メトクロプラミド禁忌と使用時の注意点

メトクロプラミドは消化器症状の治療に広く用いられますが、褐色細胞腫や消化管出血などの禁忌があります。錐体外路症状や高プロラクチン血症などの副作用にも注意が必要です。医療従事者が知っておくべき禁忌事項と安全な使用法について、詳しく解説します。

メトクロプラミド禁忌と適正使用

この記事の要点
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絶対的禁忌

褐色細胞腫の疑い、消化管出血・穿孔・閉塞、過敏症既往歴のある患者には投与禁止

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重大な副作用

錐体外路症状、遅発性ジスキネジア、高プロラクチン血症に注意が必要

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使用期間の制限

欧州では最大5日間の短期使用が推奨され、小児・高齢者では特に慎重投与

メトクロプラミド禁忌となる患者背景

メトクロプラミドには明確な禁忌事項が設定されており、医療従事者は投与前に必ず確認する必要があります。最も重要な禁忌は、本剤の成分に対して過敏症の既往歴がある患者への投与です。過去にアレルギー反応を起こした患者では、再投与により重篤なアナフィラキシー反応を引き起こすリスクがあります。
参考)医療用医薬品 : メトクロプラミド (メトクロプラミド錠5m…

褐色細胞腫またはパラガングリオーマの疑いがある患者への投与も絶対的禁忌とされています。メトクロプラミドのドパミン受容体遮断作用により、カテコラミンの急激な放出が誘発され、致死的な昇圧発作を引き起こす可能性があります。実際に、メトクロプラミド投与後に褐色細胞腫クリーゼを発症した症例が複数報告されており、カフェイン、副腎皮質ステロイドとの併用でさらにリスクが高まることが示されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9624996/

消化管に出血、穿孔、または器質的閉塞がある患者への投与も禁忌です。メトクロプラミドは消化管運動を亢進させる作用があるため、これらの病態では症状を悪化させ、穿孔部位の拡大や出血量の増加を招く危険性があります。
参考)https://image.packageinsert.jp/pdf.php?yjcode=2399004F1227

メトクロプラミド投与による錐体外路症状のリスク

メトクロプラミドの最も注意すべき副作用の一つが錐体外路症状です。ドパミンD2受容体遮断作用により、手指振戦、筋硬直、頸部や顔面の攣縮、眼球回転発作(眼球上転)、アカシジアなどの症状が出現します。
参考)メトクロプラミドの効果・副作用を医師が解説【吐き気止め】 -…

錐体外路症状は投与開始から5日以内、中央値1日という早期に発現する可能性があり、特に小児、若年者、高齢者で発現しやすいとされています。小児では脱水状態や発熱時にリスクがさらに上昇するため、過量投与にならないよう厳重な注意が必要です。実際の臨床報告では、推奨用量である0.5mg/kg/日を超えた投与を受けた小児全員にジストニア反応が発現したという報告もあります。
参考)医学界新聞プラス [第3回]制吐薬 メトクロプラミド

急性ジスキネジアは単回投与でも発現することがあり、メトクロプラミド10mgの急速静注後約1時間で口舌・四肢のジスキネジアが出現した症例も報告されています。このような症状が出現した場合は、抗パーキンソン薬(ビペリデンなど)の投与などの適切な処置を速やかに行う必要があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00070377.pdf

メトクロプラミド長期使用と遅発性ジスキネジア

メトクロプラミドの12週間を超える長期使用では、遅発性ジスキネジア(tardive dyskinesia)の発現リスクが大きな問題となります。遅発性ジスキネジアは、口周部や舌、四肢などに不随意運動が出現し、投与中止後も症状が持続することがある重篤な副作用です。
参考)https://www.mdpi.com/2624-5647/5/3/26/pdf?version=1690871549

