持ち、マクロライド系やテトラサイクリン系が該当します

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抗生物質選択の重要性

原因菌の推定と適切な抗菌薬選択が治療成功の鍵となります

抗生物質の基本分類:殺菌性と静菌性について

抗生物質は大きく「殺菌性」と「静菌性」の2つに分類されます。この基本的な分類を理解することは、臨床での適切な抗菌薬選択において非常に重要です。

 

殺菌性抗菌薬は、細菌の細胞壁合成阻害や核酸合成阻害などにより、直接細菌を死滅させる作用を持っています。代表的な殺菌性抗菌薬には以下のものがあります。

一方、静菌性抗菌薬は細菌の増殖を抑制する作用があり、最終的な除去は宿主の免疫系に依存します。主な静菌性抗菌薬は次の通りです。

臨床現場では、患者の免疫状態や感染部位、感染の重症度によって殺菌性抗菌薬と静菌性抗菌薬の選択が異なってきます。例えば、免疫不全患者や重症感染症では、速やかに菌を死滅させる殺菌性抗菌薬が好まれることが多いです。

 

また、抗菌薬の選択には、標的とする細菌のスペクトラム(抗菌スペクトル)も重要な要素となります。広域スペクトル抗菌薬は多くの種類の細菌に効果がありますが、耐性菌の出現リスクが高まる可能性があります。一方、狭域スペクトル抗菌薬は特定の細菌に対してより選択的に作用します。

 

ペニシリン系抗菌薬の種類と特徴

ペニシリン系抗菌薬は、最も古くから使用されている抗生物質の一つで、細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌作用を示します。この系統には様々な薬剤が含まれており、それぞれ特性が異なります。

 

1. ベンジルペニシリン(ペニシリンG:PCG)
青カビから分離された天然抗生物質であり、抗菌薬の原点とも言える薬剤です。スペクトラムは狭域ですが、レンサ球菌・髄膜炎菌に対して非常に強力な活性を示します。半減期が短いため、数時間ごとの点滴または持続点滴での投与が必要です。

 

注目すべき点として、長年梅毒治療の第一選択薬として欧米で使用されてきた筋注用製剤が、2021年に日本でも薬事承認され、使用可能となりました。

 

2. アンピシリン(ABPC)
ペニシリンGから安定性の向上を目指して開発された合成ペニシリンです。その特徴は以下の通りです。

  • 腸球菌(Enterococcus faecalis)に有効
  • リステリアへの抗菌活性を持つ
  • 感受性があれば大腸菌などの腸内細菌科細菌にも効果あり
  • インフルエンザ桿菌にも効果が期待できる

3. アモキシシリン(AMPC)
アンピシリンの内服版」と表現されることもある抗菌薬です。アンピシリンと比較して経口吸収率が高く、内服治療の際には通常AMPCが選択されます。主な適応症には以下があります。

4. アンピシリン・スルバクタム(ABPC/SBT)
β-ラクタマーゼ阻害薬であるスルバクタムとアンピシリンの配合剤です。β-ラクタマーゼ産生菌による耐性化を防ぎ、アンピシリン単独では効果のない菌種にも効果を発揮します。

 

臨床では、ペニシリンアレルギーの存在に十分注意する必要があります。ペニシリンアレルギーは、軽度の発疹から重篤なアナフィラキシーショックまで様々な症状を呈することがあります。アレルギー歴のある患者には代替薬を選択することが重要です。

 

マクロライド系からニューキノロン系まで:主要系統の解説

抗生物質の主要系統には、マクロライド系、テトラサイクリン系、キノロン系など様々な種類があります。それぞれの系統には特徴的な作用機序と適応疾患があり、臨床現場での適切な選択が重要です。

 

