抗不整脈薬一覧と分類から作用機序まで

抗不整脈薬の種類や分類について詳しく知りたいと考えていませんか?本記事ではVaughan Williams分類に基づく薬剤一覧、各クラスの作用機序、使い分けのポイント、さらに副作用や禁忌事項まで臨床に役立つ情報を網羅的に解説します。日常診療で安全かつ効果的に抗不整脈薬を使用するための知識を深めたい方は必見です。

抗不整脈薬の分類と一覧

抗不整脈薬の基本分類
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Vaughan Williams分類

Ⅰ群からⅣ群までの4つのクラスに分類され、作用機序に基づいて整理されています

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イオンチャネルへの作用

ナトリウム、カリウム、カルシウムチャネル遮断により心筋の電気的活動を制御します

臨床応用

不整脈の種類や病態に応じて適切な薬剤を選択することが重要です

抗不整脈薬のⅠ群:ナトリウムチャネル遮断薬一覧

 

Ⅰ群抗不整脈薬はナトリウムチャネルを遮断することで心筋細胞の興奮伝導を抑制します。さらにⅠa群、Ⅰb群、Ⅰc群の3つに細分類され、それぞれ異なる電気生理学的特性を持ちます。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9745564/

Ⅰa群薬剤は中等度のナトリウムチャネル遮断作用に加え、カリウムチャネル遮断作用も持つため活動電位持続時間を延長させます。代表的な薬剤としてキニジン、プロカインアミド、ジソピラミドシベンゾリン、ピルメノールなどがあり、心房性および心室性不整脈の治療に用いられます。QT間隔延長に伴うtorsade de pointesのリスクがあるため、心電図モニタリングが必要です。
参考)抗不整脈薬の種類・作用機序と使い分け

Ⅰb群薬剤は活動電位持続時間を短縮させる特徴があります。リドカイン、メキシレチン、アプリンジンが含まれ、主に心室性不整脈の治療に使用されます。Ⅰb群薬は心房組織への作用が弱く、正常心拍数では心電図への影響が少ないとされています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/32/3/32_428/_pdf/-char/ja

Ⅰc群薬剤は強力な伝導抑制作用を持ち、QRS幅を顕著に延長させます。プロパフェノン、フレカイニド、ピルシカイニドが代表的で、発作性上室性頻拍や心房細動の治療に広く使用されています。しかしCAST試験では陳旧性心筋梗塞患者においてⅠc群薬が突然死を増加させることが示されており、器質的心疾患を有する患者への使用には注意が必要です。
参考)商品一覧 : 抗不整脈薬

KEGG医薬品データベース:抗不整脈薬の詳細な商品一覧と薬価情報

抗不整脈薬のⅡ群からⅣ群までの一覧と特徴

Ⅱ群抗不整脈薬は交感神経β受容体遮断薬であり、交感神経の過剰な刺激を抑制することで抗不整脈作用を発揮します。プロプラノロール、メトプロロール、ビソプロロール、カルベジロール、アテノロールなど多くのβ遮断薬が含まれます。上室性頻拍、心房細動のレートコントロール、心室性不整脈の予防に用いられ、心筋梗塞後や心不全患者の予後改善効果も期待できます。副作用として徐脈、気管支痙攣、倦怠感などに注意が必要です。
参考)不整脈用剤

Ⅲ群抗不整脈薬は主にカリウムチャネルを遮断して活動電位持続時間を延長させます。代表的な薬剤はアミオダロン、ソタロール、ニフェカラントです。特にアミオダロンは複数のイオンチャネルに作用するマルチチャネルブロッカーであり、心室頻拍や心室細動の治療において高い有効性を示します。しかし甲状腺機能障害、肺線維症、肝障害などの重篤な副作用があり、定期的な検査が必須です。
参考)不整脈の薬物治療

Ⅳ群抗不整脈薬はカルシウムチャネル遮断薬であり、非ジヒドロピリジン系のベラパミルとジルチアゼムが主に使用されます。房室結節の伝導を抑制するため、発作性上室性頻拍の停止や心房細動・心房粗動のレートコントロールに有効です。ベプリジルもⅣ群に分類されますが、マルチイオンチャネル遮断作用を持ち、持続性心房細動に対して優れた除細動効果を示します。陰性変力作用があるため心機能低下例では慎重投与が求められます。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/jse/32/1/32_65/_pdf/-char/ja

日本循環器学会:不整脈薬物治療ガイドライン2020年改訂版(PDF)

