薬物代謝とは、体内に取り込まれた薬物を肝臓などで化学的に変化させ、体外に排出しやすい形に変換する生体プロセスです 。この過程は、薬物の効果を調節し、体内からの除去を促進する重要な役割を担っています 。
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薬物代謝は主に肝臓で行われ、門脈を通じて小腸から運ばれてきた薬物が、肝初回通過効果により一部代謝されます 。この初回通過効果により、経口摂取した薬物の一部は全身循環に到達する前に不活化されるため、薬物の生物学的利用率に大きく影響します 。
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薬物代謝の主な目的は、脂溶性の薬物を水溶性に変換し、腎臓や胆汁を通じて排泄しやすくすることです 。この変換過程により、薬物の体内滞留時間が調節され、適切な薬理効果の持続が可能になります。
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チトクロムP450(CYP)は、薬物代謝における最も重要な酵素群です 。CYPは、主に肝臓に存在する酸化酵素で、分子量約45,000から60,000の酵素群として知られています 。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00609.html
CYP酵素の中でも、CYP3A4は特に重要で、現在臨床で使用されている医薬品の50%以上の代謝に関与しています 。この酵素は肝臓だけでなく小腸にも豊富に発現しており、経口投与された薬物の初回通過代謝において重要な役割を担っています 。
参考)https://www.pharm.kyoto-u.ac.jp/byoyaku/Research/Transporter.html
CYP酵素は生物種ごとに数十種類存在し、それぞれ異なる基質特異性を持っています 。これらの酵素は薬物の投与により発現が誘導されたり、逆に薬物により阻害されたりすることがあり、薬物相互作用の主要な原因となります 。
参考)https://www.pharm.or.jp/words/word00382.html
第一相反応は、薬物代謝の初期段階で起こる重要なプロセスです 。この反応では、薬物の分子量は大きく変化しないか、分解により低減化されます 。
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主な第一相反応には、CYPによる酸化反応、還元反応、エステルなどの加水分解反応があります 。CYPによる酸化反応は特に重要で、薬物に水酸基(-OH)を導入することで、極性を増加させ水溶性を向上させます 。
参考)初回通過効果 - Wikipedia
第一相反応により形成された代謝物は、多くの場合、元の薬物よりも薬理活性が低下します 。しかし、プロドラッグと呼ばれる一部の化合物では、代謝により活性が増強される場合もあります 。
参考)薬物代謝 - 23. 臨床薬理学 - MSDマニュアル プロ…
第二相反応は抱合反応とも呼ばれ、第一相反応で生成された代謝物や、直接的に薬物に内因性物質を付加する反応です 。この反応により、グルクロン酸、硫酸、酢酸、グルタチオンなどの内因性物質が薬物に結合し、分子量が大きくなります 。
参考)第Ⅱ相薬物代謝
第二相反応の主な目的は、薬物の極性をさらに増加させ、水溶性を大幅に向上させることです 。この変化により、代謝物は腎臓から尿中へ、または肝臓から胆汁を経て便中へと速やかに排泄されるようになります 。
グルクロン酸抱合は最も一般的な第二相反応の一つで、UDP-グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT)という酵素により触媒されます 。この反応により生成されたグルクロン酸抱合体は、高い水溶性を持ち、効率的に体外に排出されます。
薬物代謝には顕著な個人差が存在し、これは遺伝的要因、年齢、性別、疾患状態、併用薬物などの影響を受けます 。特に、CYP酵素の遺伝子多型は薬物代謝能に大きな影響を与え、同じ薬物を服用しても効果や副作用に個人差が生じる原因となります。
一部の患者では薬物が非常に速く代謝され、治療に効果的な血中濃度に達しないことがあります 。逆に、代謝が非常に遅い患者では、常用量でも毒性作用が現れることがあるため、薬物治療の個別化が重要です 。
肝疾患や心不全などの病態では、薬物代謝能が低下するため、薬物の血中濃度が予想以上に高くなる可能性があります 。このような場合には、投与量の調整や投与間隔の延長が必要となり、薬物代謝の理解が安全な薬物療法の実施に不可欠です 。
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