NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory Drugs:非ステロイド性抗炎症薬)は、その名称が示す通り、ステロイド作用を持たない抗炎症薬の総称です。日本では現在50種類以上の処方薬が臨床で広く使用されています。NSAIDsの主な薬理作用として、抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用の3つが挙げられます。
NSAIDsの主な作用機序は、シクロオキシゲナーゼ(COX)の阻害です。COXには主にCOX-1とCOX-2の2種類が存在します。COX-1は胃粘膜保護や血小板凝集など生体の恒常性維持に関与し、COX-2は炎症反応に関与します。各NSAIDsはこれらのCOX阻害の選択性によって分類され、その選択性の違いが効果と副作用のプロファイルに影響します。
しかし、最近の研究ではCOX阻害以外の作用機序も明らかになってきています。
特に注目すべきは、マウス実験で示されたTRPイオンチャネルへの影響です。侵害熱刺激の感知は皮膚に分布するTRPM3、TRPV1およびTRPA1に依存しており、ジクロフェナクなど一部のNSAIDsがこれらのイオンチャネルに作用して鎮痛効果を発揮する可能性が報告されています。
WHOによる鎮痛薬の分類では、NSAIDsは3段階ある分類の3番目(最も弱い区分)に位置づけられています。この分類では。
となっていますが、この分類に反して、適切に使用されたNSAIDsは強力な鎮痛・抗炎症効果を発揮することが可能です。
NSAIDsの鎮痛効果の強さについて、処方薬を中心に比較したランキングを紹介します。ただし、薬剤間の除痛効果については、はっきりとした医学的根拠に乏しい部分があることも留意すべきです。
【処方薬NSAIDs 鎮痛効果強さランキング】
これらの薬剤の強さの比較については、臨床研究より医師の経験に基づく部分が大きいのが現状です。例えば、「がん性疼痛」に対してはNSAIDsの薬剤間での差はないとされており、慢性腰痛に対してもNSAIDsの薬剤間で有効性に差があるとする明確なエビデンスはありません。
また、同じ成分でも剤形(内服薬、外用薬、注射薬)によって効果の強さや発現速度が異なる点にも注意が必要です。一般的に注射薬が最も効果が強く速いとされています。外用NSAIDsは内服薬に比べて全身性の副作用が少ないため、各種ガイドラインでも推奨されています。
NSAIDsは薬局で簡単に購入できる薬剤もありますが、その割に副作用も多く、使用に際しては十分な注意が必要です。特に長期間の使用では副作用リスクが高まります。
NSAIDsに共通する主な副作用
部位 | 症状 | 考えられる機序 | 注意点 |
---|---|---|---|
消化管 | 腹痛、悪心、食欲不振、胃びらん・潰瘍、胃腸管出血、穿孔、下痢 | 胃粘膜上皮細胞でのCOX-1阻害によるPGの減少 | 特に高齢者、ステロイド併用者、抗凝固薬併用者はリスク増大 |
腎臓 | 水・電解質貯留、高K血症、浮腫、間質性腎炎、ネフローゼ症候群 | 腎におけるCOXの阻害によるPG減少に伴う腎血流量と糸球体濾過速度の減少 | 高齢者、腎機能低下者、利尿薬併用者は注意 |
心血管系 | 血圧上昇、心不全悪化、血栓塞栓症リスク上昇 | 血管拡張作用を持つPGI2の産生抑制 | 特にCOX-2選択的阻害薬で注意 |
呼吸器 | 喘息発作誘発(アスピリン喘息) | ロイコトリエン産生増加 | 喘息患者は使用前に確認 |
肝臓 | 肝機能検査値異常、肝不全 | 代謝過程での肝細胞障害 | 定期的な検査が望ましい |
NSAIDsの禁忌(ロキソプロフェンの添付文書より)。
外用NSAIDsは経口NSAIDsに比べ、消化管出血、腎障害、心血管障害などの副作用が少なく安全に使用できるため、各種ガイドラインでも推奨されています。特に高齢者や基礎疾患のある患者では、外用剤の使用がまず検討されるべきでしょう。
