ドンペリドンの効果と作用機序・副作用について

ドンペリドンは消化管運動を改善し、吐き気や嘔吐を抑える効果のある医薬品です。その作用機序や副作用、使用上の注意点について医療従事者として知っておくべき点とは何でしょうか?

ドンペリドンの効果と作用機序

ドンペリドンの主要な効果
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中枢性制吐作用

化学受容器引金帯(CTZ)のドパミンD2受容体を遮断することで吐き気を抑制します

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消化管運動改善作用

上部消化管のD2受容体を遮断し、胃・十二指腸の協調運動を促進します

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安全性の特徴

血液脳関門を通過しにくく、中枢性副作用が少ないプロフィールを持ちます

ドンペリドンの薬理学的作用機序

 

ドンペリドンはドパミンD2受容体拮抗薬として、消化管運動改善と制吐作用を発揮します。その特徴的な作用機序は、胃壁内神経叢においてD2受容体が抑制性の役割を担っている点に着目しており、D2受容体遮断によってアセチルコリンの遊離を増加させ、胃運動を特異的に促進します。
参考)ドンペリドン錠10mg「日新」の効能・副作用|ケアネット医療…

延髄のCTZ(化学受容器引金帯)に存在するD2受容体を遮断することで制吐作用を示しますが、ドンペリドンは血液脳関門を通過しにくいため、CTZへの作用は比較的弱く、主に上部消化管のD2受容体に作用します。この特性により、同効薬のメトクロプラミド(中枢に移行する)と比較して副作用が起きにくく、安全性が高いとされています。
参考)ドンペリドン - Wikipedia

脳の化学受容体引金帯において吐き気スイッチ(ドパミンD2受容体)をブロックし、吐き気の信号が脳に伝わるのを防ぎます。同時に、胃の動きをコントロールしているドパミンD2受容体もブロックし、胃のぜん動運動を活発化させることで、胃内容物がスムーズに腸へ送り出され、胃もたれや吐き気が改善します。
参考)ドンペリドンの効果・副作用を医師が解説【吐き気止め】 - オ…

ドンペリドンの臨床適応と効能効果

ドンペリドンは多岐にわたる消化器症状に対して適応があります。慢性胃炎では67.4%、胃下垂症では74.2%、胃切除後症候群では85.7%の有効率が臨床試験で確認されており、高い治療効果を示しています。
参考)ドンペリドン(ナウゼリンⓇ)には、どのような効果がありますか…

主な適応疾患

機能性ディスペプシアの治療においては、ドパミン受容体拮抗薬として有用であり、消化管運動機能改善薬の一つとして推奨されています。消化管の動きが鈍くなることで起こる食後のもたれ感や早期満腹感を改善する効果が期待されます。
参考)機能性消化管障害 〜その2 機能性ディスペプシア〜

ドンペリドンの用法用量と投与方法

成人の用法用量
通常、ドンペリドンとして1回10mgを1日3回食前に経口投与します。ただし、レボドパ製剤投与時にはドンペリドンとして1回5~10mgを1日3回食前に経口投与します。年齢、症状により適宜増減しますが、一日投与量の上限は設定されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00060017.pdf

小児の用法用量
通常、ドンペリドンとして1日1.0~2.0mg/kgを1日3回食前に分けて経口投与します。年齢、体重、症状により適宜増減しますが、1日投与量はドンペリドンとして30mgを超えないこととされています。また、6才以上の場合はドンペリドンとして1日最高用量は1.0mg/kgを限度とすることが規定されています。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00062367.pdf

食前投与とされている理由は、消化管運動改善効果を最大限に発揮させるためであり、適切なタイミングでの投与が治療効果を左右します。レボドパ製剤との併用時には、ドンペリドンが血液脳関門を通過しにくいため、パーキンソン病の病状を悪化させるリスクが少なく、吐き気や食欲不振といった消化器症状を改善させる目的で広く使われています。
参考)http://image.packageinsert.jp/pdf.php?yjcode=2399005F1086

