細菌性肺炎と症状の特徴

細菌性肺炎の症状には発熱、咳、膿性痰、呼吸困難などがあり、原因菌や年齢により特徴が異なります。高齢者では非定型的な症状を示すため注意が必要です。あなたは細菌性肺炎の症状を正しく理解できていますか?

細菌性肺炎の症状

細菌性肺炎の主な特徴
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発熱と全身症状

38℃以上の発熱を伴い、時に40℃近くまで上昇します。全身倦怠感や食欲低下も伴います。

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咳と膿性痰

乾性咳嗽から湿性咳嗽へと進行し、緑色や黄色の粘稠な膿性痰が特徴的です。

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呼吸困難

肺胞の炎症により息切れや呼吸数増加が見られ、重症例ではチアノーゼを呈します。

細菌性肺炎の初期症状と発熱の特徴

 

細菌性肺炎の初期症状として最も顕著なのは発熱であり、通常38℃以上の中等度から高度の発熱を認めます。発熱は感染に対する生体反応として現れ、時には40℃近くまで上昇することもあります。発熱に加えて頭痛、食欲不振、全身倦怠感筋肉痛などの全身症状を伴うことも多く見られます。
参考)細菌性肺炎 (Bacterial pneumonia) - …

細菌性肺炎における発熱の程度は原因菌の種類や患者の免疫状態によって異なります。肺炎球菌性肺炎では高熱を呈することが典型的ですが、高齢者では微熱程度であったり、発熱を認めないこともあるため注意が必要です。このように発熱の有無や程度だけでは診断が困難な場合もあり、他の症状との組み合わせで判断することが求められます。
参考)https://medicalnote.jp/diseases/%E7%B4%B0%E8%8F%8C%E6%80%A7%E8%82%BA%E7%82%8E

初期の段階では風邪や急性上気道炎との鑑別が困難ですが、症状の進行速度や発熱の持続期間が診断の手がかりとなります。発熱が3日以上持続する場合や、解熱剤でも十分に熱が下がらない場合には細菌性肺炎を疑う必要があります。
参考)細菌性肺炎

細菌性肺炎における咳と痰の特徴的症状

細菌性肺炎の最も特徴的な症状の一つが痰を伴う咳です。初期段階では痰を伴わない乾性咳嗽として現れることが多いものの、病状の進行とともに次第に湿性咳嗽へと変化します。この変化は肺胞内に炎症が広がり、膿が貯まることによって生じます。
参考)細菌性肺炎になるとどうなるの?症状と治療法について

膿性痰は細菌性肺炎を他の呼吸器感染症から鑑別する重要な所見です。痰の色は緑色、黄色、または赤みがかった色調を呈し、粘稠性が高く粘り気があるのが特徴です。肺胞内で細菌と白血球が戦った結果として膿が生成され、これが気道を通じて喀出されるため、膿性痰として観察されます。時に血液が混じることもあり、これは炎症が強い場合や血管が損傷を受けている場合に見られます。​
咳の強さも細菌性肺炎の特徴的な症状です。粘稠な痰を喀出するためには強い咳が必要となるため、「痰がらみを伴う咳」として症状が現れます。この咳は持続的であり、夜間や早朝に悪化することもあります。非定型肺炎であるマイコプラズマ肺炎やクラミジア肺炎では痰を伴わない強い咳を認めることが多く、細菌性肺炎との鑑別点となります。
参考)【肺炎】症状が乏しく見つけにくい高齢者の肺炎 原因菌を推定し…

細菌性肺炎の呼吸困難と胸痛の症状

細菌性肺炎では肺胞の炎症により呼吸機能が低下し、呼吸困難が発症します。息切れ、呼吸数の増加、肩で呼吸をするなどの代償的な呼吸パターンが観察されます。酸素と二酸化炭素のガス交換を担う肺の機能が障害を受けるため、体が酸素不足を補おうとして呼吸回数が増加します。​
呼吸困難の程度は病状の重症度を反映する重要な指標です。軽度では息切れ程度ですが、中等度になると呼吸数が増加し、重度になるとチアノーゼ(青紫色に粘膜や皮膚が変色する状態)を呈します。チアノーゼは血中酸素濃度が著しく低下していることを示す所見であり、緊急治療を要する状態です。重症例では人工呼吸管理が必要になる場合もあります。
参考)細菌性肺炎の特徴・症状と治療法について【医師監修】

