悪性症候群の症状は多岐にわたりますが、主に高熱、錐体外路症状、意識障害、自律神経症状の4つに分類されます。高熱は通常38℃以上で、多くの場合40℃を超える高体温を呈することが特徴です。原因が不明な発熱に加えて、血圧変動や頻脈、発汗といった自律神経症状がみられる場合は、悪性症候群を強く疑う必要があります。
参考)悪性症候群 - 25. 外傷と中毒 - MSDマニュアル家庭…
錐体外路症状としては、全身性の重度な筋硬直(筋固縮)が特徴的で、鉛管様筋強剛として現れることが多く、振戦が同時にみられることもあります。構音障害や嚥下障害を伴うこともあり、これらの症状から誤嚥性肺炎のリスクが高まるため注意が必要です。腱反射は低下する傾向にあり、これも診断の手がかりとなります。
参考)神経遮断薬による悪性症候群 - 22. 外傷と中毒 - MS…
意識障害は、反応がなくなったり昏睡状態に陥ったりすることもあります。340例の検討では、70%で精神状態の変化が初発症状であり、その後に筋強剛、高熱、自律神経異常という経過を辿ることが報告されています。最も初期には激越を呈するせん妄として現れ、傾眠または無反応へと進行することがあります。
参考)悪性症候群とは?症状の特徴,対処方法,発症率の変化|名古屋,…
悪性症候群の症状は、該当の薬剤を服用してから必ず起きるわけではなく、発症頻度は0.07~2.2%程度とされています。ほとんどの症例が原因薬剤の投与後、減量後、中止後の1週間以内に発症します。症状は治療・服薬を開始してから数週間以内に現れるのが一般的で、最初の2週間に始まることが多いですが、より早期に、または何年も後に出現することもあります。
参考)悪性症候群とは? 三大症状の特徴や診断・治療法を分かりやすく…
抗精神病薬の投与から症状が起きるまでに1~2週間かかるケースが多く、早期の診断が難しいところが難点です。通常、4つの特徴的な症状が数日間にわたって、精神状態の変化、運動異常、高体温、自律神経の活動亢進の順で現れることが多いとされています。ただし、必ずしも4徴候が揃うわけではなく、単独で悪性症候群の前兆と判断することもできないため、複数の症状が起こっていないかを見極めて早期に対応することが重視されます。
参考)http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-seireihamamatsu-20240227.pdf
悪性症候群では、筋肉の損傷を反映する血清クレアチンキナーゼ(CK)の値が、しばしば1,000 IU/L以上に上昇します。血清CKの値は悪性症候群の重症度と相関し、予後とも関連するといわれており、重要な診断マーカーとなっています。大症状として発熱、筋強直、CK値の上昇が挙げられており、これら3つが揃うことが診断において重要です。
参考)https://www.jaam.jp/dictionary/dictionary/word/0103.html
白血球数の増加が多くの症例で認められることも特徴的です。小症状としては頻脈、頻呼吸、血圧異常、意識変容、発汗、白血球増多が挙げられ、大症状3つ、または大症状2つ+小症状4つ以上と臨床検査値を参考に診断されます。悪性症候群に特徴的ではないものの、血中肝酵素の上昇、血中電解質の異常(低カルシウム、低マグネシウム、低ナトリウム、高ナトリウムなど)が認められる場合もあります。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E6%82%AA%E6%80%A7%E7%97%87%E5%80%99%E7%BE%A4
悪性症候群は重篤な合併症を引き起こす可能性があり、生命を脅かす状態に進行することがあります。腎不全は主要な合併症の一つで、筋肉の収縮から骨格筋組織の融解を併発し、排尿困難や血尿(ミオグロビン尿)、急性腎不全を含む腎障害を起こします。
参考)悪性症候群の看護|抗精神病薬の副作用や悪性症候群の原因と看護…
肺炎や呼吸不全も重要な合併症です。高熱と筋肉が固まることにより呼吸不全や肺炎となることがあり、構音障害や嚥下障害から誤嚥性肺炎のリスクが高まります。実際に、悪性症候群に重篤な細菌性肺炎を合併して死亡した症例も報告されています。
参考)https://www.npojip.org/sokuho/no142-11.pdf
