アミオダロンによる間質性肺炎の発症機序は複雑で、直接的細胞毒性と免疫学的機序の両方が関与していることが判明している。アミオダロンは脂溶性が高く、組織内半減期が19-53日と極めて長いため、肺組織に蓄積しやすい特徴がある。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11663455/
発症機序として以下の2つの経路が考えられている。
参考)https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/047050393j.pdf
参考)https://www.min-iren.gr.jp/news-press/news/20171208_33622.html
特に注目すべきは、用量依存性が必ずしも明確でない点である。高用量投与で発症リスクが上昇するとされる一方で、低用量でも発症する症例が存在する。
臨床症状は非特異的であり、他の肺疾患との鑑別が困難な場合が多い。典型的な症状として以下が挙げられる:
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9512125/
主要症状
身体所見
診断において重要なのは、COVID-19肺炎との鑑別である。特に2020年以降、アミオダロン肺毒性がCOVID-19肺炎と誤診される症例が複数報告されており、詳細な病歴聴取と画像的特徴の把握が不可欠となっている。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC7745655/
画像所見の特徴
胸部X線写真では両側性のすりガラス陰影が基本的なパターンだが、下肺優位の分布を示すことが多い。しかし、片側優位の異常陰影を呈する非典型例も報告されており、画像所見のみでの診断は困難である。
参考)https://xn--o1qq22cjlllou16giuj.jp/archives/21307
胸部CTでは以下の所見が認められる。
興味深い特徴として、アミオダロンがヨウ素を多く含むため、肺病変が高吸収を呈することがあるが、この所見の頻度は高くない。
血清マーカーの有用性
血清マーカーとしてKL-6とSP-Dが診断に有用とされている。しかし、KL-6が上昇しないタイプの間質性肺炎も存在するため注意が必要である。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/23727fb619b5f5e7ea05f43db5f9456f0e650d5f
興味深い臨床知見として、SP-DとKL-6のピーク時相にずれがあることが報告されている:
この現象は、分子サイズの小さいSP-Dの方がKL-6よりも早く血液関門の破綻を反映するためと考えられている。
治療の基本方針
治療の第一選択はアミオダロンの即座の中止である。しかし、アミオダロンの組織内半減期が極めて長いため、中止後も肺線維化が進行する可能性がある。
ステロイド療法の適応
中等症以上の症例ではプレドニゾロンによる治療が推奨される。典型的な治療プロトコールは:
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9548734/
予後と再燃リスク
アミオダロン間質性肺炎の予後は早期診断と適切な治療により大幅に改善される。しかし、ステロイド治療中止後の再燃例も報告されており、長期的な経過観察が必要である。
参考)https://is.jrs.or.jp/quicklink/journal/nopass_pdf/ajrs/007010054j.pdf
特に注意すべき点として、薬剤中止後2か月でARDS(急性呼吸窮迫症候群)として再燃・増悪を認めた症例も報告されており、治療終了後も慎重な観察が求められる。
定期的モニタリングの重要性
アミオダロン投与患者における間質性肺炎の予防には、定期的な肺機能評価が不可欠である。推奨される検査項目は:
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jse1981/22/2/22_2_91/_article/-char/ja/
リスク因子に基づく層別化管理
高リスク患者の特定が重要で、以下の因子を有する患者ではより頻回な検査が必要である。
患者教育と症状認識
患者自身による早期発見のため、以下の症状について十分な説明が必要である。
これらの症状が出現した場合は、直ちに医療機関を受診するよう指導することが重要である。
厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアルでは、アミオダロンによる間質性肺炎を重要な副作用として位置づけており、医療従事者は十分な知識と対応策を身につけることが求められている。
参考)https://www.mhlw.go.jp/topics/2006/11/dl/tp1122-1b01.pdf
厚生労働省の重篤副作用疾患別対応マニュアル - 間質性肺炎の詳細な診断基準と対応策
日本薬理学会による薬剤性肺障害の総合的解説 - アミオダロンの作用機序と臨床的特徴