マクロライド系抗菌薬
マクロライド系抗菌薬は、細菌のリボソームに作用してタンパク質合成を阻害する静菌性抗菌薬です。主な薬剤と特徴は以下の通りです。

  1. エリスロマイシン(EM)
    • 多くのグラム陽性菌、一部のグラム陰性菌、非定型肺炎の原因菌に効果
    • 日本では耐性化が進行している
    • 他のマクロライド系と比較して腸管吸収率が悪く、下痢などの副作用が出やすい
  2. クラリスロマイシン(CAM)
    • インフルエンザ桿菌への活性が高い
    • ヘリコバクター・ピロリや非結核性抗酸菌への活性を持つ
    • 腸管吸収率が良好
    • 慢性気道感染症に対して抗炎症効果を期待した少量長期投与が行われることもある
  3. アジスロマイシン(AZM)
    • 腸管吸収率は低いが、一度組織内に移行すると有効濃度が長く維持される
    • 性感染症、非定型肺炎、猫ひっかき病などの治療に適している

テトラサイクリン系抗菌薬
テトラサイクリン系抗菌薬もタンパク質合成を阻害する静菌性抗菌薬です。主な特徴は以下の通りです。

キノロン系(ニューキノロン系)抗菌薬
キノロン系抗菌薬は、細菌のDNAジャイレースやトポイソメラーゼIVを阻害し、細菌のDNA合成を妨げる殺菌性抗菌薬です。世代によって特性が異なります。

  1. シプロフロキサシン(CPFX)- 第2世代
    • 緑膿菌を含むグラム陰性桿菌への抗菌活性が強い
    • グラム陽性菌や嫌気性菌への効果は限定的
    • キノロン系の中で緑膿菌に対する活性が最も高い
  2. レボフロキサシン(LVFX)- 第3世代
    • 肺炎球菌への活性が高く、「レスピラトリー・キノロン」と呼ばれる
    • 市中肺炎の典型的起因菌を幅広くカバー
    • 結核菌にも効果があるため、肺結核が除外できない肺炎では使用を避けるべき
  3. モキシフロキサシン(MFLX)- 第4世代
    • 嫌気性菌に対するカバー範囲が広い
    • 肝代謝の薬剤で尿路への移行は悪いため、尿路感染症には不適
    • 欧州では肝障害による死亡例が報告されている

ホスホマイシン系抗菌薬
ホスホマイシンは、細菌の細胞壁合成の初期段階を阻害する殺菌性抗菌薬です。

  • 主に膀胱炎、腎盂腎炎、感染性腸炎などの治療に使用
  • 代表薬:ホスミシン(ホスホマイシンカルシウム水和物)
  • 耐性菌が比較的少なく、単回投与での治療も可能な場合がある

各系統の抗菌薬は、それぞれ特有の副作用プロファイルと禁忌があります。例えば、キノロン系は腱障害や中枢神経系への影響、マクロライド系は肝機能障害やQT延長などに注意が必要です。適切な抗菌薬の選択には、患者の病態、感染部位、予想される原因菌、アレルギー歴などを総合的に評価することが欠かせません。

 

抗MRSA薬を含む特定抗菌薬の一覧と使用法

特定抗菌薬、特に抗MRSA薬は、耐性菌による重症感染症に対して用いられる重要な治療手段です。これらの薬剤は使用に際して特別な注意が必要であり、適正使用が求められます。

 

抗MRSA薬の主な系統と特徴

  1. グリコペプチド系薬
    • バンコマイシン(VCM)
    • MRSAに対する標準的治療薬
    • 静注製剤で、血中濃度モニタリング(TDM)が必要
    • 腎毒性や赤色人症候群などの副作用に注意
    • テイコプラニン(TEIC)
    • バンコマイシンと同系統だが、半減期が長く投与間隔を空けられる
    • 腎毒性がバンコマイシンより少ない傾向
  2. オキサゾリジノン系薬
    • リネゾリド(LZD)
    • 経口薬と静注薬があり、バイオアバイラビリティが高い
    • 組織移行性が良好
    • 長期使用で骨髄抑制や末梢神経障害のリスク
    • テジゾリド(TZD)
    • リネゾリドより新しい薬剤
    • 1日1回投与で済み、副作用プロファイルが改善
  3. リポペプチド系薬
    • ダプトマイシン(DAP)
    • 細胞膜に作用する独自の機序を持つ
    • 肺炎には適さないが、菌血症や右心内膜炎に有効
    • CPK上昇に注意が必要
  4. アミノグリコシド系薬
    • アルベカシン(ABK)
    • 日本で開発されたMRSAに有効なアミノグリコシド
    • 腎毒性や第8脳神経障害に注意