グラム陰性菌一覧と感染症リスク管理

グラム陰性菌の分類と種類を一覧で解説し、病院や医療現場での感染症リスクと対策について詳しく説明します。どのような細菌が含まれるのでしょうか?

グラム陰性菌一覧と分類

グラム陰性菌の主要な分類
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腸内細菌科

大腸菌、肺炎桿菌、セラチア属など

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ブドウ糖非発酵菌

緑膿菌、アシネトバクター属など

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呼吸器関連菌

インフルエンザ菌、レジオネラ属など

グラム陰性菌の基本特徴と分類体系

グラム陰性菌は、グラム染色において赤色または桃色に染まる細菌群の総称で、薄いペプチドグリカン層と外膜を特徴とする細胞壁構造を持ちます 。これらの細菌は、大きく以下の5つの主要なグループに分類されます。
参考)グラム陽性菌、グラム陰性菌にはどのような菌が含まれますか? …

 

腸内細菌科(Enterobacteriaceae)

  • 大腸菌(Escherichia coli)
  • 肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)
  • セラチア属(Serratia spp.)
  • エンテロバクター属(Enterobacter spp.)
  • サルモネラ属(Salmonella spp.)
  • 赤痢菌(Shigella spp.)

    参考)グラム陰性桿菌

     

ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌

  • 緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)
  • アシネトバクター属(Acinetobacter spp.)
  • ステノトロフォモナス属(Stenotrophomonas maltophilia)

    参考)染方史郎の3分細菌楽

     

呼吸器関連グラム陰性菌

腸内細菌科の代表的なグラム陰性菌種

腸内細菌科は、グラム陰性菌の中でも最も臨床的に重要なグループの一つです。大腸菌は腸内常在菌として知られていますが、尿路感染症血流感染症の主要な原因菌でもあります 。成人の腸内では便1g当たり10の7乗個程度の大腸菌が生息しており、全細菌数の約1/1000を占めています。
参考)野本教授の腸内細菌と健康のお話18 「潰瘍性大腸炎」の治療に…

 

肺炎桿菌は院内感染の重要な原因菌として認識され、特に免疫不全患者や集中治療室(ICU)での感染リスクが高いことが知られています 。セラチア属菌やエンテロバクター属菌も同様に、日和見感染を起こす重要な病原菌として位置付けられています 。
参考)http://www.hyread.com.tw/doi/10.53106/199457952022031602012

 

これらの腸内細菌科の菌種は、細胞壁外層にリポ多糖(LPS)を持ち、内毒素として機能するという共通の特徴があります。このLPSは、感染時にエンドトキシンショックを引き起こす可能性があり、医療現場では特に注意が必要な病原因子です 。

ブドウ糖非発酵グラム陰性菌の特性

ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌は、その名の通りブドウ糖を発酵できない細菌群で、酸素を使った燃焼でのみエネルギーを得ることができる好気性菌です 。この群の代表格である緑膿菌は、「グリーンモンスター」とも呼ばれ、多剤耐性を獲得しやすい特徴があります。
緑膿菌は環境中に広く分布し、特に湿潤な環境を好みます。院内感染の原因としても重要で、人工呼吸器関連肺炎や尿路感染症、創部感染症など様々な感染症を引き起こします 。アシネトバクター属菌は「動かない菌」として知られ、鞭毛を持たない特徴があります。
ステノトロフォモナス・マルトフィリアは、比較的まれですが多剤耐性を示しやすく、免疫不全患者において重篤な感染症を引き起こす可能性があります 。これらのブドウ糖非発酵菌は、栄養要求性が低く、栄養分の乏しい環境でも長期間生存可能な特性を持っています 。
参考)III.どのような薬剤感受性を示す菌が要注意か - 2)アシ…

 

グラム陰性菌による病原性メカニズム

グラム陰性菌の病原性は、主に細胞壁の構造的特徴に由来します。最も重要な病原因子は、外膜に存在するリポ多糖類(LPS)で、これは内毒素として機能します 。LPSが血液中に侵入すると、発熱、呼吸促拍、低血圧などの症状を引き起こし、重篤な場合はエンドトキシンショックに至る可能性があります。
参考)グラム陰性菌とは何ですか?なぜグラム陰性菌が多くの病気を引き…

 

内毒素は宿主の免疫系を活性化し、炎症性サイトカインの産生を促進します。この免疫反応は本来感染に対する防御機構ですが、過剰な反応は宿主にとって有害となり、多臓器不全や敗血症などの生命を脅かす状況を引き起こします 。
さらに、多くのグラム陰性菌は運動性に関与する鞭毛を持ち、これも病原因子として機能します。鞭毛は菌の移動能力を高めるだけでなく、宿主の免疫反応を誘発する抗原としても作用します 。また、一部の菌種は各種毒素やエンザイムを産生し、組織破壊や感染拡大に寄与しています。

多剤耐性グラム陰性菌の課題

多剤耐性グラム陰性菌(MDRGN)は、現代医療における最も深刻な課題の一つです。特に、カルバペネム耐性腸内細菌目(CRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター(MDRA)は、医療関連感染症の主要な原因となっています 。
参考)https://amr.jihs.go.jp/pdf/201812_grams_chromosome.pdf

 

これらの多剤耐性菌による感染症は、治療選択肢が極めて限られており、患者の予後に深刻な影響を与えます。特に集中治療室(ICU)では、多剤耐性緑膿菌や多剤耐性アシネトバクターの前患者からの伝播リスクが高く、それぞれ2.3倍、4.2倍の感染リスク増加が報告されています 。
基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)産生菌も重要な多剤耐性菌で、主に大腸菌と肺炎桿菌で確認されています 。これらの菌は広域スペクトラムのβ-ラクタム系抗生物質に耐性を示し、治療に困難をもたらします。院内環境での長期生存能力と相まって、医療従事者や患者間での伝播リスクが高いことが問題となっています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/59516c41064daa217d98acb92e7e6c36ad88dad9

 

グラム陰性菌感染症の診断と治療戦略

グラム陰性菌感染症の診断には、迅速で正確な同定が不可欠です。グラム染色による形態学的観察では、これらの菌は赤色または桃色に染まり、多くは桿菌として観察されます 。培養検査による菌種同定と薬剤感受性試験は、適切な治療法選択のために必須の検査です。
参考)https://primary-care.sysmex.co.jp/speed-search/disease/index.cgi?c=disease-2amp;pk=257

 

治療戦略において、グラム陰性菌の外膜は多くの抗生物質に対するバリア機能を果たしており、ペニシリンやリゾチームに対する天然耐性を示します 。そのため、治療には外膜を透過できる抗生物質の選択が重要です。クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、ナリジクス酸、アンピシリン(EDTAとの併用時)などが有効とされています。
現在では、カルバペネム系、フルオロキノロン系、アミノグリコシド系抗生物質が多剤耐性グラム陰性菌に対する治療の中心となっています 。しかし、これらの薬剤に対する耐性も増加しており、新規抗菌薬の開発や併用療法の検討が急務となっています。感染制御の観点からは、標準予防策と接触感染予防策の徹底が重要です 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000903818.pdf