ユナシン錠を飲んでいる間、ピルの効果が弱まって妊娠リスクが上がることがある。
スルバクタムアンピシリンの内服薬として処方されるのが、スルタミシリントシル酸塩水和物(商品名:ユナシン錠375mg)です。注射薬のユナシン-S(スルバクタムナトリウム・アンピシリンナトリウム配合)とは成分の種類・製剤設計がまったく異なる点を最初に押さえておきましょう。
ユナシン錠はアンピシリン(ABPC)とスルバクタム(SBT)をエステル結合させた「1成分」の薬です。これを「mutual prodrug(相互プロドラッグ)」と呼びます。飲んだ後、腸管のエステラーゼによって加水分解され、アンピシリンとスルバクタムがそれぞれ遊離して血中に移行します。つまり、錠剤のうちに抗菌活性はなく、体の中で初めて有効成分が活性化される設計です。これは意外と知られていない事実です。
アンピシリン単体の経口吸収率は30〜40%程度と低いですが、スルバクタムとのエステル結合によって吸収性が改善されています。ユナシン錠375mg1錠の成分換算は、アンピシリン約220mg+スルバクタム約155mgとなります。成人の標準用量は1回375mg(力価)を1日2〜3回の経口投与です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | スルタミシリントシル酸塩水和物 |
| 商品名 | ユナシン錠375mg(ファイザー) |
| 成分換算(1錠) | アンピシリン約220mg+スルバクタム約155mg |
| 標準用量(成人) | 1回375mg・1日2〜3回 経口 |
| 薬価 | 375mg1錠あたり60円(2025年4月以降) |
薬価は1錠60円です。7日分処方されると約1,260円(3割負担で約378円)の薬代になります。比較的手頃な価格帯ですが、処方日数・回数に応じて自己負担額が変わります。
腎排泄率が高く(ABPC約68.9%、SBT約60.1%)、腎機能が低下している患者では血中濃度が上昇しやすいため、用量調整が必要です。これが原則です。
参考:ユナシン錠375mgの添付文書・薬物動態データ(今日の臨床サポート)
今日の臨床サポート:ユナシン錠375mg(薬物動態・副作用情報)
スルバクタムアンピシリン内服薬の強みは、βラクタマーゼ阻害薬(スルバクタム)の配合によって、アンピシリン単体では効かない菌にも対応できる点にあります。βラクタマーゼを産生するインフルエンザ菌やモラクセラ・カタラーリス、嫌気性菌などに対して抗菌活性を発揮します。
有効な主な菌種は、ブドウ球菌属・レンサ球菌属・肺炎球菌・腸球菌属(E. faecalisのみ)・淋菌・大腸菌・プロテウス・ミラビリス・インフルエンザ菌です。嫌気性菌にも一定のカバー範囲があります。
一方で、MRSAと緑膿菌には効きません。また、大腸菌・クレブシエラなど腸内細菌科細菌には地域によって30%程度の耐性率が確認されています。効果を過信せず、培養・感受性結果を確認することが条件です。
適応症は以下のとおりです。
ここで注目すべきなのが、同じβラクタマーゼ阻害薬配合の内服薬であるオーグメンチン配合錠には「肺炎」の適応がないという点です。一方、ユナシン錠は肺炎・肺膿瘍にも適応があります。肺炎に処方された際に「なぜオーグメンチンでなくユナシン錠なのか」と疑問に感じた方もいるかもしれませんが、適応上の理由があるのです。意外ですね。
また、顎炎・顎骨周囲蜂巣炎・手術創などの二次感染は添付文書適応外ですが、保険診療上認められている疾患として使用可能です。処方された場面によっては「なぜこの薬が?」と感じることがあるかもしれませんが、こうした背景があります。
参考:感染症内科医監修のペニシリン系抗生物質解説
ドクタービジョン:ペニシリン系抗生物質の一覧解説(感染症内科医監修)
スルバクタムアンピシリン内服(ユナシン錠)で最も頻度が高い副作用が下痢・軟便です。発現頻度は1%以上に分類されており、服用開始から数日以内に現れるケースが多く報告されています。消化器症状が出た場合は無理に飲み続けず、まず担当医・薬剤師に相談することが大切です。
副作用は消化器症状だけではありません。次のような重大な副作用の報告もあります。
これらは頻度こそ低いものの、見逃すと危険な副作用です。日常で出やすいのは下痢・発疹・悪心ですが、「何かいつもと違う」と感じたら早めに確認するのが原則です。
また、伝染性単核症(EB ウイルス感染症)の患者へは禁忌とされています。アンピシリン系薬を使うと高頻度に発疹が出ることが知られているためです。のどの痛み・リンパ節腫脹・発熱がある状態でこの薬を処方される場合は、医師に伝染性単核症の可能性を確認することをすすめます。
就寝直前の服用は食道潰瘍を起こすリスクがあります。必ず十分な量の水(コップ1杯程度)で服用し、服用後すぐに横にならないことが大切です。
