線条体と被殻と尾状核の構造機能

線条体を構成する被殻と尾状核の解剖学的構造、生理学的機能、運動制御や学習記憶における役割、さらにパーキンソン病などの神経疾患との関係について詳しく解説します。これらの神経核がどのように連携して脳の高次機能を支えているのでしょうか?

線条体と被殻と尾状核の構造と機能

線条体の基本構造
🧠
線条体の構成

被殻と尾状核から構成される大脳基底核の主要な入力部

🔄
運動制御回路

直接路と間接路を通じて運動の調節を行う重要な神経回路

💊
ドーパミン受容体

D1・D2受容体を持ち、パーキンソン病の病態に関与する部位

線条体(striatum)は大脳基底核の主要構成要素として、運動制御、認知機能、学習記憶において中心的な役割を果たしています。この神経核は解剖学的に被殻(putamen)と尾状核(caudate nucleus)の二つの部分に分けられ、それぞれが異なる機能的役割を担っています。線条体は進化の過程において元々一つの構造物でしたが、内包によって被殻と尾状核に分断されたと考えられており、これらの間には機能的な連絡が存在します。
参考)大脳基底核のおはなし

 

線条体の解剖学的構造と血管支配

線条体の解剖学的配置は大脳基底核の機能を理解する上で重要な要素です。被殻は運動機能に関連した処理を担い、大脳皮質の運動野と体性感覚野からグルタミン酸作動性の興奮性入力を受けています。一方、尾状核は脳の中心付近、視床の両側に位置し、アルファベットのCのような形状をしており、前方の尾状核頭が膨らみ、後方の尾状核体・尾状核尾にかけて細くなっています。
参考)尾状核 - Wikipedia

 

血管支配については、尾状核の体部と尾部は中大脳動脈のレンズ核線条体動脈枝から血液供給を受けており、この血管系の障害は線条体梗塞の重要な原因となります。線条体の神経細胞は中型有棘神経細胞が主体となっており、これらの細胞が直接路と間接路という二つの主要な出力経路を構成しています。
参考)【2025年版】尾状核と被殻の違いとは?運動制御と学習への役…

 

線条体内にはパッチ(ストリオソーム)・マトリックス構造という生化学的なコンパートメント構造が存在し、この構造は強化学習において重要な役割分担を担っています。このような解剖学的特徴は、線条体が単一の機能単位ではなく、複雑な機能的分化を持つ神経核であることを示しています。
参考)視床は線条体のパッチ(ストリオソーム)領域を避けていることを…

 

線条体の運動制御における機能的役割

線条体は大脳基底核の入力部として、運動の企画・実行・調節において極めて重要な役割を担っています。運動制御において線条体は二つの主要な経路、すなわち直接路と間接路を通じて機能しています。直接路は大脳皮質運動野から線条体、淡蒼球内節、黒質網様部、視床を経て再び運動野に戻る経路で、運動を促進する作用があります。
参考)https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/049060325.pdf

 

間接路は線条体から淡蒼球外節、視床下核を経由して淡蒼球内節・黒質網様部に至る経路で、運動を抑制する機能を持っています。これらの経路は相互に拮抗的に作用し、適切な運動の選択と実行を可能にしています。被殻は特に運動系機能を司り、大脳皮質の運動野と体性感覚野からの入力を受けて、運動の調節に特化した処理を行います。
参考)https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/052111198.pdf

 

パーキンソン病では黒質緻密部のドーパミン神経細胞の減少により、線条体へのドーパミン供給が低下し、直接路の活動低下と間接路の活動亢進が生じます。その結果、淡蒼球内節の過度な抑制により視床の活動が低下し、運動開始困難や動作緩慢などの症状が現れます。この病態は線条体におけるドーパミンD1受容体とD2受容体の機能的バランスの破綻によるものです。
参考)【コラム】【パーキンソン病】線条体について

 

