ジスキネジアとパーキンソン病の発症メカニズムと最新治療法

パーキンソン病患者に生じるジスキネジアの発症メカニズムから最新治療法まで、医療従事者が知っておくべき重要な知識を解説。運動合併症への対応は適切でしょうか?

ジスキネジアとパーキンソン病の総合的理解

パーキンソン病ジスキネジア概要
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発症メカニズム

ドパミン受容体の感受性亢進とTwo-Hit仮説による病態解明

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治療戦略

薬物調整から脳深部刺激療法まで多角的アプローチ

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最新研究

水素療法や漢方治療による革新的治療法の可能性

ジスキネジア発症のメカニズムと病態生理

ジスキネジアとパーキンソン病の関係を理解するため、まず発症メカニズムを詳しく解説します。ジスキネジアは、脳内で行われるドパミンによる運動調節がうまく行われていないことによって、勝手に体が動いてしまう症状です。
参考)https://ubie.app/byoki_qa/clinical-questions/rwrj_l7ey4z

 

発症の分子機序
ジスキネジアの発現は、基底核出力核である淡蒼球内節/黒質網様部が、ドパミンD1受容体を発現し直接路を形成する有棘投射神経細胞の終末から放出される抑制性伝達物質γアミノ酪酸(GABA)の遊離の増加により過抑制されることによって生じます。この病態の理解には「Two-Hit仮説」が重要です。
参考)https://kompas.hosp.keio.ac.jp/science/202402_02/

 

  • 1st hit: パーキンソン病によりドパミン神経が脱落し、線条体神経細胞のドパミン受容体2型を介する信号(D2R信号)が低下
  • 2nd hit: L-DOPAの摂取による脳内ドパミン濃度の周期的な変動が加わることでジスキネジアが発症

この過程で線条体神経細胞のVGAT(小胞性GABA輸送体)が過剰発現し、ジスキネジアの病態が発展することが明らかになっています。
大脳基底核の回路変化
最新の研究により、ジスキネジア発症時の神経活動の変化が詳細に解明されています。正常では黒質網様部において興奮−抑制−興奮の三相性の応答が認められますが、ジスキネジアでは興奮−強い抑制という反応が認められます。これは運動を引き起こす信号伝達が増強するとともに、運動をストップする信号伝達が減弱していることを示しており、その結果、意図しない運動が引き起こされ、またストップが困難な状態となります。
参考)https://www.nips.ac.jp/nips_research/press/2021/03/post_433.html

 

ジスキネジアの分類と臨床症状

パーキンソン病に関連するジスキネジアは、発症タイミングと症状の特徴により以下のように分類されます。

 

症状発現による分類

  1. Peak-dose ジスキネジア
  2. Diphasic ジスキネジア
    • L-ドパ血中濃度の上昇期と下降期に二相性に出現
    • Peak-dose ジスキネジアに比べ頻度は低い
  3. Off-period ジストニア

臨床症状の特徴
実際に出現する症状の多くは舞踏運動やジストニアです。手足などが素早く動く舞踏運動、持続的に長い時間同じ肢位で筋肉が緊張しているジストニアなどが見られます。「身体のどこかにグネグネとした動きが多くなった」という表現でも表現されます。
パーキンソン病症状が強い側にジスキネジアも現れやすく、パーキンソン病の症状とジスキネジアが共存することが多いという特徴があります。抗パーキンソン病薬によるジスキネジアでは一般的に眼球運動にはジスキネジアは出現せず、この点が他の疾患での不随意運動との鑑別に役立ちます。
発症頻度と経過
L-ドパ治療4〜6年で36%程度の患者に発症します。進行期で症状の変動が明らかとなる時期にみられるようになり、「ジスキネジアの出現=薬物治療の限界が近い」ということになります。
参考)https://www.neurology-jp.org/guidelinem/pdgl/parkinson_2018_26.pdf

 

ジスキネジアの診断と評価方法

ジスキネジアの適切な診断と評価は、効果的な治療戦略の立案に不可欠です。

 

診断のポイント
診断においては、薬を服用した時間と症状が出るタイミングの関係を詳細に把握することが重要です。薬を入れてからすぐなのか、薬が切れかけている時かなど、どのようなタイミングで症状が出ているのかを確認することが必要です。
評価スケール
臨床現場では、AIMS(Abnormal Involuntary Movement Scale)やUPDRS(Unified Parkinson's Disease Rating Scale)などの評価スケールが使用されます。研究報告では、理学療法介入後のAIMSが2/12、UPDRSが1/13と著明に改善し、ジスキネジアが消失した例も報告されています。
参考)https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2007/0/2007_0_B1573/_article/-char/ja/

 

鑑別診断
他の不随意運動との鑑別が重要で、特に以下の点が鑑別に役立ちます。

  • 眼球運動の有無(パーキンソン病関連ジスキネジアでは通常眼球運動は伴わない)
  • 服薬タイミングとの関係
  • パーキンソン病症状の存在

早期発見の重要性
これらの症状は早期発見することと適切な対応をすることで重症になることを防ぐことができます。患者本人が気づかないうちに症状が出ていることもありますので、家族の方も注意深く様子を観察し不随意運動が起きていないかどうか注意することが重要です。

