セフェム系抗生物質は、現在の感染症治療において最も使用頻度が高い抗菌薬の一つです。β-ラクタム系抗菌薬に分類され、細菌の細胞壁合成を阻害することで殺菌的に作用します。
セフェム系抗生物質の歴史は1945年にG. BrotzuがCephalosporium acremoniumから発見したことに始まり、その後の化学的修飾により多数の薬剤が開発されました。現在では第1世代から第4世代まで分類され、それぞれ異なる抗菌スペクトラムと臨床的特徴を有しています。
第1世代セフェム系抗生物質は、グラム陽性菌に対して強力な抗菌活性を示し、特にMSSA(メチシリン感受性黄色ブドウ球菌)の第一選択薬として位置づけられています。
注射用第1世代セフェム系薬剤
経口用第1世代セフェム系薬剤
第1世代セフェムの特徴として、レンサ球菌や市中のグラム陰性桿菌への活性が高く、日本ではMSSAの第一選択薬として広く使用されています。内服薬のセファレキシン(CEX)は外来での皮膚軟部組織感染症や尿路感染症の治療に便利な薬剤として重宝されています。
歯科や皮膚科でケフラールやケフレックスなどの第1世代セフェム系抗菌薬が処方されるケースが多いのは、口腔内や皮膚の感染症ではグラム陽性菌が原因となることが多いためです。
第2世代セフェム系抗生物質は、第1世代のグラム陽性菌への活性を保ちながら、グラム陰性菌に対する抗菌スペクトラムを拡大した薬剤群です。特にセファマイシン系薬剤は嫌気性菌にも有効という特徴があります。
注射用第2世代セフェム系薬剤
セファマイシン系薬剤(第2世代分類)
オキサセフェム系薬剤
経口用第2世代セフェム系薬剤
第2世代セフェムの最大の特徴は、横隔膜下の嫌気性菌にも有効であることです。特にセフメタゾール(CMZ)は腹部手術の術前投与や腹部・骨盤内感染症に使用されます。また、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌に対する効果も報告されています。
第2世代セフェムはPEK(E. coli、Klebsiella、Proteus)に加えて、H. influenzaeやモラクセラにも有効性を示します。
第3世代セフェム系抗生物質は、グラム陰性菌に対して強力な抗菌活性を示し、髄液移行性も良好なため、髄膜炎の治療にも使用される重要な薬剤群です。
注射用第3世代セフェム系薬剤(緑膿菌活性なし)
注射用第3世代セフェム系薬剤(緑膿菌活性あり)
セファマイシン系薬剤(第3世代分類)
オキサセフェム系薬剤
経口用第3世代セフェム系薬剤
第3世代セフェムは、第1世代セフェムのスペクトラムに肺炎球菌・インフルエンザ桿菌・腸内細菌への効果が加わっています。髄液への移行性もあり、市中感染症に広く使用される薬剤です。
一般的にはセフトリアキソン(CTRX)が使用されますが、胆道系の障害がある場合には腎代謝であるセフォタキシム(CTX)が選択肢になります。セフタジジム(CAZ)は緑膿菌活性を有する唯一の第3世代セフェムとして重要な位置を占めています。
第3世代経口セフェム系薬の多くは喀痰など気道分泌物や肺への組織移行性が悪く、十分な血中濃度が維持されないときには組織中濃度はさらに低くなるため、呼吸器感染症での使用には注意が必要です。
第4世代セフェム系抗生物質は、第1世代のグラム陽性菌への活性と第3世代のグラム陰性菌への活性を併せ持つ優れた薬剤群です。「CEZ + CAZ = CFPM」と表現されるように、幅広い抗菌スペクトラムを有しています。
注射用第4世代セフェム系薬剤
第4世代セフェムの特徴は以下の通りです。
セフェピム(CFPM)は第4世代セフェムの代表的な薬剤として、重篤な院内感染症の治療に使用されています。ただし、全てのセフェム系抗生物質は腸球菌に対して無効であることに注意が必要です。
セフェム系抗生物質の安全性管理において、特に注意すべき副作用と対策について解説します。
重大な副作用
ピボキシル基関連の副作用
セフジトレン ピボキシル(メイアクト)、セフテラム ピボキシル(トミロン)、セフカペン ピボキシル(フロモックス)などのピボキシル基を持つ抗生物質では、重篤な低カルニチン血症が起こり、低血糖症、痙攣、脳症等を引き起こす可能性があります。
ピボキシル基を有する抗菌薬は消化管吸収を高めるためにピバリン酸がエステル結合されており、代謝を受けて活性本体とピバリン酸となります。ピバリン酸はカルニチン抱合を受けて尿中から排泄されるため、低カルニチン血症が起こります。
小児での注意点
小児、特に乳幼児は血中のカルニチンが少ないため、ピボキシル基含有薬剤の使用には特に注意が必要です。カルニチンは脂肪酸β酸化に必須な因子であるため、カルニチン欠乏時は脂肪酸のβ酸化ができず、糖新生ができないことから低血糖となってしまいます。
一般的な副作用
セフェム系抗生物質の一般的な副作用として、下痢、軟便、嘔気、胃不快感等の消化器症状(3.78%)及び発疹等のアレルギー症状(0.48%)が報告されています。
感染症内科医が推奨する抗菌薬の種類と使用法
https://www.doctor-vision.com/dv-plus/column/knowledge/kokinyaku-guide-2007.php
薬剤師向けのセフェム系抗菌薬詳細情報
https://pharmacista.jp/contents/skillup/academic_info/antibiotics/2578/
セフェム系抗生物質は、その多様性と有効性により現代の感染症治療の中核を担っています。各世代の特徴を理解し、患者の状態と起炎菌に応じた適切な薬剤選択を行うことが、効果的で安全な治療につながります。特に副作用の管理と薬剤耐性の観点から、適正使用を心がけることが重要です。