ホスホマイシン系抗生物質の一覧:作用機序から適応まで

ホスホマイシン系抗生物質の製剤一覧と特徴、作用機序、適応症について詳しく解説。経口薬と静注薬の使い分けや独特な臨床応用について知りたくありませんか?

ホスホマイシン系抗生物質の一覧

ホスホマイシン系抗生物質の概要
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経口製剤

ホスホマイシンカルシウム水和物を含有する錠剤・ドライシロップ

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静注製剤

ホスホマイシンナトリウムを含有する注射用製剤

🎯
独特な作用機序

細胞壁合成の初期段階を阻害する唯一無二の抗菌薬

ホスホマイシン系抗生物質の基本情報と作用機序

ホスホマイシン系抗生物質は、1969年にスペインで発見された独特な構造を持つ抗菌薬です。本薬剤の最大の特徴は、その作用機序にあります。ホスホマイシンは、UDP-GlcNAcエノールピルビルトランスフェラーゼを不可逆的に失活させることで、細胞壁ペプチドグリカン生合成の最初期反応を阻害します。

 

この作用機序は他の抗菌薬とは全く異なるため、β-ラクタム系、アミノグリコシド系、キノロン系などの抗菌薬に対する耐性とは交差しません。そのため、多剤耐性菌に対しても有効性を示すことが多く、現代の感染症治療において重要な地位を占めています。

 

🔬 作用機序の詳細

  • ホスホエノールピルビン酸の構造類似体として働く
  • 酵素の活性中心のシステイン残基に不可逆的に結合
  • ムレインモノマーの合成を阻害
  • グラム陽性菌・陰性菌の両方に殺菌的効果を発揮

ホスホマイシンカルシウムの製剤一覧と特徴

経口用のホスホマイシン製剤は、すべてホスホマイシンカルシウム水和物を有効成分としています。現在日本で使用可能な主要製剤は以下の通りです。
先発医薬品(ホスミシン)

  • ホスミシン錠250mg:薬価40.2円/錠
  • ホスミシン錠500mg:薬価67.7円/錠
  • ホスミシンドライシロップ200:薬価77.1円/g
  • ホスミシンドライシロップ400:薬価86.2円/g

後発医薬品

  • ホスホマイシンカルシウムドライシロップ40%「日医工」:薬価81.7円/g
  • その他、複数のメーカーからジェネリック医薬品が販売されている

💡 経口製剤の特徴

  • 生物学的利用能は約40%と比較的低い
  • 血漿蛋白結合率は低く、組織移行性が良好
  • 主に糸球体濾過により尿中に排泄
  • 尿中濃度は24時間にわたってMICを上回る水準を維持

小児に対しては、体重1kg当たり1日40-120mg(力価)を3-4回に分けて投与します。年齢や症状に応じて適宜増減が可能です。

 

ホスホマイシンナトリウムの静注製剤一覧

静注用製剤は、ホスホマイシンナトリウムを有効成分とし、より重篤な感染症の治療に使用されます。

 

先発医薬品(ホスミシンS)

  • ホスミシンS静注用0.5g:薬価543円/瓶
  • ホスミシンS静注用1g:薬価587円/瓶
  • ホスミシンS静注用2g:薬価863円/瓶

後発医薬品
各社からジェネリック医薬品が販売されており、主要なものには以下があります。

  • ニプロ製:ホスホマイシンNa静注用(0.5g、1g、2g)
  • 高田製薬製:ホスホマイシンNa静注用(0.5g、1g、2g)
  • 日医工製:ホスホマイシンナトリウム静注用(0.5g、1g、2g)

📊 薬物動態パラメータ(健康成人)

  • 1g静注1時間投与:Cmax 87.3μg/mL、T1/2 1.5時間
  • 2g静注1時間投与:Cmax 157.3μg/mL、T1/2 1.8時間

静注製剤は組織移行性に優れ、中枢神経系感染症、骨髄炎、肺炎などの重篤な感染症にも使用可能です。

 

ホスホマイシン系抗生物質の適応症と用法用量

ホスホマイシン系抗生物質は幅広い適応症を有しており、経口薬と静注薬で適応範囲が異なります。

 

経口薬の適応症

静注薬の適応症

  • 敗血症
  • 急性気管支炎、肺炎、肺膿瘍、膿胸
  • 慢性呼吸器病変の二次感染
  • 膀胱炎、腎盂腎炎
  • 腹膜炎
  • バルトリン腺炎、子宮内感染、子宮付属器炎、子宮旁結合織炎

🦠 感受性菌種
両製剤ともに以下の菌種に対して有効です。

  • ブドウ球菌属(MRSA含む)
  • 大腸菌(フルオロキノロン耐性株含む)
  • セラチア属、プロテウス属
  • モルガネラ・モルガニー
  • プロビデンシア・レットゲリ
  • 緑膿菌
  • 腸球菌属(VRE含む)

特に注目すべきは、ESBL産生菌やカルバペネム耐性菌に対しても有効性を示すことです。

 

ホスホマイシン系抗生物質の独特な臨床応用場面

ホスホマイシン系抗生物質には、他の抗菌薬では見られない独特な臨床応用場面があります。

 

腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症への応用
最も特徴的な使用場面は、腸管出血性大腸菌感染症の治療です。1996年の大阪堺市での大規模アウトブレイクにおいて、ホスホマイシンの経口投与を受けた92例は全例軽快し、溶血性尿毒症症候群(HUS)の発症は認められませんでした。

 

🩺 EHEC感染症でのエビデンス

  • 経口投与では HUS発症率が低い
  • 静注投与では一部でHUS発症の報告あり
  • 小児ではキノロン系が使用できないため第一選択となる
  • 投与期間は3-5日の短期間が推奨される

貪食細胞内への移行
ホスホマイシンは好中球やマクロファージなどの貪食細胞内へも能動的に取り込まれ、これらの細胞内に潜んでいる細菌に対しても抗菌力を発揮します。この特性により、細胞内感染症に対する治療効果が期待できます。

 

免疫調節作用
島根医科大学の研究では、ホスホマイシンがヒトの免疫担当細胞に対して以下のような作用を示すことが報告されています。

耳科領域での特殊用途
ホスミシンS耳科用3%は、外耳炎や中耳炎に対する局所治療薬として使用されます。耳浴終了後10-120分にわたり、耳漏中に20μg/mL以上の有効濃度が維持されることが確認されています。

 

⚠️ 副作用と注意点
主な副作用は消化器症状で、嘔気、腹痛、下痢・軟便が0.1-5%未満の頻度で報告されています。重篤な副作用として、偽膜性大腸炎、ショック、アナフィラキシーの報告もあるため、投与中は注意深い観察が必要です。

 

日本感染症学会による抗菌薬適正使用の指針でも、ホスホマイシンは多剤耐性菌感染症の治療選択肢として重要な位置づけがなされています。

 

日本感染症学会の抗菌薬適正使用に関するガイドライン
また、厚生労働省のAMR対策アクションプランにおいても、適切な抗菌薬使用の推進が求められており、ホスホマイシンのような独特な作用機序を持つ薬剤の適正使用が重要視されています。

 

厚生労働省によるAMR対策に関する情報