ロキソプロフェンナトリウム錠の添付文書(PMDAサイト)- 詳細な禁忌・副作用情報の参考に
NSAIDsの鎮痛効果は痛みの種類によって異なります。痛みは大きく分けて侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛、痛覚変調性疼痛に分類されますが、NSAIDsは主に侵害受容性疼痛に効果を発揮します。
NSAIDsが効果的な主な痛み(適応症)
🔹 急性炎症性疼痛
🔹 慢性炎症性疼痛
🔹 その他の疼痛
各NSAIDsの強さと特徴に応じた適応症の選択ポイント。
PainVisionを用いた外用NSAIDsの鎮痛効果の比較研究では、健常ボランティアにおいて外用NSAIDsの局所投与による鎮痛作用にCOX以外の作用機序(TRPイオンチャネルへの作用など)が関与している可能性が示唆されています。このことから、外用NSAIDsは単なる抗炎症作用だけでなく、痛覚伝達経路に直接作用する可能性もあります。
日本緩和医療学会「がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン」- NSAIDsの適応症と使用法
NSAIDsの鎮痛効果は有効成分だけでなく、基剤(薬の成分を溶かす媒体)によっても影響を受けることが、医療従事者の間でも比較的知られていない事実です。特に外用NSAIDsでは、この基剤の違いが経皮吸収性や組織浸透性に大きく影響します。
基剤の種類とNSAIDs効果への影響
🔸 ゲル基剤
🔸 クリーム基剤
🔸 テープ剤/パップ剤
研究によると、同じNSAIDs成分でも基剤の違いにより組織内濃度に最大5倍の差が生じることがあります。PainVisionを用いた研究でも、外用NSAIDsの基剤ごとの鎮痛効果に差があることが示唆されています。
また、NSAIDsの剤形(内服薬、外用薬、注射薬)の選択も重要です。多くのガイドラインでは、特に高齢者や副作用リスクの高い患者に対して、まず外用NSAIDsから開始することが推奨されています。外用NSAIDsは経口NSAIDsに比べ消化管出血、腎障害、心血管障害などの副作用が少なく安全に使用できるためです。
現在の多くのガイドラインでは外用NSAIDsが成分や剤形によらず一括して「Topical NSAIDs」と記載されており、薬剤選択を煩雑にしている面があります。実際には基剤の特性を理解し、患者の症状や部位に合わせて適切な外用剤を選択することが、NSAIDsの効果を最大化し副作用を最小化するために重要です。
PainVisionを用いた外用NSAIDsの鎮痛効果の比較(J-STAGE)- 基剤による効果差の詳細研究
NSAIDsの中でも選択的COX-2阻害薬は、効果と安全性のバランスという観点から特別な位置づけにあります。従来の非選択的NSAIDsと比較して、どのような強さと特徴を持つのかを詳しく見ていきましょう。
選択的COX-2阻害薬と従来型NSAIDsの比較
特性 | 選択的COX-2阻害薬 | 非選択的NSAIDs |
---|---|---|
代表薬 | セレコキシブ(セレコックス) | ロキソプロフェン、ジクロフェナク |
鎮痛効果の強さ | 中~強 | 薬剤により異なる(弱~強) |
消化管障害リスク | 低い | 比較的高い |
心血管イベントリスク | やや高い可能性 | 薬剤により異なる |
腎機能への影響 | あり | あり |
使用適応 | 消化管リスクの高い患者 | 一般的な炎症性疼痛 |
セレコキシブに代表される選択的COX-2阻害薬は、1999年にアメリカで発売された際に「スーパーアスピリン」として脚光を浴びました。これらの薬剤は、多くの組織で炎症や疼痛の発現にかかわるCOX-2のみを選択的に阻害し、胃粘膜保護などに関わるCOX-1は阻害しないという特徴があります。
選択的COX-2阻害薬の強さと特徴。
NSAIDsの選択において最も重要なのは、効果と安全性のバランスを個々の患者の状態に合わせて考慮することです。特に高齢者や多剤併用患者では、薬物間相互作用も含めた総合的な判断が必要になります。