抗不整脈薬の作用機序とリエントリー抑制

抗不整脈薬の作用機序を理解するには、不整脈の発生メカニズムである異常自動能、撃発活動、リエントリーについての知識が不可欠です。特にリエントリー性不整脈は臨床的に重要で、多くの抗不整脈薬がこのメカニズムを標的としています。​
リエントリーは心筋内で興奮波が旋回し続ける現象であり、その成立には興奮間隙の存在が必要です。興奮間隙はリエントリー回路の長さから波長(不応期×伝導速度)を引いた値として表現されます。Ⅰ群薬はナトリウムチャネル遮断により障害部位の興奮伝導を抑制し、両方向性ブロックを作り出すことでリエントリーを停止させます。しかし不十分な遮断では伝導速度低下により波長が短縮し、かえってリエントリーが起こりやすくなる催不整脈作用を示すこともあります。
参考)https://www.jshp.or.jp/information/preavoid/43-11.pdf

Ⅲ群薬は不応期を延長させることで波長を長くし、興奮間隙を減少させてリエントリーを抑制します。Ⅰa群薬は伝導速度と不応期の両方に影響するため、症例によって抗不整脈作用と催不整脈作用のいずれも示す可能性があります。これらの電気生理学的作用の違いが、各薬剤の臨床効果と副作用プロファイルを規定しています。
参考)https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCULATIONAHA.118.035455

抗不整脈薬の副作用一覧と催不整脈作用

抗不整脈薬の使用において最も注意すべき副作用は催不整脈作用です。これは既存の不整脈を悪化させたり、新たな不整脈を誘発したりする現象で、全ての抗不整脈薬が潜在的にこのリスクを持ちます。​
心臓性副作用として、Ⅰ群薬とⅣ群薬には陰性変力作用があり心不全を悪化させる可能性があります。Ⅰa群薬とⅢ群薬はQT延長によるtorsade de pointesのリスクがあり、特に女性、低カリウム血症、低マグネシウム血症、心不全患者で発生しやすくなります。Ⅰc群薬は抗コリン作用を持つものでは1:1伝導の心房粗動を誘発することがあり、300拍/分以上の危険な頻脈となります。またⅠ群薬はブルガダ症候群を顕在化させ心室細動を誘発する可能性があります。
参考)https://www.takanohara-ch.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2017/01/di201701.pdf

心外性副作用も重要です。抗コリン作用を持つⅠ群薬(ジソピラミド、シベンゾリンなど)は前立腺肥大症で尿閉を、閉塞隅角緑内障で急性緑内障発作を引き起こすことがあります。β遮断薬は気管支喘息の悪化、全身倦怠感、睡眠障害、うつ傾向などを起こします。アミオダロンは甲状腺機能障害(亢進症・低下症)、間質性肺炎、肝障害、視神経炎、光線過敏症など多彩な副作用を持ち、定期的な検査による監視が必須です。肺合併症は約3%に認められ死亡率5-10%と報告されています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11508869/

副作用の早期発見のため、定期的な心電図検査、血液生化学検査(肝機能、腎機能、電解質)、心エコー検査が推奨されます。血中濃度モニタリングも副作用回避に有用です。​
日本病院薬剤師会:抗不整脈薬による催不整脈作用の詳細(PDF)

抗不整脈薬の使い分けと適応疾患

抗不整脈薬の選択は不整脈の種類、基礎心疾患の有無、患者の状態によって異なります。Evidence-based medicineの観点から、大規模臨床試験の結果を考慮した薬剤選択が重要です。
参考)医療用医薬品 : アンカロン (アンカロン錠100)

発作性上室性頻拍ではまず迷走神経刺激やATPによる停止を試み、予防にはⅠc群薬やβ遮断薬が第一選択となります。心房細動では洞調律維持にⅠc群薬(器質的心疾患のない例)、Ⅲ群薬(アミオダロン、ソタロール)、Ⅳ群薬(ベプリジル)が使用され、レートコントロールにはβ遮断薬、非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬、ジギタリスが用いられます。心室性不整脈では特発性心室頻拍にはⅠa群薬、β遮断薬、ベラパミルが有効で、器質的心疾患を伴う場合はアミオダロンが最も信頼できる薬剤です。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9181251/

心筋梗塞後の患者では、CAST試験の結果からⅠc群薬の使用は避けるべきです。心不全患者ではアミオダロンとβ遮断薬が選択肢となりますが、Ⅰ群薬とⅣ群薬の非ジヒドロピリジン系Ca拮抗薬は陰性変力作用により心不全を悪化させるため禁忌です。
参考)https://www.mdpi.com/2077-0383/11/11/3233/pdf?version=1654572816

日本では欧米で使用できない薬剤(ピルシカイニド、ニフェカラントなど)もあり、日本人でのエビデンスを考慮した選択が重要です。カテーテルアブレーションなどの非薬物治療と薬物治療を組み合わせたハイブリッド治療も増加しており、個々の症例に応じた最適な治療戦略の立案が求められます。​
薬物動態の面では、腎排泄型薬剤(ピルシカイニド、ソタロール、ジゴキシンなど)は腎機能低下例で用量調整が必須です。肝代謝酵素CYP2D6やCYP3A4による代謝を受ける薬剤では、薬物相互作用に注意が必要です。特にアミオダロンは多くの薬剤と相互作用を起こすため、併用薬の確認が重要となります。​

 

 


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