抗うつ薬の種類と一覧:効果と副作用の比較

抗うつ薬には三環系から新世代のSSRIまで多様な種類があり、それぞれ特徴的な効果と副作用を持っています。この記事では各分類の抗うつ薬の特性や使い分け、最新の知見までを詳しく解説します。あなたはどの抗うつ薬の特徴を知りたいですか?

抗うつ薬の種類と一覧

抗うつ薬の基本情報
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治療の中心

うつ病治療において主要な薬物療法として使用され、脳内の神経伝達物質のバランスを調整します

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作用機序による分類

モノアミン(セロトニン、ノルアドレナリンなど)の働きを調整する様々なメカニズムにより分類されます

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効果の発現

多くの抗うつ薬は効果が現れるまで2〜4週間かかり、個人差があります

抗うつ薬の分類と主な特徴

抗うつ薬は作用機序や構造によって複数のカテゴリーに分類されます。各分類の特徴を詳しく見ていきましょう。

 

1. 三環系抗うつ薬(TCA)
三環系抗うつ薬は最も古い歴史を持つ抗うつ薬の一つで、1950年代から使用されています。三環形の化学構造を持ち、セロトニンノルアドレナリン・ドパミンなど複数の神経伝達物質の再取り込みを阻害することで効果を発揮します。

 

主な薬剤。

  • イミプラミン(トフラニール)
  • アミトリプチリン(トリプタノール)
  • クロミプラミン(アナフラニール)
  • アモキサピン(アモキサン)
  • ノルトリプチリン(ノリトレン)
  • トリミプラミン(スルモンチール)
  • ロフェプラミン(アンプリット)
  • ドスレピン(プロチアデン)

三環系抗うつ薬は効果が強い反面、抗コリン作用による口渇、便秘、尿閉、眠気、起立性低血圧などの副作用が顕著です。

 

2. 四環系抗うつ薬
四環系抗うつ薬は三環系の次に登場した抗うつ薬で、四環形の化学構造を持っています。三環系と比較すると副作用が軽減されているものの、効果はやや弱いとされています。

 

主な薬剤。

  • マプロチリン(ルジオミール)
  • ミアンセリン(テトラミド)
  • セチプチリン(テシプール)

四環系抗うつ薬の特徴として、三環系よりも即効性が改善されており、三環系が効果発現まで2週間程度かかるのに対し、四環系は1週間程度で効果が出始めることもあります。

 

3. 選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)
SSRIは1990年代から使用され始めた比較的新しい世代の抗うつ薬です。セロトニンの再取り込みを選択的に阻害し、シナプス間隙のセロトニン濃度を上昇させることで抗うつ効果を発揮します。

 

主な薬剤。

  • パロキセチン(パキシル)
  • フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)
  • セルトラリン(ジェイゾロフト)
  • エスシタロプラム(レクサプロ)

SSRIは三環系に比べて副作用が軽減されていますが、服用初期の胃腸障害や性機能障害などの副作用が報告されています。

 

4. セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)
SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの両方の再取り込みを阻害する抗うつ薬です。気力や意欲の低下している患者さんに効果が期待できる特徴があります。

 

主な薬剤。

  • ミルナシプラン(トレドミン)
  • デュロキセチン(サインバルタ)
  • ベンラファキシン(イフェクサー)

SNRIはノルアドレナリンに作用することで、疼痛緩和効果も期待でき、慢性的な痛みがある患者さんにも処方されることがあります。

 

5. ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)
NaSSAは新しいタイプの抗うつ薬の中でも比較的効果が強いと言われています。減少したセロトニンとノルアドレナリンの分泌を促し、セロトニンが効率良く働くように作用します。

 

主な薬剤。

  • ミルタザピン(リフレックス、レメロン)

NaSSAの特徴として、服用初期に強い眠気と食欲増進の副作用があり、不眠や食欲不振に悩む患者さんには有効ですが、日常生活に支障をきたすこともあります。

 

6. その他の抗うつ薬

  • セロトニン遮断再取り込み阻害薬(SARI):トラゾドン(デジレル、レスリン)
  • セロトニン再取り込み阻害・セロトニン受容体調節剤:ボルチオキセチン(トリンテリックス)
  • モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO阻害薬):日本では現在ほとんど使用されていません
  • その他:スルピリド(ドグマチール)など

抗うつ薬の効果の強さと副作用比較

抗うつ薬の効果と副作用には一般的な傾向がありますが、個人差も大きいことを念頭に置く必要があります。

 

効果の強さの比較
一般的に認知されている効果の強さは以下の通りです。
三環系 > SSRI = SNRI = NaSSA > その他 > 四環系
三環系抗うつ薬は強力な抗うつ作用を持ちますが、副作用も強いため、現在は初期治療としてはSSRIやSNRIが選択されることが多くなっています。四環系は効果がやや弱いものの、即効性が改善されているという特徴があります。

 

副作用の強さと特徴
副作用の強さは一般的に次の順序で強いとされています。
三環系 > 四環系 = その他 > SSRI = SNRI = NaSSA
三環系抗うつ薬の主な副作用。

