リボソームとリソソームの違いとは

リボソームとリソソームは名前が似ていますが、細胞内での役割はまったく異なります。タンパク質を生産する装置と不要物を分解する器官、この二つの違いを理解していますか?

リボソームとリソソームの違い

この記事のポイント
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リボソーム

RNA とタンパク質から構成され、mRNAの遺伝情報をもとにタンパク質を合成する細胞内装置

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リソソーム

膜で囲まれた細胞小器官で、60種類以上の加水分解酵素により不要物質を分解処理

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語源の違い

リボソームは「リボース(RNA構成糖)」、リソソームは「リシス(分解)」が語源

医療現場では「リボソーム」と「リソソーム」という名称が頻繁に登場しますが、これらは一文字違いで混同されやすい細胞小器官です。しかし、その構造と機能は根本的に異なります。リボソームは細胞内でタンパク質を生産する装置であり、リソソームは不要物質や病原体を分解する器官です。両者の違いを正確に理解することは、細胞生物学や病態生理の理解において極めて重要となります。
参考)細胞小器官の機能|細胞の構造と機能(2)

リボソームの構造と機能

 

リボソームは、リボソームRNA(rRNA)とタンパク質から構成される巨大なRNA・タンパク複合体です。真核細胞では大サブユニット(60S)と小サブユニット(40S)が結合して80Sリボソームを形成し、原核細胞では50Sと30Sが結合して70Sリボソームとなります。この「S」はスヴェドベリ単位と呼ばれ、超遠心機での沈降速度を示す値です。
参考)リボソーム - Wikipedia

リボソームの主要な機能はタンパク質合成、すなわち翻訳です。核から運ばれてきたメッセンジャーRNA(mRNA)の塩基配列情報を読み取り、トランスファーRNA(tRNA)が運んでくるアミノ酸を正確な順序で結合させてポリペプチド鎖を形成します。この過程で、小サブユニットがmRNAの解読を担当し、大サブユニットがペプチド結合の形成を触媒します。
参考)https://www.aandt.co.jp/jpn/medical/tree/vol_2/

細胞内には、小胞体の表面に付着した「付着リボソーム(粗面小胞体)」と、細胞質内に単独で浮遊する「遊離リボソーム」の2種類が存在します。付着リボソームでは細胞外へ分泌されるタンパク質や膜タンパク質が合成され、遊離リボソームでは細胞内で日常的に使用されるタンパク質が合成されます。
参考)ビデオ: リボソーム

リソソームの構造と機能

リソソームは、一枚の脂質二重層膜に囲まれた細胞小器官で、その内部は細胞質よりも酸性(pH 4.5~5.0)に保たれています。この酸性環境は、膜上に存在するV-ATPaseというプロトンポンプによって維持されています。​
リソソーム内には約60種類の加水分解酵素が存在し、これらは酸性条件下で最適な活性を示すため「酸性加水分解酵素」と総称されます。これらの酵素には、プロテアーゼタンパク質分解酵素)、グリコシダーゼ(糖質分解酵素)、リパーゼ(脂質分解酵素)、ホスファターゼヌクレアーゼホスホリパーゼ、スルファターゼなどが含まれます。
参考)リソソーム - 脳科学辞典

リソソームの主要な機能は細胞内消化です。エンドサイトーシスで取り込まれた細胞外物質や、オートファジーによって隔離された細胞内の老廃物、損傷したミトコンドリアなどをアミノ酸、単糖、遊離脂肪酸などの構成要素にまで分解します。また、細胞内へ侵入した病原体は、ファゴソームに封入された後、リソソームと融合してファゴリソソームを形成し、内部で加水分解酵素によって分解されます。
参考)https://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2022/20220915_2

リボソームとリソソームの語源

両者の名称の違いは、その語源に由来します。リボソーム(ribosome)の「リボ(ribo-)」は、RNAの構成成分であるリボース(ribose)という五炭糖に由来します。リボソームがリボソームRNA(rRNA)から構成されることを反映した命名です。一方、「ソーム(-some)」は古代ギリシア語やラテン語で「体」を意味する「ソーマ(soma)」に由来し、「~体」を表します。
参考)リボソームとリソソームの違いの覚え方!紛らわしい用語を簡単に…

リソソーム(lysosome)の「リソ(lyso-)」は、ギリシア語の「リシス(lysis)」に由来し、「分解」「溶解」を意味します。この語源は、リソソームが細胞内で物質を分解する機能を持つことを示しています。同じくリソソームという用語には、「ライソソーム」「ライソゾーム」「リソゾーム」などの表記も使用されることがあります。
参考)リボソームとリソソームの違いとは?細胞内の破壊者としてのリソ…

