炭酸リチウムは双極性障害(躁うつ病)の治療において中核的な役割を果たす気分安定薬です。その主要な治療効果は以下の通りです。
躁状態の抑制効果
炭酸リチウムは躁病の躁期症状を効果的に抑制します。興奮状態や異常な高揚感、判断力の低下などの症状を和らげ、患者の気分を安定させる効果があります。神経伝達物質の安定化を通じて、脳内の神経活動を調整し、躁状態特有の過活動を抑制します。
双極性障害の長期安定化
炭酸リチウムの最も重要な効果の一つは、双極性障害全体の症状安定化です。躁病とうつ病のエピソードの頻度を減少させ、再発を予防する効果が期待されます。長期投与により、気分の波を平坦化し、患者の社会復帰と生活の質の向上に寄与します。
うつ状態への効果
双極性障害におけるうつ状態に対しても、炭酸リチウムは一定の効果を示します。患者がうつ状態になるリスクを低減し、全体的な気分の安定を促進します。
自殺リスクの低減
炭酸リチウムには自殺リスクを低減する効果も報告されており、双極性障害患者の長期予後改善に重要な役割を果たします。
炭酸リチウムの副作用は、服薬開始初期に現れるものと長期使用により発現するものに大別されます。
初期副作用
服薬開始初期によく見られる副作用には以下があります。
長期副作用
長期使用により注意すべき副作用。
リチウム中毒は炭酸リチウム治療における最も重篤な副作用の一つです。有効血中濃度(0.6-1.2mEq/L)と中毒域が近接しているため、慎重な管理が必要です。
中毒症状の段階別分類
軽度中毒症状。
中等度中毒症状。
重篤中毒症状。
急性中毒と慢性中毒の違い
慢性中毒では急性中毒に比べ、中枢神経症状(粗大な手指振戦、興奮、精神錯乱、昏睡、運動失調)の頻度が高く、腎症状(腎性尿崩症)、循環器症状(心電図異常、不整脈、徐脈、QTc延長)なども現れます。
中毒時の対処法
リチウム中毒が認められた場合の処置。
血液透析後は血清リチウム濃度の再上昇に注意し、必要に応じて再度の血液透析を検討します。
炭酸リチウムは多くの薬剤との相互作用により血中濃度が変動するため、併用薬の管理が重要です。
血中濃度上昇を引き起こす薬剤
特殊な相互作用
炭酸リチウムの治療域は0.6-1.2mEq/Lと非常に狭く、この範囲を超えるとリチウム中毒のリスクが高まります。そのため、定期的な血中濃度モニタリングが治療成功の鍵となります。
モニタリングのタイミング
採血のタイミング
血中濃度測定は、最終服薬から12時間後(トラフ値)に採血することが推奨されます。これにより、定常状態での血中濃度を正確に把握できます。
濃度管理の実際
躁状態の急性期治療では0.8-1.2mEq/L、維持療法では0.6-0.8mEq/Lを目標とすることが多いです。高齢者や腎機能低下患者では、より低い濃度での管理を検討します。
モニタリング時の注意点
血中濃度が治療域内であっても、患者の症状や他の検査値(腎機能、甲状腺機能、電解質)を総合的に評価することが重要です。また、血中濃度の急激な変動は中毒症状を引き起こす可能性があるため、用量調整は慎重に行います。
厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアルでは、リチウム中毒の早期発見と適切な対応について詳細なガイドラインが示されています。
厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル(リチウム中毒)
医薬品医療機器総合機構(PMDA)の添付文書情報では、炭酸リチウムの詳細な副作用情報と使用上の注意が記載されています。