髄膜炎 症状と治療方法に関する緊急対応の知識

髄膜炎は脳を包む膜の炎症で、発熱・頭痛・項部硬直などの症状が特徴的です。細菌性とウイルス性で治療が異なり、早期発見・早期治療が重要です。あなたやご家族を守るために、どのような症状に注意すべきでしょうか?

髄膜炎の症状と治療方法

髄膜炎の基本
🔍
定義

脳と脊髄を覆う髄膜の炎症性疾患

🦠
原因

細菌、ウイルス、真菌、結核菌などの感染

⚠️
重要性

早期治療が予後を大きく左右する緊急疾患

髄膜炎の基本知識:脳を守る膜の炎症とは

髄膜炎は脳と脊髄を覆っている膜(髄膜)に炎症が生じる疾患です。髄膜は軟膜、クモ膜、硬膜の3層からなり、主に軟膜とクモ膜に炎症が起こります。この膜は脳を物理的な衝撃から保護し、血液と脳の間の物質交換を調節する重要な役割を担っています。

 

髄膜炎は原因によって大きく4つに分類されます。

  1. 細菌性髄膜炎:細菌感染により引き起こされ、緊急治療が必要な命に関わる状態です。主な原因菌は年齢によって異なり、成人では肺炎球菌が多く、小児ではインフルエンザ菌が多い傾向があります。
  2. ウイルス性髄膜炎:エンテロウイルスやヘルペスウイルスなどが原因で、細菌性と比較すると一般的に予後は良好です。特に夏季に子どもに多く発症します。
  3. 結核性髄膜炎:結核菌による感染で、現代の日本ではまれですが、免疫不全の方では注意が必要です。
  4. 真菌性髄膜炎:カビによる感染で、免疫力が低下している方に発症するリスクがあります。

髄膜炎は感染経路としては、多くの場合、鼻やのどについているウイルスや細菌が何らかの理由で血液中に入り込み、髄膜に到達することで発症します。また、外傷や手術後に外部から直接病原体が侵入する場合もあります。

 

髄膜炎にかかる方の約75%は子どもですが、大人でもかかることがあります。健康な方でも発症する可能性がありますが、特に免疫力が低下している方や高齢者、乳幼児はリスクが高くなります。

 

髄膜炎の主な症状:三徴候と意識障害の特徴

髄膜炎の典型的な症状として「三徴候」と呼ばれる特徴的な症状があります。この三徴候は診断の重要な手がかりとなります。

  1. 発熱:ほとんどの患者さんに見られる症状ですが、高齢者や免疫不全の方では必ずしも高熱を示さない場合もあります。
  2. 頭痛:髄膜の炎症による激しい頭痛が特徴的で、髄膜炎の患者さんの多くが訴えます。
  3. 項部硬直(こうぶこうちょく):首の後ろ(うなじ)が硬くなり、前に曲げにくくなる症状です。

また、髄膜炎の進行に伴い、以下のような症状も現れることがあります。

  • 意識障害:軽度の混乱から昏睡まで様々なレベルがあり、75%以上の患者さんに見られます。
  • けいれん発作:特に小児では初期症状として現れることがあり、全経過を通じて20〜40%の患者さんに発生します。
  • 嘔吐・嘔気頭蓋内圧亢進に伴い生じることが多いです。
  • 過敏症(羞明):光に対する過敏反応が現れることがあります。

医療機関では以下の特殊な徴候も確認します。

  • ケルニッヒ徴候:仰向けの状態で足を上げたときに膝を曲げる反応
  • ブルジンスキー徴候:頸部を前屈させると膝が自然に曲がる反応
  • ジョルトアクセンチュエイション:頭を左右に振ると頭痛が増強する現象

特に細菌性髄膜炎では症状の進行が急激で、数時間のうちに重篤化することがあります。一方、ウイルス性髄膜炎は比較的緩やかな経過をたどることが多く、結核性や真菌性髄膜炎はさらに緩慢に数日から数週間かけて進行します。

 

年齢によっても症状の現れ方は異なり、乳幼児では典型的な症状を示さないことがあり、機嫌が悪い、活気がない、哺乳力の低下などの非特異的な症状のみを示すことがあります。そのため、特に小さなお子さんの場合は注意深い観察が必要です。

 

髄膜炎の診断方法:髄液検査の重要性

髄膜炎の確定診断には**髄液検査(腰椎穿刺)**が最も重要です。この検査は脊椎の間から特殊な針を挿入し、脳脊髄液を採取して調べるものです。採取した髄液は以下の点について分析されます。

  • 外観:通常は無色透明ですが、細菌性髄膜炎では白濁していることがあります。
  • 細胞数:炎症があると白血球数が増加します。細菌性では好中球が、ウイルス性ではリンパ球が主体です。
  • タンパク質:炎症があると増加します。
  • 糖濃度:細菌性髄膜炎では著明に低下します(髄液糖/血糖比が0.4以下)。
  • 培養検査:原因となる病原体を特定します。
  • 塗抹検査:グラム染色などで菌の有無を確認します。

髄液検査は採取後すみやかに提出する必要があります。これは時間経過とともに細胞数が変化してしまうためです。また、検査前、検査中、検査後のバイタルサインの観察も重要です。

 

髄液検査以外にも、以下の検査が行われます。

  1. 血液検査:白血球数やCRPなどの炎症マーカーをチェックします。また血液培養も重要です。
  2. 画像検査
    • CT検査:脳浮腫や出血、水頭症などの合併症を確認します。
    • MRI検査:より詳細な情報を得るために行われます。特に造影MRIは合併症の検出に優れています。

髄膜炎の疑いがあるケースでは、髄液検査前に頭部CTを行って、頭蓋内圧亢進の有無を確認することがあります。これは腰椎穿刺により脳ヘルニアが生じるリスクを避けるためです。

