間質性肺炎の症状と治療薬
間質性肺炎の基本知識
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肺の間質で起こる炎症
間質性肺炎は肺を支える組織(間質)に炎症が起き、時間経過で線維化が進行する疾患です。
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特徴的な症状
空咳や労作時の息切れが主症状。進行すると日常生活でも息苦しさを感じるようになります。
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治療アプローチ
抗線維化薬、ステロイド、免疫抑制剤などの薬物療法と、在宅酸素療法や呼吸リハビリテーションを組み合わせます。
間質性肺炎の初期症状と進行パターン
間質性肺炎の初期症状は風邪と非常によく似ており、見逃されやすいことが特徴です。最も一般的な症状として、空咳(痰を伴わない乾いた咳)と労作時の息切れが挙げられます。初期段階では、階段の上り下りや少し歩いただけで息切れを感じることがありますが、多くの患者さんは「年齢のせい」「運動不足」と思い込み、受診が遅れてしまうことがあります。
症状の進行パターンは一般的に以下のような経過をたどります。
- 初期段階: 風邪と似た症状、空咳、軽度の息切れ(特に運動時)
- 中期段階: 咳の悪化、日常活動での息切れ(家事や着替えなど)、倦怠感、体重減少
- 進行期: 安静時でも息苦しさを感じる、チアノーゼ(爪や唇が紫色になる)、ばち状指(指先が太鼓のバチのように膨らむ)
間質性肺炎の進行速度は原因やタイプによって大きく異なります。急性間質性肺炎は数日から数週間の単位で急速に進行し、生命を脅かす可能性があります。一方、慢性間質性肺炎(特発性肺線維症など)は数ヶ月から数年の単位でゆっくりと進行することが多いです。
医師が診察する際に重要な所見として、背下部での捻髪音(fine crackles)があります。これは、吸気終末時(息を吸い込むときの最後)に聴こえる特徴的な音で、間質性肺炎を示唆する重要な聴診所見です。
間質性肺炎の経過中に「急性増悪」と呼ばれる状態が発生することがあります。これは、感冒、手術、大怪我など体に過度のストレスがかかった際に、数日の単位で急激に病気が進行し、突然の激しい息切れや発熱が出現する状態です。特発性肺線維症の場合、この急性増悪で亡くなる方が約40%を占めるとされており、極めて重篤な状態です。
間質性肺炎の診断方法と病型分類
間質性肺炎の診断は、症状の評価、聴診所見、画像検査、呼吸機能検査などを組み合わせて行われます。確定診断には以下の検査が重要です。
画像検査:
- 胸部X線検査: 間質性肺炎では肺が縮小し、肺の下側がうっすらと白くなる傾向があります。
- 胸部CT検査(特に高分解能CT): 診断の中心となる検査で、わずかな早期間質性肺病変も捉えることができます。「通常型」の間質性肺炎では、肺の外側、特に背中側に沿って蜂の巣状の陰影が見られます。
呼吸機能検査:
- 肺活量測定: 間質性肺炎では拘束性換気障害を示し、肺活量が低下します。
- 拡散能検査: 肺でのガス交換能力を評価します。間質性肺炎では早期から拡散能が低下します。
- 6分間歩行試験: 運動耐容能と酸素化の評価に用いられます。
血液検査:
- KL-6, SP-D: 間質性肺炎の活動性を評価するバイオマーカーです。
- 自己抗体検査: 膠原病関連の間質性肺炎を診断する際に重要です。
気管支鏡検査:
- 気管支肺胞洗浄液(BALF): 間質性肺炎のタイプによって細胞分画が異なります。
- 経気管支肺生検: 組織を採取して病理学的診断を行います。
外科的肺生検:
複雑な症例では、より大きな肺組織を採取するために外科的肺生検が行われることもあります。
間質性肺炎は主に以下の3つの視点で分類されます。
- 発病の経過:
- 急性間質性肺炎: 数日から数週間の単位で進行
- 慢性間質性肺炎: 数ヶ月から数年の単位で進行(最も一般的)
- 原因:
- 特発性間質性肺炎: 原因不明の間質性肺炎
- 膠原病性間質性肺炎: 関節リウマチなどの膠原病に伴うもの
- 薬剤性間質性肺炎: 抗がん剤や漢方薬などの薬剤による
- 環境・職業性: カビ、羽毛、アスベスト、超硬合金などの吸入による
- 病理学的パターン:
診断時には、原因の特定が治療方針の決定に重要です。特に「特発性肺線維症(IPF)」は、「慢性」「特発性」「通常型」の特徴を持つ間質性肺炎で、治療抵抗性で予後不良とされています。IPFの診断確定後の平均生存期間は3~5年間と報告されており、早期診断と適切な治療が極めて重要です。
間質性肺炎の抗線維化薬と作用機序
