上部気道感染症は咽頭や喉頭、鼻などに発症する感染症で、日常的に最も遭遇する頻度の高い感染症群です。主要な疾患には急性咽頭炎、急性扁桃炎、急性喉頭炎、気管炎が含まれ、一般的に風邪症候群と呼ばれる症状を呈します。これらの感染症は咳、のどの痛み、鼻水、発熱などの症状が特徴的で、多くの場合ウイルス感染が原因となります。
参考)https://www.nhs.uk/conditions/respiratory-tract-infection/
上部気道感染症の病原体としては、ライノウイルス、アデノウイルス、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルスが主要なウイルスとして知られています。また、A群溶血性レンサ球菌による細菌感染も重要な原因の一つです。COVID-19パンデミック後の疫学的変化により、これらの病原体の流行パターンにも変化が見られています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11697200/
下部気道感染症は気管、気管支、肺に発症する感染症で、上部気道感染症と比較して重篤な経過をたどることが多く、入院治療を要する場合があります。主要な疾患には気管支炎、細気管支炎、肺炎が含まれ、特に高齢者や基礎疾患を有する患者では重症化リスクが高くなります。
参考)呼吸器感染症
肺炎の原因菌として最も多いのは肺炎球菌で、その他にもインフルエンザ菌、マイコプラズマが重要な病原体となっています。特に高齢者では肺炎球菌による感染が多く、65歳以上の方には肺炎球菌ワクチンによる予防が推奨されており、その有効率は60~70%とされています。また、嚥下機能が低下した患者では誤嚥性肺炎のリスクが高く、口腔ケアや食事時の注意が重要です。
参考)肺炎(細菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎など)
ウイルス性呼吸器感染症は上気道または下気道に発症し、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、ライノウイルスなどが主要な病原体となります。COVID-19パンデミック以降、これらのウイルスの疫学に大きな変化が生じており、特に2023年以降はインフルエンザA型やその他の既知ウイルスによる感染症が急増しています。
参考)https://journals.asm.org/doi/10.1128/spectrum.04162-22
RSウイルス感染症は乳幼児だけでなく成人、特に高齢者においても重要な病原体となっています。成人・高齢者におけるRSV感染では発熱、咳嗽、喀痰、喘鳴、呼吸困難などを合併することが多く、肺炎を発症すると予後不良であり、患者の15%程度に肺炎球菌やインフルエンザ菌などによる二次感染が認められます。高齢者でのRSV感染症の入院治療症例はインフルエンザと同等の致命率を引き起こすことが示されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10474936/
細菌性呼吸器感染症は肺炎球菌、インフルエンザ菌(インフルエンザウイルスとは異なる)、モラキセラ・カタラーリスが主要な原因菌となっています。小児科領域では特にこれら3種の菌が重要な病原体とされており、成人においても同様の傾向が見られます。
参考)⼩児感染症
肺炎球菌による感染は最も頻度が高く、特に高齢者や基礎疾患を有する患者では重症化しやすい特徴があります。治療には通常ペニシリンやセフェム系抗生物質が使用され、良好な治療効果が期待できます。また、65歳以上の高齢者や慢性疾患を抱えている方では、肺炎球菌ワクチンによる予防接種が強く推奨されています。
非定型肺炎は通常の細菌以外の病原体によって引き起こされる肺炎で、主にマイコプラズマ・ニューモニエ、クラミジア・ニューモニエ、クラミジア・シッタシ、レジオネラ属菌が原因となります。若年者の肺炎の約半数を占めており、特にマイコプラズ
参考)非定型肺炎(atypical pneumonia)