  • 抗コリン作用:口渇、便秘、尿閉、せん妄、緑内障の悪化
  • 抗ヒスタミン作用:眠気、体重増加
  • 抗α1作用:起立性低血圧
  • その他:痙攣のリスク

SSRI、SNRI、NaSSAの主な副作用。

  • 消化器症状:胃の不快感、嘔吐(特に服用初期)
  • 性機能障害
  • アクチベーション症候群(焦燥感、不安、不眠など)
  • セロトニン症候群のリスク
  • 離脱症候群のリスク

抗うつ薬の作用点別の効果と副作用を表で比較すると以下のようになります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作用点 三環系 四環系 SSRI SNRI NaSSA
5HT再取込阻害 - -
NA再取込阻害 -
抗α1(低血圧) -
抗コリン(口渇など) -
抗ヒスタミン(眠気) -

SSRI・SNRI・NaSSAの作用機序と特徴

新世代の抗うつ薬と呼ばれるSSRI、SNRI、NaSSAは、従来の三環系や四環系に比べて選択性が高く、副作用プロファイルが改善されています。それぞれの詳細な作用機序と特徴を見ていきましょう。

 

SSRIの作用機序と特徴
SSRIはその名の通り、選択的にセロトニンの再取り込みを阻害する薬剤です。シナプス間隙におけるセロトニン濃度を上昇させることで、神経伝達を促進します。

 

特徴。

  • 選択性が高く、他の神経伝達物質系への影響が少ない
  • 三環系に比べて心臓への副作用が少ない
  • 過量服用時の致死性リスクが低い
  • 服用初期(1〜2週間)に消化器症状が現れやすい
  • 性機能障害のリスクがある

日本で承認されているSSRIの一覧。

  • パロキセチン(パキシル):2000年承認
  • フルボキサミン(デプロメール、ルボックス)
  • セルトラリン(ジェイゾロフト):2006年承認
  • エスシタロプラム(レクサプロ):2011年承認

なお、パロキセチンは強迫性障害、パニック障害、社会不安障害、外傷後ストレス障害などの適応も持っています。

 

SNRIの作用機序と特徴
SNRIはセロトニンとノルアドレナリンの両方の再取り込みを阻害します。ノルアドレナリンは覚醒や意欲、集中力などに関わる神経伝達物質であり、SNRIはうつ症状のうち特に意欲低下や気力減退に効果を発揮します。

 

特徴。

  • セロトニンとノルアドレナリンの両方に作用
  • 疼痛緩和効果があり、慢性痛にも効果的
  • SSRIと同様に三環系よりも副作用が少ない
  • ノルアドレナリン系への作用により、活動的な方向に作用
  • 不眠、便秘、尿閉、口渇などの副作用が現れることがある

日本で承認されているSNRI。

  • ミルナシプラン(トレドミン):2000年承認
  • デュロキセチン(サインバルタ):2010年承認
  • 糖尿病性神経障害、線維筋痛症、慢性腰痛症変形性関節症にも適応あり
  • ベンラファキシン(イフェクサー):2015年承認

NaSSAの作用機序と特徴
NaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動薬)は、抗うつ薬の中でも特徴的な作用機序を持ちます。α2アドレナリン受容体を遮断することでノルアドレナリンとセロトニンの遊離を促進し、さらに特定のセロトニン受容体(5-HT2A、5-HT2C、5-HT3など)を遮断することで、セロトニンの効果を調整します。

 

特徴。

  • 新世代抗うつ薬の中で最も強い効果が期待できる
  • 強い鎮静作用と食欲増進作用がある
  • 不眠や食欲不振がある患者に適している
  • 性機能障害が少ない
  • 抗ヒスタミン作用による強い眠気が初期に現れやすい
  • 体重増加のリスクがある

日本で承認されているNaSSA。

  • ミルタザピン(リフレックス、レメロン):2009年承認

参考:NaSSAの作用機序と臨床応用に関する最新の研究

三環系・四環系抗うつ薬の歴史的背景

抗うつ薬の歴史は1950年代に始まり、三環系抗うつ薬の発見から現代の多様な抗うつ薬の開発へと発展してきました。

 

三環系抗うつ薬の発見と開発
三環系抗うつ薬の歴史は1950年代に始まります。当初、抗結核薬として開発されたイミプラミンが、偶然にも抗うつ効果を持つことが発見されたのがきっかけでした。この発見は精神医学の分野に革命をもたらし、うつ病の生物学的基盤に関する理解を深める契機となりました。

 

三環系抗うつ薬の主な代表薬。

  • イミプラミン(トフラニール):最初に開発された三環系抗うつ薬
  • アミトリプチリン(トリプタノール):鎮静作用が強く、不眠を伴ううつ病に有効
  • クロミプラミン(アナフラニール):セロトニン再取り込み阻害作用が比較的強い

三環系抗うつ薬は効果が強力である一方で、抗コリン作用、抗ヒスタミン作用、抗α1作用などによる多彩な副作用が問題視されるようになりました。特に高齢者では認知機能低下や転倒リスクの増加などの問題もあります。

 