参考:ユナシン錠 くすりのしおり(患者向け情報)
くすりのしおり:ユナシン錠375mg(患者向け副作用・注意情報)
スルバクタムアンピシリン内服薬(ユナシン錠)には、日常生活に直結する「飲み合わせの注意」が複数あります。知らずに服用していると思わぬトラブルにつながる可能性があるため、しっかり確認しておきましょう。
最も見落とされやすいのが経口避妊薬(ピル)との相互作用です。アンピシリンとの併用によって腸内細菌叢が変化し、ピルの成分の腸肝循環による再吸収が抑制されることで、避妊効果が弱まる可能性があります。具体的には、避妊の失敗リスクが生じることが添付文書に明記されています。この点は女性にとって非常に重要な情報です。服用期間中は別の避妊手段(コンドームなど)を並用することを医師・薬剤師に相談することが必要です。
もう一つの重要な相互作用がアロプリノール(痛風治療薬)との併用です。アロプリノールとアンピシリンを併用した入院患者67例のうち22.4%に薬剤性発疹が認められたと報告されています。アンピシリン単独服用例では7.5%だったため、おおよそ3倍近い頻度で発疹リスクが高まるのです。痛風・高尿酸血症の治療でアロプリノールを飲んでいる方は、抗菌薬処方時に必ず医師・薬剤師に伝えましょう。
| 併用薬 | 起こりうる相互作用 | 対処法 |
|---|---|---|
| 経口避妊薬(ピル) | 避妊効果が低下する可能性 | 服用期間中は別の避妊法を追加 |
| アロプリノール(痛風薬) | 発疹の発現リスクが約3倍増加 | 処方前に医師・薬剤師に申告 |
| 抗凝血剤(ワルファリンなど) | 出血傾向が強まる可能性 | 定期的な凝固能チェック |
| メトトレキサート | メトトレキサートの毒性が強まる可能性 | 血中濃度モニタリングが必要 |
| プロベネシド | ユナシン錠の血中濃度が上昇 | 用量調整の検討 |
食事との関係についても押さえておきましょう。ユナシン錠はアンピシリン(ABPC)・スルバクタム(SBT)ともに、空腹時より食後投与の方がAUC(体内への吸収量の指標)が増加することがデータで示されています。つまり、食後に飲む方が薬が体内によく吸収されます。食前・食後いずれでも服用は可能ですが、同じ時間帯を守ることで血中濃度を安定させられます。これはオーグメンチンとは逆の特性(オーグメンチンは食事開始時服用推奨)です。
参考:オーグメンチン配合錠とユナシン錠の違い(薬剤師による詳細解説)
くすりプロ:オーグメンチン配合錠とユナシン錠の違い(薬剤師監修)
入院中に点滴のユナシン-S(アンピシリン/スルバクタム注射薬)を使用していた場合、症状が落ち着いてきたとき「内服に切り替えてよいか」という判断が重要になります。これを「経口スイッチ(IV→PO切り替え)」と呼び、入院期間の短縮や患者への負担軽減につながる有用な方法です。
経口スイッチが可能かどうかは、COMS criteria(臨床的改善・経口摂取可能・バイタル安定・深部感染でない)という基準で判断します。24時間解熱を維持し、嘔吐や嚥下障害がなく経口摂取が可能で、バイタルサインが安定していれば切り替えの検討ができます。
ここで一つの重要な臨床知識があります。点滴のユナシン-S(アンピシリン/スルバクタム)から内服に切り替える際、ユナシン錠(スルタミシリン)への変更ではなく、オーグメンチン配合錠(アモキシシリン/クラブラン酸)への変更が推奨されます。
なぜかというと、ユナシン錠のアンピシリン含有量は1錠約220mgと少なく、1日3錠服用してもABPC換算で約660mgにしかなりません。対してオーグメンチン配合錠(250RS)は1日4錠でAMPC1000mgとなり、吸収率88.7%のアモキシシリンを使用しているため、より確実な血中濃度を維持できます。実際に、奈良病院の感染症専門医による資料でも「ユナシン-Sからの経口スイッチはアモキシシリン/クラブラン酸(オーグメンチン)を使用する」と明示されています。
つまり、経口スイッチではオーグメンチンが基本です。
なお、「オグサワ」と呼ばれるオーグメンチン配合錠250RS+アモキシシリン(サワシリン)250mgカプセルの組み合わせは、アモキシシリン量を補充して理想的なAMPC:CBAの比率(4:1)を実現するための処方です。内服抗菌薬として高い有効性が期待できます。
感染性心内膜炎・骨髄炎・膿胸などの重篤な感染症、または免疫低下状態では、経口スイッチ自体が適さないケースもあります。こうした病態では注射薬を継続する判断が必要です。
参考:超高齢化社会における感染症のTips(市立奈良病院・森川暢医師)
金芳堂:第15回 超高齢化社会における感染症のTips(経口スイッチの実際)