腸球菌症状と感染症の特徴

腸球菌感染症は尿路感染や心内膜炎など多様な症状を引き起こします。無症状保菌から重篤な敗血症まで、発症パターンと診断・治療法を医療従事者向けに解説。バンコマイシン耐性腸球菌への対策も含め、臨床現場で必要な知識を網羅しています。腸球菌感染症の全体像を理解するために何が重要でしょうか?

腸球菌症状と感染症の臨床像

腸球菌感染症の主要症状
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無症状保菌

健常者では腸管内に定着しても症状は現れず、便や尿から偶然検出されることが多い

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日和見感染

易感染状態の患者で術創感染、腹膜炎、敗血症などの重篤な感染症を引き起こす

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臓器特異的感染

尿路感染症、心内膜炎、前立腺炎など特定臓器での感染により特徴的な症状が出現する

腸球菌感染症の基本症状

 

腸球菌(Enterococcus)は腸内常在細菌叢の一部であり、健常者や感染防御機構が正常な患者の腸管内に定着しても、下痢や腹痛などの症状を呈することはありません。国内の多くの分離例が無症状者の便や尿などから偶然に分離されており、こうした場合は無症状の保菌者となり長期間にわたって菌を排出し続けることがあります。腸球菌は基本的に病原性が極めて弱く、特にバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が腸管内に生息している場合でもほとんど無害です。
参考)バンコマイシン耐性腸球菌感染症|国立健康危機管理研究機構 感…

一方、感染防御機能が低下した患者や術後患者では、腸球菌は様々な感染症を引き起こす可能性があります。腸球菌感染症の専門的解説(MSDマニュアル)によると、Enterococcus faecalisとE. faeciumは併発する菌血症のほか、心内膜炎、尿路感染症、前立腺炎、腹腔内感染症、蜂窩織炎、創傷感染症などの多様な感染症を引き起こします。
参考)腸球菌感染症 - 13. 感染性疾患 - MSDマニュアル …

術創感染症や膿瘍、腹膜炎、敗血症などを生じた症例では、患部の発赤などの炎症所見、発熱などの全身所見など一般的な細菌感染症の症状が見られます。しかしながら、血液などから分離されるような感染防御能が全般的に低下した状態の患者では、MRSA、緑膿菌、大腸菌など病原性の強い他の細菌が同時に混合感染を起こしていることも多く、それらの菌による症状が前面に出る場合が多いのが特徴です。​

腸球菌による尿路感染症と心内膜炎の症状

腸球菌は尿路感染症の主要な起因菌の一つであり、腸内常在細菌として尿路に侵入しやすい特性を持っています。尿路感染症では頻尿、排尿時痛、下腹部痛などの典型的な泌尿器症状が出現します。尿路感染症を契機として敗血症や感染性心内膜炎に進展するケースも報告されており、特に高齢者や基礎疾患を有する患者では注意が必要です。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/shinzo/44/12/44_1535/_pdf

腸球菌は感染性心内膜炎の起因菌として、黄色ブドウ球菌、緑膿菌に引き続き3番目に多い起因菌です(11%)。尿路感染症を契機とした感染性心内膜炎の症例報告では、腸球菌性心内膜炎の臨床経過と診断の重要性が示されています。心内膜炎の症状としては発熱、全身倦怠感、心雑音の出現、塞栓症による多臓器障害などが認められ、脾梗塞や傍脊柱管膿瘍などの合併症を伴うこともあります。​
腸球菌性菌血症の治療においては、単一の血液培養で検出された状況で敗血症の臨床的証拠がない場合、または多菌種感染症でより毒性の高い微生物を狙った抗菌薬治療で改善している患者の場合には、治療を延期してもよいとされています。血管内カテーテルが菌血症の原因である可能性が高い状況では、カテーテルの除去だけで感染を治すことができる場合もあります。
参考)腸球菌菌血症の治療

腸球菌感染症の検査と診断方法

腸球菌感染症の診断は、症状や所見に加えて、微生物学的検査による確定診断が必要です。バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症の診断基準では、検査材料と検査方法が明確に定義されています。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-01.html

無菌的であるべき検体(血液、腹水、胸水、髄液など)からの検査では、分離・同定による腸球菌の検出に加えて、バンコマイシンのMIC値が16μg/ml以上であることが診断基準となります。通常無菌的ではない検体(喀痰、膿、尿など)からの検査では、これらの条件に加えて分離菌が感染症の起因菌と判定された場合に診断が確定します。​
菌を持っていても通常は無症状なので、便を採って検査をしないとわかりません。VREの検査方法に関する解説では、綿棒を肛門に挿入し肛門の内側をぬぐうスクリーニング検査の手順が示されています。保菌と感染症の違いとして、腸内にVREが存在するだけでどのような病気も起こしていない状態を「保菌」といい、VREによって発熱などの症状を引き起こしている状態を「感染症」と区別します。
参考)バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症| 和歌山市感染症情…