ドンペリドンと他剤との併用療法の効果

ドンペリドンは単剤療法だけでなく、他剤との併用によって治療効果が向上することが報告されています。特にプロトンポンプ阻害薬(PPI)との併用は、胃食道逆流症(GERD)治療において有効性が示されています。​
パントプラゾールとドンペリドンの併用は、逆流性食道炎患者における焼灼痛と酸症状の改善効果が確認されており、PPI単独療法に反応しにくい難治性GERD患者においても追加効果が期待できます。メタアナリシスの結果、ドンペリドンとPPIの併用療法は、PPI単剤療法と比較して症状改善において有意な効果を示しています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/ec4f644a98adaae15a17d387a6f2221f9bacafb6

機能性消化不良の治療においては、ドンペリドンと他のプロキネティクス薬(モサプリド)との併用効果も研究されています。また、オメプラゾールとドンペリドンの併用は、小児機能性消化不良においても治療効果が確認されています。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/449641014c4cd5076868b4c2f660e46b18e3044a

パーキンソン病治療においては、レボドパ製剤との併用が標準的な使用法となっています。ドンペリドン前投与により、レボドパの血漿中最高濃度が平均12%増加し、ピーク到達時間が平均10分早まることが報告されています。これにより、パーキンソン病の運動障害スコアが改善し、臨床反応のピークがドンペリドン非投与時より16分早く出現します。ドンペリドンは腸管からの吸収率が悪いレボドパ製剤の効果のムラを解消し、消化管運動を改善することでレボドパ製剤の吸収効率を高める効果が期待されており、パーキンソン病診療ガイドライン2018でも選択肢として挙げられています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC1463696/

ドンペリドンの副作用と安全性

ドンペリドンの主な副作用プロフィール

ドンペリドンの副作用は複数の臓器系に及びますが、その頻度と重症度は様々です。​
副作用の分類と症状

副作用の種類 頻度 主な症状
消化器系 比較的多い 下痢、便秘、口渇、腹痛、腹部膨満感​
精神神経系 比較的多い 眠気、頭痛、めまい、錐体外路症状​
内分泌系 比較的多い プロラクチン値上昇(女性化乳房、乳汁分泌、月経異常)​
皮膚 まれ 発疹、かゆみ​
循環器系 まれ 動悸、QT延長(不整脈リスク)​
その他 まれ 倦怠感

眠気やめまい・ふらつきがあらわれることがあるため、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械操作に注意させる必要があります。間脳の内分泌機能調節異常、錐体外路症状等があらわれることがあるので、投与に際しては有効性と安全性を十分考慮のうえ使用することが重要です。​

ドンペリドンによる錐体外路症状と内分泌系副作用

ドンペリドンは抗精神病薬と同様の機序を持つため、高プロラクチン血症による乳汁分泌や、無意識的に身体が動く治療法のない遅発性ジスキネジアなどの副作用が報告されています。​
錐体外路症状の種類

ドンペリドンは血液脳関門の透過性が低く脳には到達しにくいとされていますが、血液脳関門には限界があります。内皮P-糖タンパク質系やATP結合カセット(ABC)排出系によって脳への侵入が制限されていますが、完全に中枢への移行がゼロではないため、特に高用量や長期投与、個体差によっては中枢性の副作用が出現する可能性があります。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3962062/

内分泌系副作用
プロラクチン値の上昇は、ドンペリドンの抗ドパミン作用によりプロラクチン分泌が促進されるために起こります。これにより、女性化乳房、乳汁分泌、月経異常などの症状が出現することがあります。機能性ディスペプシア患者において、30mgのドンペリドン療法を28日間投与したところ、プロラクチンレベルの上昇が確認されており、病的な高プロラクチン血症につながる可能性が指摘されています。
参考)医療用医薬品 : ドンペリドン (ドンペリドン錠5mg「杏林…

