ラクタムは環内にアミド基(-CONH-)を持つ複素環式化合物の総称で、アミノ酸のカルボキシル基とアミノ基が分子内で脱水縮合して形成される環状アミドです 。環を構成する炭素数によって分類され、4員環のβ-ラクタム、5員環のγ-ラクタム、6員環のδ-ラクタム、7員環のε-ラクタムと順次命名されます 。
参考)ラクタム - Wikipedia
特に医療分野で注目されるのは4員環のβ-ラクタムで、これは窒素原子がカルボニルのβ炭素に結合している特異な構造を持ちます 。β-ラクタム環は環ひずみの存在により、非環式アミドや大きなラクタムと比べて高い反応性を示すのが特徴です 。
参考)β-ラクタム - Wikipedia
ラクタムは一般に融点の低い固体で、水、エタノール、エーテルなどによく溶解し、弱い塩基性と酸性を併せ持つ両性化合物として知られています 。強酸や強アルカリと加熱すると加水分解されて相当するアミノ酸塩になる性質があります 。
参考)ラクタム(らくたむ)とは? 意味や使い方 - コトバンク
ラクトンは同分子内のヒドロキシ基(-OH)とカルボキシ基(-COOH)が脱水縮合することにより生成する環状エステルです 。炭素原子が2個以上、酸素原子が1個からなる複素環式化合物で、環を形成する酸素原子に隣接した炭素原子にカルボニル基(=O)が置換した構造を持ちます 。
参考)ラクトン - Wikipedia
5-6員環のラクトン構造はテルペン類などの天然物に多く存在し、香気成分やフェロモンによく見られます 。例えば、γ-ノナラクトンはモモやアンズに、γ-デカラクトンやγ-ウンデカラクトンはモモなどの果実に天然に含まれています 。
特筆すべきは、16員環のエキサルトリドのような大環状ラクトンが麝香臭を持つ香料として著名である点です 。ラクトンの多くは芳香を持ち、14-17員環の大環状ラクトンは特に麝香の香りを持つことで知られています 。
参考)ラクトン(らくとん)とは? 意味や使い方 - コトバンク
β-ラクタム系抗生物質は現在最も多用されている抗生物質の一つで、全抗菌薬販売量の約37%を占めています 。この系統の抗生物質にはペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系、モノバクタム系が含まれ、いずれもβ-ラクタム環を核構造として持ちます 。
参考)β-ラクタム系抗生物質 - Wikipedia
これらの抗生物質の作用機序は、細菌特有の細胞壁合成酵素に特異的に阻害作用を示すことです 。細菌の細胞壁はペプチドグリカンを主成分とする細菌特有の構造で、細胞壁合成酵素を阻害されると細菌は細胞分裂ができなくなる静菌作用、または細胞壁が浸透圧に耐えられず破裂する殺菌作用を示します 。
β-ラクタム系抗生物質の特徴は毒性の低さにあり、これは細菌特有の細胞壁合成酵素に特異的に作用するためです 。ただし、細胞壁を持たないマイコプラズマや、異なる細胞壁を持つ真菌、古細菌には効果がありません 。
ラクタムの合成には複数の方法があります。最も一般的なのはベックマン転位、シュミット反応、アミノ酸の環化反応です 。特にε-ラクタム以上の大環状ラクタムは、環状ケトンオキシムのベックマン転位により合成されます 。β-ラクタムについては、イミンとケテンの反応やBreckpot Synthesisと呼ばれるグリニャール試薬を用いた手法が知られています 。
一方、ラクトンの合成は主にヒドロキシ酸(ヒドロキシカルボン酸)の分子内脱水により行われます 。特に5-6員環程度の構造では、酸触媒添加のもとでヒドロキシ酸の分子内脱水によりラクトンを合成するのが基本的な方法です 。
参考)ラクトンの定義と合成方法
興味深いことに、ラクトンはラクタムより求電子性が高いため、有機リチウム試薬などの求核剤は求電子性の高いラクトン選択的に反応することが知られています 。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/tennenyuki/59/0/59_7/_pdf/-char/ja
β-ラクタム系抗生物質の重要な課題として薬剤耐性があります。β-ラクタマーゼは細菌によって産生される酵素群で、β-ラクタム環を開裂させてβ-ラクタム系抗菌薬を不活化します 。現在、様々な種の細菌から1,800以上の異なるβ-ラクタマーゼ酵素が記録されており、化学構造や触媒効率は多様です 。
参考)β-ラクタム系 - 13. 感染性疾患 - MSDマニュアル…
薬剤耐性化には主に3つのメカニズムが関与しています:①外膜変化による低透過性、②β-ラクタマーゼによる薬剤の不活化、③多剤排出ポンプによる能動的な薬剤排出機構です 。
参考)作用機序と耐性化メカニズム
この問題に対処するため、β-ラクタマーゼ阻害薬が開発されています。クラブラン酸、スルバクタム、タゾバクタムなどがペニシリナーゼを阻害する代表例です 。これらの阻害薬はβ-ラクタム系抗菌薬と併用されることで、薬剤耐性菌に対する治療効果を維持しています 。