トミポランとは薬剤セフブペラゾンナトリウム第二世代セフェム系抗生物質

トミポランとはセフブペラゾンナトリウムを主成分とする第二世代セフェム系抗生物質で、幅広い細菌感染症に用いられる医薬品ですが、その特徴や適応症について詳しく理解していますか?

トミポランとは薬剤特徴適応症

トミポランの基本情報
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成分と分類

セフブペラゾンナトリウムを主成分とする第二世代セフェム系抗生物質

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抗菌スペクトル

グラム陽性菌から陰性菌、嫌気性菌まで幅広い抗菌力を発揮

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安全性プロファイル

副作用発現率3.52%と比較的良好な安全性を持つ薬剤

トミポラン薬剤概要基本構造

トミポラン(一般名:セフブペラゾンナトリウム)は、1985年に日本で承認された第二世代セフェム系抗生物質です。分子式C22H28N9NaO9S2、分子量649.64の化合物で、βラクタム環の隣に六員環を持つ特徴的な構造を有しています。
参考)https://www.weblio.jp/content/Tomiporan

 

この薬剤は富山化学工業と大正富山医薬品から「トミポラン静注用1g」として製造販売されており、セファマイシン型ウレイド型MTT基を持つ特殊なセフェム系抗生物質として分類されています。βラクタム系抗菌薬の中でも、特にβラクタマーゼに対する安定性が高く、耐性菌に対しても強い抗菌力を発揮する点が大きな特徴となっています。
参考)http://www.antibiotic-books.jp/drugs/19?s=3

 

製剤としては注射用の凍結乾燥製剤として供給され、使用時に注射用水や生理食塩液で溶解して静脈内投与または筋肉内投与で使用されます。医療現場では主に重篤な細菌感染症の治療に用いられ、特に多剤耐性菌による感染症に対する有効な治療選択肢として位置づけられています。
参考)https://www.nichiiko.co.jp/medicine/file/55280/blending/55280_blending.pdf

 

トミポラン抗菌スペクトル作用機序

トミポランの抗菌作用機序は、他のセフェム系抗生物質と同様に、細菌の細胞壁ペプチドグリカン合成を阻害することにあります。具体的には、ペプチドグリカン架橋形成に必要なペプチド間結合反応の最終段階を阻害し、細菌の細胞壁合成を妨げることで殺菌的に作用します。
参考)https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%B3

 

特徴的な抗菌スペクトルとして、グラム陽性菌グラム陰性菌から嫌気性菌まで幅広い菌種に対して強い抗菌力を示します。腸内細菌や嫌気性菌に対して特に優れた活性を持ち、セフメタゾール(CMZ)とともに嫌気性菌感染症の治療に重要な役割を果たしています。
参考)https://www.weblio.jp/content/%E8%85%B8%E5%86%85%E7%B4%B0%E8%8F%8C%E3%80%81%E5%AB%8C%E6%B0%97%E6%80%A7%E8%8F%8C%E3%81%AB%E7%94%A8%E3%81%84%E3%82%8B%E3%82%BB%E3%83%95%E3%82%A1%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%9D%E3%83%AA%E3%83%B3?dictCode=WKPKM

 

βラクタマーゼに対する安定性が高く、βラクタマーゼ産生菌に対しても有効性を維持します。これは薬剤の分子構造中のメトキシ基やMTT基の存在によるもので、特に第一世代セフェムでは効果の期待できない耐性菌に対しても治療効果を発揮する重要な特性です。
参考)http://www.antibiotic-books.jp/drugs/19

 

さらに興味深い特徴として、白血球との協力的殺菌作用を示すことがin vitroで確認されており、生体の免疫機能と相乗的に働いて感染制御に貢献します。

トミポラン適応症使用方法

トミポランは多様な感染症に適応を持つ抗菌薬として使用されています。主な適応症として、呼吸器感染症尿路感染症、腹腔内感染症、婦人科感染症、皮膚軟部組織感染症などが挙げられます。特に腹腔内感染症においては、嫌気性菌に対する優れた抗菌活性により第一選択薬の一つとして位置づけられています。
参考)https://assets.di.m3.com/pdfs/00060306.pdf

 

投与方法は静脈内注射または筋肉内注射で、成人の標準用量は1日1~2g(力価)を2回に分けて投与します。重症感染症や難治性感染症の場合は、症状に応じて1日量6g(力価)まで増量し、2~4回に分割投与することが可能です。
参考)http://www.antibiotic-books.jp/drugs/30?s=3

