心拍数と脈拍数は日常的に混同されがちですが、厳密には異なる概念です 。心拍数は心臓が1分間に拍動する回数を指し、心電図や心音図によって直接測定される心臓の電気的・機械的活動を反映します 。一方、脈拍数は末梢動脈(主に橈骨動脈)で触知される血管の拍動数を1分間で計測したものです 。
参考)https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4179748/
正常な心臓機能では、心臓の収縮によって血液が大動脈に送り出され、その血液の圧波が末梢動脈まで伝わります 。このため、健康な人では心拍数と脈拍数は同期し、ほぼ同じ値を示すのが一般的です 。
参考)心拍数と脈拍数は必ず同じなの?
心拍数の厳密な測定には専門的な機器が必要です 。心電図(ECG)では、R波間隔から心拍数を算出し、RR間隔(mm)×25で秒に変換し、60÷RR(秒)で心拍数を計算します 。12誘導心電図では、腕と脚、胸部に合計12個の電極を配置し、心臓の電気的活動を多方向から観測します 。
参考)心拍数と運動強度
現在では携帯型心電図モニタリング技術も発達しており、24時間心電図記録により不整脈の検出が可能です 。また、運動時の心拍数測定には胸部センサー付き心拍計や、最新の腕時計型脈拍計も利用されています 。
参考)心電図検査 - 06. 心臓と血管の病気 - MSDマニュア…
脈拍数測定は橈骨動脈での触診が最も一般的で、手首の親指側で橈骨茎状突起の内側に人差し指・中指・薬指を当てて測定します 。橈骨動脈が選ばれる理由は、皮膚に近い部位を走行し、個人差が少なく、衣服に覆われることが少ないためです 。
参考)脈拍測定
正確な測定のため、リラックスした座位で1分間計測することが推奨されますが、臨床現場では15秒間測定して4倍する方法も用いられます 。測定時は親指を使用せず、検者自身の脈拍と混同しないよう注意が必要です 。
参考)https://pharmacist.m3.com/column/vital_signs/5538
正常値は年齢によって大きく異なります 。新生児では120-140回/分、乳児で110-130回/分、幼児で100-110回/分、学童で80-90回/分、成人で60-90回/分、高齢者では50-70回/分が標準とされています 。
参考)脈拍と心拍数に違いはある?相違点、測り方、年齢別平均を解説
成人の安静時正常値は一般的に60-100回/分ですが 、個人差が大きく、運動習慣のある人では50回/分以下でも正常な場合があります 。また、女性は男性よりもわずかに高い傾向があることも知られています 。
参考)【医師監修】心拍数の正常値は?安静時心拍数でわかる健康状態と…
不整脈が発生すると、心拍数と脈拍数に差(脈拍欠損)が生じることがあります 。代表的な例として心室性期外収縮があり、規則的なリズムが乱れて十分な血液が心室に充満する前に収縮が起こるため、脈拍として触知できない拍動が生じます 。
参考)不整脈
心房細動では心房が不規則に震え、心拍出量がまちまちになるため脈拍の強弱が不規則になり、弱い脈拍は触知できなくなります 。また、1分間150回以上の高度頻脈では、脈拍が全体的に小さくなり交互に大小が変化するため、すべての心拍を脈拍として感知できなくなります 。
これらの不整脈では心臓は拍動しているものの、有効な血液拍出が伴わない場合があるため、心電図による正確な診断が必要となります 。