抗線維化薬は、肺の線維化進行を抑制することを目的とした治療薬です。特に特発性肺線維症(IPF)や線維化が進行する間質性肺炎に使用されます。現在、日本で承認されている抗線維化薬は以下の2種類です。
1. ピルフェニドン(商品名:ピレスパ®)
ピルフェニドンは、TGF-βなどの線維化促進因子の産生を抑制し、コラーゲンの合成を減少させることで、肺の線維化を抑制します。臨床試験では、プラセボと比較して肺活量の低下速度を約半分に抑制することが示されています。
主な副作用:
- 光線過敏症(51.7%): 日光に当たると皮膚が赤くなるため、日焼け止めの使用や日光を避けることが必要です
- 消化器症状: 食欲不振(23.0%)、胃不快感(14.0%)、吐き気(12.1%)、下痢など
- 肝機能障害: γ-GTP上昇(20.0%)、AST上昇、ALT上昇など
- 倦怠感
2. ニンテダニブ(商品名:オフェブ®)
ニンテダニブは、複数の受容体チロシンキナーゼを阻害することで、血管新生や線維芽細胞の活性化を抑制し、肺の線維化を抑制します。当初は特発性肺線維症に対してのみ適応がありましたが、2020年以降、進行性線維化を伴う間質性肺疾患にも適応が拡大されました。
主な副作用:
- 下痢(約60%): 最も一般的な副作用で、制吐剤の併用が検討されることもあります
- 肝機能障害
- 出血傾向: 血小板凝集阻害作用があるため、手術前には一時的な休薬が必要なことがあります
これらの抗線維化薬に共通する重要なポイントは以下の通りです。
- 肺線維症を「治す」薬ではなく、「進行を遅らせる」薬であるため、劇的な症状改善は期待できません
- 長期間(数年)の継続服用が必要です
- 副作用管理と定期的な検査が重要です
- 高額な薬剤のため、医療費助成制度の活用が推奨されます
最新の研究動向として、浜松医科大学の研究チームは、2024年2月にCD109分子が肺線維化を抑制することを発見しました。CD109タンパクを投与したマウスや、CD109分子を過剰発現させたマウスでは、肺の線維化が著明に軽減することが報告されています。このような研究により、将来的には間質性肺炎の治療選択肢がさらに広がる可能性があります。
間質性肺炎の診断と治療に関する詳細情報(日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌)
間質性肺炎のステロイド治療と免疫抑制剤の使い分け
間質性肺炎の治療では、炎症が主体のタイプに対して、ステロイド剤や免疫抑制剤が用いられます。これらの薬剤は、主に免疫システムの過剰な活動を抑制することで、肺の炎症を軽減し、線維化の進行を遅らせることを目的としています。
ステロイド治療:
ステロイド(副腎皮質ステロイド剤)は、強力な抗炎症作用を持つ薬剤です。以下のような場合に適応となります。
- 特発性肺線維症(IPF)以外の特発性間質性肺炎
- 膠原病関連の間質性肺炎
- 薬剤性肺障害
- 過敏性肺炎
- 間質性肺炎の急性増悪時
ステロイドの投与方法は、症状の重症度や間質性肺炎のタイプによって異なります。
- 急性期・重症例: 高用量のステロイドパルス療法(メチルプレドニゾロン500-1000mg/日を3日間)が行われることがあります
- 維持療法: プレドニゾロン0.5-1mg/kg/日から開始し、症状の改善に合わせて徐々に減量します
主な副作用:
- 感染症リスクの増加(特に肺炎、結核など)
- 糖尿病・高血糖
- 骨粗鬆症
- 消化性潰瘍
- 精神症状(不眠、興奮、うつなど)
- 満月様顔貌、中心性肥満などのクッシング症候群
- 白内障、緑内障
- 高血圧、電解質異常
免疫抑制剤:
ステロイドの効果が不十分な場合や、ステロイドの減量を目的として、以下のような免疫抑制剤が併用されることがあります。
- シクロホスファミド: 強力な免疫抑制作用があり、難治性の間質性肺炎に使用されます
- アザチオプリン: 比較的副作用が少なく、長期維持療法に使用されます
- シクロスポリン: T細胞の活性化を抑制し、急性間質性肺炎などに使用されます
- タクロリムス: シクロスポリンと同様の作用機序で、皮膚筋炎/多発性筋炎関連間質性肺炎などに使用されます
- ミコフェノール酸モフェチル: リンパ球の増殖を抑制し、膠原病関連間質性肺炎などに使用されます
免疫抑制剤の主な副作用:
- 骨髄抑制(白血球減少、血小板減少など)
- 肝機能障害
- 腎機能障害(特にシクロスポリン、タクロリムス)
- 発熱、皮疹
- 感染症リスクの増加
- 悪性腫瘍リスクの増加(長期使用時)
治療薬選択のポイント:
間質性肺炎の治療薬選択は、病型によって大きく異なります。
- 線維化型(特発性肺線維症など): 抗線維化薬(ピルフェニドン、ニンテダニブ)が第一選択