ジスキネジアの薬物治療と調整方法

ジスキネジアの治療は、原因となっている薬剤の調整が基本となります。

 

薬物調整の基本原則
原因となっている薬の中止や減量、用量や服用回数の調整、薬の変更などを検討していきます。具体的なアプローチには以下があります:

  • L-ドパの分割投与による血中濃度の平滑化
  • ドパミンアゴニストの併用による総L-ドパ量の減量
  • COMT阻害薬やMAO-B阻害薬の追加による薬効の延長
  • アマンタジンの追加(ジスキネジア抑制効果)

薬剤選択の考慮事項
レボドパを増量できなくてもアゴニストがあり、さらにはCOMT阻害薬、MAO-B阻害薬、アマンタジンなど様々な選択肢があります。ただし、薬剤の投与量が多いほど症状を出しやすいという事実は、薬剤の過量により症状が出現しているという機序を考えると納得できます。
参考)https://amanuma-naika.jp/blog/%E3%82%B8%E3%82%B9%E3%82%AD%E3%83%8D%E3%82%B8%E3%82%A2%E3%81%A8%E3%83%AC%E3%83%9C%E3%83%89%E3%83%91

 

漢方治療の可能性
注目すべきは、パーキンソン病のon-off現象及びpeak-doseジスキネジアに漢方併用治療が有効であった症例が報告されていることです。また、八升豆はL-ドパ合剤に比べon時間が延長しジスキネジアも軽減されるという報告もあります。
参考)https://www.semanticscholar.org/paper/f9c5031062de589c17dacb284d9f1c631d81628e

 

漢方薬には、α-シヌクレイン凝集を抑制する作用があるものが分かってきており、パーキンソン病の予防や進行抑制の可能性に期待が膨らんでいます。根本治療につながる可能性があることから、今後の研究が注目されます。
参考)https://www.ariyaku.net/2023/05/06/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AD%E3%83%B3%E3%82%BD%E3%83%B3%E7%97%85%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%AE%E6%BC%A2%E6%96%B9%E8%96%AC%E3%81%AE%E5%8F%AF%E8%83%BD%E6%80%A7/

 

ドパミンアゴニストの薬理作用と臨床効果に関する詳細な解説

ジスキネジアの最新治療法と研究動向

ジスキネジア治療の領域では、革新的な治療法の研究が進んでいます。

 

水素療法の可能性
2024年の最新研究により、L-dopa投与前の水素吸入がパーキンソン病治療に伴うジスキネジアを軽減することが明らかになりました。水素濃度2%、1時間の吸入により、ジスキネジアの発症にドーパミン神経伝達の異常だけでなく、炎症が関与していることから、抗炎症作用を持つ水素の効果が注目されています。
参考)https://h2info.jp/research/article-3631/

 

研究では6-OHDAによりパーキンソン病を誘発したラットにL-dopaを15日間投与してジスキネジアモデルを作成し、水素吸入の効果を検証しました。その結果、線条体のミクログリアとアストロサイトの活性化が抑制され、炎症性サイトカインの濃度も減少することが確認されています。
脳深部刺激療法(DBS)
脳深部刺激療法は、脳の中の神経核にボールペンの芯ほどの太さの電極を挿入し、前胸部に埋め込んだパルス発生器(IPG)から発生させた電気信号で高頻度刺激を行うことでパーキンソン病の症状を改善させる治療です。
参考)https://pd-center.hosp.keio.ac.jp/perkinson/

 

進行期のパーキンソン病患者に行うことで症状のウェアリングオフ現象やジスキネジアといった運動合併症、薬剤抵抗性の振戦(ふるえ)を軽快することが期待されます。近年、技術の進歩により刺激に方向性を持たせることや脳内の微小電場を感知することで、より良い症状の改善と副作用の予防が可能となってきています。
デバイス補助療法(DAT)
パーキンソン病の治療には薬物療法のほかに、機械を用いることで症状の日内変動(ウェアリングオフ現象)やジスキネジアを緩和することができるデバイス補助療法(DAT: device assisted therapy)があります。これらの治療法は、従来の薬物治療では限界がある進行期パーキンソン病患者に新たな希望を提供しています。
参考)https://pd-center.hosp.keio.ac.jp/topic/

 

理学療法の役割
興味深いことに、理学療法的介入によってもジスキネジアの改善が報告されています。介入後のAIMSが2/12、UPDRSが1/13と著明に改善し、ジスキネジアが消失し、自立歩行が可能となった症例では、ジスキネジアの抑制時間は12時間程度であったと報告されています。
iPS細胞治療の展望
2025年に京都大学を中心とした研究グループが発表した最新の研究では、iPS細胞を使った新しい治療の可能性が示されています。ただし、治療薬の調整によりジスキネジアが増えた方もいるため、慎重な検討が必要です。
参考)https://takagi.kouhoukai.or.jp/news/205

 

ジスキネジア発症メカニズムの最新研究に関する詳細な解説
パーキンソン病に伴うジスキネジアは、単なる副作用ではなく、疾患進行の重要な指標であり、適切な診断と多角的な治療アプローチが求められます。従来の薬物調整に加え、水素療法、漢方治療、脳深部刺激療法など、様々な選択肢が患者のQOL改善に貢献する可能性があります。医療従事者として、これらの最新知見を踏まえた包括的なケアの提供が重要です。