インフルエンザ菌症状と髄膜炎肺炎中耳炎の診断治療

インフルエンザ菌感染症は乳幼児に重篤な髄膜炎や肺炎、中耳炎を引き起こす細菌感染症です。初期症状は発熱や不機嫌など風邪と似ており、早期診断が困難です。侵襲性感染症では急速に重症化するため、医療従事者は症状の特徴と適切な抗菌薬治療を理解する必要があります。あなたは患者の症状からインフルエンザ菌感染症を正確に鑑別できますか?

インフルエンザ菌の症状

インフルエンザ菌感染症の主要な臨床像
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侵襲性感染症

髄膜炎、敗血症、急性喉頭蓋炎などの重篤な全身感染症を引き起こし、早期治療が生命予後を左右します

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呼吸器感染症

肺炎、気管支炎、上気道炎などを呈し、特にCOPD患者では増悪因子として重要です

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局所感染症

中耳炎、副鼻腔炎、結膜炎など粘膜感染症の主要な起炎菌として小児で高頻度に検出されます

インフルエンザ菌髄膜炎の症状

 

インフルエンザ菌による細菌性髄膜炎は、特にインフルエンザ菌b型(Hib)が原因となる乳幼児の重篤な感染症です。発症は一般に突発的で、上気道炎や中耳炎を伴って発症することがあります。
参考)インフルエンザ桿菌感染症(特にHib)について

髄膜炎の初期症状として、発熱、頭痛、嘔吐が認められますが、乳幼児では症状がはっきりせず初期診断が非常に難しいことが特徴です。新生児や乳児では、発熱以外に不機嫌、食欲低下(哺乳力の低下)、大泉門膨隆などの症状が目立つこともあります。
参考)https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-44.html

進行すると、首を動かしにくくなる頸部硬直(項部硬直)、けいれん、意識障害といった髄膜刺激症状が出現します。風邪などの他の病気の症状と似ているため、早期に診断することが極めて困難であり、発熱開始から3~4日で死亡する場合もある急激な経過をとることがあります。治療中でも命を落としたり、発達や運動障害、難聴などの後遺症が残る危険性が高い疾患です。
参考)侵襲性インフルエンザ菌感染症 Invasive Haemop…

インフルエンザ菌肺炎の症状

インフルエンザ菌は肺炎球菌と並んで肺炎などの下気道感染症の主要な原因菌であり、特に慢性呼吸器疾患患者において重要な病原体です。無莢膜型インフルエンザ菌(NTHi)は、慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者の下気道に慢性的に定着し、増悪を引き起こす主要な原因となっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3567431/

インフルエンザ菌性肺炎では、咳嗽、喀痰、発熱、呼吸困難などの典型的な呼吸器症状が認められます。COPD患者や喘息患者では、インフルエンザ菌感染により症状が急激に悪化し、呼吸機能が進行的に低下することがあります。重症例では呼吸不全や敗血症性ショックを合併し、致死的となることもあるため注意が必要です。
参考)インフルエンザ肺炎(Influenza Pneumonia)…

インフルエンザ菌は正常な上気道の常在菌叢の一部ですが、COPDなどの基礎疾患がある場合、下気道に定着して慢性的な炎症を引き起こします。この慢性定着が急性増悪の回数を増加させ、生命予後を悪化させる要因となることが明らかになっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2887450/

インフルエンザ菌中耳炎の症状

インフルエンザ菌は肺炎球菌とともに小児急性中耳炎の三大起炎菌の一つであり、中耳炎での検出率は約40%を占めます。鼻や喉についた細菌が耳管を通って中耳に侵入し、炎症を引き起こすことで発症します。
参考)Q:予防接種を受けたのになぜ肺炎球菌の中耳炎になるの?

急性中耳炎では、中耳に膿が貯留し、激しい耳痛、発熱、耳漏(耳だれ)などの症状が出現します。症状が進行すると鼓膜が破れて耳から膿が出てくることもあります。適切な治療を受けずに放置したり、治療を途中でやめたりすると、症状が長引いたり慢性化したりする可能性があります。
参考)インフルエンザの合併症に注意! 中耳炎になることも?