線条体の学習・記憶機能と認知的役割

尾状核は運動制御よりも学習・記憶、認知機能において重要な役割を果たしています。特に、尾状核は脳の学習と記憶システムの重要な部分を占め、フィードバック処理に強く関わっています。被験者がフィードバックを受け取る際の神経活動が尾状核で特に活発になることが証明されています。
左尾状核は言語理解において特殊な機能を持ち、単語の理解と調音を複数の言語間でスイッチする際に、視床との連携により言語処理を制御しています。また、尾状核は大脳皮質全体の活動を計測し、閾値となる電位を制御する機能も持っているとされ、脳全体の情報処理の調節において重要な役割を担っています。
線条体はドーパミン神経系を介して報酬予測と学習に関与し、特に強化学習において中心的な役割を果たします。腹側被蓋野と黒質緻密部からドーパミン神経の入力を受け、報酬に関連した学習と記憶の処理を行います。このような認知機能における線条体の役割は、運動制御機能と密接に連携し、状況に応じた適切な行動選択を可能にしています。

線条体の神経回路とドーパミン受容体システム

線条体の機能は複雑な神経回路とドーパミン受容体システムによって制御されています。線条体の神経細胞には主にD1受容体を持つものとD2受容体を持つものが存在し、これらは異なる機能を持っています。D1受容体はサイクリックAMPを増加させ、直接路を活性化して運動を促進します。一方、D2受容体はサイクリックAMPを減少させ、間接路を抑制することで運動調節に関与します。
参考)ドーパミン神経伝達は、大脳基底核における運動情報伝達と、運動…

 

黒質緻密部から線条体へのドーパミン投射は、線条体の機能調節において決定的な役割を果たしています。この投射は黒質線条体経路と呼ばれ、運動制御だけでなく、意欲、注意、報酬処理においても重要です。ドーパミンは線条体の中型有棘神経細胞の興奮性を調節し、適切な神経回路の活動バランスを維持します。
参考)パーキンソン病の方に役立つ基礎知識 vol.16 脳内のドー…

 

線条体は大脳皮質の広範囲から興奮性入力を受けており、これらの入力は体部位局在を持って組織化されています。運動関連皮質からの入力は主に被殻に、認知関連皮質からの入力は主に尾状核に投射する傾向があり、この解剖学的分離が機能的分業の基盤となっています。また、視床髄板内核からの入力も線条体の機能調節に重要な役割を担っています。
参考)https://www.jsme.or.jp/rmd/robomec2008/pdf/hanakawa.pdf

 

線条体と関連疾患の病態機序

線条体の機能異常は様々な神経疾患の病態に深く関与しています。パーキンソン病においては、黒質緻密部のドーパミン神経細胞の変性により線条体へのドーパミン供給が減少し、運動症状が出現します。ダットスキャン検査では線条体のドーパミントランスポーター密度の低下として観察され、診断に重要な情報を提供します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10322907/

 

ハンチントン病では尾状核の変性が特徴的で、これにより舞踏運動や認知機能障害が生じます。この疾患では尾状核の萎縮がCTやMRIで観察され、GABAおよびアセチルコリン作動性神経細胞の変性が病態の中核を成します。また、ジストニアでは直接路の活動亢進により淡蒼球内節・黒質網様部の過度な抑制が生じ、視床の脱抑制により不随意運動が出現します。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/79d50e7e8d4dca9f627ae7ee3d5b77c61e873dea

 

線条体は精神疾患においても重要な役割を果たしており、統合失調症、うつ病、強迫性障害などの病態に関与しています。特に線条体ドーパミン受容体密度の変化は、現実感消失症や離人感障害の症状と関連があることが報告されています。これらの疾患における線条体の機能異常は、運動症状だけでなく認知・情動症状の発現機序を理解する上で重要な知見を提供しています。
参考)世界が色褪せて見えるのは脳のせい―離人感・現実感消失症の病態…

 

大脳基底核の詳細な解剖学的構造と機能に関する情報
大脳基底核による運動制御の詳細なメカニズム
ドーパミン神経伝達と運動制御に関する最新の研究成果