このように、リボソームは「RNA関連の体」、リソソームは「分解する体」という意味を持ち、その名称から機能を推測することができます。​

リボソームの合成経路とリソソームの形成経路

リボソームとリソソームは、その形成過程も大きく異なります。リボソームは核小体で合成されます。核小体内でrRNA遺伝子から転写されたrRNAに、細胞質から運ばれてきたリボソームタンパク質が結合し、大サブユニットと小サブユニットが形成されます。これらのサブユニットは核から細胞質へ運ばれ、タンパク質合成時に初めて結合して機能的なリボソームとなります。​
一方、リソソームの形成は小胞体とゴルジ体を経由する複雑な経路をたどります。リソソームの加水分解酵素は粗面小胞体のリボソームで合成され、小胞体内腔に送り込まれます。その後、ゴルジ体へ輸送され、そこでマンノース-6-リン酸による標識を受けます。この標識により酵素は選別されて小胞へ詰め込まれ、トランスゴルジ網から出芽します。これらの小胞は初期エンドソームと融合し、後期エンドソームへと成熟する過程でプロトンポンプが活性化され、内部が酸性化してリソソームとなります。​
この形成経路の違いは、両者の機能の違いを反映しています。リボソームは細胞質で直ちに機能する必要があるため核で合成されますが、リソソームは強力な分解酵素を含むため、膜で隔離された安全な形で形成される必要があります。​

リボソームとリソソームの臨床的意義

リボソームとリソソームの機能不全は、それぞれ異なる疾患を引き起こします。リボソームの機能や生合成の異常は、リボソーム病と呼ばれる一群の疾患に関連しています。これらの疾患では、リボソームタンパク質の変異により造血障害や発育不全などが生じます。
参考)https://www.mdpi.com/1422-0067/22/11/5496/pdf

一方、リソソームの機能障害はリソソーム病(ライソゾーム病、リソソーム蓄積症)として知られる約60種類以上の遺伝性疾患を引き起こします。これらの疾患では、特定の加水分解酵素の欠損または活性低下により、本来分解されるべき物質が細胞内に異常蓄積します。代表的なものとして、ゴーシェ病(グルコセレブロシドが蓄積)、ファブリー病(セラミドトリヘキソシドが蓄積)、ポンペ病(グリコーゲンが蓄積)、ムコ多糖症(各種ムコ多糖が蓄積)などがあります。
参考)ゴーシェ病はライソゾーム病?

武田薬品工業のライソゾーム病に関する患者向け情報ページ
症状は蓄積する物質と影響を受ける臓器により多様で、肝脾腫、骨変形、神経障害(痙攣、知能障害)、眼障害、腎障害、心不全など広範囲にわたります。リソソーム病の診断には、酵素活性測定や遺伝子検査が用いられ、一部の疾患では酵素補充療法が有効です。
参考)ライソゾーム病(指定難病19) href="https://www.nanbyou.or.jp/entry/4061" target="_blank">https://www.nanbyou.or.jp/entry/4061amp;#8211; 難病情報セン…

難病情報センターのライソゾーム病(指定難病19)の解説ページ
医療従事者にとって、リボソームとリソソームの違いを理解することは、これらの疾患の病態生理を把握し、適切な診断と治療を行う上で不可欠です。​

覚え方のコツ

医療現場でリボソームとリソソームを混同しないためには、いくつかの覚え方が有用です。
参考)【解剖学】細胞小器官|森元塾@国家試験対策(もぬけ塾長)

リボソームは「リボ払い」と関連付けて、「タンパク質(プロテイン)をリボ払いで買う」と覚える方法があります。リボソームがタンパク質を「合成する」という機能を、購入(生産)というイメージで記憶します。また、小胞体の表面にイボのようについているため「イボイボリボソーム」と呼ぶ覚え方もあります。​
リソソームは「りそな銀行でリボ払い」というフレーズの「りそな」部分で覚えるか、「リサイクル」「リソース(資源)」と関連付けて、不要物をリサイクルして資源にするというイメージで記憶する方法が効果的です。
参考)細胞小器官の種類覚え方。「ミートしてゴール。」で覚えてみよう…

構造面では、リボソームは膜を持たない顆粒状の構造であるのに対し、リソソームは膜で囲まれた袋状の構造という違いも重要な識別点です。また、リボソームは核小体で作られて細胞質に存在し、リソソームはゴルジ体で作られて細胞質に散在するという局在の違いも覚えやすいポイントです。​
機能面では、リボソームは「生産(タンパク質合成)」、リソソームは「分解(不要物処理)」という正反対の役割を担っているため、この対比で記憶すると効果的です。​
これらの覚え方を組み合わせることで、リボソームとリソソームの違いを確実に定着させることができます。臨床現場や学習の場面で迷ったときは、語源(リボ=RNA、リソ=分解)に立ち返ることが最も確実な方法です。​

 

 


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