嘔気と悪心の違いについて医療従事者が知るべきこと

医療現場でよく使われる「嘔気」と「悪心」という用語の正確な違いや使い分けを医学的観点から詳しく解説します。患者の症状を適切に理解するためのポイントとは?

嘔気と悪心の違い

嘔気と悪心の基本的違い
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医学用語の正確な定義

医学的には嘔気と悪心は同じ症状を指す同義語として使用される

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実際の使い分け

文献や医療機関によって用語の選択に微細な違いが存在する

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嘔吐との関係

両者とも嘔吐に先行する不快感を表し、実際の排出行為とは区別される

嘔気と悪心の医学的定義における共通点

医学的観点から見ると、嘔気(おうき)と悪心(おしん)は本質的に同じ症状を指しています 。どちらも「吐きそうになる不快感」や「胃がムカムカする感覚」を表現する医学用語として使用されており、患者が「吐き気がする」と表現する症状の正式名称となります 。
参考)https://www.kyoukaikenpo.or.jp/~/media/Files/kochi/20140325001/oshinouto.pdf

 

これらの用語は、心窩部から前胸部にかけて生じる「吐きたい」という切迫した不快な感覚を表現しており、必ずしも実際の嘔吐に至らない場合も含まれます 。医学中央雑誌などの医学文献においても、nauseaの日本語訳として「嘔気」または「悪心」が同義語として並記されることが一般的です 。
参考)https://www.jspm.ne.jp/files/guideline/gastro_2011/01_04.pdf

 

このような定義の共通性は、両用語が延髄の嘔吐中枢の求心性刺激の認識を表すという生理学的メカニズムに基づいています 。
参考)悪心および嘔吐 - 01. 消化管疾患 - MSDマニュアル…

 

嘔気における自律神経症状の特徴

嘔気症状は単なる胃の不快感にとどまらず、様々な自律神経症状を伴う全身症状として現れることが特徴的です 。具体的な症状として、皮膚の蒼白、冷汗の分泌、唾液分泌の増加、頻脈、さらには下痢といった多様な自律神経反応が併発します 。
参考)悪心・嘔吐vol.1 悪心・嘔吐とは[医療技術情報]

 

この自律神経症状の出現は、嘔気が脳幹の嘔吐中枢と密接に関連していることを示しており、交感神経と副交感神経のバランス異常によって引き起こされます 。特に自律神経失調症の患者では、嘔気とともに動悸、めまい、頭痛、倦怠感などの症状が同時に現れることが多く報告されています 。
参考)自律神経失調症で吐き気は起こる?4つの原因と治療法を徹底解説…

 

また、嘔気に伴う窮迫した胃腸感覚は、次第に吐き気から実際の嘔吐行為へと発展する可能性があり、横隔膜と腹壁筋の痙攣性の動きを引き起こす段階へと進行することがあります 。

悪心の病態生理学的メカニズム

悪心の発症メカニズムは、延髄にある嘔吐中枢(vomiting center: VC)への多様な刺激経路によって説明されます 。主要な刺激経路として、化学受容器引金帯(chemoreceptor trigger zone: CTZ)、末梢の消化管からの刺激、前庭器からの入力、大脳皮質からの影響が挙げられ、これらが単独または複数同時に作用することで悪心が生じます 。
参考)https://www.kitahari-mc.jp/files/41456.pdf

 

消化管求心路を介した刺激では、胃や小腸の粘膜が刺激を受けると迷走神経を経由して嘔吐中枢に信号が送られます 。一方、前庭器からの刺激は主に乗り物酔いやメニエール病などの内耳疾患に関連し、化学受容器引金帯への刺激は薬剤や代謝産物による影響を反映しています 。
参考)吐き気・嘔吐【会津若松市の消化器内科】渋川クリニック

 

特に注目すべき点は、悪心を伴わない突然の嘔吐は中枢性嘔吐を示唆するという臨床的特徴で、脳腫瘍、脳出血、髄膜炎などの脳圧上昇を伴う疾患では、前駆症状なしに嘔吐が発生することが知られています 。
参考)悪心・嘔吐

 

嘔気と悪心の臨床的評価における独自視点

医療現場における嘔気と悪心の評価では、症状の発現時期と持続時間による分類が治療戦略上重要な意味を持ちます 。化学療法関連の嘔気・悪心では、急性(24時間以内)、遅発性(24時間以降)、突出性、予期性という時間軸での分類が確立されており、それぞれ異なる薬物療法アプローチが必要となります 。
参考)悪心・嘔吐

 

また、患者の主観的表現と医療従事者の客観的評価の間にはしばしば乖離が見られることも重要な観点です 。患者は「気持ち悪い」「胃がムカムカする」「吐きそう」などの多様な表現を使用するため、これらの主観的訴えを医学的な嘔気・悪心として適切に解釈し、標準化された評価スケールを用いることが推奨されます。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/9a61a2e04ad3024d6036f7ce8fdb1060b8d6e1fd

 

さらに、嘔気・悪心は進行がん患者の40~70%に現れる頻度の高い症状であり、特に女性、65歳以下の患者、乳がんや胃がんの患者で高い発現率を示すという疫学的特徴も臨床評価において考慮すべき要素となります 。

嘔気・悪心と消化器疾患の関連性

嘔気・悪心症状は多様な消化器疾患の重要な初期症状として現れることが多く、症状パターンの詳細な観察が診断の手がかりとなります 。急性胃腸炎では嘔気に続いて嘔吐、下痢が出現し、胃潰瘍では食後の心窩部痛と関連して嘔気が生じることが典型的です 。
参考)嘔吐

 

胆嚢炎や胆管炎では、右季肋部痛とともに嘔気・悪心が現れ、膵炎では激しい腹痛と持続性の嘔気が特徴的な症状パターンを示します 。また、腸閉塞・イレウスでは嘔気から始まり、腹部膨満、排便・排ガス停止へと進行する典型的な経過を辿ります 。
特に原発性小腸癌のような稀な疾患でも、長期間持続する心窩部痛、悪心、嘔気が初期症状として現れることがあり 、消化器疾患における嘔気・悪心の鑑別診断では、症状の持続期間、随伴症状、発症パターンの詳細な評価が不可欠です。これらの情報を総合的に分析することで、適切な診断と治療方針の決定が可能となります。
参考)302 Found