2024年改訂版ガイドラインでは、ヘリコバクター・ピロリ感染の診断法について体系的な見直しが行われました 。診断法は侵襲的検査法と非侵襲的検査法に大別され、それぞれに特徴があります 。
参考)ガイドライン
侵襲的検査法には、内視鏡検査により採取した胃組織を用いる迅速ウレアーゼ試験、鏡検法、培養法があります 。これらの方法は、ピロリ菌の存在を直接確認できる利点がありますが、内視鏡検査が必要という制約があります 。
参考)疾患から診療科を探す(当院で診療可能な疾患か否かは、事前にお…
非侵襲的検査法では、尿素呼気試験が最も信頼性が高い診断法として位置づけられており、各国のガイドラインでも推奨されています 。血液検査による抗体測定や便中抗原検査も用いられ、特に抗体測定検査は内視鏡検査で慢性胃炎を認めた場合に有用です 。
参考)ピロリ菌除菌後の検査(除菌判定)
診断精度を向上させるため、疑わしい症例では複数の検査法を組み合わせて診断することが重要とされています 。
参考)ピロリ菌・除菌治療
2024年改訂版の大きな特徴として、治療に関するフローチャートが冒頭に掲載され、1~3次の除菌治療から特殊な除菌治療まで、治療の流れがより明確になりました 。
参考)ピロリ1次除菌方法が変わる?最新ガイドライン2024年版が発…
一次除菌治療では、従来のPPIベースの治療に代わり、P-CABであるボノプラザン(タケキャブ)を軸とした3剤併用療法が推奨されています 。この変更により、除菌成功率が従来の70%前後から90%以上に大幅に向上しました 。
参考)ピロリ菌の治療
一次除菌で失敗した場合は二次除菌治療に進み、抗菌薬の一つを別の薬剤に変更して再度治療を行います 。二次除菌まで行うことで、ほとんどの症例で除菌が成功すると報告されています 。
参考)除菌療法の注意点
三次除菌以降は保険適用外となりますが、適切な薬剤の組み合わせにより高い除菌成功率が期待できます 。レボフロキサシンやメトロニダゾールなどの抗菌薬が使用されます 。
参考)ピロリ菌の三次・四次除菌について(自由診療)
除菌療法の成功判定は、治療終了後の適切な時期に行うことが重要です 。ガイドラインでは、すべての治療が終了した後、4週間以上経過してから除菌判定を行うことが必要とされています 。
この根拠として、除菌後1ヶ月経つと95%以上の症例で菌体数が回復するためです 。より確実な判定のため、一部の医療機関では除菌療法終了後8週間以降に判定を行っています 。
除菌判定には尿素呼気試験が最も推奨されており、簡便で安全かつ信頼性が高い診断法とされています 。患者の病状に応じて便中ピロリ菌抗原測定法も用いられます 。
抗体測定を用いる場合は、治療終了後6ヵ月以上の間隔を空ける必要があります 。これは抗体価の低下に時間を要するためです。
WHO(世界保健機関)は1994年にピロリ菌を「確実な発がん因子」と認定し、除菌治療による胃がん予防効果を認めています 。実際に、ピロリ菌感染者が胃がんになる確率は、未感染者に比べて20~30倍に跳ね上がると報告されています 。
参考)ピロリ菌と胃がんの関係!その検査と除去する方法
胃がんの99%はピロリ菌感染がベースにあるとされ、現在ではピロリ菌と胃がんの深い関連性が明確に認識されています 。ピロリ菌の持続感染により胃炎から胃粘膜の萎縮に進展し、腸上皮化生を経てDNAの障害が蓄積され、多数の遺伝子異常が起こり胃がんが発生するメカニズムが解明されています 。
参考)ヘリコバクターピロリと除菌療法
除菌治療による胃がん予防効果は加齢とともに低下するため、除菌年齢は早ければ早いほど良いとされています 。早期胃がんの内視鏡的治療後の胃においても、除菌により胃がんの発生率が3分の1に低下したと報告されています 。
参考)https://www.hokurikuyobou.or.jp/mental-health/column/detail0058.html
ただし、ピロリ菌除菌後にも胃がん発生の可能性が3分の1残るため、除菌後も定期的な胃カメラ検査が必要です 。
近年、ピロリ菌の抗菌薬耐性が治療上の大きな問題となっています 。特にクラリスロマイシン耐性が深刻で、2000年に7.0%だった耐性率が2010年には31.0%と急激に上昇しました 。
参考)ピロリ菌治療の問題点
クラリスロマイシンは上気道感染をはじめ、小児科疾患、呼吸器科疾患、耳鼻科疾患で頻繁に使用される薬剤のため、風邪などで抗生剤を繰り返し服用した結果、ピロリ菌が耐性を獲得すると考えられています 。この耐性問題により、除菌成功率が80%以上から70%前後まで低下していました 。
この問題に対する解決策として、胃液を用いた迅速耐性検査が保険適用となり、治療前に薬剤耐性の有無を調べることが可能になりました 。耐性菌に対しては薬剤の組み合わせを変更することで、除菌が可能です 。
参考)ピロリ菌について
2024年改訂版ガイドラインでは、耐性問題を考慮してボノプラザンベースの治療法が標準的に推奨され、これにより除菌成功率の向上が実現されています 。