重症化した場合、代謝性アシドーシス(体内が酸性化し、呼吸不全、強い脱力感、吐き気、血圧低下)やDIC(播種性血管内凝固症候群、血液凝固反応が全身の血液内で無秩序に起きる症状)を起こし、数時間内に死亡することもありえます。不整脈や発汗による脱水にも注意が必要で、自律神経症状として初期から認められることが多いです。
悪性症候群は他の疾患と症状が類似しているため、鑑別診断が重要です。特にⅢ度熱中症との鑑別が困難な場合があり、実際に熱中症との鑑別に苦慮した症例も報告されています。悪性症候群は熱中症、脳炎や髄膜炎、敗血症、セロトニン症候群などと症状が類似しており、しばしば鑑別を要します。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jaamkanto/41/2/41_310/_pdf
セロトニン症候群は悪性症候群と誤診されやすい疾患で、いくつかの点で鑑別が可能です。発症時期については、セロトニン症候群は24時間以内であるのに対し、悪性症候群は数日から数週間かかります。神経筋症状では、セロトニン症候群は過敏性亢進(振戦、クローヌス、反射亢進)を示すのに対し、悪性症候群は強い筋強剛がみられます。腱反射亢進やミオクローヌスは悪性症候群では稀です。
参考)http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-140610-showa.pdf
原因物質もセロトニン症候群はセロトニン作動薬、悪性症候群はドーパミン阻害薬と異なります。治療法については、セロトニン症候群はベンゾジアゼピンやシプロヘプタジン、悪性症候群はブロモクリプチンが用いられます。改善がみられるのはセロトニン症候群が24時間以内、悪性症候群は数日から数週間です。ただし、高熱、精神状態の変化、筋強剛、白血球上昇、CPK上昇、代謝性アシドーシスは両方の疾患でみられるため注意が必要です。
悪性症候群の詳しい原因は解明されていませんが、原因となる薬剤は中枢神経でドパミンD2受容体を阻害する作用を持つ全ての薬剤が挙げられ、最も多いものは抗精神病薬です。ドパミン受容体遮断仮説が支持されており、黒質線条体ー中脳辺縁系ー視床下部のドパミン作動性ニューロンにおけるドパミン受容体の遮断が発症のトリガーとされています。
参考)悪性症候群について パーキンソン病の方に役立つ基礎知識vol…
発症機序と病態は十分に解明されていませんが、黒質線条体や視床下部での急激で強力なドパミン受容体遮断、あるいはドパミン神経系と他のモノアミン神経系との協調の障害といったドパミン神経系仮説が支持されています。その根拠として、①原因薬剤の多くは共通してドパミン受容体遮断作用を有する、②ドパミン作働薬の中断が時に悪性症候群を惹起する、③ブロモクリプチン等のドパミン作働薬が悪性症候群に有効であることがある、といった点が挙げられます。
参考)公益社団法人 福岡県薬剤師会 |質疑応答
最近の研究では、ドパミン系の機能低下だけでは悪性症候群の多彩な症状を説明することが難しく、ドパミン系の機能低下に加えて、セロトニン系の機能亢進が関与していると考えられています。その他、ノルアドレナリン(ノルエピネフリン)やコリン系等の神経伝達系の関与、ドパミンD2・D3受容体遺伝子多型との関連、薬物代謝酵素CYP2D6遺伝子多型の欠失との関連も報告されています。
参考)悪性症候群の原因・症状と経過|心療内科・精神科|うつ病治療の…
悪性症候群の診断ポイントは、筋固縮・高熱・血清CKの上昇がすべて見られるかどうかです。3つの症状がすべて出ている場合、悪性症候群と診断できます。また、三大症状のうち2つの症状が出ている状態で、次の症状のうち4つを満たした際にも悪性症候群と診断されます:頻脈、頻呼吸、高血圧・低血圧、意識の変容、異常な発汗、白血球の増多。
悪性症候群の診断は、原因となり得る薬剤の服用歴と、症状・検査所見に基づき行われます。これまで複数の診断基準が提唱されており、多少は基準の項目や厳密さに相違はあるものの、極端に大きな違いはありません。診断を確定するための検査はありませんが、悪性症候群を引き起こすことが知られている薬を服用している人に、特徴的な症状や身体所見(特に重度の筋硬直)がみられる場合、医師は神経遮断薬による悪性症候群を疑います。
他の病気(例えば、髄膜炎や敗血症)でも同様の症状が現れることがあるため、医師はしばしばこうした病気の検査を行います。当然ながら、鑑別診断のために各種血液・生化学検査、頭部画像検査(MRI)、脳波検査、髄液検査などを行う必要があります。悪性症候群は悪化により致死的となる危険もあるため、早期診断が必要で、発熱が微熱程度であったり血清CK値に大きな異常がなかったりしても、臨床徴候が認められ、疑いがある場合には早期介入を検討する必要があります。