最新の診断技術として、T2Bacteria Panelなどの培養非依存的検査法も開発されており、Enterococcus faeciumを含む主要な血流感染症の原因菌を迅速に検出できるようになっています。
参考)https://www.mdpi.com/2076-2607/12/5/967/pdf?version=1715752189

腸球菌感染症の治療薬と抗菌薬選択

腸球菌感染症の治療は、感染部位および感受性試験の結果によって異なります。VREが便や尿から分離されたのみで症状を呈さない、いわゆる定着例と判断される症例に対しては、VREを除菌する目的での抗菌薬の投与は通常行いません。​
術創感染症や腹膜炎などの治療は、抗菌薬の投与とともに感染巣の洗浄やドレナージなどを適宜組み合わせて行います。抗菌薬の選択に関しては、薬剤感受性試験の結果を参考に、国内で入手が可能で有効性が期待できる抗菌薬の中から患者の症状や基礎疾患などを考慮し、最も適切な薬剤を選択します。​
アンピシリン(ABPC)は腸球菌のEnterococcus faecalisやリステリアへの抗菌活性を持っており、感受性があれば第一選択となります。抗菌薬の種類ガイドによると、心内膜炎に関連する腸球菌は、特定の細胞壁合成阻害薬(ペニシリン、アンピシリン、アモキシシリン、ピペラシリン、バンコマイシン)に加えてアミノグリコシド系薬剤(ゲンタマイシン、ストレプトマイシン)を併用して殺菌効果を得ない限り、除菌は困難です。
参考)【感染症内科医監修】今すぐ役立つ「抗菌薬の種類」ガイド|医師…

VREがフェカーリス(E. faecalis)の場合は感受性があればアンピシリンで治療し、ゲンタマイシンを併用することもあります。VREがフェシウム(E. faecium)の場合は多くがアンピシリンに耐性であり、VanAタイプではリネゾリド1回600mg、1日2回点滴静注が推奨されます。リネゾリド(LZD)はバンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌(VRE)・腸球菌に対して有効性がある薬剤で、骨・肺・髄液への移行も良好ですが、静菌的な薬剤である点に注意が必要です。
参考)https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/assets/survey/kobetsu/j1058.pdf

腸球菌感染症の予防と感染対策における独自視点

腸球菌感染症の予防において最も重要なのは、接触感染予防策の徹底です。感染経路は主に「糞便-経口」であり、「VRE保菌者の糞便」→「医療従事者の手指」→「患者」の経路などで接触感染します。感染防止には手洗いや手指消毒とともに環境消毒が必要であり、すべての消毒薬が有効とされています。
参考)バンコマイシン耐性腸球菌感染症 Vancomycin Res…

VRE感染では症状の出ない保菌者(定着)が大部分であるため、知らず知らずのうちに多くの患者に伝播しているパターンが少なくありません。東京都感染症情報センターのVRE情報では、日常の接触感染予防策の徹底が重要であることが強調されています。
参考)バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)

独自の視点として注目すべきは、腸球菌感染症における「ハイリスク患者の逆隔離」的な対策です。従来の「排菌者の隔離」だけではなく、手術などを予定しているハイリスク患者へVREを伝播させないための予防的隔離も重要とされています。また、VREと同時にMRSA、緑膿菌、大腸菌、肺炎桿菌などが分離される場合で、それらが症状の主因と考えられる場合には、それらの菌に対する治療を優先することも必要です。​
化膿性関節炎の症例では、腸球菌感染も報告されており、鏡視下デブリドマンと適切な抗菌薬投与により良好な治療成績が得られています。人工関節の感染症は通常の関節の感染症よりも多くみられ、手術中や手術後に細菌が侵入することで起こるため、特定の手術を行う前に抗菌薬を投与することで予防できることがあります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/nishiseisai/70/2/70_313/_pdf

医療施設におけるVRE対策としては、病室の個室管理、接触感染予防策のポスター掲示、個人防護具(PPE)の適切な使用、病院リネンの適切な取り扱いなど、包括的な院内感染対策が求められます。
参考)https://www2.huhp.hokudai.ac.jp/~ict-w/kansen/6.03_VRE.pdf

 

 


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