 

小児においては、体重1kgあたり25~100mg(力価)/日を2~4回に分けて静脈内投与し、重症例では150mg(力価)/kgまで増量できます。筋肉内注射の際は0.5%リドカイン注射液に溶解して使用し、疼痛の軽減を図ります。
点滴静脈内投与では、注射用水、生理食塩液、ブドウ糖注射液などの補液に溶解して緩徐に投与します。溶解後は速やかに使用することが推奨され、室温での安定性は限られているため適切な取り扱いが必要です。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/medical_interview/IF00002342.pdf

 

トミポラン副作用安全性プロファイル

トミポランの安全性プロファイルは比較的良好で、23,945例の臨床使用における副作用発現率は3.52%(844例)と報告されています。最も頻繁に観察される副作用は、抗生剤一般に見られる発疹、下痢、AST(GOT)・ALT(GPT)の上昇などです。
重大な副作用として注意すべきものには、ショック・アナフィラキシー(頻度不明)、急性腎障害(頻度不明)、偽膜性大腸炎(頻度不明)があります。これらは生命に関わる可能性があるため、投与中は十分な観察と早期発見・早期対応が重要です。
参考)https://www.carenet.com/drugs/category/antibiotics/6139500F1024

 

その他の副作用として、過敏症(発疹、そう痒、蕁麻疹、紅斑)が0.1~1%未満で発現し、血液・造血器系では赤血球減少、血小板増多、白血球減少、好酸球増多などが報告されています。消化器症状では下痢、軟便、吐き気・嘔吐が比較的多く、肝機能異常も0.1~1%の頻度で観察されます。
特徴的な副作用として、MTT基を含有するセフェム系抗生物質に共通するAntabuse様作用があり、アルコール摂取により潮紅、悪心、頻脈、多汗、頭痛などの症状が現れることがあります。また、ビタミンK欠乏による出血傾向も稀に報告されており、特に高齢者や長期投与例では注意が必要です。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00059942

 

トミポラン耐性菌問題現代医療課題

現代の感染症治療において、トミポランを含むセフェム系抗生物質に対する細菌耐性の問題が深刻化しています。β-ラクタマーゼ産生菌の増加により、従来有効であった多くのβ-ラクタム系抗菌薬の効果が減弱している現状があります。
参考)https://antibacterial-tests-for-animals.com/column/%E7%AC%AC%E5%8D%81%E4%B9%9D%E5%9B%9E%EF%BC%9A%E7%AC%AC%E4%BD%95%E4%B8%96%E4%BB%A3%EF%BC%81%EF%BC%9F%E7%A8%AE%E9%A1%9E%E3%81%8C%E5%A4%9A%E3%81%99%E3%81%8E%E3%82%8B%E3%82%BB%E3%83%95%E3%82%A7%E3%83%A0/

 

特に問題となるのは、ESBL(Extended-Spectrum β-Lactamase)産生腸内細菌科細菌の拡大です。これらの菌株は第三世代セフェム系に高度耐性を示し、治療選択肢を大幅に制限します。トミポランのようなセファマイシン系は、一部のESBL産生菌に対して有効性を保持する場合がありますが、絶対的な解決策ではありません。
院内感染対策の観点から、抗菌薬の適正使用が極めて重要となっています。薬剤耐性菌の発現を防ぐため、培養・感受性検査に基づく的確な薬剤選択と、治療に必要な最小限の期間での投与が推奨されています。
参考)https://med.sawai.co.jp/file/pr1_111.pdf

 

また、SPACEグループ(Serratia、Pseudomonas、Acinetobacter、Citrobacter、Enterobacter)と呼ばれる菌群に対する治療戦略も重要な課題です。これらの菌は染色体性AmpCβ-ラクタマーゼを誘導的に産生し、多くのセフェム系抗生物質に耐性を示すため、カルバペネム系やキノロン系への依存度が高まっています。
参考)https://hospinfo.tokyo-med.ac.jp/shinryo/kansen/data/luncheon_2020_04.pdf

 

トミポランの臨床的価値を維持するためには、感染制御チーム(ICT)による継続的な薬剤使用監視と、地域全体での耐性菌サーベイランスが不可欠です。医療従事者は常に最新の耐性菌情報を把握し、適切な抗菌薬選択を行うことで、貴重な治療手段を次世代に継承していく責任があります。