- 炎症型(非特異性間質性肺炎、器質化肺炎など): ステロイドや免疫抑制剤が有効
- 膠原病関連: 基礎疾患の治療と並行してステロイドや免疫抑制剤を使用
- 薬剤性: 原因薬剤の中止が最も重要、必要に応じてステロイドを使用
ステロイドや免疫抑制剤による治療を受ける際の注意点。
- 定期的な血液検査による副作用モニタリングが必要です
- 感染症予防のため、インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されます
- 発熱や咳などの感染症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診してください
- 薬剤の自己中断は危険なため、必ず医師の指示に従ってください
重要な点として、特発性肺線維症(IPF)に対しては、ステロイドや従来の免疫抑制剤の効果は証明されておらず、現在は推奨されていません。IPFには抗線維化薬が第一選択となります。
間質性肺炎の在宅酸素療法と日常生活の工夫
間質性肺炎が進行すると、肺でのガス交換能力が低下し、血中酸素濃度が低下します。このような状態で日常生活に支障が出る場合に、在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)が導入されます。
在宅酸素療法の適応基準:
- 安静時動脈血酸素分圧(PaO₂)が55mmHg以下
- 安静時PaO₂が60mmHg以下で、睡眠時の著しい低酸素血症や右心不全などの合併がある場合
- 労作時にPaO₂が55mmHg以下、または酸素飽和度(SpO₂)が90%以下に低下する場合
在宅酸素療法は以下の機器を用いて行われます。
- 酸素濃縮器: 室内の空気から窒素を除去して酸素を濃縮する据え置き型の装置
- 液体酸素: 非常に低温の液体酸素を専用のタンクに保管し、気化させて使用
- 携帯用酸素ボンベ: 外出時に使用する小型の高圧ガスボンベ
- 携帯型酸素濃縮器: 電池で動作し、外出時に使用できる小型の酸素濃縮器
在宅酸素療法の効果には以下のようなものがあります。
- 呼吸困難感の軽減
- 運動耐容能の改善
- 睡眠の質の向上
- 生活の質(QOL)の改善
- 生命予後の改善
呼吸リハビリテーション:
間質性肺炎患者の生活の質を向上させるために、呼吸リハビリテーションも重要な役割を果たします。これには以下のような内容が含まれます。
- 運動療法: 有酸素運動(歩行など)と筋力トレーニング(特に下肢)を組み合わせて行います
- 呼吸法の指導: 腹式呼吸や口すぼめ呼吸などの効率的な呼吸法を学びます
- 日常生活動作の工夫: エネルギー消費を抑えた動作方法を学びます
- 栄養指導: 適切な栄養摂取により体力を維持します
- 精神的サポート: 不安やうつ状態に対するケアを行います
呼吸リハビリテーションの効果としては、2014年にコクランレビューにより、運動耐容能の改善(6分間歩行距離の延長)において中等度、呼吸困難感およびQOLの改善において弱いながらも効果が認められています。
間質性肺炎患者の日常生活における工夫:
- 感染予防: 手洗い・うがいの徹底、人込みを避ける、マスク着用などが重要です
- ワクチン接種: インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの定期接種が推奨されます
- 禁煙: 喫煙は間質性肺炎の進行を促進するため、絶対に避けるべきです
- 環境調整: アレルゲンや刺激物(ほこり、化学物質など)への曝露を避けましょう
- 節約呼吸法: 日常生活動作を少ない労力で行う方法を身につけましょう
- 急がずゆっくり動く
- 動作中に休憩を入れる
- 呼吸に合わせて動作する
- 可能な限り座って作業する
- エネルギー温存: 一日の活動計画を立て、重要なタスクに集中しましょう
- 定期的な医療機関受診: 症状の変化や疑問点は速やかに医師に相談しましょう
在宅酸素療法を受ける際の注意点:
- 酸素は火気厳禁であり、喫煙や火気の近くでの使用は絶対に避けてください
- 酸素流量は医師の指示に従い、自己判断で変更しないでください
- 鼻カニューレや酸素チューブは定期的に洗浄・交換が必要です
- 外出時も処方された酸素量を確保できるよう計画してください
- 電源が必要な機器は、停電対策(予備バッテリーなど)を検討しましょう
間質性肺炎の重症度に関わらず、適切な治療とセルフケアを組み合わせることで、生活の質を維持・向上させることが可能です。特に、早期から呼吸リハビリテーションを開始することで、身体機能の低下を最小限に抑え、日常生活の自立度を維持することができます。
特発性間質性肺炎の詳細情報(難病情報センター)