セフトリアキソンナトリウム水和物(ロセフィン)は、第3世代セファロスポリン系抗生物質として、その分子構造に含まれるβ-ラクタム環が細菌の生存に不可欠な細胞壁合成を阻害することで殺菌作用を発揮します。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/5c498ac74fcf3dc1e3f35edd42a1550b4cc6071a
作用機序は細菌表面のペニシリン結合タンパク質(PBPs)との結合にあり、大腸菌では特にPBP3に最も高い親和性を示し、次いでPBP1a、1b、2の順で結合することが確認されています。この結合により、ペプチドグリカン層の正常な構築が妨げられ、細菌は細胞構造を維持できなくなり溶菌に至ります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00049429.pdf
セフトリアキソンの特徴的な薬物動態として、血中半減期が約6時間と長く、高い血中濃度が24時間持続するため、1日1回投与で十分な治療効果が得られる点が挙げられます。この長い半減期により、外来治療においても利便性の高い抗菌薬として位置づけられています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC181765/
薬物動態パラメータ
セフトリアキソンは、広域スペクトラムを有する抗菌薬として、グラム陽性菌ではブドウ球菌属、レンサ球菌属、肺炎球菌に、グラム陰性菌では淋菌、大腸菌、シトロバクター属、クレブシエラ属、エンテロバクター属などに有効性を示します。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00049429
呼吸器感染症領域では、肺炎球菌やインフルエンザ菌による市中肺炎、院内肺炎に対して卓越した抗菌力を発揮し、特に慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪期にも積極的に使用されています。
参考)https://kobe-kishida-clinic.com/respiratory-system/respiratory-medicine/ceftriaxone-sodium-hydrate/
尿路感染症や性感染症では、淋菌感染症に対する第一選択薬として位置づけられており、咽頭・喉頭炎、尿道炎、子宮頸管炎に対しては通常1g(力価)を単回投与で治療します。
参考)https://0thclinic.com/medicine/ceftriaxone
主要な適応疾患
成人における標準的な用法用量は、1日1-2g(力価)を1回または2回に分けて静脈内注射または点滴静注で投与します。難治性または重症感染症の場合には、症状に応じて1日量を4g(力価)まで増量し、2回に分けて投与することが可能です。
参考)https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med_product?id=00049429
小児では体重1kgあたり20-60mg(力価)を1日量とし、1回または2回に分けて投与します。新生児や低出生体重児では、より慎重な用量調整が必要となります。
参考)https://www.carenet.com/drugs/category/antibiotics/6132419F2026
腎機能障害患者においても、クレアチニンクリアランスが正常範囲内であれば用量調整は不要で、1日1-2gの通常用量で投与可能です。この特徴により、腎機能低下時にも比較的安全に使用できる抗菌薬として評価されています。
参考)https://hokuto.app/antibacterialDrug/JonQdMKQ1mleSCdBViHH
投与経路別の特徴
セフトリアキソンの副作用として最も頻度が高いのは消化管症状で、下痢、腹痛、悪心などが報告されています。これらは腸内細菌叢の変化によるもので、重篤な場合には偽膜性大腸炎に進展する可能性があるため注意が必要です。
参考)https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=45002
過敏症反応として、発疹、蕁麻疹、発熱、そう痒症などが1%以上の頻度で報告されており、β-ラクタム系抗生物質に対するアレルギー歴のある患者では交差反応のリスクが存在します。
特徴的な副作用として、セフトリアキソンを成分とする胆石や胆嚢内沈殿物の形成があり、特に小児の重症感染症への大量投与例で多く見られています。また、腎・尿路結石の形成により尿量減少や血尿を引き起こすことも報告されています。
重大な副作用(頻度不明)
セフトリアキソンは、カルシウム含有輸液との配合により沈殿を形成するリスクがあるため、同時投与は避けるべきとされています。この相互作用は、セフトリアキソンとカルシウムイオンが結合して不溶性の複合体を形成することによるものです。
参考)https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/296-2.pdf
高度腎障害患者では、意識障害、痙攣、不随意運動などの精神神経症状が多数報告されており、特に意識消失や意識レベル低下などの重篤な症状に注意が必要です。
妊娠中の使用については、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合のみ投与を検討し、授乳中では本剤が乳汁中に移行するため授乳を避けることが推奨されています。
特別な注意を要する患者群
近年の研究では、セフトリアキソンがGSK3β(グリコーゲン合成酵素キナーゼ3β)の阻害作用を示すことが分子ドッキング研究で明らかになり、癌やアルツハイマー病に対する潜在的な治療効果についても検討されています。この発見は、従来の抗菌作用を超えた新たな治療可能性を示唆しており、今後の臨床応用に期待が寄せられています。