セロトニン症候群は、セロトニン作動薬の服用により中枢神経系や末梢神経系でセロトニンの活動が過剰になることで発症する重篤な副作用症候群です 。通常、薬物服用後数時間から24時間以内に発症し、適切な対応により後遺症なく軽快することが報告されています 。
参考)セロトニン症候群の発症率と発症要因
カフェインは脳内でアデノシンA2a受容体を遮断し、間接的にドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンを遊離させる作用があります 。この作用機序により、カフェインはセロトニン作動薬との併用時にセロトニン症候群のリスクを増加させる可能性があります 。
参考)西田 慎吾 (Shingo Nishida) - カフェイン…
実際の臨床例として、カフェイン過量摂取と抗うつ薬によりセロトニン症候群が惹起された症例が報告されており 、医療現場においてこの相互作用への注意が必要とされています。このため、セロトニン作動薬を服用している患者に対するカフェイン摂取の指導は重要な治療管理の一環となっています。
参考)カフェイン過量摂取と抗うつ薬によりセロトニン症候群が惹起され…
セロトニン症候群の診断には複数の診断基準が存在し、最も広く使用されているのがHunter Criteriaです 。この診断基準は感度84%、特異度97%を示し、セロトニン作動薬の内服歴があり、以下の症状のうち1つ以上を認める場合に診断されます 。
参考)http://hospi.sakura.ne.jp/wp/wp-content/themes/generalist/img/medical/jhn-cq-140610-showa.pdf
診断項目として、1) 自発的なミオクローヌス、2) 誘発クローヌスと興奮ないし発汗、3) 眼球クローヌスと興奮ないし発汗、4) 振戦と腱反射亢進、5) 筋強剛、6) 体温38℃以上で眼球クローヌスないし誘発クローヌスが挙げられています 。
症状の重症度は軽度から重篤まで幅広く、軽度では神経質、不眠、吐き気、下痢、振戦、瞳孔散大などが見られます 。中等度では反射亢進、発汗、激越、クローヌス、眼球クローヌスが出現し、重篤例では38.5℃以上の体温、錯乱、せん妄、持続的クローヌス、硬直、横紋筋融解症が認められます 。
カフェインは1,3,7-トリメチルキサンチンとも呼ばれ、アデノシン受容体拮抗薬として作用する中枢神経刺激薬です 。脳内でアデノシンA2a受容体を遮断することにより覚醒状態を維持し、間接的にドーパミン、ノルアドレナリン、セロトニンの遊離を促進します 。
参考)https://www.okinawa-nurs.ac.jp/wp-content/uploads/2019/03/2_07.pdf
興味深い研究として、カフェインの日常的摂取がセロトニン受容体数を25~30%増加させることが報告されています 。これはセロトニンそのものの増加ではなく、カフェインによってセロトニンが減少するため、少ない量でも情報をキャッチできるよう受容体のみが増加している代償機転です 。
参考)自己肯定感
カフェインはCYP1A2酵素で代謝されるため、この酵素を阻害する薬剤との併用時には血中濃度が高まり作用が強く出る薬物相互作用が生じます 。特にSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)のフルボキサミンはCYP1A2を阻害するため、カフェインとの併用により不眠や動悸などの過剰作用が出現する可能性があります 。
参考)カフェインの精神科的効果とリスク:カフェインとの付き合い方
セロトニン症候群を引き起こす可能性のある主な薬剤には、抗うつ薬、中枢刺激薬、鎮痛薬、その他多岐にわたる薬剤群があります 。抗うつ薬では特にSSRI(シタロプラム、エスシタロプラム、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリン)、SNRI(ベンラファキシン)、MAO阻害薬(フェネルジン、セレギリン、トラニルシプロミン)が高リスクとされています 。
参考)Table: セロトニン症候群を引き起こす可能性がある主な薬…
ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬(NaSSA)として分類されるミルタザピン(リフレックス、レメロン)も重要な薬剤です 。これらの薬剤は2009年に承認された新規作用機序の抗うつ薬で、三環系抗うつ薬やSSRI、SNRIと同等の効果を有しており 、カフェインとの併用時にも注意が必要です。
参考)商品一覧 : ノルアドレナリン・特異的セロトニン作動性抗うつ…
中枢刺激薬では、メタンフェタミン、MDMA、メチルフェニデート、フェンテルミンなどが挙げられ 、鎮痛薬ではトラマドール、ペチジン、フェンタニル、オキシコドンなどがセロトニン症候群のリスクを持つ薬剤として分類されています 。これらの薬剤とカフェインの併用時には、相加的な中枢神経刺激作用により症候群発症のリスクが高まる可能性があります。
セロトニン症候群とカフェインの相互作用の臨床管理において、まず重要なのは患者教育です。セロトニン作動薬を処方する際には、コーヒー、紅茶、エナジードリンクなどのカフェイン含有飲料の摂取量を安定させることが推奨されます 。急激なカフェイン摂取量の変更や過量摂取は避けるべきです。
予防戦略として、セロトニン作動薬服用患者に対するカフェイン制限の指導が有効です。特に不安症状が強い患者では、カフェインの交感神経刺激作用により不安や焦燥感が増強される可能性があるため、カフェイン制限が強く推奨されます 。適量は200-400mg/日程度とされ、500mg以上の過剰摂取では不安、不眠、動悸、手の震えなどの副作用が報告されています 。
参考)カフェインはうつ病に影響する?コーヒーやエナジードリンクとの…
治療選択においても配慮が必要で、カフェイン中毒の治療研究では、ドーパミンとセロトニン受容体拮抗作用を持つリスペリドンがカフェインによる体温上昇と行動量上昇を有意に抑制することが報告されています 。このような知見は、セロトニン症候群の治療戦略においても参考となる情報です。
参考)KAKEN href="https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K11591/" target="_blank">https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-17K11591/amp;mdash; 研究課題をさがす
リスク評価においては、患者の既往歴、併用薬、カフェイン摂取習慣を総合的に評価し、個別化された管理計画を立案することが重要です。就寝8-10時間前以降のカフェイン摂取は避け 、症候群の早期発見のため、振戦、発汗、頻脈、精神症状の変化などの初期症状について患者・家族への教育を徹底することが推奨されます。
PMDAによるセロトニン症候群の詳細な患者向け情報資料
厚生労働省によるセロトニン症候群の医療関係者向けガイドライン