胸痛も細菌性肺炎で認められる重要な症状です。炎症が胸膜まで広がると胸膜炎を合併し、深吸気時に増悪する鋭く刺すような痛みが特徴的です。胸膜に強い炎症が起きると肺の外側に水(胸水)が貯まり、呼吸がしづらくなったり呼吸が荒くなるなど重い症状が現れる場合があります。胸痛の有無は炎症の広がりを判断する指標となり、胸痛を訴える場合は重症化のリスクが高いと考えられます。
参考)細菌性肺炎(bacterial pneumonia)|症状か…

細菌性肺炎の原因菌と症状の違い

細菌性肺炎の原因菌として最も多いのは肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)であり、市中肺炎の主要原因として知られています。肺炎球菌は成人の市中肺炎で最も頻度が高く、最も致死率が高い原因菌です。肺炎球菌性肺炎では高熱、膿性痰、胸痛といった典型的な細菌性肺炎の症状を呈します。特に高齢者や免疫力が低下した人に感染症を引き起こしやすく、重症化しやすい特徴があります。
参考)肺炎はどんな病気?症状・病態・治療・予防について解説!

肺炎の原因菌として2番目に多いのはインフルエンザ桿菌(Haemophilus influenzae)です。名称は似ていますがインフルエンザウイルスとは全く別の病原体です。インフルエンザ桿菌は莢膜型(特にb型:Hib)と非莢膜型(NTHi)に分類され、成人の肺炎、中耳炎、副鼻腔炎などの原因となります。特に高齢者やCOPD患者に多く見られるのが特徴です。​
非定型肺炎を引き起こす原因菌には、マイコプラズマやクラミジア、レジオネラなどがあります。これらは細胞壁のない、または通常の細菌とは異なる構造を持つ病原体です。非定型肺炎は若年者の肺炎の約半数を占め、特にマイコプラズマ感染による肺炎が多いのが特徴です。非定型肺炎では痰を伴わない強い咳を認めることが多く、典型的な細菌性肺炎とは症状のパターンが異なります。
参考)肺炎(細菌性肺炎、マイコプラズマ肺炎、クラミジア肺炎など)

原因菌によって有効な抗菌薬が異なるため、原因菌の特定は治療選択において重要です。肺炎球菌に対しては第一選択としてペニシリン系抗菌薬(アモキシシリン)が用いられますが、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)も増加しています。インフルエンザ桿菌に対してはアンピシリン系や第3世代セフェム系が第一選択薬となりますが、耐性菌も出現しており感受性検査が重要となります。​

細菌性肺炎の高齢者における非定型的症状

高齢者の細菌性肺炎では典型的な症状が現れないことが多く、診断が遅れて重症化するリスクが高いという特徴があります。65歳以上の肺炎では発熱や咳、痰などの症状があまり見られず、肺炎と気づかないうちに重症化する危険性があります。高齢者では微熱程度であったり、咳も痰も出ないこともあるため、「何となく普段と様子が違っている」程度でも肺炎を発症している可能性があり注意が必要です。
参考)肺炎の症状

高齢者の肺炎で見られる非定型的な症状には、「普段と比べて元気がない」「食事をあまりとらない」「よくつまずく」といった徴候があります。これらは一見肺炎とは無関係に見えますが、実際には肺炎による全身状態の悪化を反映しています。食欲低下や倦怠感のみが症状であることもあり、これらの症状のみで風邪や他の疾患との鑑別は困難です。​
高齢者の肺炎が重症化しやすい理由は複数あります。免疫力の低下により感染症にかかりやすく、症状による早期発見が遅れがちになること、低栄養状態、全身の免疫反応の低下などが関与しています。また、高齢者の肺炎では誤嚥が関与していることが70%以上と報告されており、嚥下機能の低下も重要な要因です。基礎疾患を持つ高齢者にとっては、肺炎が命に関わる重大な疾患となります。
参考)No.312 なぜ高齢者の肺炎は重症化するのか?