インフルエンザ菌による中耳炎は、肺炎球菌による中耳炎と比較すると、発熱や耳痛などの症状が比較的軽度であることが多いとされています。しかし、治療が不十分な場合は滲出性中耳炎に移行することがあり、難聴や耳鳴りといった症状が持続します。滲出性中耳炎は痛みや発熱を伴わないため気付くのが遅れやすく、治療に時間がかかることがあります。​

インフルエンザ菌敗血症の症状

インフルエンザ菌による敗血症は、血液中に細菌が侵入して全身性の反応を引き起こす重篤な感染症です。敗血症の主な症状は発熱で、他の侵襲性感染症である肺炎や髄膜炎の前段階と考えられています。​
敗血症では、発熱に加えて脱力感、心拍数の増加、呼吸数の増加、白血球数の増加などの全身症状が認められます。急速に重症化することがあり、適切な治療が遅れると多臓器不全に至る可能性があります。特に免疫抑制状態にある患者では、紫斑性電撃症(purpura fulminans)のような重篤な合併症を引き起こすこともあります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10974885/

菌血症を起こすメカニズムは完全には解明されていませんが、無症状のまま鼻や喉に定着していたインフルエンザ菌が何らかのきっかけで血液中に侵入し、全身感染を引き起こすと考えられています。
参考)侵襲性インフルエンザ菌感染症|国立健康危機管理研究機構 感染…

インフルエンザ菌の診断と治療

インフルエンザ菌感染症の診断は、脳脊髄液、血液、中耳腔液、胸水などの検体からインフルエンザ菌を分離・同定することで確定します。PCR法による遺伝子検出も有用な診断手段です。無莢膜型インフルエンザ菌については、中耳貯留液や鼻咽腔鼻汁を試料として抗原検出検査を実施することも可能です。
参考)https://www.vaccine4all.jp/news-detail.php?npage=2amp;nid=176

治療には抗菌薬を使用し、感染症の重症度と薬剤感受性試験の結果に基づいて薬剤を選択します。髄膜炎に対しては、セフトリアキソンロセフィン®)またはセフォタキシムを初期治療として静脈投与し、できるだけ速やかに治療を開始する必要があります。コルチコステロイドの併用が脳の損傷予防に有用な場合があります。
参考)インフルエンザ菌(Haemophilus influenza…

軽症のインフルエンザ菌性肺炎では、アモキシシリンクラブラン酸配合剤とアモキシシリンの併用を経口投与します。中等症以上ではセフトリアキソン1gを24時間ごとに静脈注射します。βラクタム系抗菌薬が使用できない場合は、軽症ではアジスロマイシン、中等症以上ではST合剤(バクタ錠®)を使用します。
参考)疾患別(プライマリ・ケア医が診る感染症) プライマリ・ケアの…

近年、β-ラクタマーゼ産生株やPBP3遺伝子変異を持つ耐性菌が増加しており、特にβ-ラクタマーゼ産生とPBP3遺伝子変異を同時に持つgBLPACR II株は、β-ラクタマーゼ阻害剤配合剤に対しても耐性を示すため、治療が困難になりつつあります。薬剤耐性インフルエンザ菌の世界的な有病率は、髄膜炎症例で最も高く46.9%に達し、急性中耳炎では0.5%と報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10789054/

参考:厚生労働省「侵襲性インフルエンザ菌感染症」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-44.html
侵襲性インフルエンザ菌感染症の定義、症状、治療、予防接種について詳細な情報が記載されています。

 

参考:国立感染症研究所「侵襲性インフルエンザ菌感染症」
侵襲性インフルエンザ菌感染症|国立健康危機管理研究機構 感染…
インフルエンザ菌の病原体の特徴、感染経路、疫学情報、予防法について医療従事者向けに解説されています。

 

 


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