四環系抗うつ薬の登場
三環系抗うつ薬の副作用を軽減することを目的に、1970年代から四環系抗うつ薬が開発されました。四環系抗うつ薬は、三環系よりも選択性が高まり、副作用プロファイルが改善されました。

 

四環系抗うつ薬の主な代表薬。

  • マプロチリン(ルジオミール):ノルアドレナリン再取り込み阻害作用が主体
  • ミアンセリン(テトラミド):α2アドレナリン受容体遮断作用を持つ
  • セチプチリン(テシプール):抗ヒスタミン作用が強く、不安や不眠に効果的

四環系抗うつ薬の特徴として、三環系と比較して抗コリン作用が弱いことが挙げられますが、抗ヒスタミン作用による眠気は依然として問題となっていました。

 

抗うつ薬の発展と新世代への移行
1980年代後半から1990年代にかけて、より選択的な作用を持つ新世代の抗うつ薬が登場しました。SSRI、SNRI、NaSSAなどがこれに該当し、モノアミン仮説(うつ病はモノアミン神経伝達物質の機能不全によって引き起こされるという仮説)に基づいて、より選択的に特定の神経伝達物質に作用するように設計されました。

 

新世代抗うつ薬の登場により、抗うつ治療は大きく変わりました。これらの薬剤は三環系や四環系と比べて安全性が向上し、過量服用時のリスクが低減されたことから、プライマリケアでの処方も増加しました。

 

ただし、日本うつ病学会の診療ガイドラインによれば、有効性では新規抗うつ薬と従来の抗うつ薬との間に明確な差がないとする見解もあり、一定の結論は出ていないとされています。

 

抗うつ薬の選択基準と治療アプローチ

抗うつ薬の選択は、患者の症状プロファイル、合併症、過去の治療反応性、薬物相互作用などを考慮して、個別化する必要があります。

 

症状に応じた抗うつ薬の選択
うつ病の症状は多岐にわたり、患者によって症状の表れ方は異なります。症状タイプに応じた薬剤選択の目安は以下の通りです。

  • 不眠が顕著な場合。
  • ミルタザピン(NaSSA)
  • トラゾドン(SARI)
  • アミトリプチリンなどの三環系抗うつ薬
  • 不安や焦燥が強い場合。
  • SSRI(パロキセチンなど)
  • 三環系のクロミプラミン
  • 意欲低下や無気力が目立つ場合。
  • SNRI(ミルナシプラン、デュロキセチン)
  • 四環系のマプロチリン
  • 食欲不振や体重減少がある場合。
  • ミルタザピン(食欲増進作用あり)
  • 疼痛を伴う場合。
  • デュロキセチン(SNRI)
  • アミトリプチリン(三環系)

年齢層と合併症を考慮した選択
年齢や合併症によっても抗うつ薬の選択は変わります。
若年層(24歳以下)。

  • SSRIは若年層で自殺念慮のリスクを高める可能性があり、注意が必要
  • 定期的なモニタリングと慎重な用量調整が重要

高齢者。

  • 三環系や四環系は抗コリン作用による認知機能低下や転倒リスクがあるため避ける傾向
  • SSRIやSNRIが比較的安全だが、低ナトリウム血症などのリスクもある
  • 低用量から開始し、慎重に増量

合併症がある場合。

  • 心疾患:三環系は避け、SSRIやSNRIを選択
  • 緑内障:抗コリン作用の強い薬剤は避ける
  • てんかん:発作閾値を下げる可能性のある薬剤は注意

薬物相互作用と注意点
抗うつ薬は他の薬剤との相互作用に注意が必要です。

  • SSRIとMAO阻害薬の併用:セロトニン症候群のリスク
  • フルボキサミンは特に多くの薬物相互作用があり、テルネリンとロゼレムとの併用は禁忌
  • 三環系抗うつ薬と抗不整脈薬:心毒性のリスク増加
  • SNRIと非ステロイド性抗炎症薬:出血リスクの増加

治療反応性のモニタリングと戦略的アプローチ
抗うつ薬治療では、効果の発現に通常2〜4週間かかるため、忍耐強く経過を見ることが重要です。以下のアプローチが有効です。

  1. 初期治療(4〜8週間)。
  • 効果と副作用を定期的に評価
  • 副作用は治療初期に強く現れ、時間とともに軽減することが多い
  • 効果不十分な場合は用量調整を検討
  1. 反応不良の場合の戦略。
  • 増量:治療用量範囲内で用量を増やす
  • 変更:異なるクラスの抗うつ薬に切り替える
  • 増強:リチウムや非定型抗精神病薬の追加を検討
  • 併用:作用機序の異なる抗うつ薬の併用
  1. 維持療法。
  • 症状改善後も最低6〜12ヶ月は同じ用量を継続
  • 急な中断は避け、徐々に減量する(特にSSRI、SNRI)
  • 再発リスクが高い場合は長期維持療法を検討

参考:日本うつ病学会治療ガイドライン
最近の研究では、薬物療法だけでなく、認知行動療法や運動療法、栄養療法などの非薬物療法を併用することで、治療効果を高められることも示されています。抗うつ薬治療は一つの手段であり、包括的なアプローチがより良い結果につながることが多いとされています。