モキシフロキサシンは第四世代フルオロキノロン系抗菌薬として、幅広いスペクトラムを持つ点眼薬です。DNAジャイレースとトポイソメラーゼIVの両方を阻害することで、細菌のDNA複製を阻害し、殺菌的に作用します。
点眼薬として使用される場合の適応疾患は以下の通りです。
モキシフロキサシンは、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌、腸球菌属などのグラム陽性菌から、シュードモナス属、アシネトバクター属などのグラム陰性菌まで、広範囲の細菌に対して抗菌活性を示します。この広いスペクトラムが、眼科領域での第一選択薬として選ばれる理由の一つです。
国内第III相試験における副作用発現頻度は5.3%(9/169例)と報告されています。最も頻度の高い副作用は以下の通りです。
頻度の高い副作用(1-5%)
やや稀な副作用(1%未満)
小児(41日齢以上12歳未満)における副作用発現頻度は6.7%(20/297例)で、成人とほぼ同等の安全性プロファイルを示しています。小児では眼痛(4.0%)と味覚異常(2.4%)が主な副作用として報告されており、重篤な副作用の報告はありません。
角膜炎患者を対象とした試験では、副作用発現頻度は9.6%(2/21例)と若干高くなりますが、これは使用頻度が1日3-8回と多いことが影響していると考えられます。
頻度は不明ですが、モキシフロキサシン点眼液使用時に注意すべき重篤な副作用があります。
ショック・アナフィラキシー(頻度不明)
経口剤でのショック・アナフィラキシーの報告があるため、点眼薬でも注意が必要です。以下の症状が認められた場合は直ちに投与を中止し、適切な処置を行います。
角膜毒性(極めて稀)
海外では、10歳女児において0.5%モキシフロキサシン点眼液使用後に重篤な角膜毒性(角膜周囲充血、角膜浮腫)が報告されています。この症例では視力が20/20から20/400まで低下しましたが、投与中止により劇的に改善しました。このような極めて稀な副作用もあることを認識しておく必要があります。
その他の全身への影響
経口のモキシフロキサシンでは、多形滲出性紅斑(erythema multiforme)の報告もあります。点眼薬では全身への影響は限定的ですが、キノロン系抗菌薬に過敏症の既往がある患者では特に注意が必要です。
モキシフロキサシン0.5%点眼液の有効率は疾患により異なりますが、全般的に高い有効性を示しています。
細菌性結膜炎
細菌性外眼部感染症全体
疾患別の有効率は以下の通りです。
角膜炎
これらの高い有効率は、モキシフロキサシンの優れた組織移行性と広いスペクトラムによるものと考えられます。特に起炎菌消失率の高さは、耐性菌の出現抑制の観点からも重要な指標です。
妊婦・授乳婦への使用
モキシフロキサシン点眼液は、妊婦または妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すべきです。動物実験で乳汁中への移行が報告されているため、授乳婦では治療上の有益性と母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続または中止を検討する必要があります。
小児への使用上の注意
低出生体重児または新生児に対する安全性は確立していません。国内における使用経験が少ないため、これらの患者群では特に慎重な観察が必要です。
耐性菌対策
モキシフロキサシンの使用にあたっては、耐性菌の発現等を防ぐため、原則として感受性を確認し、疾病の治療上必要な最小限の期間の投与にとどめることが重要です。
他剤との相互作用
経口のモキシフロキサシンではNSAIDsとの併用により中枢神経系副作用のリスクが高まることが知られています。点眼薬では全身への影響は限定的ですが、併用薬についても注意深く確認することが推奨されます。
適用上の注意
モキシフロキサシン点眼液は高い有効性と比較的良好な安全性プロファイルを持つ優秀な抗菌薬ですが、適切な使用方法と副作用の早期発見・対応が重要です。特に重篤な副作用は稀ながらも報告されているため、使用時は患者の状態を注意深く観察し、異常を認めた場合は速やかに適切な処置を行うことが求められます。