ドンペリドンのQT延長と心臓リスク

ドンペリドンの服用は重大な心臓障害の副作用(QT延長、心臓突然死)と関連性があることが、欧州医薬品庁(EMA)の評価報告で指摘されています。60歳以上、高用量の服用、QT延長を起こす薬剤との併用、およびCYP3A4阻害薬のような血中濃度を上昇させる薬剤との併用によりリスクが上昇します。
参考)https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/000788127.pdf

メタアナリシスの結果、ドンペリドン30mg/日超の用量では、非投与時と比較して心血管イベントリスクが有意に増加することが示されました(オッズ比3.14、95%信頼区間1.191~8.304、p=0.021)。カナダのケースコントロール研究では、心臓突然死または突然性心室性不整脈とドンペリドン使用との関連が評価され、1366例(突然性心室性不整脈62例、心臓突然死1304例)が分析されました。多変量解析の結果、心臓突然死1304例のうち、わずか10例のみがドンペリドン使用中でしたが、統計学的には関連が示唆されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6206542/

リスク因子

  • 心疾患のある患者:QT延長があらわれるおそれがあるため注意が必要です

    参考)医療用医薬品 : ドンペリドン (ドンペリドン錠5mg「ツル…

  • 高齢者(60歳以上):心臓突然死リスクが上昇します​
  • 高用量投与(30mg/日超):心血管イベントリスクが有意に増加します​
  • QT延長薬剤との併用:エリスロマイシンとの併用においてはQT延長が報告されています

    参考)302 Found

健康なボランティアを対象とした徹底的なQT/QTc試験では、ドンペリドン10mgまたは20mg 1日4回投与において、QTc持続時間への影響は認められませんでした。しかし、小児の非腫瘍性患者を対象とした文献レビューでは、QTc間隔延長の可能性があるため、個別評価と定期的なECGモニタリングの実施が推奨されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4467253/

パキスタンにおける研究では、ドンペリドンの使用が心不整脈および心臓突然死のリスクを70%増加させることが報告されており、QT間隔延長がhERG電位依存性カリウムチャネルの遮断によって引き起こされると考えられています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10289668/

ドンペリドンの禁忌事項と使用上の注意

ドンペリドンには重要な禁忌事項が設定されており、適切な患者選択が必要です。
参考)ドンペリドン(ナウゼリンⓇ)の禁忌はなんですか? …

絶対禁忌(投与してはならない患者)

  • 本剤の成分に対し過敏症の既往歴のある患者​
  • 消化管出血、機械的イレウス、消化管穿孔の患者:症状が悪化するおそれがあります​
  • プロラクチン分泌性の下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)の患者:抗ドパミン作用によりプロラクチン分泌を促進します​

特定の背景を有する患者に関する注意

  • 心疾患のある患者:QT延長があらわれるおそれがあります​
  • 腎機能障害患者:副作用が強くあらわれるおそれがあるため、慎重投与が必要です​
  • 肝機能障害患者:副作用が強くあらわれるおそれがあるため、慎重投与が必要です​
  • 重度の肝機能障害または中等度以上の腎不全:投与を避けるべきです​

併用禁忌・併用注意薬剤
CYP3A4強力阻害薬(ケトコナゾールイトラコナゾール)との併用は禁止されており、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシン等)、抗不整脈薬アミオダロン、キニジン等)との併用はQT延長のリスクを高めるため注意が必要です。フェノチアジン系精神神経用剤、ブチロフェノン系製剤、ラウオルフィアアルカロイド製剤との併用では、内分泌機能調節異常または錐体外路症状が発現しやすくなります。​
ジギタリス製剤との併用では、悪心、嘔吐、食欲不振症状を不顕化することがあるため、ジギタリス製剤の血中濃度モニターを行う必要があります。抗コリン剤との併用では本剤の胃排出作用が減弱することがあり、制酸剤・H2受容体拮抗剤・プロトンポンプ阻害剤との併用では本剤の効果が減弱するおそれがあるため、両剤の投与時間を考慮する必要があります。​
厚生労働省によるドンペリドンの心臓リスクに関する評価資料
医療用医薬品ドンペリドンの添付文書情報(KEGG MEDICUS)

 

 


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