悪性症候群の治療としてはまず抗精神病薬の中止が原則です。悪性症候群を引き起こした薬の使用を中止し、発熱を管理します(皮膚を濡らして[霧を吹きかけて]風を送って冷やすか、または特殊な冷感ブランケットをかけるなど)。患者は通常、集中治療室で治療を受けます。
参考)https://seiwakai-shimane.com/blog/?page_id=558
全身管理としては、クーリング、補液・電解質バランスの是正、呼吸・循環動態の管理、合併症の治療・予防が重要です。興奮が激しい場合、鎮静薬を静脈内投与し、精神症状にはベンゾジアゼピンで対応します。適切な治療が可能な施設への転送も含めて検討する必要があります。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/96/8/96_1627/_pdf
治療薬としてはダントリウム(ダントロレン)の点滴が最も有効です。通常、成人にはダントロレンナトリウム水和物として、初回量40mg(2バイアル)を点滴静注し、効果が不十分の場合は20mgずつ増量(最高200mg)します。最大投与期間は7日間までで、点滴終了後は内服で1日3~6カプセル(75~150mg)を2~3週間投与します。ダントロレンが無効ないし効果不十分の場合には、ブロモクリプチンの投与も検討されます。
早期診断と早期のダントロレン投与による治療が予後を大きく左右するため、確定診断を待たずに治療開始を検討することが重要です。その他の治療法として、ダントロレン(筋弛緩薬、発熱と筋肉の損傷を軽減するため)、ブロモクリプチン(神経機能を改善するため)などがしばしば用いられます。
参考)https://anesth.or.jp/files/pdf/guideline_akuseikounetsu.pdf
悪性症候群の原因ははっきりと分かっていませんが、複数の要因が関係しているとされています。一度悪性症候群にかかった人は再発しやすく、疲労や感染、鉄欠乏、脳器質性疾患などもリスク要因です。抗精神病薬の急激な増量や頻回の筋肉内注射が危険因子として知られています。
抗パーキンソン病薬の使用・減量・中断に伴っても発症することがあります。パーキンソン病の治療に用いられるドーパミン作動薬の離脱症状で生じる可能性もあり、注意が必要です。抗精神病薬以外にも、抗うつ薬、制吐薬(吐き気を抑える薬)、炭酸リチウム(気分安定薬)なども引き起こす可能性があります。
予防としては、抗精神病薬などのリスク薬剤を使用する際には、患者の状態を注意深く観察し、急激な投与量の変更を避けることが重要です。特に既往歴のある患者では、薬剤の選択と投与量の調整に十分な配慮が必要となります。発熱や筋強剛などの初期症状が現れた場合には、早期に対応することで重篤化を防ぐことが可能です。
悪性症候群の看護において最も重要なのは、早期発見のための観察です。抗精神病薬などの向精神薬を服用している患者に対しては、原因が不明な発熱、筋肉の硬直、意識レベルの変化、自律神経症状(頻脈、発汗、血圧変動など)の有無を継続的に観察する必要があります。これらの症状が複数認められた場合には、速やかに医師に報告し、早期介入につなげることが求められます。
体温管理は悪性症候群の看護において中心的な役割を果たします。40℃を超える高熱に対しては、クーリングによる体温管理が必須となり、皮膚を濡らして風を送る方法や、特殊な冷感ブランケットの使用が効果的です。脱水予防のため、適切な輸液管理と電解質バランスの維持も重要な看護ケアとなります。
呼吸状態の観察も欠かせません。筋強剛による呼吸筋の硬直や構音障害・嚥下障害から誤嚥性肺炎のリスクが高まるため、呼吸数、呼吸パターン、SpO2値の継続的なモニタリングが必要です。また、ミオグロビン尿による腎障害の早期発見のため、尿量、尿色の観察も重要で、血尿や排尿困難が認められた場合には速やかに報告します。
精神状態の変化についても注意深く観察し、せん妄や昏睡状態への進行を早期に察知することが求められます。患者の安全確保のため、転倒・転落予防や、必要に応じた抑制の検討も看護の重要な役割となります。集中治療室での管理が必要となることも多いため、多職種連携による包括的なケアが不可欠です。

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