 

臨床的には、「ジョルトアクセンチュエイション」と呼ばれる検査法も用いられます。これは患者さんに頭を左右に数回振ってもらい、頭痛が強くなるかを調べるもので、髄膜炎の診断に高い感度を持つとされています。

 

髄膜炎の治療法:原因別の適切な対応と薬物療法

髄膜炎の治療は原因となる病原体によって大きく異なります。いずれの場合も早期治療が重要で、特に細菌性髄膜炎は緊急的な対応が必要です。

 

1. 細菌性髄膜炎の治療
細菌性髄膜炎では、原因菌が特定される前に経験的治療(エンピリックセラピー)を開始することが一般的です。

 

  • 抗菌薬治療
  • ステロイド療法:抗菌薬投与直前に副腎皮質ステロイドを併用することで、炎症反応を抑制し予後を改善する効果があります。
  • 治療期間:通常2週間程度の抗菌薬投与が必要ですが、原因菌や症状の重症度によって変動します。

2. ウイルス性髄膜炎の治療

  • 一般的には対症療法が中心となります。解熱鎮痛剤での頭痛・発熱の緩和、水分補給や嘔吐時の制吐剤などが用いられます。
  • ヘルペスウイルス性髄膜炎の場合は、アシクロビルなどの抗ウイルス薬が有効です。
  • 多くの場合、数日から1週間程度で回復します。

3. 結核性・真菌性髄膜炎の治療

  • 結核性髄膜炎:抗結核薬による長期治療(通常6〜12ヶ月)が必要です。
  • 真菌性髄膜炎:抗真菌薬による治療を行います。こちらも治療期間が長期にわたることが多いです。

支持療法と対症療法
いずれの髄膜炎においても、以下のような支持療法・対症療法が重要です。

  • 水分・電解質管理:十分な水分補給を行います。経口摂取が難しい場合は点滴を行います。
  • 頭痛管理:適切な鎮痛剤で頭痛を緩和します。
  • けいれん対策:けいれん発作が生じた場合は、抗けいれん薬を使用します。
  • 頭蓋内圧管理:脳浮腫が生じた場合は、マンニトールなどの薬剤で頭蓋内圧を下げる治療を行うことがあります。

看護のポイント
髄膜炎患者の看護では、以下のポイントに注意します。

  1. 定期的なバイタルサインと神経学的所見の観察
  2. 頭蓋内圧亢進症状の監視
  3. けいれん発作時の準備と対応
  4. 薬剤投与の副作用に注意(特に高用量抗生剤使用時)
  5. 痛みや不快感の緩和

髄膜炎の予防と後遺症:ワクチン接種の重要性

髄膜炎は適切な治療を行っても、一定の割合で後遺症を残すことがあります。死亡率は約10%とされ、回復した患者さんの約25%(4人に1人)に何らかの後遺症が認められます。

 

主な後遺症

  • 聴力障害・難聴:特に細菌性髄膜炎後に生じることがあります
  • てんかん発作:脳の損傷により、慢性的なてんかん発作が続く場合があります
  • 認知機能障害:記憶力低下や学習障害などの認知機能に影響が出ることがあります
  • 運動障害:歩行障害などの運動機能に影響を及ぼすことがあります
  • 水頭症:脳脊髄液の循環障害により、脳室が拡大する状態です

これらの後遺症のリスクを減らすためにも、早期診断・早期治療が非常に重要です。また、再発予防にも注意が必要です。

 

予防接種の重要性
髄膜炎を引き起こす主要な病原体の一部には、効果的なワクチンが開発されています。

  1. Hibワクチンインフルエンザ菌b型によるものを予防します。生後2ヶ月から接種を開始し、2〜3ヶ月おきに3回の接種が推奨されています。
  2. 肺炎球菌ワクチン:肺炎球菌による髄膜炎や肺炎を予防します。
    • 小児用肺炎球菌ワクチン(PCV13):生後2ヶ月から接種開始
    • 成人用肺炎球菌ワクチン:65歳以上の方に推奨
  3. 髄膜炎菌ワクチン:日本では任意接種ですが、海外渡航者や特定のリスク群には推奨されます。

これらのワクチン導入により、特に小児における細菌性髄膜炎の発症率は大幅に減少しています。日本でも2008年にHibワクチン、2010年に小児肺炎球菌ワクチンが導入されて以降、細菌性髄膜炎の発症率が激減しています。

 

感染予防の基本
ワクチン接種以外にも、以下のような基本的な感染予防策が重要です。

  • 手洗いの徹底
  • 咳エチケットの遵守
  • 十分な休息と栄養摂取による免疫力の維持

医療機関を受診すべきタイミング
以下のような症状がある場合は、髄膜炎の可能性を考慮して早めに医療機関を受診しましょう。

  • 発熱と激しい頭痛が続く場合
  • 首の硬さを感じる場合
  • 光に過敏になる(まぶしさを強く感じる)場合
  • 嘔吐を伴う場合
  • 意識がはっきりしない、混乱している場合
  • けいれんがある場合

特に、意識障害やけいれんが出現した場合や、急に意識が悪くなったり、錯乱を認めた場合は、救急車を呼ぶべき緊急事態です。

 

髄膜炎は、特に細菌性のものでは治療が遅れると命に関わる緊急疾患です。発熱や頭痛が続く場合、特に首の硬さを伴う場合は、すみやかに医療機関を受診することが重要です。正しい知識を持ち、早期発見・早期治療につなげることで、この危険な疾患から身を守りましょう。

 

細菌性髄膜炎診療ガイドライン2014(日本神経学会)- 詳細な診断・治療方針について
厚生労働省:Hib(ヒブ)ワクチンについて - 予防接種の詳細情報