ジストニアは筋肉が意思に反して持続的または間欠的に収縮し、不随意の動きや異常な姿勢を引き起こす運動障害です。この疾患は特定の部位(焦点性)から複数部位(セグメンタル)、全身(一般化)まで幅広い症状パターンを示します。
参考)https://www.dys-kaizen.org/pathology-overview/
主な症状として以下が挙げられます。
ジストニアの重要な特徴として「動作特異性」があります。これは特定の動作を行う際にのみ症状が現れる現象で、書字時にのみ手が震える書痙などが典型例です。また、患者が体の一部に軽く触れることで症状が軽減される「感覚トリック」現象も特徴的で、痙性斜頸患者が顎に手を当てることで首の歪みが改善するなどがあります。
小児においては、通常一側の上肢または下肢から症状が始まり、進行性に他の部位へと広がって最終的に全身性ジストニアへ発展することが多く、早期診断と治療介入が重要となります。
ジスキネジアは運動(kinesia)の異常(dys)を意味し、予測不可能で急な動きが特徴的な運動障害です。広義では異常運動全般を指しますが、狭義では不規則に繰り返す運動を指します。
参考)https://www.stroke-lab.com/news/37096
ジスキネジアの主要な症状パターン。
ジスキネジアは特に高齢者や精神科薬物の長期服用者に多く見られる傾向があります。遅発性ジスキネジアとして知られる病態は、ドパミン受容体拮抗薬の長期使用により、ドパミンD2受容体の過感受性が生じることで発症します。
参考)https://www.akira3132.info/glossary_pd.html
最新の研究では、ジスキネジアの病態メカニズムとして**VMAT2(小胞モノアミントランスポーター2)の関与が注目されています。この発見により、2022年には国内初の遅発性ジスキネジア治療薬であるバルベナジン(ジスバル®)**が承認され、VMAT2阻害によるドパミン放出量の調整という新たな治療アプローチが可能になりました。
参考)https://www.cocorone-clinic.com/column/dyskinesia_valbenazine.html
従来ジストニアは大脳基底核の疾患として理解されてきましたが、近年の研究により「ネットワーク障害」として捉える概念が確立されています。特に小脳の役割が注目されており、小脳が中心的ノードとして機能するジストニアネットワークの存在が明らかになっています。
参考)https://www.frontierspartnerships.org/articles/10.3389/dyst.2023.11515/pdf
ジストニア神経ネットワークの構成要素。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC5909758/
2023年の最新研究では、DYT25型ジストニアモデルマウスにおいて、症状発現前から小脳-視床経路の興奮性が増大していることが判明しました。この発見は、ジストニア症状が現れる前の前症候期から神経回路異常が存在することを示唆しており、早期診断・予防的治療の可能性を示しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9197392/
また、小脳と線条体間の直接的な結合が生理学的に確認されており、この経路を通じて小脳病変が基底核機能に影響を与え、ジストニア症状を引き起こすメカニズムが解明されつつあります。これらの知見は、従来の大脳基底核中心の治療から、多標的ネットワーク治療への転換を促しています。
2020年代に入り、ジストニアとジスキネジアの治療法は大きな革新を遂げています。従来のボツリヌス毒素治療や薬物療法に加え、分子標的治療や遺伝子治療などの先端的アプローチが開発されています。
最新の薬物治療オプション。
参考)https://www.neurology-jp.org/Journal/public_pdf/052111074.pdf
参考)https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-04-16-2
遺伝子・細胞治療の進歩。
DYT1ジストニア(TOR1A遺伝子変異)に対するCRISPR-Cas9技術を用いた遺伝子治療が動物モデルで成功しています。この技術では変異アレルの直接的なノックアウトや、正常TOR1A遺伝子のベクター導入により、根本的な治療が期待されています。
参考)https://hinyan1016.hatenablog.com/entry/2025/03/14/085842
オプトジェネティクス(光遺伝学)を応用した神経回路制御も研究段階にあり、特定の神経細胞を光で選択的に活性化・抑制することで、ジストニア症状の制御を試みる革新的な治療法として注目されています。
小脳標的治療の開発も進んでおり、深部脳刺激療法(DBS)の対象を従来の淡蒼球から小脳核へと拡張する臨床試験が実施されています。これにより、薬剤抵抗性ジストニアに対する新たな外科治療選択肢が広がっています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC10722573/
従来の臨床画像診断では異常が検出されないことが多いジストニアにおいて、先進的構造MRI技術による微細な脳構造変化の検出が可能になっています。これらの技術革新は、疾患の早期診断と病態理解に大きく貢献しています。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9796340/
最新の画像診断技術。
特に注目すべきは、症状が現れる前の構造的変化の検出です。遺伝性ジストニアの保因者において、症状発現前から特定の脳領域で微細な構造変化が検出されることが報告されており、将来的な予防的治療の可能性を示唆しています。
また、**人工知能(AI)**を活用した画像解析により、従来の視覚的評価では困難だった微細なパターン認識が可能になり、ジストニアサブタイプの客観的分類や治療反応性の予測に応用されています。
これらの技術進歩により、ジストニアとジスキネジアの診断は、症状に基づく臨床診断から客観的バイオマーカーに基づく精密診断へと大きく変貌を遂げており、個別化医療の実現に向けた重要な基盤となっています。
日本神経学会ジストニア診療ガイドライン2018 - 診断基準と治療指針の詳細
国立精神・神経医療研究センター ジストニア専門外来 - 最新の治療選択肢