欧州医薬品庁(EMA)は2013年に、メトクロプラミドの使用を最大5日間までの短期間に制限するよう勧告しました。この勧告は、短期間の錐体外路障害、不随意運動障害、遅発性ジスキネジアのリスクを踏まえたもので、特に高齢者では遅発性ジスキネジアがしばしば報告され、高用量・長期使用でリスクが高まることが確認されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9161510/

長期投与(1年以上)により、特定の筋肉群が不随意にリズミカルに反復運動する症状が出現し、口・舌・頬に関連する症状や肢体の不随意反復運動が見られることがあります。また、米国FDAも遅発性ジスキネジアを最も懸念される有害事象として位置づけており、長期使用時の厳重なモニタリングの重要性を強調しています。
参考)国家食品医薬品監督管理総局がメトクロプラミドによる錐体外路系…

欧州医薬品庁(EMA)の公式ウェブサイト
メトクロプラミドの使用制限に関する最新の安全性情報を確認できます。

 

メトクロプラミドによる高プロラクチン血症とその影響

メトクロプラミドのドパミン受容体遮断作用により、視床下部からのプロラクチン抑制因子の放出が阻害され、高プロラクチン血症が引き起こされます。ドパミンは通常プロラクチン分泌を抑制する役割を持っていますが、ドパミン受容体遮断薬はこの抑制機構を解除してしまいます。
参考)高プロラクチン血症とは?原因や症状、治療方法まで解説

高プロラクチン血症の臨床症状として、無月経、乳汁分泌、女性化乳房、勃起不全などが報告されています。これらの内分泌系副作用は添付文書にも明記されており、特に制吐剤としてメトクロプラミドを使用している患者で月経異常などの症状に気づいた際には、早めに医師へ相談することが推奨されています。
参考)高プロラクチン血症 – 婦人科

メトクロプラミド以外にも、ドンペリドンなどの消化器系薬剤や一部の降圧薬(メチルドパ)も高プロラクチン血症を引き起こす可能性があるため、薬剤性高プロラクチン血症が疑われる場合には、ドパミンに影響を与えにくい新しいタイプの薬への変更が検討されます。ただし、自己判断での休薬は避け、必ず医師に相談することが重要です。​

メトクロプラミド使用における独自の臨床的考察

メトクロプラミドの使用において、「処方カスケード」という見落とされがちな問題が存在します。これは、メトクロプラミド投与後に薬剤性パーキンソニズムが発現し、その症状を新たな疾患と誤認して抗パーキンソン薬が追加処方されるという現象です。疫学的研究により、メトクロプラミド処方後に有意に抗パーキンソン薬が処方されることが示されており、医療従事者はこの悪循環を認識しておく必要があります。​
メトクロプラミドは中枢神経作用により、傾眠、疲労感、倦怠感、めまいなどの症状も引き起こすため、添付文書では自動車運転などの危険を伴う機械操作に従事させないよう記載されています。特に高齢者、中枢神経抑制薬を内服中の患者、腎機能低下患者では、これらの症状がより強く出現する可能性があります。
参考)プリンペラン(メトクロプラミド)の効果や成分、副作用などにつ…

小児への使用については、欧州では1歳未満の小児には使用すべきではなく、1歳以上の小児でも他の治療法を考慮した後の第二選択として使用すべきとされています。また、成人における1日最大使用量は30mgに引き下げられており、高用量製剤は市場から撤去されています。これらの国際的な動向を踏まえ、日本においても慎重な投与判断が求められます。
参考)メトクロプラミドの使用は5日間までにすべき(EMA)

併用に注意が必要な薬剤として、フェノチアジン系やブチロフェノン系などの精神神経用剤は錐体外路症状を非常に強く増強するため、原則併用できません。また、モルヒネや抗コリン薬は消化管運動亢進作用を減弱させ、アルコールや睡眠薬との併用では眠気の副作用が増強される可能性があります。​
独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)
メトクロプラミドの最新の添付文書情報と副作用報告を確認できます。