日頃から様子を見ている家族が同居していれば異変に早く気づいて早期診断・治療が可能ですが、独居高齢者では発見が遅れ、重症化してから受診するケースが少なくありません。国内の研究によると、75歳以上で肺炎により入院した方のうち、過去1年間に肺炎で再入院した方は4人に1人に上ることが報告されており、高齢者の肺炎は繰り返しやすく生活に大きな影響を及ぼします。​

細菌性肺炎の診断に必要な検査と症状の評価

細菌性肺炎の診断には患者の症状、身体所見、画像検査、血液検査、喀痰検査などを総合的に評価することが必要です。まず問診と身体診察により症状や病歴を詳細に聴取し、聴診では肺野の副雑音(湿性ラ音など)の有無を確認し、打診では濁音の有無を評価します。呼吸数の増加や脈拍の増加も身体所見として重要です。​
画像検査は細菌性肺炎の診断に不可欠です。胸部X線検査では肺野の浸潤影や空洞形成などの所見を確認します。細菌性肺炎では気管支透亮像を伴う浸潤影(影が広がった状態)が認められることが特徴的な所見です。CT検査ではより詳細な病変の評価が可能であり、肺炎の範囲や合併症の有無を正確に把握できます。
参考)肺炎球菌肺炎はレントゲン検査でわかりますか? |肺炎球菌肺炎…

血液検査では白血球数やCRP値の上昇が感染症を示唆する重要な所見です。炎症反応の程度は肺炎の重症度を反映しており、治療効果の判定にも用いられます。また、血液検査では肺炎そのものだけでなく、別の臓器への影響や全身の状況を把握するためにも有用です。酸素・二酸化炭素の血中濃度を測定することで、ガス交換の重症度を評価することもあります。​
原因菌の特定は適切な抗菌薬選択のために重要です。喀痰のグラム染色によって原因菌の推定が可能であり、喀痰培養検査では原因菌の同定と薬剤感受性試験が行われます。ただし、治療を優先する場合が多く、喀痰細菌検査の結果を待つよりも治療を開始することが一般的です。尿検査では尿中肺炎球菌抗原検査や尿中レジオネラ検査により原因菌が判断できる場合もあります。百日咳、マイコプラズマ、クラミジアなどの特定の菌に対する反応を血液検査で調べ、原因菌を推定することも可能です。​

細菌性肺炎とインフルエンザ後の二次感染症状

インフルエンザ感染後に細菌性肺炎を合併しやすくなることは、臨床的に重要な問題です。インフルエンザウイルス感染によって気道の防御機能が低下し、常在菌である肺炎球菌、インフルエンザ桿菌、黄色ブドウ球菌などが下気道に侵入しやすくなります。この現象は二次性細菌性肺炎と呼ばれ、インフルエンザ発症後数日以上経過してから症状が現れるのが一般的です。​
インフルエンザに関連した肺炎には3つの病型があります。原発性インフルエンザウイルス肺炎はインフルエンザ発症早期に急速進行する呼吸不全を特徴とし、二次性細菌性肺炎は細菌感染による高熱、膿性痰を伴う咳、胸痛などの症状が見られます。ウイルス混合細菌性肺炎では両者の症状が混在し、インフルエンザ発症初期から重症の肺炎症状を呈して急激な経過をたどります。​
インフルエンザウイルス感染が細菌性肺炎を合併しやすくなる機序には複数の要因が関与しています。ウイルス感染により気道粘膜が傷害され、線毛運動の低下や粘液分泌の増加が起こることで細菌の侵入が容易になります。さらに、インフルエンザウイルスに感染した気道上皮細胞の表層には細菌の定着を促進させるタンパク質が出現することが発見されています。インフルエンザ感染により宿主が提供するシアル酸が肺炎球菌の増殖を促進し、コロニゼーションや誤嚥を増加させることも報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4096718/

歴史的に見ても、細菌性肺炎とインフルエンザウイルス感染の致命的な相乗効果は世界に大きな影響を残してきました。パンデミックや季節性インフルエンザの流行期において、インフルエンザに起因する死亡の多くは実際には二次性細菌性肺炎によるものです。肺上皮バリアの損傷により細菌の付着に影響する受容体が露出し、過剰な自然免疫応答やサイトカインストームが誘発されることで、さらに傷害が悪化します。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5154682/

インフルエンザ感染時の細菌性肺炎合併機序に関する研究(日本医療研究開発機構)
この研究ではインフルエンザウイルス感染が細菌性肺炎を促進する分子メカニズムについて詳細に解説されています。

 

成人肺炎診療ガイドライン(日本呼吸器学会)
日本呼吸器学会による成人肺炎の診断と治療に関する包括的なガイドラインで、市中肺炎のエンピリック治療や細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別について記載されています。

 

 


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