ドブタミンは合成カテコラミンとして、β1アドレナリン受容体に対する選択的刺激作用を有する強心薬です 。心筋のβ1受容体を刺激することにより、心筋の収縮力を増強し、心拍出量を増加させる機序で作用します 。
参考)https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=42718
主な薬理学的特徴として、ドブタミンはノルアドレナリンやアドレナリンと比較してβ1作用が強く、α1作用は相対的に弱いことが挙げられます 。この選択性により、心収縮力増強と同時に過度の血管収縮を避けることができ、心不全患者における血管抵抗の増大を防ぐことが可能です。
参考)https://nihon-eccm.com/icu_round2018/%E8%A1%80%E7%97%87%E6%99%82%E3%81%AE%E6%98%87%E5%9C%A7%E8%96%AC%E3%81%AE%E4%BD%BF%E3%81%84%E6%96%B9%E3%80%81%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B9/
カテコラミンの作用強度を比較すると、β1作用ではドブタミン>ドパミン>アドレナリン>ノルアドレナリンの順になり、ドブタミンが最も強力な心筋収縮力増強効果を示します 。この特性により、心機能改善を主目的とする場合の第一選択薬として位置づけられています。
ドブタミンの適応症は主に2つに分類されます。第一に急性循環不全における心収縮力増強があり、これは心不全、心原性ショック、周術期の低心拍出量状態などに用いられます 。第二に心エコー図検査における負荷として、冠動脈狭窄の診断や心筋viabilityの評価に使用されます 。
参考)https://med.sawai.co.jp/file/pr7_182_1.pdf
急性循環不全の治療においては、体・肺血管抵抗増大を伴う心不全や、急性循環不全における心収縮力の増強が主な使用目的となります 。ドブタミンの心拍出量増加作用により、組織灌流の改善と循環動態の安定化を図ることができます。
参考)https://midori-hp.or.jp/pharmacy-blog/web20220912
負荷検査においては、ドブタミン投与による心筋酸素需要の増大を利用して、冠血流の相対的低下による壁運動異常を誘発し、冠動脈狭窄の診断を行います 。診断精度は感度89〜96%、特異度66〜88%と高い有用性が報告されています 。
参考)https://med.toaeiyo.co.jp/contents/cardio-terms/test-exam-diagnosis/4-90.html
ドブタミンの投与は、5%ブドウ糖注射液または生理食塩液で希釈して点滴静注により行います 。急性循環不全における心収縮力増強では、通常1分間あたり1〜5μg/kgから開始し、患者の病態に応じて最大20μg/kgまで増量可能です 。
参考)https://shinryohoshu.mhlw.go.jp/shinryohoshu/yakuzaiMenu/doYakuzaiInfoKobetsuamp;2119404A1190;jsessionid=84FAFA45A681871756D7F9D436BDEF54
心エコー図検査における負荷では、1分間あたり5μg/kgから開始し、病態評価のために10、20、30、40μg/kgと3分毎に段階的に増量するプロトコールが標準的です 。近年では副作用軽減のために、最大投与量を15〜20μg/kgまでとする低用量負荷法も推奨されています 。
投与量の調整は体重換算で行い、例えば体重50kgの患者にドブタミン3μg/kg/分を投与する場合、投与速度は3.0mL/時となります 。継続的な心電図モニタリングと血圧監視が必須であり、目標心拍数到達(最大心拍数の85%)や不整脈出現時には投与を中止します 。
参考)https://hokuto.app/medicine/N5jI06AhZ5XrPrN3GxOQ
ドブタミンの主要な副作用として、循環器系では不整脈(頻脈・期外収縮)が5%以上の頻度で発現し、特に心エコー図検査では期外収縮が30%以上発現するとの報告があります 。過度の血圧上昇、動悸、胸部不快感、狭心痛なども0.1〜5%未満の頻度で認められます 。
参考)https://www.carenet.com/drugs/category/cardiotonics/2119404A1190
注意すべき重篤な副作用として、心室頻拍、心室細動、心停止が報告されており、これらは生命に関わる可能性があるため厳重な監視が必要です 。また、β1作用による心筋酸素消費量の増加により、心筋梗塞のような冠動脈閉塞がある場合には心筋壊死を助長する危険性があります 。
参考)https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3688amp;dataType=1amp;pageNo=1
投与部位の副作用として、血管外漏出時には注射部位を中心とした発赤、腫脹、壊死を起こすことがあるため、投与中は注射部位の観察を怠らず、慎重な投与が求められます 。その他、血清カリウム低下、好酸球増多なども報告されています 。
ドブタミンには多くの禁忌があり、特に肥大型閉塞性心筋症患者では左室流出路の閉塞増強により症状悪化のリスクがあるため絶対禁忌とされています 。心エコー図検査における負荷では、急性心筋梗塞後早期の患者において致死的心破裂の報告があるため禁忌です 。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00052985.pdf
その他の重要な禁忌として、不安定狭心症、左冠動脈主幹部狭窄、重症心不全、重症の頻拍性不整脈、急性の心膜炎・心筋炎・心内膜炎があります 。これらの病態では陽性変時作用や陽性変力作用により症状の悪化を招く可能性があります。
参考)https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00062283.pdf
褐色細胞腫またはパラガングリオーマの患者では、カテコールアミンを過剰産生する腫瘍であるため症状悪化のリスクが高く禁忌です 。コントロール不良の高血圧症、大動脈解離等の重篤な血管病変、循環血液量減少症の患者においても慎重な判断が必要です 。
参考)https://neocriticare.com/seihin-info/file/Attachment/dobuta_osi_tenbun201901.pdf
小児への投与では、低出生体重児、新生児、乳児、幼児において観察を十分に行い、少量より慎重に開始することが重要です 。開心術後に心拍数が多い小児等では過度の頻拍を来すリスクがあるため、特に注意深い監視が求められます。
参考)https://vet.cygni.co.jp/include_html/drug_pdf/jyunkan/DB3442-01.pdf