プロベネシドは尿酸排泄促進薬として痛風や高尿酸血症の治療に使用される医薬品ですが、投与が禁忌とされる病態がいくつか存在します。医療従事者は処方前に患者背景を十分に確認し、禁忌に該当しないかを慎重に判断する必要があります。
参考)医療用医薬品 : ベネシッド (ベネシッド錠250mg)
腎臓結石症の患者にプロベネシドを投与すると、尿中の尿酸排泄量が増大することで結石の形成が促進され、症状を悪化させるおそれがあります。プロベネシドは腎尿細管における尿酸の再吸収を抑制することで尿中への尿酸排泄を約2倍に増加させるため、尿路結石のリスクが高まります。
参考)プロベネシド(ベネシッド) href="https://kobe-kishida-clinic.com/metabolism/metabolism-medicine/probenecid/" target="_blank">https://kobe-kishida-clinic.com/metabolism/metabolism-medicine/probenecid/amp;#8211; 代謝疾患治療薬 …
高度の腎機能障害のある患者では、プロベネシドの効果が期待できないことに加え、薬剤の蓄積による有害事象のリスクが増大します。腎臓での尿酸排泄機能が著しく低下している状態では、尿酸排泄促進薬としての治療効果が発揮されません。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00050635.pdf
| 禁忌病態 | 理由 |
|---|---|
| 腎臓結石症 | 尿中尿酸排泄量増大により症状悪化 |
| 高度腎障害 | 効果が期待できず薬剤蓄積のリスク |
腎機能正常な患者においてのみプロベネシドの効果が最大限に発揮されるため、eGFR 60mL/min/1.73m²以上であることが望ましいとされています。
血液障害のある患者にプロベネシドを投与すると、既存の血液障害が悪化するおそれがあるため投与禁忌とされています。プロベネシドの重大な副作用として溶血性貧血や再生不良性貧血の報告があり、血液学的検査を定期的に実施して観察を十分に行う必要があります。
参考)ベネシッド錠250mgの効能・副作用|ケアネット医療用医薬品…
溶血性貧血は赤血球が破壊されることで生じる貧血であり、めまいや蒼白、発熱などの症状が現れます。再生不良性貧血は骨髄での血球産生が低下する疾患で、感染症や出血傾向などの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。
参考)プロベネシド - yakugaku lab
元々貧血や血小板減少などの血液障害を有する患者では、プロベネシド投与により症状が増悪するリスクが高いため、投与開始前に血液検査で血液障害の有無を確認することが重要です。
プロベネシドの成分に対して過敏症の既往歴がある患者には投与禁忌です。過敏症反応としてはアナフィラキシー、皮膚炎、発疹、そう痒などが報告されており、重篤な場合は呼吸困難やじんましんを伴うアナフィラキシー様反応を引き起こす可能性があります。
2歳未満の乳幼児に対してもプロベネシドの投与は禁忌とされています。小児における安全性や有効性が確立されていないため、乳幼児への使用は避けるべきです。
妊婦や授乳婦に対しても慎重投与が求められ、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与を検討します。高齢者では一般的に生理機能が低下しているため、減量などの配慮が必要です。
消化性潰瘍の既往歴がある患者では、プロベネシド投与により潰瘍が再発するリスクがあるため注意が必要です。消化性潰瘍は胃や十二指腸の粘膜が傷害される疾患で、腹痛や吐血などの症状を呈します。
参考)https://www.wam.go.jp/gyoseiShiryou-files/documents/2008/11581/20081201_6shiryou3-2_4.pdf
プロベネシドの副作用として食欲不振や胃部不快感、悪心・嘔吐といった消化器症状が報告されており、これらが消化性潰瘍の再発を誘発する可能性があります。消化性潰瘍の既往がある患者にプロベネシドを投与する場合は、慎重に経過観察を行い、症状出現時には速やかに投与を中止して適切な処置を行う必要があります。
参考)くすりのしおり : 患者向け情報
尿が酸性の場合には尿酸結石が形成されやすくなるため、プロベネシド投与中は十分な水分摂取と尿のアルカリ化を図ることが推奨されます。患者には1日2L以上の水分摂取を指導し、必要に応じて尿アルカリ化剤の併用を検討します。
参考)高尿酸血症の原因・症状・検査・治療について
プロベネシド投与中は重大な副作用の早期発見のために定期的な血液学的検査と肝機能検査が必須です。溶血性貧血や再生不良性貧血は投与開始後数週間から数ヶ月で発症することがあり、定期的なモニタリングにより早期発見が可能となります。
肝壊死もプロベネシドの重大な副作用として報告されており、食欲不振、吐き気、黄疸などの症状が出現した場合は直ちに投与を中止し肝機能検査を実施します。ネフローゼ症候群の発症例も報告されているため、尿量減少や全身のむくみなどの症状にも注意が必要です。
| 検査項目 | 頻度 | 目的 |
|---|---|---|
| 血液検査 | 定期的 | 溶血性貧血・再生不良性貧血の監視 |
| 肝機能検査 | 定期的 | 肝壊死の早期発見 |
| 尿検査 | 適宜 | ネフローゼ症候群の監視 |
これらのモニタリングを通じて副作用の兆候を早期に察知し、必要に応じて投与中止や代替治療への変更を検討することが患者の安全性確保につながります。
アスピリンはプロベネシドの尿酸排泄作用を減弱させるため、併用は避けるべきとされています。アスピリンは腎尿細管でのプロベネシドの作用を妨げることが知られており、機序としては腎尿細管分泌部位での阻害や血漿アルブミンの結合部位での競合が考えられています。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/special_feature/4617
アスピリンの服用によってプロベネシドの効果が十分に発揮されないため、痛風や高尿酸血症の管理においてアスピリンの使用は慎重に行う必要があります。サリチル酸系薬剤全般がプロベネシドの尿酸排泄作用に拮抗するため、これらの薬剤を服用している患者には他の治療法を検討することが重要です。
アスピリンが必要な患者でプロベネシドによる治療を希望する場合は、アスピリンを他の抗血小板薬に変更するか、プロベネシドの代わりに作用機序の異なる尿酸生成抑制薬(アロプリノールやフェブキソスタット)を選択することが推奨されます。
メトトレキサートは抗がん剤や関節リウマチ治療薬として使用される薬剤ですが、プロベネシドとの併用には十分な注意が必要です。プロベネシドはメトトレキサートの腎尿細管分泌を阻害して尿中排泄を低下させるため、メトトレキサートの血中濃度が上昇し毒性が増加するリスクがあります。
参考)http://www.pharm.kobegakuin.ac.jp/~bunseki/83kokusi/A83159.html
メトトレキサートの毒性症状としては口内炎や汎血球減少などが報告されており、特に腎機能が低下している患者ではメトトレキサートの排泄が遅れ、重篤な副作用が生じる可能性が高まります。プロベネシド併用時にはメトトレキサートの腎クリアランスが有意に低下するため、メトトレキサートの用量調整が必要となります。
| 併用薬剤 | 影響 | 対策 |
|---|---|---|
| メトトレキサート | 血中濃度上昇・毒性増加 | 用量調整または併用回避 |
| アスピリン | プロベネシドの効果減弱 | 併用を避ける |
メトトレキサートを使用している患者にプロベネシドの併用が必要な場合は、メトトレキサートの血中濃度を綿密にモニタリングし、必要に応じて減量するなどの慎重な管理が求められます。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)であるインドメタシンやナプロキセンとプロベネシドを併用すると、これらNSAIDsの半減期の延長やAUC(血中濃度曲線下面積)の増加が報告されています。プロベネシドがNSAIDsの腎尿細管からの分泌や胆汁中への排泄を抑制するためと考えられています。
インドメタシンやナプロキセンの血中濃度が上昇すると、消化管障害や腎機能障害などの副作用リスクが高まります。これらの薬剤を併用する場合にはNSAIDsの用量を減量するなどの注意が必要です。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/dd324d56d62e1e0c22654da578efe4cabdcdd118
一方で、プロベネシドとNSAIDsの相互作用を利用して、NSAIDsの効果を増強させる目的で両者を併用する場合もあります。痛風患者においてインドメタシンとプロベネシドの併用により関節炎症パラメータが有意に改善されたという報告があり、プロベネシド併用により朝のこわばりや疼痛を軽減できる可能性が示唆されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1402433/
プロベネシドは元々ペニシリンの血中濃度を維持する目的で使用されていた経緯があり、ペニシリン系やセファロスポリン系抗生物質の腎尿細管分泌を阻害して血中濃度を上昇させます。アンピシリンなどのペニシリン系抗生物質とプロベネシドを併用すると、抗生物質の半減期が延長しAUCが増加することが報告されています。
抗ウイルス薬であるアシクロビルやバラシクロビル塩酸塩とプロベネシドを併用すると、アシクロビルの腎排泄が抑制され血中濃度が増加します。プロベネシドは尿細管分泌に関わるOAT1やMATE1を阻害するため、アシクロビルのAUCが約48%増加するとの報告があります。
参考)https://med.nipro.co.jp/servlet/servlet.FileDownload?file=01510000002lk3aAAA
ジドブジンなどの抗HIV薬とプロベネシドを併用した場合も、プロベネシドがジドブジンのグルクロン酸抱合を阻害し抱合体の腎排泄を抑制するため、ジドブジンの半減期延長とAUC増加が認められます。これら抗生物質や抗ウイルス薬を併用する場合には、薬剤の血中濃度上昇による副作用に注意し、必要に応じて用量調整を行うことが重要です。
プロベネシドは経口糖尿病用剤であるスルホニルウレア系やスルホニルアミド系薬剤の腎尿細管分泌を阻害し、これら薬剤の血中濃度を上昇させる可能性があります。低血糖のリスクが高まるため、血糖値のモニタリングを強化し必要に応じて用量調整を行います。
経口抗凝血剤であるワルファリンとプロベネシドを併用すると、ワルファリンの作用が増強されるおそれがあります。プロベネシドがワルファリンの腎尿細管分泌を阻害して尿中排泄を低下させるためと考えられており、出血リスクが増大する可能性があるため、PT-INRの綿密なモニタリングが必要です。
| 併用薬剤カテゴリ | 主な薬剤例 | 相互作用の機序 |
|---|---|---|
| 抗生物質 | ペニシリン系・セファロスポリン系 | 腎尿細管分泌阻害 |
| 抗ウイルス薬 | アシクロビル・ジドブジン | 腎排泄抑制・グルクロン酸抱合阻害 |
| 経口糖尿病用剤 | スルホニルウレア系 | 腎尿細管分泌阻害 |
| 抗凝血剤 | ワルファリン | 腎尿細管分泌阻害 |
ガンシクロビルやノギテカン塩酸塩などの抗がん剤とプロベネシドを併用した場合も、これら薬剤の腎クリアランスが低下し血中濃度が上昇するおそれがあります。プロベネシドは有機アニオントランスポーターを阻害するため、多くの薬剤の腎排泄に影響を及ぼす可能性があり、併用薬剤の選択と用量調整には十分な注意が必要です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9398954/